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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
氷の女神と冴島史夏
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第3話 遊園地のシンデレラ

「どこか出かけるの?」

「うん。こないだの子とちょっとね」

「そう、楽しむのもいいけど、あんまり無駄遣いしないようにね」

「分かってるわよ」

「紗耶香も来年は受験生なんだし、忙しくなるわよ」


「そうだ、近所の愛美マナミちゃんの家庭教師でもしたら?」

「愛美の?」

「来年高校受験だから!アルバイト代も貰えると思うし!」

「土曜日なら部活も早く終わるでしょ?」

「まぁ気が向いたらね」


「お母さん、この感じどうかしら?」

「うーん、もう少し明るい色の方がいいかな、あでもこの柄も・・・」

「いいわよそんなにこだわらなくても」

「ダメよ、アンタいつも適当に選ぶじゃない」

「たまには服にこだわりなさい!絶対相手も喜ぶから!」

「そういうものかしら?」


服選びは苦手だ。


普段は制服か運動着しか着ないし、他の子と出かける時もこだわったりしない。

服は母の選んだものだし、自分で好んで着るブランドもない。


「うんうん!いいんじゃない?!」


クリームのスキニーパンツに黒のセーター、靴はパンプスで春を感じさせる。


「大人っぽくて素敵!まだ寒いからコートとマフラーもね」

「はいはい、それじゃ私そろそろ行くから」


「夕飯は友達と食べる?」

「多分そうするかも」

「わかった!じゃあ楽しんできなさいね!」

「うん」


久しぶりの遊園地、私は内心ウキウキで家を出た。





「おまたせ~、待たせちゃった?!」

「ううん、今来たところよ」

本当は15分前に来ていたが、そんな無粋なことは言わない。


今日来た遊園地は都心に近く、休日ということもあり、かなり賑わっている。


「うへー、結構混んでるね~」


「そうね、でも待ち時間も遊園地の醍醐味ですし」


「今日は一日遊びましょう!」



「ふふっ」

「?、なによ?」

「なんだか今日の紗耶香、かわいいね!」

「そう?いつも通りだけど?」


学外で制服以外の史夏を見るのは初めてかもしれない。


私とは対照的に黒のタイツにデニムのショートパンツ、

パーカーの上にジャケット、エナメルのブーツが大人っぽさを演出している。


「史夏の私服も自分に似合うコーディネイトで素敵だわ」


首にかかっているシルバーの星型ペンダントを手に取る。


「このネックレスも素敵ね、どこで買ったの?」


「えっ、あっ」

「あっ、いきなりごめんなさいね!」


流石にこの場でいつもの距離感は近すぎただろうか?


「ううん!こっちこそ!なんかドキッとしちゃっただけ!」

「なら今度買い物も行かないとね!」


「私普段人と買い物に行かないから、よろしくお願いね」


チケットを買い、遊園地に入場する。制服で楽しんでいるグループも多い。


「まずどこから行く!?」

史夏は目を輝かせ、パンフレットとこちらの顔を交互に見る。


「最初からジェットコースターにしましょう!」

「お!紗耶香イケるクチだね、そうと決まれば早く並ぼ!」

「あっ、ちょっと!」



彼女に引っ張られ、自然と手が繋がる。



(私達、今他人の目にどう映っているのかしら?)



なんとなくそんなことを考えてしまう。



(まぁでも)




導いてくれる彼女の笑顔がとっても印象に残って。




今日という日を改めて楽しもうと思う紗耶香だった。





「いやー、アタシすごい顔してるねぇ~」

げんなりしてる史夏はディスプレイを見て苦笑いしている。


「ほんとすごい顔ね」

私はその顔がツボにハマり、ククッと笑ってしまう。


「いやアレ結構すごかったし!紗耶香は楽しんだ顔してるね~」


電光掲示板に映し出された自分の顔に珍しさを覚える。



その笑顔はどのエガオ?



