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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
これからの彼女達
42/42

最終話 恋をしたいと願うなら

「あれだけ啖呵切って絶交しようだとかなんとか言ったけど―――」




「あの時の出来事を無かったことにして―――」




「もう一度ワタシとお友達になってくれませんか?」




差し出された手に応えるかべきかどうかアタシは逡巡した。


「冬華はもうアタシのこと、許してくれたの?」


このやりとりが腑に落ちない不安そうな愛美。

冬華は首を横に振り、その裏にある本音を告げる。


「ううん、実はまだちょっと怒ってる」

「でもそれはワタシ個人の気持ちだからさ」

「自分勝手な卑屈さや器の小ささで友達を苦しめたくない」

「だから我慢するわけじゃないけど」

「これからもいっぱい笑って、いっぱい楽しい思い出を創っていって」

「それでワタシ達の日常をもっともっと盛り上げよう」

「そしたらいつか、今日のことなんてもう忘れているだろうから」



「・・・ありがとう、そして本当にごめんなさいでした」



冬華の本音をちゃんと聞けて、アタシは握手に応じることが出来た。

彼女の言う通り遺恨や僅かな怨みはすぐに消えるものでも癒えるものではない、

だからこそ逃げずに向き合って失望させてしまう以上に希望を生み出そう。


「じゃあ改めてアタシの答えを・・・言わせてもらうね!」


握られた手を強く固く結ぶ。



「これからもまた・・・よろしくお願いします!!」





『そんなことがあったんだ』


「まぁさ、アタシの恋は叶わなかったけど、我慢するってのも大事だよね」

「今回のことでそれがよく知れたよ!!いつか別の恋も見つかるかもしれないし」


『そうだよ~、世の中いっぱい愛が溢れてるんだから』

『・・・月並みな表現しかできないけどさ、いつかいいことあるよ』


「ありがとう。そうだね、いつかそんな日がくればいいよね」

「もちろん史夏もだよ!でもそろそろ紗耶香姉は諦めちゃえば??」


『うーん、そうだねぇ』

『このままズルズルと関係を引き延ばしてさ、それがホントの幸せになるのかな』

『・・・ってたまに考えちゃうんだよね~』


「ずっと付き合ってたら、好きでいたらそういう風に思う日もあるんじゃない?」

「でもきっといつか史夏の願いは届くと思うから、今は我慢の時だよ」


『お互い様様だね。アタシもこっちで頑張るからさ!』


「それじゃあまたね」


『また!』



「・・・」


(そうだよ、アタシに比べたら史夏と紗耶香姉なんて・・・)


