第二十三話 トラブルメーカーの償いとこれから
紗耶香は一度家に荷物を置き半袖に着替えてから
東郷山公園へと向かう決心をつけていた。
母には「愛美に会ってくるわ」と一言だけ伝えて。
「こんな時間から?まぁいいけど気をつけていってらっしゃいね」
「うん、ありがとう」
「お母さん先寝てると思うから、シャワー浴びる時とか静かにね」
「はい」
玄関のドアを開けると一時の涼しさが嘘のようなむせ返る暑さに包まれる。
じわりと湿りベタつく肌も気にせず足をマッチ棒のように前後させ、急ぐ。
風通しの良い高台の公園は幾分か体を冷やし汗を引かせてくるが、
その一番見晴らしのいい所に彼女はいた。
「愛美・・・おまたせ」
どこか遠くを、心此処にあらずといった様子で見ていた少女がこちらに振り向く。
「紗耶香姉、遅かったね」
「ごめんなさい、荷物を置きに帰っていたものだから」
「こっちきて、夜空でもみながら話そうよ」
愛美の左側に案内されて、紗耶香も星空を仰ぐ。
「いやー、すっかり夏って感じだね」
静けさを保つ公園に二人、青臭い雑草と新緑の葉が生繁り、時折ざわついている。
「この公園はさ、春になると桜が咲いてキレイだよね」
「そうね、昔はよくここでお花見したわね」
「紗耶香姉に振られたのもそんな日だったね」
「―――ごめんなさい」
「だからもういいんだってば!」
「でもお店に来てくれた時はビックリしたよ!」
「よくアタシに顔合わせられたなって!」
「もしかしてワザと?わざわざ調べてから来たの?」
「そんなことないわ!もし知ってたら!」
「来なかった?」
「ッ!」
愛美は見上げていた空から私の方に体を向けて手を伸ばし、
さも愛おしそうに汗で湿り気を帯びた頬を撫でてくる。
「あの時から変わってないね」
「どうすれば罪を償えるの?」
フフッと目を細くし微笑を紗耶香に贈る愛美。
「だったら最初からすんなよ」
その痛いほどの視線と正論に、ただただ屈服するしかない。
「いくらここで謝られたって事実が捻じ曲がる訳じゃないし、
遺恨も残るってものだよ」
「それはそうだけれど、
あの時アナタに対してした愚行を私は忘れられないし、今も逃げ続けてきてた」
「自分なりに償いたいんだよね?」
「いいよ、協力してあげる」
愛美は所々錆びついた手摺りを握りしめながら、片足を浮かせて靴を脱ぎ始める。
「跪いて」
「え」 「早く」
命令されるがまま膝立ちになり、彼女の顔を見上げて次の要求を待つ。
スキニーを履いているとはいえ夏の石畳は熱いし痛い。
まるで新しい玩具を手に入れた子供のような表情をする愛美は
片足を差し出してきて、
「靴下、脱がして」
と言い放ってきた。
両方の手で小さな足からくるぶし丈もないこれまた小さな履布を脱がすと、
キレイな形をした褐色の足先が飛び出て思わず見惚れてしまう。
が、
「足の指、舐めてほしいな」
という児戯にも等しいお願いに戦慄する。
「・・・これで?許してもらえる?」
「さあどうだか、でも言われたことはやらないと」
紗耶香は愛美の足をゆっくり両手で包む、
するとそれに呼応するように彼女も足を紗耶香の顔より上の高さに持ち上げた。
「舌だしてさ、物欲しそうに舐めてよね。手は使っちゃダメ」
その言葉に従い両手を太腿に置いて、恥辱まみれの上目遣いを愛美に送りながら
細長い赤い果肉を親指と人差し指の間にあてがおうとするが、
「・・・?」
「ホントに舐めようとしてやんの」
刹那、愛美は足先を引っ込めて、
弧を描くよう足の甲に私の胸を乗せて足首だけを上下させ淫らに刺激してきた。
「紗耶香姉のおっぱい羨ましいな〜」
「そういえば直に触らせてはくれなかったよね」
羨望とも見下しともとれる冷たい眼光を鋭く向けてる愛美。
結局指は舐めさせず胸の柔らかさを楽しむ。
「・・・・・・」
フルフルと震える様子に飽きたのか素足をスニーカーにねじいれると、
今度は「立ち上がって」と言う。
「言ったでしょ?アタシ吹っ切れたって」
金属製の手摺りに背中を預けて、自らのことについて語り始める。
「最初に襲われた時、嫌悪感と後悔とでグチャグチャになったのよ」
「でもね?好きな人から無理矢理犯されてとっても嬉しかった」
「隣の部屋には兄貴がいて、別の部屋には両親がいる」
