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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
佐藤愛美の物語
39/42

第39話 トゥモロー・ネバー・ゴッド・ノウズ

「雪すごいなぁ」



窓から覗く世界はいつもと違い、全く別の異世界に通じているようだった。


今年は例年よりも早い積雪で、尚且つ降雪量も多い。

水気交じりのみぞれのように溶けやすいものでなくしっかりと積もっている。


今日は12月15日。一年があと半月で終わってしまう。


「どこか行こうかな」


日曜日、時刻は朝6時頃、特に溜まっている家事も予定もなかった。



「おー」


玄関扉を開けると凍てつくような寒さとしんしん降り注ぐ白い恋人達に感動する。

冬にしか味わえない圧倒的な非日常感。


「・・・海が見たいな」


こんな日に夏の風物詩を求めてしまうのはかなりの贅沢なんじゃないだろうか?

しかしわざわざ1時間以上かけるのも大変なので別の場所を目指そう。


冬華は滑り止めの付いた長靴を履いて、雪の街を歩きだす。





「年末は忙しいよね」


昼前、愛美は紗耶香の家に来ていた。


「ええ、流石にイベントを楽しむ余裕はないわね」


受験生真っ只中の紗耶香は机に向かい難しい参考書に目を通している。

アタシはベッドに寝転がってその様子をだらだら眺めていた。


「来年、落ち着いたらやりましょう」


こちらには目もくれないでずっと喋りかけてくれているが、

本当なら追い出されても仕方ない時期なのにやっぱりこの人は優しい。


「そろそろ帰ろうかな」


別になにかを求めて来たわけじゃないが、年内最後になるであろうから

時間のある時に会っておきたかったのだ。


「そう、じゃあまた連絡でもちょうだい。返事は遅くなるかもしれないけど」


「・・・ねぇ、紗耶香姉」


「なーに?」


座っている彼女の横に近づいて、少し早めのプレゼントをお願いしてみる。


「・・・あのさ、キス・・・したいな」


流石に彼女もこっちを振り向いてくれた。


「その為だけにウチに来たの?呆れた」


「いやまぁ、ホントは紗耶香姉と暫く会えないからと思って来たんだけど」

「なんだかずっと見てたら・・・ね?」


はぁーと深いため息をつく紗耶香。


「私は都合のいい女じゃないの」


そうだろうか?


「ホント一回だけ!冴姫さんに怒られない程度の!!」


顔の前に両手を合わせ、必死に懇願してみると・・・。


「ほんっと!しょうがない子よね!」


とイヤイヤながらも言う事を聞いてくれるらしい。



(やっぱチョロいじゃん)


アタシは紗耶香姉の整った直線の小さな顎先を手で引っ掛けるように寄せ上げ、


「ん」


綺麗な唇に口づけをする。


お互い目を瞑り神経の集中先を口先へ切り替え、柔らかな感触を丹念に味わう。


(あれ)


淡白な接吻とはいえあの紗耶香にシているのに、


(なんだろう・・・なにも感じられない)


いや、嬉しいは嬉しいのだが、いつもとはなにかが違う。



「あっ・・・」


弾力を持つ皮膚が離れたくないといわんばかりに吸い付いてきたが、

ゆっくり丁寧に引き剥がす。


「・・・やっぱり、冴姫さんには怒られないと思う」


アタシの独り言に、


「どういう意味?」


と首を傾げる紗耶香。



「なんでもない!クリスマスプレゼントありがとうね!」


愛美は掛けてあったコートとマフラーを羽織ると、


「勉強頑張って!また連絡するよ」


とだけ言って部屋から足早に出て行ってしまった。


取り残された私は訳も分からず「なんなのよ」と呟き、机に向き直る。


「・・・」


口に残った感触を指先で確かめ、

熱い燻っていた気持ちに火が付きそうになるのを頑張って自制するが、


「もう、愛美の所為で集中できなくなったじゃないの」


除夜の鐘が鳴る前にこの煩悩を退散させる方法はないだろうか?