明日には冬休みで、来週は冬華の誕生日があるんだ。


「・・・ふふっ」


制服の隣に掛けられたお気に入りの洋服の出番は、まだ先かな。





冬華の16回目の誕生日から二年が経った。


「しかしまぁ今年から大学生かぁ、信じられないよね」



「これから皆バラバラになっちゃうのかぁ」


3月、蛹が蝶に羽化するように、青春を謳歌した者達が旅立つ季節。


「卒業すんのやだなー」


「ね、もっと皆と遊んでさ、夏休みも冬休みもまだまだ楽しんで、それから」


「・・・それからっ」


「・・・今頃は冬華も泣いてんだろうなぁ」


「ぐすっ、心配だねぇ」


「・・・新生活かぁ」


「冬華と暮らすのがそんなに不安?」


「いや別にそういうわけじゃないけどさ、うまくやれるかなって・・・」


「そういうのを不安っていうんじゃない?よくわかんないけどさっ!」


もたれかかっていた壁から勢いをつけて立ち上がる愛美。


「?、なに?」


小麦色の肌は変わらず、前よりもっと髪を伸ばして美人になった。


「別に。ただ大学行ったらモテそうだよな、愛美って」


お世辞じゃない飾りっ気のない言葉に気恥ずかしくなる。


「はぁ?なにアンタ、まだアタシのこと好きなの?」


眉根を顰めやだやだと目線を送ってくる愛美に「ちげーし!」と言い返す。


「なんだ、春斗はアタシのこと嫌いなんだ?アタシはまだ好きなのにな~」


すんとした態度で人混みの集団に向かって歩みを進める少女。


「あのなぁ、いつも言ってるけどそういう訳じゃ・・・」


「ほら!もう行こう!みんなが待ってる!」


いつもみたく手を差し伸べられて、俺はその手を掴みたくなってしまうが、



「・・・ああ、そうだな」


明日からはきっと、その手を握り隣に並んでるのは別の誰かなんだ。


少し淋しそうに手を下げる愛美の斜め後ろに立って前に進むと、


「愛美先輩写真撮ってー!」「私も私も!」「先輩が卒業するのやだよ~」


愛美は黄色い声援を受けながら後輩達と写真を撮ったりで忙しくなった。



「愛美!」



「んー??!なにー!?」



「卒業・・・おめでとう!!」



「っ・・・!それは春斗もでしょ!卒業おめでとっ!」



彼女の美しい涙は、春風と共にどこか遠くへと連れ去られてしまった。



吹き抜ける一陣の風に乗せて―――。





『人生は選択の連続である』


私達のドラマは悲劇だったか?喜劇だったか?


それを決めるのは他でもない、自分自身なんだ。


もし自分に選択権があるとしたら、悲劇は選びたくないだろう。

アタシ達は少しでもより良い未来を送るために最良の選択をしなければならない。

だがそれは時として最高の結果にならず、最悪の日になりえるかもしれない。

でもワタシ達は人間だ、そんなことで立ち止まってられないし世界は廻っている。

年月を重ねていくようにわたし達も失敗を重ね成長していく。


ではその先になにがあるのか?





「どう?結婚生活は順調?」


「結婚だなんてそんな!・・・一応予定はあるにはあるけど」


「そっかぁ・・・そっかぁ!結婚かぁ!早いねぇ!」


「でもまだまだワタシ達学生だし、卒業してからでも遅くないかなって」


「冬華はもうやりたいこと決まった?」


「うーん、実は全然で・・・冴姫が色々と紹介してくれてるんだけどね」


「それは強いね、そういえば冴姫さん達はもうすぐ社会人になるのか」


「そうだね、どうするんだろう?今度お茶でも誘ってみようか、久々に?」


「いいね、それ。最近できた彼氏さんの話も聞きたいし!」


「写真だけ見せてもらったんだけどいい感じの人だったよ?あでも・・・」


「?」


「雰囲気がなんというか―――紗耶香っぽかったなぁ・・・」


「あぁ・・・」


「それより愛美の方はどうなの?大学で素敵な出会いあったんでしょ!?」


「え?なんで?」


「だって今日化粧とか色々張り切りすぎて来てるし、この後会うとか?」


「いやいやそんなんじゃないよ!アルバイトがあるだけ、家庭教師の」


「え”っ”?・・・くれぐれも捕まらないでね」


「そんなんじゃないんだってば!!・・・多分。そうだ、その子の写真見る?」


「え?いいの、見して見して!」


「えーと―――この子だよ、どう?名前はねぇ―――」





「さ”や”か”せ”ん”ぱ”い”!最近全然返信返してくれないっ!!」


「忙しいんだよ、色々とね」


「むっ、なにその口ぶり?なんか知ってるの?いや知ってそう」


「ふふふ、また今度ね。それより荷物の箱詰め手伝ってくれよ」


「えー秋が教えてくれるまで動きましぇん。大体なんで私がこんなこと・・・」


(ぶつくさ言いながらも手伝ってくれるなんて可愛いなぁ)


