第29話 思いがけない邂逅は突然に
「なにからなにまでお世話になりっぱなしになっちゃってごめんね」
愛美の家の前でタクシーから降りる二人、またしてもふみに払ってもらう。
「いいのいいの、ここまで連れまわしちゃったお詫びというかなんというか」
「とにかく!全然気にしないでね!」
「その代わりなんだけどさ・・・」
一転、深刻そうな態度をとる。
「アタシもホントは愛美の両親に謝りたいんだけど、出来ないかも・・・」
「なんで?」
「家にお母さんもお兄さんも・・・、お父さんもいるんでしょ?」
「多分ね」
「愛美はずっとこの辺り住んでるんだもんね?」
「そうだよ」
「実はどうしても深い事情がありまして・・・」
その先はなにやら訳アリのようなので、アタシから断りをいれる。
「大丈夫だよ、もとよりアタシの責任なんだしさ」
「それにふみちゃんと顔合わせたら余計混乱招いちゃいそうだしね」
「ホントごめんなさい・・・」
「ふみちゃんはさ、いつ帰るの?」
「4日後とかだね」
スマホのスケジュールを確認しているのか、目を細めるふみ。
「そしたらその間、アタシと遊んでよ」
自分もスマホを開き、QRを表示させふみに突き付けたが、果たして・・・。
「うーん」
その場で深く考え込んでしまった。そんなに嫌だったであろうか?
「・・・愛美ならいっか、但し絶対アタシのこと紗耶香とかに言わないでね」
厳重な口調で釘を刺されるが、アタシも面倒事は御免だ。
「うん、もちろんだよ」
「それじゃあ改めて」
友達リストに追加されたローマ字並びに違和感を覚える。
「本名、さえじまふみかっていうんだね」
どこかで聞いたことがあるような響きだが、思い出せない。
思い出せないということは大したことではないのだろう。
しかし何気ない指摘にビックリしたのか、焦るふみ。
「あえっと、これからもふみでよろしく!」
アタフタと慌てふためく姿になんとなく察する。
「はいはい、とりあえずふみちゃんがここにいる痕跡はなるべく消したいのね」
「そうだね、まあ紗耶香以外にも爆弾がちらほらありまして」
問題があるような人間にはとても見えないが、人に歴史ありだな。
「それで、ふみちゃんはこれからどうするの?」
「歩いて帰ろうと思うよ」
というのでじゃあと名残惜しいが、サヨナラすることに。
「明日はさ・・・、どうかな?」
少し距離を詰めてみて、彼女の前まで寄ってみると、
「うん、空けておくよ」
と嬉しい返事が聞けた。
「それとさ、普通にふみって呼んで欲しいな。ちゃんづけ恥ずいからさ」
照れくさそうに笑う彼女を見て、やっぱりもうちょっとだけいたいと願うが、
「んじゃまあ、また明日ね」
その言葉が一生の別れの言葉に聞こえてしまい、怖くなった。
「・・・どしたの?」
振り向きざまの手の指先を握る。
咄嗟の反応には行動を起こした本人も驚いてしまうのが常だが、
この時のアタシの心は至って冷静であった。
「・・・あのさ」
「?」
勇気と無謀が違うということを学習したアタシは、
喉奥の言語化された感情を口に出せずにいた。
あんなに焦らされて誘われて、このまま何もしないで帰したくない。
しかし―――。
「―――いーよ、ちょっと多すぎかもしれないけど、今日のお礼ってことで」
それに意識が向いた時には、甘酸っぱい青春が弾けていた。
「・・・・・・また明日ね」
恥ずかしそうに赤面しながら口全体を手で隠すふみ。
そこから本当に直ぐ帰ってしまった、余韻も別れも惜しむ暇もなく。
「―――ッッ!!」
ハッとした時には、唇に残る感触だけがただただ脳内に染み渡っていた。
「・・・ただいま」
もう12時前になる自宅の玄関ドアのすりガラスから漏れる明かりに
愛美の心中は穏やかではなく、これから起こる惨劇に陰鬱としていた。