私はスマホを取り出して、冴姫に連絡をしてみることにした。





「うわぁ、すごい・・・」


足を延ばして遠出してみたがどうやら正解だったらしい。

朝早くということもあって人影まばらな大きな蓮池は、

一面が氷の結晶に覆われていてとても風情と趣を感じられる。


「静かだなぁ」


天気の所為か車通りや街の環境音は聴こえなくて、

風の吹き渡る音だけが静かに耳を撫でてくれる。


枯草に積もり幻想的な光景を魅せてくれる冬の華、

自分の名前の由来や過去の事を思い出しノスタルジックな気分に陥る。



「・・・」


この一年、いや何十年様々な出来事に立ち向かってきた。


そして今、ワタシはやっと幸せの渦中に立っていられると思う。


(神様なんていないって思ってた)


遠くまで広がる雪の華々を見渡し、どこともなく眺め無心に耽る。


家族のことも、私生活のことも、彼氏のことも、先輩のことも、親友のことも、

今だけは冬の魔法で忘却の彼方に連れ去ってもらう。





「ごめん、待たせちゃった?」


人混み溢れる年末の繁華街。

アタシは冬華へのプレゼントを選ぶ春斗の付き添いの為街へ繰り出していた。


「いや全然、俺もさっき来たばっかだし」


あの日からあまり学校でも話さなくなって気まずい雰囲気だったが、

今日はそんなことがないように立ち振る舞いたい。


「相変わらずすごい雪だよね」


待ち合わせ場所は百貨店の外だったので濡れる心配もなかったが、

ここに来る途中までが大変だった。


「ははっ、綺麗だけど実際は疲れるよな」


「だね。えっと、それじゃあもう探しに行こうか?」


中々に混み合う店内を散策するのは骨が折れそうだが、


「おう、パッと選んじゃおうぜ」


というので春斗についていくことに決めた。



「これとかどうかな?」


若者向けのアパレルショップで春夏服を探してみる。

こういう服選びの時、アルバイトをしててよかったなと感じるし、

冬華の服の趣向や体型を知っててよかったなと思う。


「えー、どうかなぁ」


対する彼氏は全く理解がないように思えるし、選び悩んでいるようだ。


(ゆーてアタシもちょっと前まではそんな服選びとかしなかったけどさ)