「なんか言った?」


「いや別にー」





「ねぇ、このTシャツのデザインなんだけど・・・ってこら!」

「仕事中に寝ないでくれます!?しかもソファーになんてはしたない人!」


「えぇーだって朝陽眠いんだもーん」


「なにぶりぶりぶりっ子してますのよ!貴女の仕事なんですのよ!?」


「でもほとんど朔夜がやってるしぃ~?わたし要らないみたいだしぃ~?」


「貴女が目を通さないと意味ないでしょーが!!」


「もう~、こんな天気のいい日に室内に籠って仕事だなんて・・・」


「・・・」  「・・・」


「うーん、ここのデザインが甘いかな。もう少し曲線を意識してもらわないと」

「後は実際に服を着てもらった時の色遣いだとか服の幅なんかもよく考えて」

「ということでもう一回描き直してくださーい」


「がくり・・・相変わらず厳しく指摘してくれますわね」


「そう?ちゃんとやるって言ったのは朔夜なんだし忖度なんてしないよ~」

「そ・れ・に~、わたしから見ても朔夜はかなりセンスある方なんだから」

「わたしに指摘されるのが普通!褒められるのは光栄ぐらいに思いなさい!」


「ㇺカッ!偉そうに立ち振る舞いますわね!」


「いやーん、朔夜が怒ったぁ~!・・・ぐぇ!?」









「それじゃあ、行ってくるわね」



春先―――。


人を新天地へと運ぶ、或いは故郷に迎える準備に忙しい国際空港に彼女達はいた。


「うん、気をつけてね」


「冴姫こそ、彼氏がいるのに私が恋しくなって別れないでちょうだいね?」


「そんなことするわけないじゃない!!・・・まぁちょっとは寂しくなるけど」


「・・・私もよ、アナタと出会えてなかったら今この場にいないと思うわ」

「アナタが全部―――私に教えてくれたのだから」


初めて冴姫に史夏との恋路を相談した日のことは今でも鮮明に思い出せる。


「やめてよそんなこと言うの、泣いちゃうじゃない」


なんて涙を流しながら言われてもどうしよもない。

私はそんな彼女にこれまでの感謝の気持ちを籠めたような抱擁を贈る。


「本当に本当に全部冴姫のおかげだから、だから最後は笑って見送って?」

「それに今生の別れになるわけじゃないんだから、しゃんとしなさよ」


「うぅ~、でも~」


「アナタにはアナタの幸せがあるんだから、ね?」



彼女の泣き顔を拭いてあげて、別れの時を迎える。


これを以って須藤紗耶香と鳳凰院冴姫のロマンスは終わりを告げた。

決して恵まれたラブストーリーではなかったけど、冴姫は紗耶香を忘れない。

紗耶香もまた、何事にも代え難い友情と愛情、経験を手に入れられたのだ。



「結婚式はちゃんと二人分、席用意しておいてよね」


「もちろん!その時には特等席用意しておくから!」


「ふふ、楽しみに待ってるわ」


「紗耶香!」


「ん?」


「・・・またね!」


「―――ええ、また」



ここでやるべきことは全て終えた。

後は目的地へと向かうだけだ。


「・・・」


機内の中、紗耶香は一冊の本を読み、期待に胸膨らんだ心を落ち着かせる。


(やっとね)





「どうも」


「やぁ、まずはその荷物預かるよ」


長い時間、機内では殆ど眠っていた気がする。

全身がガチコチに固まったまま拙い英会話力でイミグレを通過し、荷物を探し、

初めてのサンフランツスコなのにもうヘトヘトだった。


「後ろに乗ってて」


予約していたハイヤーに体を押し込めて、窓の外の景色に目を傾ける。

少ししてから運転手も運転席に戻りバックミラーでこちらに合図を送ってきた。


「それで、ここからホテルに向かわなくていいんだね?」


なんとか聞き取り、簡単に返す。


「ええ」


「ふーん、分かった。じゃあまぁ、距離があるから休んでおきなよ」


「ありがとう、着いたら教えてちょうだい」


車が動き出す。

住所以外もちろん知らない、何処へ向かうのか楽しみだ。





「・・・―――さん、お客さん」


「う・・うん?」


どうやらまだ眠り足りなかったらしく気が付くと目的地に着いていた。


「ここだよ、間違いない」


降ろされたのはえらく混んでいるハンバーガー屋の前で、状況がつかめない。


「重い荷物だな、服に砂が付くからあんまり海沿いは行かない方がいいぜ」


「ありがとう」


「いやいいんだ、ちょうど昼だし俺はここのハンバーガーでも食ってくよ」


「じゃあな」



運転手ともあっさり別れて、私はスマホを見る。


「探してみろ・・・」


史夏から送られたメッセージはそれだけだった。


(てことはもう着いているのね)


