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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
氷の女神と冴島史夏
7/42

第7話 悩める少女と悩ます少女

(昨日は殆ど眠れなかったわ・・・)



天国から地獄へ、そんな言葉が似合う一日だった。


(史夏、どうしちゃったのかしら)


学校へ向かう途中何度もスマホの画面を確認するが、通知はなし。

こちらから連絡を送ろうかとも考えたが、

昨日のショックが大きすぎてメッセージを送る余裕もなかった。



(どうしてもっと静かに生きさせてくれないのかしら)




紗耶香は心が弱かった。



妙に卑屈ですぐ周りの目を気にしてしまう、

それなのに空気の読めない自己中心的な時もある。



そんな自分が嫌いだ。



だからこそ史夏の為にも変わりたいと思ったのに、


(こんな大事な時になに寝ちゃってるのよ、馬鹿・・・)


どんどん悪い方悪い方へと考えがいってしまう。


(部活、行くの嫌だなぁ・・・)





「おはようございます紗耶香さん!」


「おはよう冴姫」

「昨日は何かあったんですか!?」


やはり聞かれるか。


「例の子とお出かけしてただけよ」

「おー!不良ですね!で、どこまでいったんですか!?」


上手い質問の仕方だ。


「お昼、どこかで一緒に食べない?」

「あっ、話しづらいこともありますよね、じゃあまた後程!」


(ふぅ・・・、あまり教室で恋愛事情を話すのもね)


昔は気にしなかったが、身辺関係は無闇に晒さない方がいいことに気づいた。

私と史夏の関係もみだりに人に言いふらすべきではないだろう。


お昼前、史夏に「お昼一緒にどう?」と誘うと「いいよ」とだけ返事がきた。





「初めまして!わたし、紗耶香さんと同じクラスの『鳳凰院冴姫ホウオウインサキ』と申します」

「気軽に冴姫でいいですよ」

「アタシはその、紗耶香の彼女の『冴島史夏サエジマフミカ』っていーます、よろしくです」


私と冴姫を交互に見ながら、「なんだか姉妹みたいだね」と苦笑する。


「まぁ系統的にはそうかもしれないけど、冴姫は本物のお嬢様よ」

「いえいえ、そんな堅苦しい者じゃありませんよ」



(ところで史夏さん、よく紗耶香さんとお付き合い出来ましたね!)


小声で耳打ちするよう話しかけているが、丸聞こえだ。


「まぁそのですね、こんな素敵な人いないじゃん?頑張ったんですよ」



お弁当のオカズつまみながら、冴姫にあることを聞いてみる。


「賞金の件・・・、知ってるでしょ?」

「ええ、まぁ」


「その出所―――を知りたいんですよね多分」

「話が早くて助かるわ、今日ソイツの所に史夏と行こうと思うんだけど」


「うーん、そうですかぁ」

「なにか不味い?」

「とりあえずわたしは生徒会長という立場上、協力は難しいんですが」


「あー!なんだか仕事の引継ぎの為前生徒会長『堂島朔夜ドウジマサクヤ』さんに会いたいな~」


いきなりなにかを言い始める。


「確かあの人、放課後は使われていない空き教室で勉強してたっけな~」


「そうなのね、生徒会のお仕事頑張って」

「ありゃ、聞かれちゃってましたか?」

「冴姫さん、演技ヘタすぎ・・・」

「なんのことですか?」


すっとぼける大和撫子は、意外に食えない性格をしている。



「そろそろ、昼休みも終わるし」


紗耶香は史夏に向き直る。


「放課後、朔夜の所に行きましょう」

「う、うん!」





三人で各々の教室に戻る途中、一人の少女にぶつかってしまう。


「っ、ごめんなさ」




「あっ、紗耶香先輩おはようございます!」




彩だった。




「史夏ちゃんもおはよ!」

「おー、おはよう彩、昨日はありがとね」

「ううん、私もたくさん話せて楽しかったよ!」


「えっ―――、二人はいつのまにそんな―――」


いまいち状況が把握できない私と冴姫。


「昨日夜ちょっと散歩しててさ、その時彩に会ったんだよ」

「それで史夏ちゃんとお話して、仲直りしたんです!」


「やっぱりあの時のことは今でも許せないけど」

「それをずっと気にしてても仕方ないから、お互い過去のことは水に流そうって」



(やめて)



「私と史夏ちゃん、話してみたら結構盛り上がったんですよ?」

彩は史夏の腕に抱きつく。



(触らないでよ)