誰かに見てもらいたいと思うようになってからはこだわるようになった。



「うーん、逆に春斗が着てもらいたい服とか選ぶのはどう?」


別の店をいくつかまわりながら春斗自身が選んだもの着させる提案を出してみる。


「んー、じゃあこことか?」


指差したのは最早ファッションを通り越したマニア向けのコスプレショップで、


「いやまぁ確かに似合うとは思うけどさ・・・」


店内にはあまり着ないような過激な洋服も並んでいた。


「下着は・・・まぁ今度アタシと二人で選んでもらおう」


彼女の体型を考えたら中々似合う服を見つけるのは難しい、

今はそれ以外の物も探していこう。



その後も悩みに悩んで財布と相談しながら候補をいくつかに絞っていく。


「これかわいー!どう?似合ってるかな??」


服を探す内に自分まで楽しくなってきてしまい、隣に立つ春斗に見せてみる。


「ん。結構似合ってると思うぞ」


「そう?そっかぁ、いいよね、どうしよっかなぁ・・・」


かなり気に入ったのだが、値段を見て保留することに決めた。


「それにしてもこんなんで5千、6千円するってやばいだろ」


春斗はアタシが持っていた服の値札を改めると、呆れたように呟く。


「むっ、これでも安い方なんだよ?これだったら春先とか秋終わりまで着れるし」


「ふーん、俺は一年中半袖でもいいけどなぁ、これそんなに気に入ったんだ」


「まあね。でも今日そんなに持ち合わせないから、諦める!」


アタシは名残惜しいな、残念だなと思いつつも未練が残らないように

その場から「もう行こう!」と春斗の手をとり立ち去った。



「決まりませんなぁ」


通路に置かれた椅子に座って一休みする二人。


「じゃあネックレスとかは?」


春斗は閃いたといわんばかりに言うが、すぐさま却下する。


「それは流石に重いと思う。結構値段もするだろうし、どこかの誰かみたいだし」



「・・・春斗は結婚とかしたいと思うワケ?」


藪から棒に聞かれ、吃驚した。


「いやまぁどうだろうな。冬華にその気があるんだったら俺も吝かじゃないし」

「アイツの今までのことを考えたら、俺が守らなきゃって思ってるよ」


「・・・ふーん」


愛美は突然立ち上がり、「ついてきて!」と先導してくれる。



「ここって」


先程とは毛色が違う多くの物が並んだ雑貨屋、そこに案内された。


「もしこれから同棲とかするんだったら」


愛美は近くのマグカップをとり、


「こういうペアルックの物でもいいんじゃない?」


と自分の顔の横に持ってきて、オススメの逸品とアピールしてきた。


「確かに!」


ちょっと気が早い気もするが、通年でも使えるものといったらこういう小物だ。

ならお揃いの物を買っても問題ないし、いつでも彼女のことを思い出せる。


そこから二人で色々な種類の商品を手に取り吟味した。


これはどうかなとかあれは趣味に合わなそうとか両者のフィーリングで選び、


「じゃあこれにしようかな」


と春斗が冬華の為に選んだ品物は、かわいらしい猫のマグカップだった。

色は青とピンクで、それぞれオスとメスをあらわしているらしい。


「いいね!冬華も喜ぶと思う!」


愛美もこれには大いに賛成してくれたので、


「これ買ってくるから待ってて」


と俺はそのままレジの行列に並ぶ。



愛美は嬉しそうな少年の背中を見つめていた。





「ふー、やっぱり今日は混んでるなぁ」


一人旅を楽しんだ冬華は賑っている百貨店に訪れていた。


(そんなに持ち合わせはないけど、ハル君が喜んでくれるものあればいいな)


純粋な少女は大好きな彼の為になにか贈りたいと考えここにきているのだ、


(付き合ってもう半年かぁ、せっかくだからこれからも使えるもの?とか?)


彼女は軽く微笑むと、ワクワクしながらよさそうな店を探し始める。



「遅いなぁ、どこまで行ったのよ」


買い物を終えた後愛美は春斗に待ちぼうけを食らっていた。


『ごめん!トイレ行ってくるからここで待ってて!』


彼はそう言い残し愛美の前から姿を消したのだが、


「あっ!遅い!」


向うの人波から彼は紙袋を抱え戻ってきた。


「ごめんごめん!店の場所を探してて」


「?」


冬華のプレゼントはここにある。とすればこの紙袋の中身はなんなのだろう?



「はい、愛美が欲しがってたもの」



「これって―――」



春斗が紙袋から取り出してくれたのは、愛美が買えなかった洋服だった。



「勘違いすんなよ!今日のお礼、ただのありがとうの気持ちだから!」



恥ずかしそうに吐き捨てる春斗だが、そのじつ優しさに満ちているのが伝わる。



「・・・嬉しい」



ビニールに梱包された洋服を大事そうにギュッと抱き締める愛美。



「ありがとう、ずっと大切にするから」



「あぁ、うんまぁ喜んでもらえたならよかった」



思った以上の愛美の喜びようにプレゼントした甲斐があったというものだが、

おかげで春斗のお小遣いは前借した分も含めてスッカラカンになってしまった。


(でもまぁ)


これだけ嬉しそうな彼女の姿を見ることが出来たのだ、悪くはない。


(これでちょっとは元気出してくれたかな)


あの日の傷ついた心が回復してくれればいいなと思う春斗であった。



「それじゃあ帰るか」


「えー、もうちょっと遊んでこうよー」


正直そうしたいが荷物もあるし財布の中身が寂しい、


「冬休みになってからでもいいだろ」


「んーじゃあそうしますか」


若干不満を漏らす愛美だが、


「その代わり~」


手を出してくる。


「?、なに?」


この期に及んで金銭を要求してくるのか?

しょうがないのでポケットから財布を取り出す。



「違うよ!」



言葉にするのは憚れるのか、顔をそむけ首に巻かれたマフラーで口元を隠す。



「あっと・・・」



流石に察しの悪い俺でも気づいた。



「うーん」



差し伸べられた小さな手を、しょうがないからと繋いであげる。



「んっ」



俺の応えに満足したのか、愛美は俺の手を引っ張って歩き始めた。



(あったかいけども)



こんなことをしていいのかという罪悪感にかられる。が、


(まぁ今日だけならいっか)


と場の雰囲気に流されてしまった春斗。



そんな光景を遠目から見ていた彼女がいるとも露知らずに―――。





「うーん、お店がいっぱいあって迷うなぁ」


冬華は殆ど初めてくる百貨店に疲弊していたが、

そんな時ちょうど目に留まったのが大きな雑貨屋だった。


「ここならなにかあるかも」



「どれにしようか悩むぅ」


店内には至る所にオススメと書かれた商品が並び鎮座しているので、

優柔不断な冬華は逆に困ってしまう。


(春斗君が気に入りそうな、喜びそうな物・・・)


「どれどれ」

「ペアルックのエプロンにコースターにマグカップに・・・これって!?」


ここのオススメは同棲してるカップル・夫婦向けの雑貨ばかりであった。


(いやいやこれは流石に引かれちゃうでしょ!!)