冴姫サキに言われたことを思い出す。


(史夏と一緒に過ごして、楽しいか考えるね・・・)


あくまで今感じているのは、友達と一緒にいての楽しさだと思う。

その気持ちに変化が現れるのは、もう少し一緒にいないと分からないのだろうか。


「次はあそこに行こ―!」

子供の様にはしゃぐ史夏の横顔を見て、私は少しだけ不安を感じた。



「結構アトラクション乗れたね!」


時刻はお昼時より少し後、一段落ついた私達は施設内のテーブルで話していた。


「それにしても、紗耶香も意外とマンガ好きだよね」


自分達の趣味の話や、学校の話題を待ち時間に話していたが、

史夏も同じジャンルの漫画を読むらしい。


「家にいることが多かったし、勉強の為にもね?」

「アタシもまぁ勉強の為というか憧れというか」

「白馬の王子様的な主人公に憧れちゃってさ~」

「そういう人がいればいいわね」


史夏は不思議そうな顔をする。


「そういう漫画でトキメキ感じたりしないの?」

「羨ましいとは思うけど、実際そんな都合のいい男なんていないじゃない?」

「えー、そんことないって!世界のどこかにはいるかもよ?」

「少なくとも私の前にはいないわね」


少ししょんぼりとした顔の史夏は、

何かを思い出したかのようにバッグから箱を取り出す。



「アタシさ、お弁当作ってきたんだけど、一緒に食べない?」


袋から取り出された弁当の中には、ウィンナーや厚焼き玉子、プチトマトや

ミニサンドイッチなど、外でも食べやすい品目が揃っていた。


その善意を見て少し固まってしまう。


「あっ、もしかして嫌だったかな?」

「いえ、ただ誰かの手作りって、あまり食べたことなかったからつい」


別に潔癖というわけではないが、なんとなく他人が調理したものに緊張感を覚える。



「そっか、もしアレなら売店で何か食べる?」


彼女の気まずそうな顔が、私の心にズキリとキズをつける。


「せっかくアナタが作ってきたのだし、いただくわ」

「そう?それならよかった!」


一転、暗い顔がパッと明るくなる。


(わかりやすい子ねホント)


人の好意を無下にするほど、私も愚かではない。


「じゃあこの厚焼き玉子から頂こうかしら?」

私は手を伸ばす、史夏はその様子を緊張して見ている。


「そんなに見つめないでよ・・・いただきます」


パクリ。


咀嚼する姿を真剣な眼差しで観察されるのはかなり恥ずかしい。


ゴクリ。


「どっ、どうかな?」

「うん、普通に美味しいわよ」

「ホント?!じゃあこれも食べてよ!」


色とりどりのオカズを勧められるが、史夏の分がなくなってしまいそうだ。


「ちょっとちょっと、ゆっくり味わわせてよ」

「あっ、ごめんごめん!あ、これ飲み物ね!」

取り出された水筒から緑茶が注がれる。こういう準備の良さは感服する。


「至れり尽くせりね、普段から料理とかするの?」

「えっ?!いやまぁまぁかな!」


照れくさそうにする彼女は、今朝のことを話し始めた。


「いやお弁当作るって言ったらお母さん張り切っちゃってさー!」

「アタシ、普段包丁も持ったことないのに、『料理は愛情』とかいっちゃって!」

「ホント大変だったんだよ~!特にこの玉子焼きなんて・・・」



嬉しそう。



私の為に自分の手料理を振舞うのは友情?それとも愛情?


「あれ?紗耶香?」

「え?」



史夏に指摘されて気付くが、目に一粒の涙が頬を伝っていた。



「やっぱり味変だった?!」


アワアワしている彼女に「違うの」と伝える。


「私今まで誰かにこういったことされたことないから」

「多分初めての経験だからつい嬉しくて」



本当に?今のはうれし涙?



