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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
佐藤愛美の物語
30/42

第30話 砂時計の中の日常

「いやーたっぷり汗かいた後はこれに限るね!」



愛美が一気飲みしているのはコーヒー牛乳などではなく、

オ〇ナミンCとポ〇リを混ぜ合わせた飲料、所謂オロポカという飲み物だ。


「んっ!?」


彼女に薦められ私もジョッキの液体に口をつけると、

得も謂われぬ刺激とクドすぎない甘さの喉越しに我を忘れて飲み干す。


「ぶっはぁーーー!!!」


思わず感嘆の溜息を漏らしてしまう程の格別なひととき。


「お、いい飲みっぷりだねぇ」


もう既にジョッキを空にした愛美が笑いかけてくる。


「いやいやこの飲み物、初めて飲んだけど美味しいね!癖になりそう!」


「それはよかった、まぁサウナの後の楽しみだよね、こういうのは」


言われてみれば確かに、この状態で飲むからこそ美味しく感じられるのだろう。


「この後も水分補給はこまめにね」


扇風機のついた飲食スペースは静かで、他には新聞を読んで黙々と定食を食べる

中年の男性や昼間からアルコールを飲んでいる若い男性など、

様々な人種の人間模様が見られるのもなんだか新鮮で面白い。



「愛美はこういう所、よく来るの?」


「んー?まあ同世代の子よりかは多いかな?」


気恥ずかしそうに頬を指で掻く仕草をするボーイッシュな少女は、

ハッキリ言ってこの場には似つかわしくない。


ただなんとなくこの少女はこれからもこういう生き方を嗜むんだろうなという

確信に近い予感がした。


(そういえばお兄ちゃんもお父さんもこういう所好きだって言ってたな)


可愛い見た目とは裏腹に、趣味とか趣向が男性的なんだろうなと思う。





「さて、これからどうしよっか?」


愛美はうんと体を伸ばして私に尋ねてくる。


「ふみがしたいこと、なんでも付き合うよ」


紗耶香とはまた違う、どちらかというと秋といるよな、そんな雰囲気を纏う愛美。



「愛美ってさ・・・、普通にカッコいいよね」


「え?」


突然の褒められに驚いたように目を開く愛美。


「あっ、変な意味じゃなくってさ」



「アタシ、愛美といると楽しいよってことを伝えたかっただけ」



彼女は少し無言になった後、なにかを理解したかのようにフッと目を伏せる。



「そう言ってもらえるのは初めてかな!なんかくすぐったいね!」



(あれ・・・)



その笑顔は、今日イチともいえるハニカミで、心の底から湧き出たような、

とにかく自分を偽ってない年相応の輝きを垣間見ることが出来た。



(なんか・・・、やっぱり愛美って結構可愛いと思うんだよね)



「愛美はさ・・・なんで・・・」



言っててこの先の言葉選びは慎重にしなければと本音を喉奥に押し込めた。


「え?何か言った?」


不思議そうに私の言葉に反応する愛美、当然ながら「何でもない」と答える。




(なんで男を選ばないの?)




彼女にとってこの疑問が地雷になりうるだろう。





「この近くにさ、動物園なかったっけ?」


古き良き街並みを保つこの繁華街の喧騒を感じさせない場所に、

都会のオアシスとも呼べる格安の動物園があった。


「ここ来たの、小学生以来だな~」


蕎麦屋で軽い昼食をすませたアタシ達はふみの鶴の一声でこの場所に来ていた。


相も変わらず日差しが照り付けてきて、噎せ返るような獣臭に息が詰まる。



「ごめんね、行先間違ったかな」


夏休み中ということもあり園内は結構な混雑で人が多く、尚更熱気が凄い。


「いやいや、全然大丈夫だよ」


しかし入園すると、なんだかんだでワクワクしてきた。



「なに見よっか?」


パンフレットを広げてくれるふみの横に立ち、園内を見渡してみる。


「まずはやっぱり・・・」





「いつまで見てても飽きないね~」



一通り人気の動物たちを観察した後、私はここに戻ってきた。


「ていって大分ここにいるよね」


隣に立つ愛美は少し疲れたようにプレーリードッグの奇行を眺めて呟く。


結局アタシが愛美を引っ張り連れまわす形となってしまった。


「ごめんごめん、でもこの子達可愛くない!?」


目を輝かせて小動物を愛でている純粋な少女の前では何も言えなくなる。


「うん、アタシも好きだよ、あの一人ぼっちの子とか」


愛美が指さす方にいる個体は、どうやら群れと仲良くできていないのか寂しそう。


そんなふてぶてしい顔つきの憎めないカレ?に自分を重ね合わせてしまう二人。


別にお互い友達がいないとかそういう訳じゃないが、本心では孤独を感じていた。


こうやって二人が遊んでいるのも、

孤独な者同士での傷の舐め合いでしかないのかもしれない。


「・・・」 「・・・」


ある子は抱き合ったり巣穴に潜ったり、ある子は喧嘩したりエサを食べていたり、

その中でのはぐれものの気持ちはどんなものなのだろうか?