「愛美!?愛美なの?!!」
年季の入ったドアの鈍い開閉音に対し、たまらず駆け寄ってくる母親。
どこかに待機してたんじゃないかってくらい早かった。
「えーと、ホントごめんなさい、連絡も殆どなしに」
激しい叱責を覚悟していたが、愛美の予想はいい意味で裏切られた。
「いいのよ!辛かったわよね!お母さんも経験あったから、無事でよかった!」
少し背の高い母親に強く抱き締められる。
イマイチ状況が飲み込めないが、続けて言われた話で納得した。
「康から聞いたわ、告白してフラれたんですってね」
両肩をガッチリ掴まれ、両目を離せないほどに合わせられる。
(これは・・・)
「お母さんも学生の頃は好きな先輩がいてね」
昔話を半分聞き流しながら助け舟を出してくれた兄にちょっぴり感謝する。
(これは兄貴が適当に話盛ってくれたな)
「ホンドごべんなさいお母さん!!」
突如豹変したように泣きの演技に入る愛美、まだ涙が出るというのか。
「ホントにだいずきなぜんばいだったのに!!」
母親にしがみつくように抱き着き、可哀想なアタシを演出した。
それからは居間にいる父にこっぴどく叱られたが、
色々と勝手に察してくれていたようで、殆どお咎めなしの説教となった。
(外出禁止とか言われたらどうしようかと思ったけど)
時間も遅いので軽くシャワーだけ浴びて、疲れからかどっと疲弊感に襲われた。
「ふー」
出かける前そのままのベッドに飛び込み、枕元のリモコンで冷房を起動させる。
「・・・・・・」
部屋が冷えるまでの間これまでの記憶を整理して、ファイルごとに分別するが、
(なんて簡単にゴミ箱に放り込んで記憶消せるなら苦労しないよ)
ベッドの冷たい部分を求め、何度も寝返りをうってしまう。
「はぁ・・・」
ふみに「今日はありがとう、また明日ね」と連絡して、すぐ寝た。
「なにやってんだろ、アタシ」
街灯に照らされる暑い熱帯夜を横断する史夏、いつものプチ反省会に勤しむ。
「いやいやいや口はやりすぎだったよねぇ、でもさ、仕方なかったんだよ」
誰に見られているわけでもないのに言い訳がましく呟いてしまう。
「大体愛美があんな目でアタシを見るからさ、その気になっちゃうじゃんか」
欠けたコンクリートの小石を前に蹴り上げながら進み、懐かしの母校を過ぎる。
「・・・1年ぶりかぁ」
短い学生生活だったが、私には身に余るほどの幸福な毎日を過ごせていた。
「・・・・・・」
自身の犯した大罪と紗耶香との日常を天秤にかけて、いつも悩んでいた。
罪を憎んで人を憎まず。
「当事者からしたらクソくらえだよね、そんな外野の理論」
史夏は未だにこの地域の同年代や、その両親に顔を見せるのが怖かった。
学区が違うとはいえ人の噂とはいつどこで風に流されているか分からない。
もしかしたら要注意人物として名前だけは広まっているかもしれない。
また以前のように街中で知り合いに会ったらどうしよう?
(結局遺恨だとか恨みつらみは一生残り続けちゃうんだよね)
足が自然と彼女との思い出の軌跡を辿るように、あの神社の前に導かれる。
(思い出したくないんだけど、忘れられない記憶なんだなぁって)
(・・・帰ろ、暑いし喉乾いたし、タクシー拾っちゃおうかな)
といってもこの時間、こんな住宅地にタクシーが通るはずもなく、
やむなく車通りの多い道にでることにした。
(ついでにコンビニ行こうかな)
この辺りの地理を必死に思い出して、ここから一番近い店を目指す。
(あそこならタクシーも通るだろうしね)
時刻は1時前、こんな深夜にも関わらず人の気配がある。
やはり夏休み中だからだろう、夜更かしする人間も増えるというものだ。
コンビニに入ると外の熱気が嘘のように、汗ばんだ体が急速に冷えていく。
(飲み物だけでいいかな・・・、ん?)