「そんなのもお構いなしにアタシを無雑作に扱う紗耶香姉を益々好きになった」
「紗耶香姉がそんなにエロくて経験豊富なのはビックリしたけど」
「あの時って好きな子にでも捨てられてたの?」
「・・・」
「ふーん、まあいいけどさ」
「それでね、あの日切り捨てられた時も」
「悔しさと屈辱と怒りと色んな感情が湧き上がってきたんだけど」
「傷ついていく自分が愛おしく思える変態的な快楽も生まれ始めたの」
「アンタを忘れようと自分の正体を隠して頑張ったな~」
「自分のホントノキモチをその場凌ぎに満たすよう努力した」
「でもね、やっぱり紗耶香姉が一番だった」
「どんな時でもアタシの気持ちいいところ掘り当ててくれたし」
「見つかるか見つからないかのギリギリを楽しませてくれるのもうまかった」
「そういう意味では感謝してるんだ」
「佐藤愛美がこんな変態だって自覚させてくれたことに」
「・・・」
「だからさ、またあの時みたいに犯して欲しいな!」
曇り気一切ない輝かしい笑顔で、理性を欠いた獣のようなお願いをしてくる。
「ダメだわ、アナタがそれを望んだとしても、今の私にはもう無理よ」
「それにお付き合いしてる人もいるから」
豹変する愛美。
「なんでアタシは断ったのに恋人つくってんのよ」
「それは!私はアナタみたいな純粋な人に相応しくないし」
「アナタが思ってる程いい人間でもない!どうしよもないクズだから!」
必死すぎる弁明の羅列を聞いて大きな溜息を漏らす愛美。
「どこまでも自分勝手な人だね」
「人を慰みモノにしておいて飽きたらポイ」
「開発されたアタシの気持ちはどうなるの?」
「そんなことアタシには関係ないし知らないことなのに」
愛美は両手を横に上げガッカリといった感じだ。
「でも紗耶香姉がダメなら」
ぬるりと身を寄せ私の耳元で囁き始める。
「あの冬華って子、狙っちゃおうかな?」
ゾクリと首筋に悪寒が走る。
「ッあの子には何もしないでちょうだい!」
愛美を手摺の方に押し返して、真剣な眼差しで乞う。
「なんで?別にい~じゃんアタシあの子と友達だし」
「滅茶苦茶タイプなんだよね~儚げな文学少女感っていうのかな?」
「それとももう手つけちゃってる感じ?」
「冬華と私はそんな関係じゃないわよ!それにあの子彼氏もいるのよ?」
至近距離に迫る愛美に強く言い聞かせる。
「で?なら紗耶香姉がその彼氏寝取ってよ。アタシは冬華奪うから」
「なっ!?馬鹿も休み休み言いなさい!」
あまりに突飛な発言に声を荒げてしまう。
「うるさいなー、冗談だってば~、そんな口はこうしてやる!」
避ける暇もなくその柔らかな唇で口を塞がれた。
身を引こうとするも両手で側頭部を抑えられているので、受け入れるしかない。
「ちょっ!?」
二人の抱擁と熱い接吻を、公園の街灯だけが妖しく照らし影が揺らめいている。
罪悪感からか、抵抗はせずに自分も負けじと激しく絡め合わせる。
「んっ・・・久々に紗耶香姉とキスできるの嬉しいなぁ」
散々見てきた恍惚な満足気のある表情。
「・・・これでいいでしょう?」
「まだ足りないかな、言うこと聞いてくれたら冬華には手を出さないであげる」
「服、捲り上げてよ」
楽しそうに無茶なことを要求してくる。
「はぁ?」
「誰もいないから大丈夫だよ、アタシだけに見せてくれればいいから」
「くっ・・・」
少し緩めのTシャツを下からゆっくりと捲りあげていく。
「おぉ・・・」
まるで一級の美術品でも眺めるかのような感嘆の声を漏らす愛美。
私は万が一横から誰かに見られないよう腕でも隠すようにするが、
それが逆に胸を挟む形となってしまって、余計に色情を増幅させてしまう。
「恥ずかしそうに片腕に乗せてるけど誘ってるんだ?あーやだやだ」
「違うわよ!」
愛美は再び私の口を塞いでくる。
もし公園に誰かいて、この光景を見てたらどう思うのだろうか。
「今8時過ぎか・・・」
紗耶香の後ろにある時計に目を配らせると、なにかを考えこむ愛美。
「これから言うお願い聞いてくれたら、もうあの日のことは忘れてあげる」
「でも冬華とは普通に遊びたいから時々会うし、紗耶香姉とも仲良くしたい」
「少なくとも皆の仲を壊すようなことだけはしない。どうかな?」