「お二人はずいぶんと仲がいいんですね?」

驚いたような反応をする冴姫。全部は話していないが今までの出来事は知ってる。


「並々ならぬ事情がありまして・・・」


アハハと照れ笑いをする史夏。





「もうこんな時間だ!」



「紗耶香先輩」



彼女はこちらも向かず、



「今日は部活、来てくれますよね?」



それだけ念を押されると、立ち去った。


「わたし達もそろそろ戻りましょう~」

「そうですね!」



「史夏」



「ん?」



曝け出してしまいたい。



「あのね―――」


「?、どうしたの?」



「いえ、なんでもないわ・・・」



「・・・そっか、また放課後、紗耶香のクラス行くね!」



「うん・・・」



暗い鳥籠の中、私はカッコーの巣に閉じ込められている。



私はインディアンになれず、いつかあの主人公みたいになるだろう。



鍵はすぐ、目の前にあるのに、私達の関係を邪魔する人間がいる。





鳥籠は、不可視のカーテンの裏側に、秘匿されてしまった。







「ごめんなぁ、父さん達の都合で・・・」

「ううん、しょうがないよ、仕事なら」

「俺も彼女と同棲始めるし、ウチは無理かなぁ」

「かといって一人暮らしはさせられないし・・・」

「本当にごめんね、史夏が高校に入ったばかりだったから」

「お父さんも私も中々言えなくて」

「ごめん、ちょっと夜風にあたってくるから」


史夏は帰ったばかりの家から飛び出す。


夜の川沿い、寒い風が吹く中、ベンチに座りながら無想する。





(海外、かぁ・・・)


元々出張で外国に行くことなどが多い両親だったが、

今回はどちらも同じ国で長期滞在になる可能性があり、

家族三人向こうで暮らすかもという話になっていた。


いつから決まっていた話なのか分からないが、もっと早くに知りたかった。



(早ければ九月・・・)


(つまり出張が決まればアタシは―――)



天国から地獄。



首にかけたペンダントを触り続けても、妙案は思い浮かばない。


(期間も一年か二年って、長いなぁ・・・)


願わくばこの高校に・・・彼女の横に居続けたい・・・。



「あれ、史夏ちゃん、どうしたの?」



誰かに声をかけられ振り向くと、


「―――彩!」


会いたくない人間に見つかってしまった。


「こんなところにいたら風邪ひくよ?」


彩はまるで当たり前かのように私の隣に座ってくる。


「別にどうもしてないけどさ、てかよく話しかけられたね?」




「史夏ちゃん」




「あの時はごめんなさい!」




座りながら平謝りしてきた。


「えっ」


「こないだのこと、謝りたかったの、このままじゃいけないって」

「私達同じ学年で、同じ女性ヒトを好きになったでしょ?」

「そんな人とずっと喧嘩しっぱなしは悲しいことだよ」

「今までのことは忘れてさ・・・改めてお友達になれないかな?」


「・・・・・・」


史夏は経験上、このタイプは嘘をついている可能性が高いとみていた。



自分も同じような手口を使ってきたから。



しかし彼女がどう動くか分からない以上、


刺激させない為にもここは受け入れよう。


「アタシもホントに、今までのことごめんな・・・」

「ううん、お互いさまってことで!はい握手!」



差し出される手を握り返すが、なんともいえない温もりに少し違和感を覚える。



「明日からもよろしくね!」

「・・・うん、酷いことしてごめんな」

「もういいってば!」



「―――そのペンダント、かわいいね」

「あっ、これ?いいでしょ、お気に入りなんだ」



このペンダントがあれば、いつでも彼女のことが思い出せる。



「ふーん―――」

「今度一緒に買い物行こうよ!私紗耶香先輩の好み、結構詳しいし」

「それはありがたいかも、服の趣味とか全然知らないんだよね~」

「アタシが知ってるのは好きな漫画くらいかな~」

「もしかしてアレ?史夏ちゃんも読むの?」

「え、彩もアレ好きなんだ?」





「じゃあ私そろそろ行くから!あ、もしよかったら連絡先交換してよ」

「お、いいよ・・・これ登録しといて」

「ありがと!悩み相談とか、紗耶香先輩の事、いつでも聞いてね!」


「うん、ところでさ彩」

「あっ、ごめん!また明日学校でね!」

「あっ、ちょっと待ってよ!・・・行っちゃった」



(気のせいだよな、彩のあの反応)



まるでさっきまで紗耶香と一緒に居たのではないか?



そんな一抹の不安を覚える。







「紗耶香!」

「史夏・・・」

「元気ない?」

「ううん、大丈夫、行きましょう」


「空き教室三階廊下の奥の方だったかな~」


「・・・ありがとね、冴姫」


相変わらずヘタな独り言だが、それに助けられる。





教室の扉をノックする紗耶香。


「失礼します」

「開いてますわよ~」


ガラリと勢いよく引き戸を開けと、

そこには数人の女生徒と、会長席?に座る一人の女の子がいた。



「あら、珍しいわね、お客様なんて」



綺麗な金髪を後ろで束ねた元・生徒会長の『堂島朔夜ドウジマサクヤ』が出迎えてくれた。



(肌しっろ!目あっお!輝きすっご!外人さんかな?)



「やっぱりアナタだったのね―――。賞金、貰いにきたわよ」



(えっ、知り合いなの?)