ふとスナック類のコーナーに目をやると背の小さい女の子が立っていた。
中学生か高校生かは分からないが、一生懸命夜食を吟味するその姿は愛らしい。
(こんな時間に出歩くなんて不良だな~)
なんて私が言えたことではないが、
海外にいる時は夜に出歩くなんて危険だから、改めて日本の治安の良さに驚く。
「あっ」
幼げな顔つきの少女と目が合ってしまう。
自身が通行の妨げになっているのではないかと勘繰ったらしく
その場から向こうの棚に移動する少女。
(別にそんなつもりはなかったんだけどな)
彼女は丁度ドリンクコーナーの前にいるかもしれなく、
鉢合わせるのが気まずいので買いもしないお菓子に目を通していると、
「さやかは買うもの決まった?」
とその少女と思わしき声が鮮烈に、ある人物の名を呼び脳内に炸裂した。
「わたしはお留守番してますよ~」
背を向ける冬華に寝惚け眼の冴姫がそう告げると、徐にベッドに横になる。
「寝る気だわ」
またかなりラフな際どい恰好の紗耶香がそんな冴姫を見て一言こぼす。
夏休み中の息抜きに気になっていた映画を持ち寄って朝まで見ないか?
という話を三人でして、祭りの次の日に冬華の家に集まった女子達。
あれから愛美に連絡しても返信がなかったのが気がかりだったが、
「電源切ってるだけなんじゃねーの?」
という春斗の言葉を信じて気にしないようにしていた。
(それでも既読くらいつけてくれてもいーのに)
「冬華?」
「あっ、うん、今行く!」
兵糧が尽きたので近くのコンビニに買いに行くかという話をし、
こんな夜更けに買い物に行く紗耶香と冬華。
なんとなく、夏だから気が緩んでしまう。
「相変わらず夜も暑いわね」
汗がじわじわと部屋着を侵食する不快感は、いつになっても慣れない。
「愛美、大丈夫かな」
「いつまで心配してるのよ。大丈夫よ、あの子ならなきっと」
根拠のない強がりだが、実は紗耶香も心配していた。
でもこういうのは案外、明日辺りにでも「寝てた」と連絡してくるのが愛美だ。
あまり気にし過ぎていてもしょうがないだろう。
「おー、涼しいね」
立ち読みをしている人が数人とアルコールを買う大学生くらいのグループが
楽しそうに会話をしながら横を通り過ぎた。
「今の子めっちゃ可愛くなかった??」
後ろからそんな感想が聞こえてきた。
「私は向こう見てるから、冬華はお菓子選んでよ」
「分かったー」
普段は味気ないポテチも、チョコも、誰かと食べると美味しい。
ここは絶対に外せないと真剣に選ぶ。
ふと横に気配を感じる。
もしかして邪魔だったかも?と気恥ずかしくなって逃げてしまった。
一瞬確認した限りではちょっと怖い感じのギャルだったし、髪も染めてた。
しかも驚いて声まで上げてしまう始末。
紗耶香の元へ駆け寄りさも一緒に選びたいなと偽るように隣に立つと、
「あら、お菓子は?」
「いや、まだ」
「なんでよ」
「それより何買うか決めた?ワタシも選んでいーい?」
彼女の持つ買い物カゴを持ってあげる。
「アナタねぇ・・・、じゃあ一緒に決めましょうか」
「冴姫はもう寝てるだろうし、二人分」
「うん!」
断片的に聞こえてくる会話に不穏な気配を感じてしまう。
流石に直視することは難しそうなので、商品棚の隙間から背中を捉えるが―――、
間違いない、声と背丈とあの髪の長さ、ちらりと見える横顔。
紗耶香だ。
突然降って湧いた幸運なのか悪運に感謝する。
一目見ようとストーカーまがいの行為をしていたが、こんな簡単に会えるなんて。
(あの子は後輩かな、それと冴姫さんの名前も出てきた)
少量の情報から必死に彼女の現在を手繰り寄せようとするが、どうだろうか?