「・・・・・・」
正直こうなってしまったのはすべて私の責任なので、条件をのむ。
「わかったわ、愛美には本当に悪い事をしてしまったと思ってるし」
「それでアナタの心が楽になるのならば、それに従うわ」
少し予想外だと面を食らった愛美だが、すぐニヤリとした雰囲気に戻る。
「えらく聞きわけがいいんだね、まぁまた一から関係を直せるならそれでいいし」
「じゃあアタシのお願い、ちゃんと聞いてね?」
「・・・なによ」
「これからタクシーでさ、渋合にあるホテル、二人で行こうよ」
やはりソッチ系だったか。
「時間は12時きっかりまで、それならいいでしょ?」
「・・・好きにしなさい」
「やった!じゃあ早速行こうか!」
欣喜雀躍する愛美は、無邪気な子供のように私の手を引っ張る。
「ほら!時間ないんだから早く行こ!」
その顔はかつて私が嫉妬してしまった無垢な笑顔そのままだった。
「送ってくれてありがとね!」
愛美との逢瀬を重ねた私は、彼女を家まで送ってあげた。
時間はもう12時過ぎだが折角綺麗にした体も再び汗に濡れてきてしまった。
「それにしてもノリノリでしたな~、アタシ的には嬉しかったけど」
「・・・昔似たようなことがあってね、どうせなら楽しむことにしたの」
「そっか」
「ねぇ紗耶香姉」
玄関前、愛美が寂しそうに私に寄り掛かる。
「アタシね、本当にもう気にしてないから、イジワル言ってごめんね」
「確かに紗耶香姉のしたことは間違ってたと思うけど」
「いつまでもその事について傷つき続けるのはよくないよね」
「今日、謝りにきてくれただけでも嬉しかったし、気持ちの整理ついたしさ」
「次は昔遊んでくれてたみたく、高校生の友達としてって感じで遊びたい」
「それじゃダメかな?」
見上げてきた顔は泣きそうで不安そうで、私には断る権利なんでどこにもない。
「わかったわ、これからもよろしくね愛美」
「それと・・・」
「?」
「―――高校合格、本当におめでとう。自分のことのように誇らしく思うわ」
「ッ!」
愛美をそっとぎゅっと抱きしめると、彼女は私の胸で大きな声をあげて泣いた。
「うわぁああああああん!」
「ずっと!ずっと寂しくて苦しくて憎らしくて忘れようとしてたのに!」
「今更そんなこと言うなんてずるいよぉ、卑怯だよぉ!!」
「弱い私でごめんなさい、これからはもう逃げないから」
過去の苦い思い出や許しがたい行為は消えるものではないけども、
犯した過ちを反芻し、飲み込み、糧にしていくことが大事だと紗耶香は学べた。
「それじゃまたね」
「うん、また」
愛美は静かに玄関を開けて、自宅へ音をたてぬよう忍び込む。
時刻は深夜なので親はもう寝ているだろうが、兄は起きているだろうか?
(また汗かいちゃったな、まあ朝シャワー浴びればいいか)
抜き足差し足で二階へ上がり自室を目指すが、
兄の部屋の前を通る時「おい」と声がかかった。
キィと擦れるドアの音を最小限に抑えて、声の主に話しかける。
「何か用?」
「まあとにかく入れよ」
言われるがまま部屋に体をいれる。こういう呼び方をされる時は禄でもない時だ。
「今窓から見てたけどよ、あれ須藤さんだろ?何やってたんだ?」
妹に負けず劣らずの水泳で焼けた黒い肌、下劣な笑った顔、汚らわしい。
アタシの男嫌いはコイツと父親からきていた。
「別に何も、紗耶香姉が会いたいって言ってたから少し会ってただけ」
「へぇ・・・。なぁ、遠目からでもいい女ってのは分かるもんだよなぁ」
まるで蛇のような邪悪さで獲物の姿を思い返している。
「なあ愛美、俺に須藤さん紹介してくれよ?」
ほうら来た。
「絶対イヤ、それに兄貴にはくーちゃんがいるじゃん」
くーちゃんはこの男の今カノで、真面目で鷹揚に構えた高校の先輩。
ウチの学校でも目立ちはしないが男子人気が高いタイプで、アタシも好きだった。
そんな日陰に咲く健気な花がなぜこんな男と付き合っているのか甚だ疑問だが、
どうせクズみたいなことをして手籠めにしたんだろうな。
「空?アイツなら別れたぞ?」
「・・・はぁ!?」
寝耳に水だった。
「オイ、声でけぇぞ」
「なんで?!」
「いや、飽きてきたから」
「ッ!?」
駄目だ、やっぱりコイツはダメだ。
「まぁ俺も受験勉強あるし、新しい出会いは大学までとっておくかな」