史夏の小声の耳打ちも無視し、眼前の敵に凛として立ち向かう。


「なんの話ですか須藤紗耶香さん?」


「とぼけないで、私に賭け金かけて変な遊びをしていたのはアナタでしょう?」


「あーそれですか、確かにそんなことあった気もしますが」

「賭けている人間に動きがないのでみんな忘れていましたわ」


オホホホと周りの生徒も朔夜に同調するよう笑い始める。


「そうそう、確か『好き』って言われた相手に賞金を払うとか」

「今いくら賭けてありましたっけ?」


朔夜の隣の女生徒が何かの資料に目を通す、忘れてたという割には準備がいい。


「今現在16万円ぴったりですね」

「ふぅむ、大金ですわね。それで今日はそれを受け取りに来たと?」


「そうよ、私の隣にいるこの『冴島史夏サエジマフミカ』にはその権利があるわ」



「ふーん・・・」


(どういう心境の変化か知らないけど、嘘はついていなさそうね)



ビードロの様な青い瞳が二人を観察し、考える。


(まぁワタシが払うわけではないし?)

(ぶっちゃけもうどうでもいいって感じだけど、それじゃつまんないわね)


「あの子はちゃんと参加してる子?」

「はい、今月初めの挑戦者、確かに参加料は徴収してますね」


手元の紙をぱらぱらとめくり、確認している。


「ですってよ須藤紗耶香。その子お金の為に貴女と付き合ってるのよ?」



「確かに!!」



史夏が前へ出る。



「確かに最初はお金目当てだったところもあります・・・、でももう違う!」

「アタシ達真剣交際してて、愛し合っているんです!」


「まぁ」「あら」「ふーん」


取り巻きからイロモノを見るような声があがる。



改めて言われると少し恥ずかしいが、その通りだ。


「ここに私が彼女に『好き』と言った録音データもあるわ」

「これで満足でしょ?もう関わらないでちょうだい」



(相変わらずムカつく言い草ね!)



「それなら一つ条件があります」



スッと会長椅子から立ち上がり、こちらに向かってくる。



その姿はなんというか、女児そのものだった。



(背ちっちゃ!身長小学生くらいしかないぞ!?)



「そこの貴女、今ワタシ見て小さいと思いましたか?!」


小さいチワワがキャンキャン吠えるように、愛嬌は感じられる。


「いえ、オモッテナイデスヨ・・・」

「そう!それならいいのだけれど!」


フンスとツンケンな態度をとるが、元生徒会長の威厳はどこにもない。




「ワタシ達の前でキスしなさい!」




「「えぇ―――!!」」




「いっ、いいでしょう!それで満足するのなら!」



「いいの!?」



思わず彼女の方に振り返る。


(確かにキスするのは嫌じゃないけどここで皆に見られながらは―――)


昔の童話に出てきそうな少女は鋭い眼光を放ち、見定めているようだ。



「さぁ史夏!するわよ!」



紗耶香は赤面しながらも、やる気満々といった感じだ。





「これでホントに終わらせてちょうだいね」


「約束は守るわよ、早くしなさいよ、ちゃんと『恋人』らしいのをね」

「ワタシが満足して合図するまで、絶対にやめちゃダメなんだから!」


「―――それじゃいくわよ」

「うん―――」



ドキドキが止まらない。教室の真ん中、お互いの距離が近づいていく。



(えぇ~、ホントにこの子達やるつもりなの~!!)


朔夜は顔を両手で覆うが、薬指と中指の隙間からしっかりそれを目に焼き付ける。



「んっ・・・あんむ・・・」



(いった―――!)



にわかにざわめく女生徒達、甘い空間に身体がむず痒くなってくる。


(この子ホントにそっちだったんだ―――!)





(やばっ、皆に見られてるのに興奮してきたかも―――)


昨日のことを思い出す、この甘く蕩ける行為がもう出来なくなるかもしれない。


最初は下ろしていた手も、自然と首に回り、強く、感じ、離さない。



(おおお・・・)



室内に響く唾液が混じり合う音、時折見える紅い舌がイヤらしく光る。


淫靡な輝きを帯びるそれに目が離せない。


(お互いなにマジでしちゃってんのよぉ!)


チラと後ろを見ると、他の女生徒も切なく、物欲しそうな顔をしている。




(史夏、史夏、好き、大好き)(紗耶香、ヤダ、ずっと一緒がいい)




更に加速度を増す二人に見惚れ、合図の事を忘れていた朔夜。


慌てて止めようとするも、



「もう止まらないよ」

「うん、いいからもっとキて」



(ダメだこの二人、早くなんとかしなければ!)



「アナタ達も見てないで・・・!」



「わたし達も・・・」  「なんだか見てたら」  「少しだけ」



「えええええ!」



目の前の光景に触発されてか、なんと他の生徒達も試し始めてしまった。



「みっ、みんななにやってますの・・・?」



「朔夜様も一緒に気持ちよくなりましょうよ」


手が次々朔夜の腕、体を掴んでいく。




「ちょっとホントにやめ・・・んにゃああああああああ!!」




皆に弄ばれた朔夜も目覚めることになるが、それはまた別のお話。





「じゃあ後日ウチの子が持っていくから」


嬌声が聞こえる教室を後にする紗耶香と史夏。



お互いの顔が恥ずかしく見れないが、触れるか触れないかの指が絡み合う時、



「アタシ、トイレ行ってもいい?」

「私もそう思っていたところ」



結局、人気のない女子トイレで二回戦を始めてしまう二人なのであった。





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