(もっとちゃんと見ないと分からないかも)
危険な助兵衛根性が史夏の脳に指令を出すが、体が動かない。
(なんで?別にもういいじゃん、会うくらい)
そうだよ、挨拶くらいしたっていいじゃん、会いたかったんだし。
大体なんで紗耶香のことを避けていたんだっけ?
しかし―――。
(・・・)
思いとは裏腹に踏み出す足に力が入らない、重くてイライラする。
(アタシは―――)
「紗耶香は、お誕生日冴姫ちゃんとお祝いするの?」
迷い人の耳に入ってくる記念日の情報、そうだ、今月はアタシと紗耶香の
「え?どうして?」
「だって二人はさ、付き合ってるんだし、ワタシ達が邪魔しちゃ悪いかなって」
(えっ)
「はぁ、何言ってるのよ全く。別に普通にアナタ達に祝ってもらいたいわ」
「それに冴姫とはいつも一緒にいる訳だし、そんな遠慮しなくていいわよ」
「・・・そっか!良かった!じゃあまた皆で誕生日会しようね!」
「もう、そんなに大層に盛り上げなくてもいいのに」
「いやいや大事にしなよ!自分の誕生日は!」
「それに、来年からは会える機会も減るかもしれないから・・・」
「冬華・・・。―――ありがとね、気を遣わせちゃって」
「―――ッ!ごめん!湿っぽいお話しちゃって!早く選んで帰ろ!」
「・・・そうね」
後半彼女達がなにを話していたのかはどうでもよくて、
唯一つアタシの耳の内に刻み込まれたのは
『紗耶香と冴姫が付き合っている』
という不確定な真実だけだった。
控えめにいってもアタシはサウナが好きだ。
部活の練習終わりに少し足を延ばしてお気に入りの銭湯に行くのも苦じゃないし、
あの熱い個室に孤独と向き合いながら真剣勝負するのも嫌いじゃない。
限界の限界に挑戦して水風呂に浸かるのも大好きだし、
手足の末端から体の芯までを凍えさせるのが堪らなく大好きだ。
そして全身が冷え切って感覚がなくなった頃に、またサウナに入る。
そうして何遍も繰り返した後、露天風呂の寝湯で空を見上げると、
頭が幸福物質で満たされていき、何も考えられなくなる。
そんな単独行動を繰り返すアタシの隣にふみがやってきた。
「愛美は根性というか、体力あるよね」
澄み渡る青空を共に見上げながら、そんなことを口に出す。
「?、まぁ割と多い頻度でこういうことしてるし、慣れてるのかも」
確かにサウナというものは慣れてない人間にとっては苦行だろう。
ましてや外国に住むふみが普段どういう入浴方法をとっていたりするのか
想像もつかない。
(サウナで有名なのは北欧だっけ?)
うわの空で物思いに耽ていると、
「一つ聞いてもいい?」
と改まる。
「うん、アタシが知ってることならなんでも」
「紗耶香はさ・・・」
「今誰かと・・・、恋人関係になってたりするのかな?」
「・・・・・・」
成程、そうきたか、聞かれるかもと覚悟はしていたが、どうしたものか。
実は今日の朝から「お風呂に行きたい」というふみの提案を受けて、
少し遠くのサラリーマン御用達らしい銭湯に来たアタシ達だったが、
道中の電車内で彼女は多くの自分に関する紗耶香との思い出を語ってくれていた。
ふみが紗耶香に対する切実な恋心を話してくれる中で、
アタシは現状についてふみに言うべきなのか?と考えたが、言えずにいた。
だが彼女が真実を知りたいというのなら話は別だ。
優しい嘘もごまかしもはぐらかしも一切込めないで伝えるべきだ。
「・・・本当に知りたいの?」
「うん・・・、知ってるなら教えて欲しい」
「そっか」
「ふみはさ、鳳凰院冴姫さんって人、知ってるよね?」
「―――はい」
落胆とも悲観ともとれる声色が一言の返事に凝縮されていた。
「アタシはみんなと同じ学校じゃないから詳しくは知らないけど」
「紗耶香は確実に今、その人と付き合ってるよ」
「そりゃもー傍から見ても嫉妬しちゃうくらいラブラブでさ」
「あれが仲違いしたり別れるなんて想像もつかないな~」
嘘は言っていない。
隣に仕切りがあるのでお互いの姿は見えないが、どんな気持ちでアタシの言葉に
耳を傾けて、真実を咀嚼して受け入れようとしているのか?
