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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
佐藤愛美の物語
32/42

第32話 アナタは私の全てだった

「・・・大丈夫かな~」



カラオケ店の外で嘆くふみ。


「大丈夫大丈夫!なるべく綺麗にしておいたから!」


かといって顔を覚えられていたら出禁になりそうな状態だったが。



「会えるのって、明日が最後?」


駅前、人影まばらな改札横で別れる直前、これからのことを聞いてしまう。


「そうだね・・・」


「そっか・・・、明日も会えないかな?」


「いいよ!けどさ・・・、ごめん、どうしようかな・・・」


なにやら真剣に悩んでる様子のふみ。その原因は理解わかっていた。



「紗耶香さんに―――会いたいんでしょ??」



核心を突かれたようにビクリと震えるふみ。その表情は曇り気味だ。



「うん、やっぱさ、ケジメはつけないといけなきゃって思ってるんだ」


「そうだね間接的とはいえ、アタシが紗耶香さんに虐められた原因」


「ふみにもあると思うから」


「えっ、なにそれ、どういうこと?!」


ふみがアタシに詰め寄ってくる。


「どうもこうも、去年の秋頃から紗耶香・・姉に高校受験の家庭教師やって

もらってて、アタシあの人のこと好きになってさ、告白しようとした」


「それである日ね、勇気をもって好きだってそれとなく伝えてみたの」


「そしたら」


固唾を飲んで神妙な面持ちで話を聞いてくれるふみ。


アタシは彼女の耳元でこう囁いてあげた。



「紗耶香姉、アタシのこと無理矢理してきたんだよ。強引にね」



「えっ」



とても信じられなさそうな顔のふみにまだ続ける。


「それから授業の度に一方的に玩具にされて」


「ある時なんか神社の裏とか公園のトイレでやった」


「紗耶香姉が満足するまで何度も何度も!身勝手だよねぇ・・・」


「ビックリしたよ、そんなことする人には思えなかったから」


「それにあの手慣れた感じ、絶対にヒドイ別れ方をした人がいると思った」


「んでね、耐えたんだよアタシ?偉いでしょ?高校受験もうまくいった」


「合格発表の日、見に来てくれた紗耶香姉に告白したんだ、そしたらね」



「もうやめてよ」



『アンタのこと大っ嫌いだからイジメてたのに、なんで好きになったんだ』



「お願い愛美」



『必死に嫌われようとしてたのに、幸せそうなアンタが煩わしくてやったのに』



「紗耶香がそんなこと!」



『アンタはアタシに相応しくないから、もう関わらないでちょうだいって』



ここまで言って、彼女は泣いていた。



「ごめんねふみ、泣かせるつもりなんてなかったの」


「きっと失恋のショックでムシャクシャしてたんだろうねぇ」


「でもね、アナタが会いたがってる人間の本性はそんなもんなんだ」


「アタシも紗耶香姉が好きだったから気付けなかったの。悪い人なんだよ」


「だからふみも会いに行くのなら、これだけは忘れないでね?」



「彼女がアタシにしたことを」



「大丈夫、アタシはもう紗耶香姉にも怒ってないし」


「元凶かもしれないふみにも怒ってないよ、寧ろ大好きになれた」


「だからさ、もし紗耶香姉に会ってダメだった時は」


「アタシに甘えていいからね?アタシはふみのこと大好きだから」


「ほら、こないだ一緒に乗り越えようって言ったじゃん?」



愛美から告げられた現実と心の中の須藤紗耶香が歪んでいき、



少しづつ、綻びを帯びていく。



「そうだ!もう今会っちゃおうよ!」


「それはっ」


「心の準備ができてない?大丈夫だよ、アタシがついてる」

「アタシがふみのこと守って、受け止めてあげるから」

「どんな結果になってもいいように、アタシもついてく」


「っ・・・そうだね、明日出かけてるかもしれないし」


「よし、じゃあ遅くなる前にちゃっちゃと行っちゃおう!」




愛美の安心する手に握られた私の手は、震えていた。








「渡したい物があった?」


件の彼女の家の前で、ふみは恥ずかしそうにしている。


「うん、海外で書き溜めた日記とさ、あと誕生日プレゼントなんだけど」


「プレゼントの方はね、実はまだ選んでないんだ・・・」


「だからもし愛美がよければ、一緒に見て選んでくれないかな?」


「明日紗耶香姉と行けばいいんじゃないかな?」


「あっ、そっか、それもそうだ」


彼女はもうだいぶ疲れているのだろ、頭が回転してない気がする。


こんな調子で紗耶香に会うなど大丈夫なのだろうか?