(なんて、動物も寂しさを感じるのかな?)



外国に住み始めて早一年―――。


人付き合いは良好だと思うし最近はアルバイトも始めた。


学校の皆は優しく話しかけてくれるし、勉強だって頑張れてる。

放課後は日本の文化が好きな女の子が寄り道に誘ってくれるし、

年末年始やクリスマスは友達の家に集まって楽しく過ごせた。



(それでも―――)



やっぱりあの人が恋しくて、皆との輪にどこか疎外感を感じてしまう自分がいた。



(結局向こうで恋人を見つけることなんて出来なかったし)



「ハァ―――・・・」



「ふみ?」



大きな溜息は当然のことながら、隣の愛美にも伝わってしまった。


「疲れた?どこかでやすもっか?」


心配そうに顔を覗かせながら優しく接してくれる。


「ううん、大丈夫だよ!ちょっと向こうのこと思い出しちゃってさ」


「そっか、後3日ぐらいだもんね、ここいられるの・・・」


「うん、まぁね・・・」


夏休みはまだまだあるが、こちらにいられる期間は決まっていた。


「でもね」


「ん?」


湿っぽい顔をさせてしまった愛美に申し訳なさを感じつつも、

自分の素直な気持ちを伝える。


「こうして今日さ、愛美と一緒に遊べたこと、絶対忘れないから」


なんてちょっとキザなセリフを言ってしまう。



「あっ」


目で追い続けていたはぐれ個体の傍に一匹のメス?が近づいてきた。


その二匹はなんと抱き合ってキスしている。


「見て愛美!あの二匹チューしてるんだけど!?超可愛くない??!!」


余りの愛らしさに思わず興奮してしまい、

このテンションの高まりを隣の愛美に伝えようと横を向くと、



「えっ!?」



とこちらを見ていた顔を慌てて背けてしまった。



「えーとキスしてるプレーリードッグだよね!あーあれか!はいはい!」



わざとらしく探すその仕草にある考えが脳裏に浮かぶ。



笑って誤魔化してはいるが、多分直前までずっと私の顔を見てたんだろう。



(・・・駄目だよ愛美、だってアタシは―――)



残りの短い日数で、彼女と私の関係性がどう動いていくのか?


それはまだ誰も、神でさえも知る由はなかった。





「もう夜か~」


「そうだね、ごはんこの近くで食べる?」


暑さがちょっとだけ引いてきた斜陽の黄昏時、街は未だ賑っていて、

でもなんだかこの騒がしさがちょっぴりと寂しく感じてしまうのは、

ふみがアタシの前から消え去ってしまっているからであろうか?



(やだなぁ)



「おーい!」


年の差を感じさせない先輩がアタシの耳に呼びかける。


「ひんっ!?」


突然の彼女の声がアタシの頭の中に響き渡りビックリしてしまった。


「ごはん!お腹空いたからどこかで食べようよ!」


「あ、そうだね、どこいこっか?」


「うーん・・・、立ち食い寿司とか??」


おおよそ女子高校生が行きたいと願う場所ではないだろうが、それに付き従う。



「やっぱり寿司は立ち食いで食べるのが粋だよね」


なんて言いながら向かった先は旧市場に近い『穴場』らしい。


「歩き疲れてお腹ペコペコだ~」


お店に入ると時間も時間なのでそこそこの人が立っていて、

皆静かに寿司をつまんでいる。


「こちらへどうぞ」


案内されたカウンターで渡されたおしぼりで顔を拭き、手を拭いていると

ふみが怪訝な顔でこちらを見ていた。


「仕草がオジサンっぽい」


「え?そうかな?」


汗をかいていたのだから仕方ないと言いたいが成程、

こういう細かい仕草が男クサいというか。



それから見た目の印象とは違いお淑やかに寿司を食べるふみと、

男子高校生のような旺盛な食欲で自分の好きなネタだけをかきこんだアタシ。



「美味しかったね」


「うん、思ってた以上に」


大分暗くなってきた夜空を後に地下鉄に乗り込み、家を目指すアタシ達。


「・・・・・・」 「・・・・・・」


車内で隣り合って座るが、疲れと満腹感から眠気に襲われる。



「あっ・・・」



目覚めた時には駅に着いてしまっていた。



「家まで送ってくよ」


「そんな、悪いよ」


「いいってば」


駅からの帰り道、なんとなく二人は話すことがなかった。


今日の思い出だとかなにか話せばいいのに、なにもでてこなくて、、

踏みしめる一歩一歩が切なさに変わっていく。


「明日、泳ぎに行きたいな」


「えっ」


歩幅を合わせて歩いてくれる彼女がそんなことを言っている。


「いいの?準備とかあるんじゃない?」


「すぐ終わるし大丈夫だよ、それに―――」


「明日ぐらいもうちょっと遠くに行きたいんだ」


「そっか、じゃあどうしよっか」


「んー、海かなぁ」


「どこかあてがあるの?」


「うん、朝早いけどいいかな?」


「頑張るよ」


とはいえ車内で少し寝てしまったから、まだ眠くない。



「あのさぁ・・・、まだ一緒にいたいな」


体を彼女に寄り添わせて、感触を確かめる。


「・・・いいよ」


(やった)