キャリーケースを邪魔に感じながら辺りを見渡してみる。

現地人や観光客は多いがそれらしい姿は認められなかった。



「・・・海」



半円形の砂浜には人々が座り、ピクニックや雑談を愉しんでいる。



「・・・・・・」


ふと波打ち際付近に目線を移すと、

帽子を被り赤いポニーテールをなびかせている少女がぽつりと、海を眺めていた。



「あのごめんなさい」


「ん?あぁさっきの嬢ちゃんか、どうしたんだい?ハンバーガーの買い方か?」


「いえその、この荷物少しだけ見ててもらってもいい?」


「ああもちろんいいけど、誰か探してるのか?」


「ええ、でももう見つけたわ」



昼食をとっていた運転手に荷物を預けて、私はゆっくりと歩み始める。



「・・・・・・」



「綺麗な景色ね、風も気持ちよくて日差しも暖かい。心が洗われるようだわ」



双眼鏡構えた少女は私の声に反応するも景色を眺めるのを止めない。



「・・・いいところですよね、アタシも移り住んでもう5年近くになりますけど」

「そこのハンバーガーを食べながらここで景色を眺めるのが、一番好きなんです」


「奇遇ね、私もここで見る景色が一番好きになりそう」

「でも一人だとちょっと淋しいわね」


「アタシも最近、ちょうどそんなこと思い始めていたんですよ。奇遇ですね」

「日本語がお上手ですが、誰か探しているんですか?」



「・・・ええ、とっても大切な人。大好きな人。初恋の人。なくてはならない人」


「私にとってかけがいがなくて尊くて夜空に輝く一番星みたいな人」


「―――って今でも私は想ってるんだけど、その人はどうなのかしらね?」



「そうですか、きっとその彼女ひとも同じこと、想ってると思いますよ」



「でもどうすれば会えるのかしら?遥々西海岸まで空を飛んできたのに」



「彼女が一番星だとしたらきっと、一番大切な人に掴んで欲しいと信じてる筈」



「面白いこと言うわね、星に手を伸ばして掴もうだなんて。かなりロマンチック」



「・・・」



「昔ね、ずっと昔。あるに告白されたの。私ってかなりモテるから」


「そのと付き合って、初めて帰った日、私は夜空の星に手を伸ばした」


「でも掴もうとしたらそのに呼ばれて、掴むのをやめちゃったの」


「惜しい気もしたけど、私にとっての星はもっともっと近くにあった」


「彼女は綺麗な星のペンダントを着けていたから。運命だと感じた」



「もし―――夜空の星々なんて手の届かない幻想じゃなくて」



「私が求める一番輝いている銀色の星が手の届く距離にあるのならば」



「それはもう運命なんかじゃなくて、必然なのかもしれないわね」



隣の双眼鏡の少女はゆっくりと体をこちらに向けて泣きながらこう言った。




「それはこんな・・・こんな星じゃありませんでしたか?」




泣きじゃくる少女の首元には燦々と太陽に照らされ輝く星があった。





「・・・ええ!見つけたわ、私が一番欲しかった星!」





私は大大大好きな少女に精一杯の、熱い接吻キス抱擁ハグを贈った。





何度も何度も何度も、求め身体の芯から熱くなってしまうような熱烈なキスを。


涙でぐちゃぐちゃでどんな顔をしているかなんてもう分からないしょっぱいキス。


人目も憚らずお互い溜まりに溜めていた鬱憤を晴らす様に、存在を確かめ合う。



「お”そ”い”よ”~」



一通り満足した後今度は言葉で愛を伝える。



「ごめんね、ずっとアナタを待たせてて、私も寂しかった!」


「でももう、もうどこにも行かせないから!!」


「アタシだってそうだよぉ!!もうどこにも行かないから!!」



感動の再会は大団円を迎え、須藤紗耶香と冴島史夏の物語が再び始まった。





「ねえ私、まだまだアナタといっぱい喋りたいことがあるの」