「あでもこのコーヒーカップとかかわいいかも」


動物を模して造られたマグカップやスリッパ、金物なんかに目を引かれる。


「特にこのスプーンなんかよさそう」


柄の部分の彫刻が趣向を凝らしておりちょっとした特別感がある。


「後は・・・ペアリングはどうだろう、流石にやりすぎかな?」


値は張るがプレゼントできればさぞ喜んでくれるだろうな。


「うーん」


よく考えてよく悩む。冬華にとってはこの時間こそも愉しむことが出来た。

それは大好きな春斗の為だから。


(日頃の恩返しも兼ねたいしなぁ)


多分一緒に選んだら遠慮してなんでもいいと言うに決まっているので、

多少の出費は覚悟で目当ての物を買う。


「よし、これにしよう」


選んだ品物を手に取り、レジへと持っていく。


(ハル君、喜んでくれたらいいな)


少女の気持ちの籠ったプレゼントは、きっと届くはず。



そう信じていたはずなのに―――。





「あれ?愛美とハル君?」


混雑する店内をなんとか出た冬華は、遠くに知人らしき人影を発見する。


「なんだろ二人で、もしかして」


彼等もワタシと同じ様に買い物に来ていたのかもしれない。

しかも連絡もなくここにいるということは、サプライズをする為に。


「ふふっ、考えることは同じだったのかな」


そのまま見つからないように物陰に隠れて、二人が立ち去るのを見届ようとする。



が―――。



「ん?なに渡したんだろう」


春斗はなにか洋服のような物を愛美に渡し、彼女はそれを後生大事そうに抱えた。


「あんまりよく見えないけど、プレゼント?すっごい嬉しそう」


ここからだと春斗の顔は見えないが愛美は分かる。



それから少し雑談して、愛美は春斗に手を差し伸べた。


(えっ)


なんだろう、いやな胸騒ぎがする。



「あっ」



最初こそ戸惑っているように見えた春斗の後ろ姿。




しかし次の瞬間には。




「なんで?」




間違いなく手を繋ぐ二人の後姿をワタシは認め、捉えてしまった。




「えぇ、なにそれ・・・」




まったくもって状況が飲み込めず、困惑してしまう。




(なにこれ、なにかのドッキリ?)




そのまま後を追おうにも、足が動かない。




(怖い)




今追いかけて本当に本人達だったのなら―――。




「・・・いや、きっとなにかの間違いだよ」


無理矢理自分を納得させて、隣の柱に体を預ける。


正直びっくりしすぎてなんの感情も湧きあがってこない。

実はこれは夢で、まだワタシは眠っているんじゃないかと錯覚する。


「・・・」


ポケットからスマホを取り出して、春斗の連絡先を開く。

これがもし何年も前だったら確認する術もなくて、悶々としていたかもしれない。

だがしかし、そちらの方が幸せなのではないか?


知ろうとすることをしない幸福。知りすぎることを後悔する絶望。


(ワタシは)


もうなにも不安を抱えて生きたくない。やっとここまで来たんだ。


大好きな男の子も、大好きな女の子も信じたいから、




三菱冬華ミツビシトウカは『音声通話』を押した。





「もしもし?ハル君?」


何コール目かで彼は着信に応じてくれた。


『もしもし冬華?どうかしたか?』


春斗の声に混ざり外野の声も耳に流れてくる。外にいるのか?


「ううん、今日は何してるのかなって?今から会えない?」

『今から!?えっと今はちょっと難しくて、外出掛けてる!』


わざとらしいくらいの焦りようにふきだしそうになってしまう。


「そうなんだ、どこいるの?誰か友達と?」

『あーまぁ渋合の方で買い物してた』

「ふーん、一人で?」

『えーいやさ、実は冬華のプレゼントを愛美と探してたんだ』

「・・・・・・」

『冬華?聞こえてるか?』

「うん、聞こえてるよ!そっか、邪魔しちゃってごめんね!」

『いやそんなことはないけどさ、隠しててごめん』

「ううん!ワタシのことを想っての為なんだからしょうがないよね」


「それじゃまた!」


震える指で『通話終了』を押す。

この感情の昂ぶりを隠し通せただろうか?



