第40話 ゲーム・オーバー
「淋しかったんじゃないかな」
冬華はゴミを眺めるような軽蔑の眼差しでアタシの言い訳を聞く。
「本当はね、ここ最近ずっと孤独に苛まれてさ、苦しかった」
「それでも冬華達と居られることがアタシの安らぎで癒しだったし」
「皆と遊んでる時もぜーんぶ忘れるようにして不安から逃げられたんだ」
「こんな毎日が続いて、いつかアタシにも素敵な人が出来ればって妄想したよ」
「でもアタシは、自分でも自分のこと普通じゃない、異常者だって思ってる」
「なんでこんな性格で、性別で生まれてきたんだろうって悩んだなぁ」
「いつからか兄貴もお父さんもクラスの男子もみーんな軽蔑してた」
「この世は女の子だけでいいのに、なんで男なんて生きてるんだろうとかさ」
「それは多分、アタシがホントはあっち寄りで自分と同じ人種だって知ったから」
「一番醜い人間は佐藤愛美本人だったんだよね」
「そんな中でも春斗は違った。高校に入ってからアタシは一目置いてたんだ」
「何故だか分からないけど春斗とは話せたし、すぐに仲良くなれた」
「この男は他の男達となにかが違う。性格?見た目?嫌いになれない男の子」
「もしかしたらその時から、初めて興味を惹かれた異性の友達だったのかも」
「冬華と付き合ったって聞いた時はちょっぴりショックだったよ」
「でも冬華と出会えて、そんな事すぐに忘れて、アナタに惹かれていった」
「春斗のことは仕方ないって呟いて友達のままのキモチで接し続けた」
「こないださ、ハロウィンの日ここに来たんだよ。なにも言わずに」
表情を変えないよう努めている冬華の眉がピクリと反応する。
「本当に申し訳ないんだけど鍵掛かってなくてさ、勝手に入っちゃった」
「その時二人の見ちゃってなんとも表現できない初めてが込み上げてきた」
「冬華があんな顔してたのも知らなかったし、春斗があんな風になってるのも」
「二人が付き合ってるの知ってるし、そういうことをしてるんだろうなぁ」
「なんていうのもなんとなく分かってたけどさ、いざマジで見ちゃうと辛くて」
「それからぼんやり過ごして、ある日春斗に冬華のプレゼント買いに行かない?」
「って誘われたからさ、行こうとしたんだよね」
「そしたら夏祭りでフラれた先輩に話しかけられちゃって」
「酷いこと言って泣かせて自分でもそれがショックで泣いて」
「春斗に介抱してもらって一緒に帰った」
冬華はこの間なにも邪魔せず真剣に聞いていた。
「んでさ、その時アタシの弱いとこ春斗に曝け出してたら」
「急に車が来て轢かれそうになって、それを彼が庇ってくれて抱き寄せてくれて」
「すっごくすっごく頼もしくて、カッコよく見え始めてキュンキュンしちゃった」
「馬鹿だよね、急にそんなこと思うなんて。けれどそれがキッカケになって」
「アタシから・・・春斗にキスをしたんだ」
その事実にも冬華は顔色変えず、憐みの表情を向けてきている。
「冬華が羨ましいなって思った。でも奪おうだとかは考えてなかったよ」
「手を繋いだのも春斗と手を繋ぐのがどんなものか気になっただけだし」
「これで全部。後はなんにもない、全部全部アタシからアプローチをかけた」
「多分アタシは冬華と同じくらい―――いいやそれ以上に春斗も好きだから」
「もう、二人の間には入らないよう頑張るよ」
愛美はフラフラに倒れそうになりながらも懸命に立ち上がって、
「これ春斗がプレゼントしてくれたんだけどさ、アタシは着ちゃいけないんだ」
紙袋をワタシに手渡してきてこう言った。
「だからさ、春斗に返しておいて。『気持ちだけ頂戴します』ってお礼と一緒に」
その手はとても震えていて、本当に手放したくない物だと察せられる。
「アタシ、冬華と出会った半年間ホントに本当に!忘れない!」
無造作に置かれた上着を着直しこちらに話しかけてくる。
泣きそうなほどの震えている声が聞くに堪えず耳を塞いでしまいたい。
「出逢った頃はさ、こんな日が来るなんて思いもしなかったよ」
「まぁアタシの所為なんだからしょうがないよね、一生反省する!」
「もう会うことも話すこともないだろうけど、これだけは約束して」
振り向いた顔を見せつけられた時、ワタシは目を背けたくて息が詰まった。
「冬華も春斗もいつか家族になって、幸せになってさ、ずっと元気でいてね!」
それが最後に伝えたかったであろう、彼女の精一杯の強がりと優しさだった。
残された部屋でただ一人ワタシは、
自身に対する失望と友を失う後悔で泣くことしか出来なかった。
「おはよー」
「・・・」
(あれ?聞こえなかったのかな?)