「同感!アタシもだよ!直接会って話したいことがたくさんあった!」


夜、成人を迎えている二人は史夏の家の近くのバーにいた。


「アタシはえっと・・・、なににしようかな」


「?」


「実はアタシさ、まだお酒飲んだことないんだよね」

「初めて一緒に飲む人は紗耶香が良かったから・・・」


「あら残念。私はとっくに冴姫と初体験をすませちゃった」


「えー酷いなぁ。でもまぁ冴姫さんならいいよ」


「そう?じゃあ一緒の物頼みましょう?」


「お酒初心者でも飲みやすい物でお願いします・・・」


「それじゃあ―――」


紗耶香はバーテンダーに注文をするが、なにか飲み方も頼んでいるようだ。


「それじゃあ」


提供された透明なグラスに注がれた琥珀色の液体、乾杯した後口をつけてみる。


「うん、なんか不思議な感じ!」


史夏が出されたのはウィスキーのコーラ割りで、


「言葉じゃあ言い表しづらいんだけど、美味しい!」


と気に入ってくれた様子。



「私ね、お酒の中でも一番好きなのがこのウィスキーなの」


アタシのよりももっと色の濃い深みある琥珀がグラスの中で揺らめいている。


「ウィスキーって樽の中で熟成させて生み出していくんだけど」

「長い年月をかけてどんどん深みを増して濃く淡く変化していく」

「本当に色々な種類の銘柄があって、どれも違ってどれも美味しい」

「そこにはブレンダーの不屈の努力とあくなき探求心があってのもので」

「なんだか人の人生っていうものにすっごく似てると思うのよねぇ」


「・・・アタシはまだ難しいこと分かんないけどさ」


カランと氷の溶けあう軽快な音で、史夏に目線を移す。


「こうやって紗耶香の一番好きなお酒をアタシが隣で飲んでる」

「それだけでさ、アタシの人生は輝いていて、価値ある人生モノになってるんだよね」


嬉し恥ずかしそうに顔を紅らめながらグラスに見惚れる史夏、

その顔の火照りはアルコールによるものなのかそれとも―――。


「ウィスキーにはシングルカスクとダブルカスクってものがあってね」


「あーもう!ウィスキーの話はいいから!」


「ちぇ、今からいいこと言おうとしたのに」



二人の夜は溶けあう氷とウィスキーの様にどんどん混ざりあっていき―――。









『恋をしたいと願うなら』


人はみな誰かを好きになり、愛し合い生きていく。

しかし叶わぬ恋もあったり、恋に後悔をして嘆く人も少なくない。


昔何処かで読んだような、聴いたような、観たような。


でもどこか理想とは程遠くて、恋に恋をしてしまい現実の人間に失望したり、

もしかしたら恋心を知らずに生涯を終えてしまう者もいるだろう。


アタシは違った。


人に語るのも憚られる悪事を働き、人間の欲深さに辟易し、全てを嘆いていた。


高校に入ってからもそんな人生が続くんだろうなぁと絶望していた。


浅いところでしか信用せずまた昔の様に人を裏切るかもしれないと。


『須藤紗耶香』という少女に出会い運命が変わった。


平凡な毎日を彩り感情を揺さぶられ泣いて笑って悩んで悲しんで別れて、

彼女と過ごしていると退屈せずに生きていけてそれがありふれた日々になった。



『そんなありふれた日々を飽きる位に謳歌して死んでやるんだ』って決めた。



もしアタシが本気の恋を知らなかったら絶対に思い浮かばないことだった。



彼女も同じだ。



傲慢かもしれないが冴島史夏と出会わなければ一生あのままの人生だっただろう。



二人はやっと、恋をした。願いは叶った。



でも二人は勘違いしてたんだ。



これは誰にとってもありふれた物語で、ここがスタートラインだったんだと。



一歩、前に進んでみよう。ゴールは果てしなく遠い星空の向こう側にある。