(なにかの間違いだよ)



必死に自分に言い聞かせる。


(だって愛美は男嫌いで女の子が好きな、ワタシのことを好きなんだよ?)

(それにハル君だって愛美のことはなんにも変な感情なんてないはず)


冬華の脳が混乱する。


(・・・もう帰ろう)


一刻も早く家に帰りベッドに潜り込みたかった。

春斗と愛美がこれからどうするかなんて知らないし知りたくもない。


力なく歩み始める冬華は、ただ打ち付ける現実を受け入れるしかなかった。





「冬華なんか言ってた?」


「うーん、切られちゃった」


唐突な電話に不信感を抱きながらもこの状況がバレたわけではないと

思い込んでいる二人は、結局そこから喋る事もなく駅へと向かった。


「やっぱりさ、こういうのってダメだよな」


帰りの電車で不意に彼が口に蓄えていた反省を吐露する。


「・・・うん、アタシも同じこと考えてた」


揺れる車内、もうすぐ地元の駅に着く。


「ごめん、俺も共犯みたいなもんなのに」


「いいよ、アタシから誘ったみたいなもんなんだしさ」

「それに春斗は冬華一筋なの知ってるし」


「アタシのことなんて、これっぽっちも『好き』の感情なんてないでしょ?」


「・・・意地悪言わないでくれよ」


「・・・ごめんね」


特急の電車は思っていた以上に早く目的の駅へとアタシ達を運んでくれた。



「それじゃあまた明日、学校でね」


「あぁうん、また明日」


本来は帰り道も途中まで一緒だが、今はなんとなく一人で帰りたい。

春斗もそれを察してくれたのか、バイバイと手を振って背を向けた。


「・・・もしかしたらもしかするかも」


愛美は帰り道を少し変えて、冬華の家に向かった。



呼び鈴を鳴らすと誰も出てこない。


(あれ?寝てるのかな?)


しょうがないから帰ろうと階段を降りようとした時、

誰かが昇ってくる気配に身構えてしまう。



「あっ、冬」



下から現れた顔に安心感を覚えるが、手に持っている荷物を見て愕然とする。



「―――愛美、奇遇だね」



奇しくも同じ百貨店の紙袋を携えている二人。


「あれ、その荷物どうしたの?」


不思議そうに尋ねられて、誤魔化すわけにもいかないので正直に答える。


「ん?ああこれはさっき買い物に行っててさ、春斗と」


「知ってるよ、さっき電話したから」

「愛美も隣で聞いてたでしょ?」


「・・・うん、ごめんね。仲間外れにするつもりはなかったんだ」

「冬華の誕生日プレゼント、サプライズで渡したかったから」


「とりあえず上がりなよ」


玄関先での立ち話もなんなのでと冬華の家に招き入れられる。



「今暖房点けるからちょっと我慢してね」


いつもとは違う機嫌が悪い感じがするのは気のせいだろうか?