窓際の茶褐色の健康的な水泳少女は俺を一瞥すると、目線を外に戻してしまう。
(なんだよ、ちょっと挨拶しただけなのに)
昨日あんな電話があったから帰宅してからもなにかコンタクトがあると思ったが、
冬華からも愛美からも連絡はなかった。
「おーい席に着け―」
愛美の対応をおかしく思いながらも授業の時間になったのでとりあえず後にする。
そう思っていたのだが―――。
(あれー)
なんだか露骨に避けられてしまったようだ。
「・・・」
(いやマジで一切口きいてくれないな)
これは流石になにかあったに違いないと思うが、それさえ聞けない。
「そういえば昨日の洋服なんだけどさ」
不貞腐れた少女に話しかけると、僅かばかりだが反応があり、
「えっ?!おい!」
頬杖をついた無愛想な両目は微かに潤み、目尻には涙を溜めている。
「・・・!」
愛美は制服の袖で無理矢理目を拭うと、今度はもっと向う側に顔を背けた。
「なんなんだよ」
愛美の対応に釈然としないままでいるとどこかからヒソヒソ声が聞こえ始める。
「愛美また泣いて春斗君の気引こうとしてるよ~」
「こないだあんなに先輩に怒鳴ってたくせにね~」「酷かったよね~」
「あの噂やっぱホントだったんだね!女好きって!」「レズってヤツ?」
「うわー、着替えの時とか変な目で見られてたのかなーやだー」
教室の廊下側にたむろしている女子グループがそんなことを喋っている。
「あいつら・・・っ!!」
人の事情も知らないでよくもまぁ愛美が傷つくことをずけずけと言えるなと、
握りこぶしを更に固くするも俺一人の力じゃ女子の噂は止められない。
結局どうしようもないまま午後の授業が過ぎ、放課後になった。
「こないだは本当にすみませんでした」
放課後の図書室。
受験勉強をしていた空を人気のないところに連れ出し先日の件を詫びる。
「そんな!私の方こそ話しかけてごめん、迷惑だったよね」
その発言が愛美の柔らかい部分をギュウっと痛めつけ締め付ける。
「そんなことないですよ、それじゃあ勉強頑張ってください」
本当はあの頃のようにまた一緒に仲良く話して仲直りしたいだけなのに、
どうしてもツンとした態度をとってしまってうまくいかない。
「・・・」
それは空も同じで、あの日の配慮に欠けた発言をした自分を後悔し、
積極的に愛美との仲を取り戻そうとしても徒労に終わってしまう。
それどころか先日の怒りよう。
空は本気で愛美が自分のことを嫌ってるんだと勘違いしてしまった。
「ありがとう。愛美ちゃんも頑張ってね」
足早に去る背中にエールを送るが、届いているかは不明だ。
(今更なにを頑張るっていうんだよ)
今日は部活の自主練があった筈だが、もう行く気もしない。
鞄を持って逃げるように昇降口に向かっていると、
「うぉっと!?」 「いっつ!?」
誰かとぶつかってしまった。
「ちゃんと前見て―――って愛美じゃん」
「・・・」
幸か不幸か激突したのは春斗だった。離れようにもつくづく縁がある。
スッ
アタシは謝りもせず彼の横を通り過ぎようとするが、
「待ってくれよ」
と腕を掴まれ引き止められてしまった。
「・・・離して下さい、大声出しますよ」
「はぁ?なんだそりゃ?」
春斗の間抜けた声が聞こえ、アタシの腕はグッと引っ張られ無理矢理向かされる。
「・・・」 「・・・」
ジッと彼の顔を睨んでみるが、それが可笑しかったのか間をおいて笑われた。
「なんだよその顔!」
こちらの事情も知らないで能天気に笑う彼に、アタシは苛立ちを覚える。
「腕、離して下さい」
「やだよ、離したら逃げるじゃん?」
「なぁ今日様子変だぞ?昨日やっぱりなにかあったのか?」
愛美は口を噤んだままで、これ以上は埒が明かない。
「・・・冬華に全部話したから、もう関わらないで」
「は?」
刹那、俺の掴む力が弱まったのを感じ取ったのか腕を振り解かれ逃げられた。
「あっ!!おい!!」