でも大丈夫、挫けない。だって隣には支えてくれる人がいるから。



どんなに遠くに光射す星だって、二人なら手が届くから。



これからも、アタシ達は―――――――――。





「なに読んでるの?」


「んー?シェイクスピア名言集ー」


「へぇ、好きだったんだ、シェイクスピア」


「書いてあることがね、私達の人生に似てるなって」


「誰かが言った言葉なんだし、ちょっとは似るでしょうよ」


「でもこの人500年近く前の人なのよ?皆が読んでこれに共感してるのなら」


「全然進歩してないね、人類は。かぐや姫の頃から」


「それはもっと前だけど、お話にされてないだけでいっぱいあったんでしょうね」


「アタシ達もその中の一つだったってわけか」


「でも私にとってはそうじゃない。アナタもそう思うでしょ?」


「そりゃそうだよ。他人の作品じゃ幸せは推し量れないけどさ」


「これはアタシ達の恋物語だから。ベストセラーっていっても過言じゃないね」


「あら自画自賛かしら?やーねー印税だけで生活できちゃう人の発言は」


「またそういうことを言う・・・。まあでも全部みんなのおかげだよ」


「・・・そうね、本当にそう思う」



「ねえ紗耶香」



「んー?」





「今日は星をみつけにいこっか」





「―――ええ、史夏とならどこだって」









『恋をしたいと願うなら』









  ―――完―――









その後のお話。


須藤紗耶香は渡米し、帰国後母の仕事を手伝い化粧品の会社に勤めている。

副業でジュエリーのデザインを考えたり、ファッションモデルもしている。


冴島史夏は海外の美術学校を卒業後日本へと帰国、私小説を執筆しヒット。

その後は海外留学を志す若者を支援したり、通訳の仕事もしている。


鳳凰院冴姫は大学を卒業後結婚、二児の母になるも子育てに悪戦苦闘。

子供が成長してからは自身も鳳凰院グループに従事する。

紗耶香と史夏との友人関係は後年まで長く仲良く続いた。


都築彩は体育大学を卒業の後スポーツマッサージの道へ。

またピラティスやヨガを勉強しトレーナーとしても活躍。

秋とは結局離れられないまま同棲を続けているようだ。


高坂秋は在学中からオンラインのファッションブランドを立ち上げ、

知名度のあるレディース向けスポーツウェアブランドの一つへと名を挙げた。

相変わらず女性と一夜の関係を過ごすこともあるが、彩はもうなにも言わない。


堂島朔夜は大学の先輩の会社に入社後、優秀なデザイナーとなる。

子供向けのデザインを巧みに描くのと、本人が幼いので入社当時は

朝陽が連れてきた従妹だと思っていた人が多かったらしい。

現在も朝陽との関係は続いている。


三菱冬華は大学卒業後三児の母となった。

在学中幾つかの資格を取っていたのと地頭の良さ、冴姫の助力で株取引に成功。

今ではマンションを持ち、不労所得で暮らしている。

子供は男の子が欲しかったのだが三男以外女の子で、長男を溺愛している。

逆にパパにベッタリな姉妹に嫉妬の目を向けてしまうこともしばしば。

実家とは未だに断絶しているが、ある時偶々弟に会ってしまい正体を明かす。

それ以来弟だけとはひそかに連絡を取っているらしい。


南風春斗は大学を卒業後会社員になる。

仕事もでき、持ち前のコミュニケーション能力で周りに気に入られていたが、

冬華の家事の負担が増えてきたため泣く泣く退社、今は主夫をし子育てに専念。

家族仲は良好だが冬華が自分のことを好きすぎて重いなと思う時がある。

また娘と遊んでいる時は冷たい目で見られる時があるし、

三男と遊ぼうとするとそれはそれで冬華が独占して離さないので困っている。



そして佐藤愛美は―――・・・。