「まずは、アタシがインターホン鳴らそうか?」


扉の前で作戦を立てる。


「後は会話の流れ聞いて、出て来てね」


「うんわかった。あのさ愛美!」


「ん?」


「アタシ、愛美と出会えてよかったよ!本当に心からそう思う!」


「ははっ、改めて言われると照れるなぁ・・・それじゃあ鳴らすね」




か細い指が、呼び鈴を押した。







(・・・・・・)


(・・・さてさて、どうしたものか)


(このまま二人の仲を取り持ってハッピーエンドにしてあげようかな)


(それともアタシと『冴島史夏』のこれまでのことを暴露して)


(滅茶苦茶にしてやるのも悪くないかな)


(なんて、今後のアタシのリアルがヤバくなりそうだからアレだけど)



「兄貴、さえじまふみかって子知ってる?」


「あん?なんだよいきなり・・・あー聞いたことあるなぁ」


「そうだよねぇ!この辺りじゃなくて、別の学校の子と水泳教室で会った時」

「なんかの話題で耳にした気がするんだよねぇ・・・」


「おいお前たち、何時だと思ってるんだ、もう寝なさい」


「へいへい」  「はーい」


「・・・親父、『さえじまふみか』って名前聞いたことあるか?」


「あのさ兄貴、お父さんがそんなこと―――」



「ああ、その子な、噂程度しか知らんが」



「えっ、知ってるの?」


「なんだ愛美、お前その子と知り合いなのか??」


「いやそうじゃないけどさ・・・なんか気になって・・・」


「そうか。まぁ他人事じゃないかもしれんし、少し話してやるか」


「「??」」





「うわぁ、エグイなそりゃ」


「ともかく、この件はこの辺りの学校でも触れたくない事案なんだよ」


「一応冴島さんの家の面子と、被害者に父兄や学校関係者もいたからな」


「とんでもない悪女だなそいつは・・・」


「子供だったからな。もう彼女も高校生だろうし、そういうことはないだろうが」


「お前らもくれぐれも必要以上のことをして、人様に迷惑を掛けるなよ」


「分かってるよ。ふわぁ~あ、もう寝るかな、おい愛美、行くぞ」


「あ、うん・・・」





「ごめんね、こんな時間に」


扉を開けてくれたのは紗耶香だった。


「いえ、構わないわ。それよりどうしたのいきなり?」


「んーちょっとね、それより紗耶香姉のお母さんは?」


「今日も外泊よ、夏休みだっていうのに可哀想よね」


「紗耶香姉も受験勉強でしょ?」


「んまそうね、来週の海がいい息抜きになるぐらいには」


「そっか、それより冴姫さんとは上手くいってるの?」


「ええまぁ・・・ねぇ、立ち話もなんだし、あがりなさいよ」


(あっ!待って!)


物陰に隠れる史夏は焦ってしまう。


「いやさそれよりも・・・」


チラリと史夏に目線を送る愛美。



「紗耶香姉が一番会いたい人に、会わせてあげようか?」



「それは・・・どう意味かしら?」



(・・・なんだか紗耶香と誰かがやりとりをしてて)


(陰からアタシが飛び出して、彼女の目の前に現れるってのはさ)



「ほらほら!今がチャンスだよ~」



(今度はまた違うシチュエーションなんだけど、覚えがあるよね)