去る背中に手を伸ばしてもすごい勢いで走り去り、俺の前から消えてしまう。
「なんなんだよ・・・」
こうなれば彼女に訊こう、なにがあったのか全部説明してもらうために―――。
「そういう訳で、私はまだ冴姫と別れないから」
今日これほど技術の進歩に感謝した日はない。
こんな小さな機械一つで海の向こうの人間と何時間でも話せるのだから。
『うん、そうだよねー。アタシは大丈夫だよ!』
声の主は変わらず元気そうでよかった。私はこれまでのことを話す。
「よかった、私の方はいつか忘れちゃうかもしれないけど」
『またそういうこと言ってー!』
この子と話してるとやっぱり愉しいし、心が晴れやかになる。
『ねぇそういえば愛美って元気にしてる?』
史夏は心配そうに愛美について尋ねてきた。
「え?元気にしてるわよ?こないだもウチ来てキスねだられたし」
『はいー!?』
「あ、今のはオフレコでお願いね。・・・でも確かに変だったかも」
『そっかぁ、いやアタシも連絡送ってるんだけど、なんだか淡白?でさ』
『だからなにかあったんじゃないかって心配してたんだけど』
『その調子なら大丈夫そうだね』
「ええ、でもあの子はああ見えてかなり我慢しちゃう子だと思うから」
「そこは私も注意しておくわ。暫くは会えないかもしれないけど」
『お願いね!それじゃあまた連絡する!』
彼女との通話は切れたが、就寝前のいいガス抜きになった。
(・・・冬華に聞いてみようかしら)
紗耶香は冬華に最近の愛美についてのメッセージを送って眠りにつく。
しかしその返事がちゃんと返ってくることはなかった。
『開いてるよ』
夕方、まだ残る雪を踏みしめながら俺は冬華の家へとやってきた。
「お邪魔します」
冬華はもう学校から帰ってゆっくりしてたみたいですっかり寛いでいる。
「はいこれ」
来て早々彼女に渡されたのは紛れもない、愛美にプレゼントした洋服だった。
「気持ちだけ頂戴しますだってさ」
昨日のままの紙袋に仕舞われ、返品されてしまう。
これだけでここでなにが起こったのかを大体察することが出来た。
「ちゃんと初めから説明してくれ」
「その前にワタシに謝ることがあるんじゃないの?」
冬華は視聴していたテレビの電源を落とし、こちらに体ごと向ける。
「えっとその・・・ごめん、俺愛美とその・・・キスしたり手繋いだ」
包み隠さず自分の罪状を告解し、深々と頭を下げた。
「大体の話は愛美さんから聞いたよ、春斗君は悪くないってさ」
湯呑の熱いお茶を余裕そうに啜る冬華、底知れない怒りを感じる。
「まーさ、ワタシは別の高校だし二人に干渉出来ないから仕方ないとはいえ」
「なんで春斗君までワタシを裏切って、我慢できなかったの?」
「ぐっ」
ぐうの音も出ない。冬華にとっての悪役は俺と愛美だから。
「愛美さん言ってた。春斗君の事昔から好きだったんだって」
「えっ?」
初耳だし、そんな風には思わずに今まで接していた。
キスも手を繋ぐのもデートまがいのことも全部愛美の気まぐれだって。
だって愛美は俺と冬華が付き合ってるのを知ってたわけだし。
「人はね、環境とか時間の経過なんかで簡単に変われちゃうんだよ」
思考を読み取られたように冬華はスパッと俺の求める答えを口にする。
「自分の奥底に封印してた『友情以上の恋愛感情』」
「春斗君に優しくされた時、キッカケになっちゃったんだってさ」
「・・・そんなこと知らなければワタシ達の関係は壊れなかったのに」
「―――だからって、そんな簡単に愛美と絶交できんのかよ?」
「はぁ」
「昨日ここでなに話したんだ!?なんでそんな他人行儀なんだよ?!」
「俺はなんで・・・学校で愛美に避けられてんだよ!!」
一通り冬華に疑問をぶつけるも、彼女は微動だにもせずこちらを見ている。
「だってあの子が金輪際ワタシ達には近づかないっていうから」
拗ねた子供が飽きたおもちゃをアッサリ捨てるように吐く冬華。
本当にそのままの意味で受け取って行動に移しているのか?
