日清戦争 -12 遺命と生
「古志大隊長…」
涙が止まらない。彼の死を伝えに来た兵士は同時に手紙を差し出してきた。
「難しき道を頼む…ですか…。卑怯ですよ…。言われればともにその難しき道を歩む道もあったのではないでしょうか…大隊長!!」
その中、軍医の一人が近づいてくる。小池といわれた軍医だ。
「田中一等卒。君の負傷具合を鑑みて君を後送する。」
それは決定事項だった。
「軍医殿それは!!」
「君の体…戦えると思っているのか?足手まといだ。完治するまで待て。」
「しかし。その間!!」
「古志大隊長の遺命は我々も承知している。彼の推薦状がある。とりあえず陸軍士官学校の講義を聴講することが君には許されるだろうし、それができるよう私も口添えしよう。遺命を無下にはできん。」
「大隊長…」
「仁川に海軍の船が来る。それに搭乗して帰国する。ご遺体もな。」
「軍医殿意見がございます。」
「なんだ?」
「朝鮮人を連れてゆきましょう。内地には情報を聞き出す餅屋もいることでしょう」
「餅は餅屋にか。それに朝鮮での治療も限界があろう。上にこちらから具申しよう。」
「餅屋がいないが餅を搗いてみてもよろしいかと思います。素人の発想で面白い餅がつけるかもしれませんし。」
「尋問を内地につくまでやるということだな。君がやりたいと?」
「…」
「それはあまりよろしくないな。復讐心か?」
「いいえ。情報操作です。海の上です。どうとでもなる。」
田中の顔には周りの人間が怯えるほど暗い闇があった。