思った以上に彼女と過ごすのは居心地がよかった。



(多分アタシと似ているんだろうな)


自分と似たタイプの人間といるのは気分が楽になる。


思考や悩みが手に取るようにわかるから?それは傲慢すぎるか。



近所のファミレスで向かい合って座るアタシとふみ。


彼女は何故だか周りを気にしているようだった。


「どしたの?」


「ん?懐かしいなと思って」


「?、ファミレスに来るのが?」


「うん。昔さ、このお店じゃないんだけど、別のお店で友達に酷いことしたんだ」


「あら、聞いてもいい?」


大きな胸をテーブルに乗せ前のめりになりながら小声で話してくれた。



「アタシさ、紗耶香のことが好きな子の前で、紗耶香にキスしたんだよね」


眉間にしわを寄せながらつい先日の出来事のように喋りだすふみ。


「へっ、へぇ・・・それでどうなったの?」


「ふふっ、すっごい大変なことになった!」


ちゃんちゃら可笑しそうに話すが被害者からすれば最低な経験であったろう。


「ホントあの時は濃い毎日送ってたなって」


昔話を慈しむように語るふみにちょっと嫉妬してしまう。


「ふーん、それでそれで?」


空のコップに突き立てられたストローの先端を噛みながら続けさせる。


「それで彼女が怒ってさ、アタシと紗耶香の関係を秘密にさせる代わりに」


「肉体だけの関係を要求してそういう行為を求めた、ある意味浮気?」


「え”っ」


思わず咽てしまった。


「馬鹿みたいだよね、因果応報っていうのかな」


遠い目をグラスに落とし、彼女もまたストローに口をつける。



「んで結局紗耶香が頑張ってその関係を止めさせたんだけど」


「まぁ色々ショッキングではあったよね」


「でしょうね」


「その後その子に彼氏―――、彼女ができて」

「アタシもその子とは仲良くできたんだけど」

「皆、元気にしてるかなって思ってさ」


氷をからんからんと混ぜて、それを眺めるアタシとふみ。


「それ、高校の同級生?」


「うん、都築彩って子なんだけど・・・」


「あー・・・」


「知ってるの?!」


「まぁね、悩んでるアタシにアドバイスくれたから。多分その彼女も」


「そうなんだ、元気そうだった?」


「うん、ラブラブそうだったよ」


「そっか」


「紗耶香さんと冴姫さんについても聞きたい?」


「それはいいですー」



だらだらと流れる時間―――。



「最初ふみを見かけた時さ」


「・・・」


「ビックリさせちゃったでしょ?」


「まあね」


「なんかさー、あの時のメンタルといい状況といい」

「誰かに助けてもらいたかったのかもしれないんだよね、多分」

「後は興味本位で」


「でさ、話す内にさ、なんだろうね、安心できた」



「アタシもなんとなく他人事の気しなかったし、楽しかったよ」

「話しかけてくれてれてありがとね、寂しさとか吹き飛んだ」


「そっか、それならよかった、ナンパ目的とか思われてなくて」


「別に思わないよ、女の子同士だったし」


「ふみはさ、アタシのタイプの人じゃないと思ってたんだよね」


「アタシ紗耶香さんとか冴姫さんだとか、どっちかというとあーいうほう?」


「真面目でお淑やかな大和撫子系が好きでさ、ふみは―――」


「アタシみたいなイカニモ遊んでそうな子は苦手なんだ?」


「んまぁそう・・かな、どっちかっていうとウチの兄貴とか」

「アタシもそういう系統だからかな」


「そうかな?愛美はそんな風に見えないけど」


「それでね!それでこうして一緒にいられるの嬉しいし楽しいし」


「・・・」



「離れたくないなーって思っちゃうワケよ」



「―――アタシもそうだよ、せっかく友達になれたのに勿体ないよねー」


「・・・そうだよね、友達になれたのにね」


「ふみが帰ってから、アタシどうすればいいかな」


「どうだろうね、そのままでいればいいんじゃない?」


「そのまま・・・ね」


「まあでもさ、無理して新しい恋探す必要はないじゃん」

「だってアタシ達まだ高校生なんだしさ・・・うん、まだ若すぎると思う」


「でもさー、恋したいし愛されたいよ~」



他愛ない会話でも秒針は絶えず進み続ける。



「じゃあまた明日ね」


「うん、駅前で待ち合わせで」


そんなことを最後に話して別れた。


(・・・・・・)


明日はどんな一日が待っているのだろうか?





そんな気持ちがお互いに実はリンクしていて、ワクワクして寝坊してしまうのは

また別のお話。





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