「あうん、お構いなく」


アタシはコタツに入り、彼女はポットからお茶を注いでくれた。


「はいどうぞ」


「ありがとう」


湯呑の温かさが手にじんわりと染み渡り、コタツの温度も上がってくる。



「・・・」「・・・」



気まずい沈黙、なにか話す話題はないかと模索する。



「ハル君とはいつから、そういう仲になってたの?」



「え?」



いきなり飛び出した核心に愛美はフリーズしてしまった。



「・・・さっき二人が買い物してるの見てたんだ」

「愛美ハル君からなにか買ってもらってたよね?」


「・・・はい」


「貰った時すっごく嬉しそうな顔してた。ワタシも見たことないような笑顔」

「いや、あれはいつもワタシが見せてる笑顔かな?」

「好きな人からなにか施しをしてもらって悦んでる女の子の顔」

「愛美は一番ワタシ達のこと近くで見てきたから理解わかるよね?」


虚ろな顔だけが蛍光灯の明るさと反比例して、怖い。


「その後貴女達はどうしてましたか?簡潔に述べてください」


教師が生徒の失態を攻める時のような厳しい口調。

段々と肩に重圧がのしかかってきて、脂汗がじわりと額を濡らす。


「えっと・・・アタシが春斗に手を出して・・・」

『手を繋ぎたいなって』

「そういう風に言いました・・・」


「なんで?愛美とハル君ってそんなに仲よかったっけ?」


「いやそれは・・・」


「ワタシがハル君の彼女って知っててやったんだよね?」


「ごめん」


「もしワタシにバレなきゃもっと先までいこうとしてた?」


「ごめんなさい」


「ワタシはさ、馬鹿だよ。大馬鹿者」

「だって一番信頼してた、初めてできた大切な親友に彼氏取られちゃうんだから」


「それはちがっ!?」



「どう違うのか説明してよ!!」



突然の怒声に身を震わし、委縮する。



「なんで手なんて繋ごうとしたの?!たかが手ぐらいって思ってた?!」



「ワタシはやだよ?!自分の知らないところでハル君が他の誰かとなんて!!」



「考えたくもないし、なにかあってほしくない!!」



「本当は愛美とだけで出かけさせるのも嫌なんだよ?」



「でも愛美はワタシの事の方がもっと好きで男が苦手だから二人きりも許せた!」



「心配なんてなくてこのままずっと三人で仲良く過ごせると思ってた!」



「なのに今日ワタシは知ってしまった!真実を!信じてたのに!」



「どうして?!全部教えてちょうだいよ?!!」



こうなるともう止まらない。彼女の怒りや疑問、不満は尤もだ。



「・・・ホントに軽い気持ちだったんだ」


「なんで?今までの二人はそんな関係に見えなかった」

「本当はそこに至るなにかがあったんでしょ?二人だけの秘密が!!」


鋭い洞察力で秘匿しようとしていた檻をこじ開けようとしてくる。

正直アタシの春斗に対する感情なんていつもと同じ一過性のものだ。

恋の病、それに他ならない。だからもうなんの感情も持ってない。

そう自分でも思っていたのに―――。


佐藤愛美は胃に穴が開きそうなほど苦しみ、肺は破裂しそうだった。

血管が膨れ上がった臓器で塞がれ血流が滞り、体調が悪くなる。

脂汗は止まらずに益々溢れ、苦しい表情を悟られないか喉がムカムカする。

下唇を噛んで意識をここに保てるよう善処するが、目線は上げられない。


(キスのことを言うべきなのかどうなのか)


これに関しては春斗も関わっていることなので矛先がそちらに向くのは避けたい。


(全部アタシの軽率な行いから生じた当然の結果なんだけどさ)


どうアクションを起こしても雁字搦めで詰んでいる。誤解を解く方法もない。



「アタシがこないだ学校で困った時に、春斗が助けてくれたんだ」


「それでちょっとカッコよく見えて、アタシの男性恐怖症というか」


「頑張って克服するのを手伝ってもらって」


「本当にそれだけの事なんだ。春斗はアタシのこと1mmも好きじゃないし」


「アタシも冬華が嫌がるならもう頼まないよ、冬華の気持ち考えられなかった」


独白を綻びがないか静観してくる。


「・・・そう、それが本当ならワタシも言い過ぎたと思うんだよね」


「いや全然、冬華の言い分も考えもその通りだと思う」


「アタシは恋人がいないから、その辺疎くて、甘く考えてた」


愛美の言い分を黙って聞く冬華が、ハッキリ問い詰めてくる。



「今話してくれたこと、全部本当で嘘偽りない?」



「・・・」



「誓える?」



「・・・・・・はい」



それを聞いた冬華は徐に立ち上がると、



「愛美がしてくれた話、本当かどうか確かめさせてもらう」



とだけ言い、スマホに手を伸ばした。



(まずい!)



今春斗に確認されたら嘘と真実で織り交ぜられた独白は意味を持たなくなる。



「待って!!」



冬華の足に無様にもしがみついて、止めさせる。



「なに?」



「ごめんなさい、春斗に連絡するのだけはやめて!!」


こんな態度をとってしまったら疑いは深まるばかりなのに、なにやってんだろ。



「金輪際春斗にも、もう冬華に―――!近づかないから―――!」



佐藤愛美は巧く仲直りする方法を知らない。


だからいつも失敗して、後悔するやり方しか出来ない。


空も、冬華も、傷つけてどうしよもない。



「アタシが全部悪いから、全部話しますから」



最初からこうしてればよかっただなんて後になって気付く。


なんにも成長できずに一生を終えるんだろうなぁ。



「・・・話して」





つらつら並べた懺悔の言の葉をもって、アタシと冬華の友情は終わりを告げた。





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