「『恋をしたいと願うなら』に主演で出演されるということで」

「ぜひ作品に対する意気込みなんかをお聞きできればなと思うのですが・・・」


「そうですねぇ、最初にオーディション台本を頂いた時」

「『少女A』をやるのは自分しかいない!ってすっごく張りきっちゃって」

「でいざオーディション本番を迎えた時感極まって泣いちゃったんですよ」


「えぇ?!それは大変でしたねぇ。ですが見事合格したということは」


「功を奏したんでしょうかねぇ」


「相手役の方とはどうですか?作中ではかなり際どいシーンもありましたが」

「SNSのほうでは仲良くツーショットを載せたりまるで本物のカップルの様だと」


「ええ、夕莉ユリとは・・・作品を機に現場で仲良くなったんですけど」

「彼女の素晴らしい演技と役作りに惹かれていってホントに好きになりました」


「あら、それはそれは。愛美さんといえば常に全力投球の演技が話題ですよね」


「アタシ昔からすぐに人を、というか好みのタイプを好きになっちゃうんですよ」

「だから演技を始めた時、自分の性格が活かせるんじゃないかって」

「そのせいで作品撮り終わっても役が抜けなくて度々ご迷惑おかけしてますが」


「では今まで本気で恋をしたことというのはあるんですか?」


「・・・そうですね、あるにはありますけど、叶わないものばかりでした」

「だからこそ本気で恋をしたいって願いを込めて精一杯演じてます!」


「気になるお話が飛び出てきましたがお時間がやってきてしまいました」

「この続きは是非皆様、劇場でお楽しみください。それではまた」



「本日は貴重なお時間と素敵なお話ありがとうございました」


「こちらこそありがとうございます!」


「―――正直な話、今お付き合いされてる方っているんですか??」


「へぇ!?―――えーっとまぁ、いるにはいますけども・・・」


「あら~、愛美さんは恋多き女優さんとも言われてますけど良かったですね~」


「うーんまぁそうですね、今のコはちゃんとアタシの内面も見てくれてますし」

「恥ずかしいんですけど、アタシもそのコのこと大好きってゆーか」


「素敵!大丈夫ですよ、この事はちゃんとオフレコにしておきますので♪」

「私も愛美さんの演技大好きなので、これからも頑張って下さい!」


「ありがとうございます・・・!」



「・・・ふぅ」


現場の楽屋で佐藤愛美は溜息を漏らした。

20代半ばになり彼女は男女人気の高い清純派女優になれたが、

売れることによって仕事は増え、スケジュール帳の休みの欄は減っていく、

これからもずっと仕事が恋人になるんじゃないかと恐れていた。

周りは結婚をし出産、またはパートナーと幸せな日々を送っているのに。


(冬華と春斗が羨ましい)




(―――あの日、やっぱりキスしないでよかった)


唇に指を当てると未だにドキドキするし、頭がぽーっとなる。

演技の時はその時の記憶を呼び覚ましてキスに臨むから大変だった、

相手の男優でも女優でも関係なく真剣マジになってしまうから。



ピロンッ


「あっ」


『今日会える?』


「うん・・・と」


送信者の名前は『立花夕莉タチバナユリ』アタシを惑わせてくる人。


「愛美、そろそろ帰るよ~」


「あっ、はい!」


佐藤愛美は喜びを隠せず元気な返事をし荷物をまとめ意気揚々と出ようとするも、


「やば」


机の上に置かれた一冊の本を仕舞い忘れていたのに気付き、愛おしそうに眺める。


「ほら早くして!」


「はーい!今行きまーす!」


手に持つ本の表紙には確かにこう書かれていた、





『恋をしたいと願うなら』 著:朱堂文歌スドウフミカ と――――――。





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