階段から紗耶香の前に弱々しく現れたのは、




夢じゃない。




幻覚でも虚像でも偽物でもない、紛れもない。





「ふ、史夏・・・?」





「―――ただいま」





紛れもなく追い続けた初恋の少女だった。







「・・・どういうことかちゃんと説明してもらえるかしら?」



リビングに案内され、テーブルの椅子に座る三人。


「それじゃアタシはこれで」


「ダメ、愛美もいて。いっぱい聞きたいことがあるんだから」


立ち上がろうとするが、すぐさま着席を促される。


「えーっとさ、まず最初に、ホントにゴメンナサイ・・・」


あの日のことを謝る。


「・・・―――そうね、アナタは謝るべきだわ」


「ごめん・・・」


「どうして日本にいるの?外国にいるんじゃなかったの?」


「アタシも今夏休みでさ、どうしても紗耶香に会いたくて来ちゃったんだ」

「でも怖くて、嫌われてるんじゃないかって不安になって」

「なんとなく億劫になって、顔合わせられずにいた」


「アタシはっ!!史夏を嫌いになんてなれるわけないじゃないっ!!」


「ごっ、ごめんなさい・・・」


「んでね、紗耶香の家の前にいたとき、愛美に会ったんだ」


「?、どうしてそこが繋がるのか分からないのだけれど・・・」


「アタシが史夏に話しかけたんだよ。だって朝方にさ、一人でいたんだよ?」

「この家の前でボーっと立ち尽くしてさ。ただ事じゃないと思って」


「そんなことしてたのね」



「史夏は・・・私に会って、どうしようと思ったの?」



「―――ただ顔を見れるだけで、元気そうな紗耶香を確認したかった」


「それだけだよ」



「私はね、アナタと別れてからずっとまた前みたいに心を閉ざしていた」


「でも色々あって新しい後輩が友達になって、少しづつ変わっていった」


「愛美とも・・・その、仲良くなって・・・ね」


「・・・」



「でもね史夏、もう遅い、遅すぎたのよ」



「私はもう、アナタの須藤紗耶香じゃない」



「ごめんなさい、私今は冴姫と―――!」



「知ってる、愛美から聞いたんだ」



「それじゃあ言いたいことは理解わかるでしょ?」



「もう、どうすればいいのか」



「冴姫のことは本当に大好きで愛してるわ!でもいつまでもアナタが!」




「アタシの頭の中から出て行ってくれないの!!」




「こんなに忘れようとしても!!会えない触れないことを苦しんでも!!」




「冴姫を深く愛して上塗りしようにも!!」




「いつもアナタのことを想い続けてしまってるのよ・・・」




「それなのにまたアナタは無責任に!私の前に現れた!!」


「どうして?!なんで?!冴姫と別れようとさせてるの?!」


「またあっちに帰るんでしょう?帰国の目処もついてないんでしょう??」


「声も聞けない日々が続くって知ってて・・・会いに来たの?」


「・・・それは・・・そうだよね、馬鹿だよねアタシは」



(なんでこうもっと素直に生きられないのかねぇ、この人達は)


(別にさ、遠距離恋愛でもよかったじゃん、なんで別れたんだろ)



「二人はさ、というか史夏はなんで紗耶香姉と別れようと思ったの?」



「話せば長くなるんだけど、大体アタシの所為なんだ」


「―――そうね、そうだったわね、アナタは最低の行いをしていた」


「っ・・・」


「でもそれがなに?私はそんなことあの時!もう気にしていなかった!」


「アナタが誰かに後ろ指さされるのも気にしないと誓えた!史夏と一緒なら!」


「転校がなによ!?そんなの私達二人の前には障害にもならないじゃない!!」


「なのに私の周りで話が勝手に進められてて、気づいたらアナタは私を避けて!」


「絶望という置き土産だけを残して去ってしまった!残された私の気持ちは!?」



「紗耶香姉、ちょっと落ち着いてよ」


「あっ―――ごめんなさい、取り乱してしまって」


「それも本当にごめん。でもあの時はそれしか道がないと思ってた」


「勝手な自己満足、自己犠牲に紗耶香を巻き込んでたんだよね、ごめんなさい」



「・・・・・・」  「・・・・・・」



気まずい沈黙―――。


部外者の愛美からしてみれば痴話喧嘩に巻き込まれる身にもなって欲しい。



「んでじゃあ本題だけど、これからどうするの?」


「・・・分かんない」


「そうね、史夏が私の前から消えるのなら、今日この瞬間なんて意味ないわ」


「紗耶香姉、言い方。史夏だって辛かったんだからさ、仲良くしようよ」


「アナタはなにも知らないと思うけど!私達の関係は複雑なのよ?!」



「アタシにあんなことしておいてよくそんな風に言えますよね」



「やめてよ!元はといえばアタシが―――」





会議は踊る、されど進まず。





「史夏、明後日が帰国なんだってさ、だから明日二人で遊んできなよ」


この膠着とした状況を見かねた愛美が助言をする。


「いや、寧ろ遊びなさい、後悔先に立たずっていうでしょ?」

「アタシはあの日、想い人にフラれなかったらこうして史夏と出会えてなかった」

「フラれた時は後悔しまくったけど、結果的にはよかったと思ってる」


「二人も多分そうだから、久々のデートでもしてきなよ」


「簡単に言ってくれるけどねぇ」


「アタシは―――紗耶香がいいのなら行きたいな」


「冴姫にはなんて言えばいいわけ?」


「会う予定があるの?なら断って史夏とのランデブー優先で」


「ハァ・・・そこまでいうならしょうがないわ」


遂に観念した紗耶香は史夏に向き直り、明日の約束を取り付ける。



「明日、12時ピッタリに駅前集合。遅れたら帰るから」



「さ、紗耶香様・・・!」


「ちょっと、こんなところで泣かれても困るんだから」

「今日はもう帰って頂戴ね」





「愛美」


玄関口で呼び止められる。


「今日はその・・・ありがとうね、あの子のこと含めて」


疲れた顔も相変わらず美人な先輩が柄にもなく謝辞を述べてくれた。


「まだ、やっぱりあの時のこと怒ってる?」


先程の蒸し返しの件、不安にさせてしまっただろうか?


「ううん、怒ってないよ。史夏の前であんなこと言ってごめんね」


「そう・・・それならよかったのだけれど・・・」


紗耶香は安心したようで、「じゃ」と別れの挨拶をすませ家を出る。



「またこんな時間に帰ると、お母さんに怒られちゃうな」


星空を見上げる背中に声をかける。


「愛美」


「んー?」


「愛美には感謝してもしきれないくらいだよ」


「いやいや、それ程でも」



「だからさ」



「今日の―――、さっきのことも秘密にしてくれると嬉しいな」


「・・・分かってますよー」


「それとね」


「まだなにかあるの?」



振り返った笑顔が、あまりにも悲壮感に満ち溢れていたから―――。



「アタシのこと、好きになっちゃだめだよ?」



「・・・それはどう意」

と聞き終える前に帰るべき場所へと足を進めて去って行った。





「―――なにそれ、意味わかんないんですけど」





あんな顔を見せられてしまっては、約束を守るしかなくなってしまった。





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