「そっか!よかった~」


安心そうにする史夏。





お昼を済ませた後も、私達は色々なアトラクションを楽しんだ。


史夏は意外と絶叫系が苦手で、

メリーゴーランドやコーヒーカップのようなファンシーな乗り物が好きなようだ。


「じゃあ次はこれね!」


私が指さしたのは、


「えー?お化け屋敷~」


嫌そうに私の腕しっかり捕まる史夏。


「遊園地といったらコレでしょ?」

「まぁ人気なのは間違いないけどさ・・・」

「怖いの?」

その言葉を聞いて背筋がピンとなる。

「全然だけど?!早く行こう!」


そのまま腕を引っ張られ、恐怖の館に入っていく。



「うー、結構雰囲気あるな~」



暗い室内、道なりに進んでいく二人。

舞台は廃病院らしい。


「ちょっと、そんなにひっつかれたら歩きにくいでしょ」

「ごっ、ごめん!だってさ~」


確かにかなり怖い。

今でこそホラー系に耐性はついたほうだが、いきなりこられると変な声も出る。



「うわっ!」「ひゃっ?!」



思わず史夏に抱き着く。


「ぐっ、ぐるしい・・・!」

「あっ、ごめんなさい!」

慌てて離れるが、普段見せない自分を見られるのは恥ずかしい。


「いいよ別に、アタシも怖いし」

「それにビビり紗耶香レアだしさ!」

「自分でもこんなことにびっくりするなんて情けないわ」


「えっ、別にいーんじゃない?弱さを見せるのって悪いこと?」

「それは・・・」

その言葉が妙に引っ掛かる。


「早く先すすも!」

「あっ、そうね」


その後もびっくりどっきりさせられながら、出口を求め前に進み続ける。





「いやー最後のアレはやばかったね!」



夕刻、最後は観覧車に乗ることにした。

沈む夕陽を眺めながら今日の体験を語り合う。


「あれには腰が抜けるかと思ったわ」


少し疲れた笑いで刺激的だった出来事を笑い流すと、

隣に座る史夏が、私の頬に軽くキスをする。


「っ、なによいきなり」


「いやー、紗耶香ってもっと自分を出さなかったり」


「あんまり素を出さない人だと思ってたから」


「なんか今日一日で色んな紗耶香のこと知れたってゆーかさ」


遠い目で観覧車の外の景色を見つめながら黄昏ている史夏。


「最初のイメージと、付き合ってみて結構変わったかも」


改めてこちらに向き直り、


「今日楽しかった?」


と問われる。



「そうね、初めてだらけだったけど、楽しかったと思うわ」



「そっか、よかった」



史夏は私から見えないよう、右手で何かを弄っている。



「ねぇ、今日でちょっと、アタシのこと『好き』になってくれた?」



期待の眼差し。



それは本心なのかそれとも―――。



今までのことを思い返す。



彼女フミカが私にしてくれたこと、その心情。



私は史夏のことを彼女だとは思っていなかった。ただ付き合っている人。

確かにそれを一般的には『彼女』というのだろうが、

心が伴っていないカップルは少なくとも友達以上恋人未満になるであろう。



私にとって史夏は『今も』そんな存在。



目を閉じ、心の中の『冴姫サキ』の質問に答える。



楽しかったですか?

楽しかったわよ。でも『普通』に楽しかっただけ。


アナタの彼女フミカに対する気持ちの変化は?

特に変わらないわ。お弁当や気の使い方は嬉しかったけど、それぐらい。


彼女フミカのこと、どれだけ知れましたか?

家族構成、共通の趣味、学友や交友関係の評価、好きなこととか。


もっと『一緒に居たい』と思いましたか?

居てくれれば嬉しいけどいなくても辛くはないわね。

元々一人だったし、友達と遊びに行くこともないから一人は慣れっこ。



『Yes』か『No』で答えてください。


Noね。



そうですか、では最後の質問です。



あなたは史夏さんのこと、好きになれましたか?





「史夏・・・」





観覧車が頂上に上がりきる前に、冷たい心は一つの答えを出す。





須藤紗耶香スドウサヤカは、冴島史夏サエジマフミカのことが好きよ」





夕陽が差す静かな観覧車、二人だけの空間。





時が止まる。





永遠とも思われる静寂の緊張感、史夏の額から汗が零れ落ちる。







(止めなきゃ・・・!)


右手に握られたスマホの録音ボタンを慌てて止めようとする。


言質は取れたのだ。


賞金は私のモノ。しかし・・・。



これで本当にいいのだろうか?



史夏がボタンに手をかけるか迷っている時、紗耶香の言葉は続く。



頂上から下がり始めた観覧車は、建物や他のゴンドラに光が遮られ、

個室内に光の明滅をもたらす。



「ちゃんと今の、録音できてた?」



少し陰りのあるエガオ。

光のせいなのかそれとも、



「えっ、それはどういう」



「あなたの右手のそれのことよ、まぁしっかり言ったから大丈夫でしょ」




「では改めて」




ドクン 心臓の鼓動で が張り裂けそうになる。息が苦しい。




「待って」




その先は言わないでほしいし、聞きたくもない。



今日も今までも楽しかったし、私アナタといるの結構好きだよ。



これからももっと一緒に居たいと思えた、だから・・・。






「史夏さん、私と別れてちょうだい」






ガラスの靴は、粉々に砕けてしまった。





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