「すごいね、馬鹿真面目にワタシのいないところで守ってるんだ」
「えらいえらい」
「春斗君にはまだなにも言ってないのを知らない筈なのにさ」
「・・・なんなんだよさっきからその態度は―――!!」
震える声が抑えきれない。冬華に、いや誰かにこんなにムカついたのは初めてだ。
「あんなに俺等仲良くやってきたじゃねぇかよ!」
「それをたった!!たった一回の間違いでダメにすんのか?!」
「親友だったらそれぐらい許してやり直すことだってできたんじゃねぇのか!?」
「なんで当事者の俺を混ぜないで勝手に、二人だけで決めようとしてんだ!!」
俺は思わず握りこぶしを机に振り下ろして、大きな音を立ててしまう。
仏頂面を決め込んでいた冬華も流石にこれには驚いて体を震わせた。
「あっ、ごめん。熱くなりすぎた・・・」
こんなことをしてしまって反省するも、やはり怒りは収まりそうにない。
「・・・春斗君の言い分だって理解る。愛美さんの気持ちも理解る」
「でもさ、こんなことになったらもう御仕舞なんだよ」
「友情と恋愛は上手く成り立たないって知ってるでしょ?」
「それにもう貴男達は一線を越えてしまっている」
「いつエスカレートしてもっと深い関係になってもおかしくない」
「ワタシに嘘を隠し通してまで春斗君は耐えられるの?それは辛いよ、きっと」
達観し過ぎている諦感に近いドライさは、冬華の生い立ちにも関係している。
裏切られて捨てられて蔑まれて必要とされないで、もう耐えられそうになかった。
ならいっそ分かり合えた親友でさえも切り捨てるのが正解なのでは?
未熟で幼い、人付き合いに疎い彼女にはそれしか選択肢がなかった。
後々になってそれが毒くのように精神を蝕んでいき、
失った悲しみを癒えない傷として定着させてしまう愚行とは一切知らずに。
「・・・愛美に電話する」
春斗は彼女の前で仲直りの場を設けようとするも、
「絶対に駄目!!」
と落ち着いていた態度とは一変、彼女もまた声を荒げ止めに入られる。
「じゃあいいのかよ!?このまま一生このまま話せなくても?!」
「愛美はお前のことが大好きで!色々俺らの仲助けてくれて!」
「昨日だって冬華の為に一生懸命喜びそうな物選んでくれて!!」
「誕生日だって楽しみにしてくれてて!」
「年越して初詣に行って春が来て夏が来てまた年越して!!」
「そんな思い出だってもうなくなっちまってもいいのかよ?!」
人との別れは辛いものだって、春斗にも経験があるから分かる。
だが春斗の真意と魂の叫びはまったくもって冬華に伝わることはなかった。
「そんなに愛美のことが気になるならさ、もう愛美と付き合っちゃえば?」
「はぁ???」
違う違う違う違う。
俺が言いたいことはそんなことじゃないんだよ、どうしてわかってくれないんだ?
「ワタシは友情にヒビを入れた愛美さんを許せないし」
「安直に愛美さんに身体を許した春斗君も信じることが出来ない」
「ほら、お似合じゃないですか?裏切者同士のお二人さんは」
虚ろに人の神経を逆撫でするような、誰の言葉も受け付けないような態度。
「わりぃ、俺もう帰るわ」
愛美の忘れ物を手に取り、俺は冬華に目もくれず家を出る。
「・・・くそっ、でてもくれねぇ」
外に出て急速に冷え悴む指で何度通話ボタンを押すも愛美に無視される。
「こうなったらもう直接行くしかないか・・・」
俺は振り返らず、目的地だけを見据え走り出した。
昔冬華とお風呂に入った時、浮気は癖になる、一線を越えないのが大事、
そんなことを胸に大事にし、しないように戒めたのを思い出した。
(守れてないんじゃん)
同性の浮気はアリ?ナシ?そのレベルじゃない。
たった一度の過ちが全てを変えてしまい、アタシは繰り返してしまった。
「愛美、あんたの友達来てるわよ」
自室のドアの向こうで母の声が聞こえる。
「帰ってもらって!」
そう声を荒げるも、
「愛美、ちょっと話したい」
彼はもう家まで上がり込んでいたらしい。
「・・・」
「事情は全部聞かせてもらった、冬華から」
春斗は深々と頭を下げ、「本当にすまんかった!!」と謝罪する。
アタシは意味が分からなくて、なにも答えられなかった。
「なんで、春斗が謝る必要ないじゃん、全部アタシが悪いんだから」