もしタヌキ型ロボットの道具に人の心を見透かせる便利グッズがあるのなら、
この瞬間に使いたい。
どうしても気になり、悪いと思いつつ上体を起こし彼女の顔を覗いてみると、
「・・・んっ?」
その顔は最初から察していて、答え合わせが済んで一安心したような表情だった。
「・・・なに?もしかして泣いてると思った?」
力なく笑うふみの表情にいたたまれない気持ちが湧くが、
わざわざそれを指摘するのも無作法というもの。
「ううん、ちょっとお湯が熱いなって」
「なにそれ?素直じゃないね」
「・・・ごめんなさい」
「別にいいよ。実際泣きそうだし、誰かいなかったら耐えられなかったかも」
言葉を紡ぐ度に声が震えていくのが分かる。
「・・・辛いよね」
「そりゃ辛いよ、冴姫さんはさ、色々としてもらって、信頼してたから」
「まさか二人が付き合うなんて夢にも思ってなかった」
「紗耶香はさ・・・、もうアタシのこと好きじゃないのかな?」
「アタシのことは忘れちゃって、冴姫さんが一番なのかな?」
(あっ、まずい、これは泣いちゃう流れだ)
こういう時どういった類の慰めを施せばいいのか、愛美には分からなかった。
(バカじゃないの、アタシは)
届いているかも分からない彼女宛の手紙に、
『アタシのことは忘れて、嫌いになって』
だとか人は変わるだとかそんなことを書き留めて送ったハズなのに、
(やっぱりいざそういうの知っちゃうとさ、泣きたくなるよ)
結局彼女に対する想いの灯はいまだ消せずにいて、淡い期待があった。
もう一度彼女と一緒になれるのでは?と。
そんな希望は打ち砕かれてしまったわけだが、どうすることもできない。
しかも相手は冴姫だ。
アタシ達の良き理解者であり協力者であり、友達であり親友であり、
今は紗耶香の恋人だ。
アタシが彼女達の前に再び姿を現しても、二人の関係を壊してしまうのでは?
そう考えたらもうなにもアクションを起こさない方が賢明だろう。
或いはまた一から友達としてやり直すか―――。
「ふみはさ、どうしたいの?」
普段は子供っぽい顔の愛美が、その時だけは大人の頼りになる女性に見えた。
「―――そうだねぇ」
悩んでも、答えに辿り着けない。
「・・・ダメだ、全然分かんない、今決めないとダメかな?」
ちっぽけな脳みそをフル回転させ奇策か代替案を絞り出そうとしても無理だった。
「苦いクスリは飲み込める時に飲み込んじゃえばいいよ」
愛美は体を寝湯に預けると、声だけを届けてくれる。
「こっちにいる間は、嫌じゃなければアタシが傍にいるから」
「相談事も悩み事も全部受け止めてあげるから」
「だから―――。ええと、とにかく一緒に乗り越えよう」
「ほら、昨日アタシの傷癒してくれるって言ってたし!」
そうだ、愛美も傷心の身なんだ。
アタシなんか比にならないくらい傷ついているハズだ。
「・・・ありがとう。そうだね」
無力で自己中心的な冴島史夏に現状を変えたりすることは許されてないし、
かといってすぐにはい分かりましたと納得することも出来ない。
なら目の前の現実から逃げるのではなく、目を瞑って見過ごしてやろう。
いつか重い瞼を開ける必要がある時までは、いったん放置してしまおう。
いつかしっかり向き合えて、今とは違う答えを出せる日が来るかもしれないから。
「愛美」
「んー?」
気の抜ける声に何故だか救われる。
「あっち帰るまでさ、とことん遊ぼうね」
「いいよー」
アタシの夏は、まだまだ始まったばかりだ。




