日清戦争 -14 情報操作
巡洋艦 筑紫
巡洋艦 筑紫 は日本で初めて帆走を廃止した巡洋艦である。もともとはチリが当時起きていた戦争に向けに合計3隻が建造されていたが、終戦。契約解除された。これによって宙に浮いていたこの艦のうち1隻を日本が購入したものである。
残り2隻は今回の戦争の相手である清国が購入している。性能的にはそれと同等である。それは発射速度の遅い巨砲を少数のみ搭載する艦であるということだ。これは当時の日本海軍の新鋭艦とは真逆…小口径速射砲の速射戦術とは相反するものであり、戦列を組ませる上では扱いにくい船であったのだろう。
なお、同様に巨砲を搭載した松島級は巨砲が役に立たないために巨砲を事実上、甲板上の置物とし、速射砲を積むことで戦列に加えられるようになっている。
この艦は僚艦から離れて負傷兵である田中一等卒、自決した古志大隊長の遺体、一時帰国予定の軍医 森鴎外 を搭乗させた。
これは極めて異例のことである。これは大島旅団長のほぼ独断である。
このような早い動きにはもともと存在した仁川=漢城間の電信に日本軍の後方支援部隊増強にて派遣されていた通信部隊による電信敷設による通信速度の向上があった。そのため、最前線からの情報がいち早く大島旅団長のもとに届き、前日に発生していた豊島沖の詳細情報を本国に打電するため、仁川に入港していた艦隊に連絡を取る。(当時は艦艇に無電が搭載されていなかったために電信網に接続されている港湾に入港しないと通信ができない。)
それに際し艦隊はあまり戦力価値がなく、戦闘に参加していないことで損傷のない艦艇を回収に派遣した。それが旧式巡洋艦 筑紫 だった。
なお、森鴎外は他軍随伴の衛生兵部隊編成のために後方に帰還する。
「なんじゃと!?あの男を!!」
驚いたのは秋山と呼ばれた若い海軍士官だった。仕事を押し付けられたらしい。
「いろいろな意味であの男が生きていることはまずいのです。清国の非道を喧伝するのに利用させていただきます。」
田中が目の底に闇が見える表情をしながら話す。
「なんだと!?」
当然、秋山は驚く。殺すということだけではない。その過程にすら驚いている。
「尋問の結果、自ら死を選んだ。という結末です。聞き出した情報の結果、清国から脅されて襲撃行為を行った可能性があるという情報を新聞に流すこと、それを列強が知れば…」
「清国の大義名分が一つ生まれるということか…高陞号以来の世論を気にする本国が、早急な帰還を求める理由がわかる…」
海軍士官は驚きの顔と共に顔を上げる。
「もしも死体が発見されたとき、死体に傷がないことを尋問の条件とします。」
「痕跡が残らない拷問…」
「一番いいものが近くにありますよ。」
田中が海を見る。
「水攻め…か…」
「海水攻めですね。傷口に海水を塗り込むことはもちろん、海水を飲ませ続ける、いざとなれば濃いめの海水を血管に刺しこみます。それなら痕跡は残りません。」
「塩攻め…むごいことを考えるな…」
森がつぶやく
「ある程度叫ばせてから処理しましょう。そうですね…最終的には日本についたら別の手段の尋問があると耳打ちして狂わせるぐらいには…したい…できれば自発的に飛び込ませたい。」
水攻め拷問ウォーターボーディングともいわれる尋問手法の一つですが、大抵の場合真水を使用して行います。
呼吸困難を伴い、時に溺死するほど危険な尋問とされており、拷問とさほど違いがないと言われているにもかかわらず、証拠が残りにくいという証拠隠滅という意味では効果的かつ残酷な代物である。
なお、米国政府が行っていることで有名。体に傷がつかないから拷問ではないと主張している。
ただし、海上では真水がないので、海水を使用する。
この場合、拷問の過程で大量の塩分を摂取することになる。それを排出する際に大量の水分を流出させるので強烈な喉の渇きを生じさせる。下手したら腎障害や脱水死の可能性がある。
海での遭難時サバイバルの鉄則として海水を飲んではならないのと同じことである。
現代では胃の内容物等の情報から証拠が残るが、この時代ではその証拠を見分けるすべがない。