もう終わってしまったことなんだ。今更話し合うべきこともないだろう。
「・・・愛美はそれでいいのかよ、本当に」
「いいわけないじゃん。でもさ、しちゃいけないことをして」
「あまつさえそれが冬華にバレちゃってんだよ?もういいでしょ」
「・・・結局のところさ、アタシ達の関係はそこまでだったって話」
不機嫌に寝返りうつ少女はもう帰ってくれないかという仕草で春斗に接する。
「冬華に約束したんだよ」
「生きてて良かったって思える人生にしようなって」
「そこに誰か一人でも欠けちゃダメなんだよ」
「なんでそれをお前も冬華も、否定しようとしちまうんだよ」
涙声が鮮明にアタシの心に響いても、どうすればいいか分からない。
例えそれが叶う日があるとしても、それは多分、今日明日の話にならないし。
いやはや子供という未熟な精神の集合体はこんなにも面倒臭い。
自分でも理解してるからこそ嫌になってしまう。
だからといってどうすれば大人になれるかなんて、成長できるかなんて、
そんなことアタシ達が聞きたいくらいだ。
心にぽっかり空いた孔は塞がれることなく押し広げられる。
「・・・もう帰りなよ、明日学校でね」
か細い掠れた声が賢明に音をカタチにしようとしている。
「アタシはもう、アンタとは話せないけどさ」
酷い言葉はきっと自分への罰として言って、自分自身を傷つけているんだ。
「冬華にだって・・!もう・・・!」
これからの未来を慮ると感情が悲鳴を上げて嗚咽が止まらないんだろう?
小刻みに震える丸まった背中にゆっくりと近づく。
「昨日買ったこの洋服、俺は愛美に着てもらいたいから買ったんだ」
「だからお前がいくらいらないだとかなんだっていっても俺は受け取らない」
「別に着ないでしまっておくのもいいし、嫌だったら捨ててもらってもいい」
「・・・一瞬でも、喜んだ顔が見れて俺は満足したからさ」
ベッドの横に紙袋を置いて、
「じゃあ俺もう行くよ」
と別れの挨拶を簡潔に済ませて、部屋から立ち去ろうとする。
「お前ら二人がどんな風になったって、俺は友達でありつづけるからさ」
「だから心配すんなよ。冬華のことは頑張って説得してみる」
「いつかまた笑い合って・・・遊べる日つくろうぜ」
彼は寂しそうに叶いそうにもない泡沫の夢を語って、
ドアノブに手をかけた。
「待って」
その一言に機敏に反応し、下げられたドアノブを元の位置に戻し
次に発せられる言葉に耳を傾け沈黙する春斗。
「ホントに、そんな日が来るって思ってるの?」
愛美は上体を起こし、願いに疑問を抱き質問する。
「冬華の気持ちはさ、痛いほどよくわかってるんだよ」
「あの子は純粋で繊細で、綺麗なガラスの心を持ってるみたいで」
「アタシはそれを・・・バラバラの粉々に打ち砕いたんだよ?」
「そんなもん、もうどうすることもできるワケないじゃん」
「・・・なら尚更、俺と愛美で治す方法を考えなくちゃいけないんじゃねーか」
「お前と冬華の『その』判断を下すのは今じゃねーだろ」
「仲直りできることを考えて考えてやってみてその上で決めろよ」
「いつまでもメソメソ逃げ回ってんじゃねーよ」
ドア前の春斗は振り返り、ベッドの上の愛美に駆け寄り強い力で肩を揺すった。
「諦めんなよ!!俺も悪いんだからお前の痛みよーく分かってんだよ!!」
「お前一人が責任負うことねーだろ?!」
「痛み分けしないでカッコつけようとして泣いてんじゃねーよ!!」
「俺だって―――・・・っっっ!!!」
ぐわんぐわんと力なく弱っている愛美に発破をかける春斗。
しかしこれ以上なにを投げかければいいのか分からず言葉に詰まる。
「やめてよね、アタシは春斗のそういう優しさが嫌いなんだよ」
「っ・・・どういう意味だよ?」
「春斗のこともうこれ以上好きになりたくないんだよ!!」
「気が付きたくなかったんだよこんな邪魔な気持ち!!」
「女の子が好きで冬華のことを好きになったかと思ったら!!」
「今度はその彼氏のアンタに心奪われそうになってる!!」
「こんな最低最悪な結末になるのなら!!恋も!愛も知りたくなかった!」
切なすぎる少女の悲痛な叫び、運命に翻弄され揺り動かされる人生。
春斗は慟哭する少女をただただ慰めることしか出来なかった。