「・・・・・・」
「なんだよ?もう用済んだから出てっていいぞ。まぁ気が向いたら紹介してくれ」
ベッドで再び漫画を読み始めた兄を一瞥し、この伏魔殿から脱出する。
自分の部屋のベッドにぐったりと横たわり、わずかばかりの空との思い出を探る。
『初めまして・・・じゃないよね?よく図書室に来てくれてた・・・』
『愛美さんだ!康君の妹さんだよね!?』
『時々お家とかもお邪魔するかもしれないから、仲良くしてね?』
その儚げな少女は、どこまでも優しくて、まっすぐで、
こんな人が彼女になってくれればなって願っていた。
「・・・・・・」
兄と別れているのであれば、明日からでも果たせなかった計画を再開しよう。
(アタシの方が先に狙ってたんだから、いいよね)
「昨日はちゃんと謝れたんですか?」
夏休み前日、いつもの食事場所で昼食を楽しむ4人。
冬華は昨日から変わらず真面目な声色で紗耶香に質問をする。
「えぇ、もう蟠りも負の連鎖もないと思うわ・・・多分」
「それならいいんですけど」
頭の上に?マークを乗せた彩が「なんの話ですか?」と冴姫に訊く。
「またこの悪い人が女の子を泣かしていて、
それにケジメをつけられたかっていうお話です」
それだけ聞いて彩は理解したかのように「成程」と呟いた。
「紗耶香先輩、どれだけの女の子を泣かせれば気が済むんですか」
「それにしたって愛美さんは別格に可哀想だと思いますけどねー」
黙々と弁当を食べる冬華。最近は自分で作ってきているようだった。
「実はかくかくしかじかで・・・」
彩に詳細を耳打ちする冴姫、内容にどんどんと顔がげんなりしていく。
「これはちょっと私でも擁護できないというか・・・」
お断りのポーズをとりながらズズズと冴姫の隣に横移動し始めた。
「ホント酷い事をしたと思って謝って反省したの!もう解決したの!」
「どうやって?」
冴姫の当たり前な疑問に、続く言葉を淀ませる紗耶香。
「それは友情パワーというかなんというか・・・」
「?」
ここまできてなんとなく察した彩は、
「また体で解決したんですか・・・最低ですね」
と余計なことを冴姫に告げ口する。
「しょうがないでしょ!?彼女も望んでたことだし、私もそれでいいのならって」
一同溜息、もうこの人はこうなんだなという予想が的中しただけであった。
「もうわたしは何も言わない」 「私も」 「ワタシも」
「ぐぬぬ・・・」
「それじゃあ7時にお店集合ってことでお願いしますね!」
放課後、明日からの夏休みに心躍らせながら俄かにざわめく校内とは
また別のことを楽しみにしている冬華。
今日はなんていったって16歳の誕生日!
今まで乳母と春斗にしか祝えてもらえなかったが、今年は違う。
(愛美ちゃんも来てくれるかな)
ダメもとで彼女にも連絡してみたが、返事はまだない。
先輩達は色々と準備があるらしく、ワタシは一人で帰ることにした。
(お誕生日会かぁ・・・)
まだ陽の高い熱空を見上げながら裏門をくぐると、
「ん」
『今日の誕生日会、アタシも行きたい』
と参加表明の連絡が来た。
「「「「誕生日おめでとう!」」」
雰囲気の良い洒落た個室で、ワタシはこのイベントの中心人物となっていた。
皆それぞれ手に持ったワイングラスをワタシのワイングラスにチンと当て
乾杯の儀式をする。
とても嬉しくて少しだけ気恥ずかしい。
別に気分がいいとかそういうわけではなく、誰かに心から祝われるというものが
こんなにも心に刻まれるものだったなんて。
半年前のワタシに今の状況を見せたら、ドッキリかなにかと思うだろうな。
「楽しんでもらえてますか?」
三人並んだソファー席の真ん中がワタシで、左に冴姫、右に春斗が座っている。
「はい!とってもその・・・すごく楽しいです!」
自分までも嬉しくなったような冴姫は「よかった」と優しく笑う。
(こんなに素晴らしい人を逆恨みしていたなんて、馬鹿だったなぁ)
この場に乳母がいないのが残念でならないが、今なら胸を張って報告できる。
(おばあちゃん、ワタシね、友達がいっぱいできたんだよ)
気を遣わない友人達といるのは本当に居心地がいい。
「でも不思議繋がりもあるもんだよなぁ、愛美と冬華が知り合いだったなんて」
隣の春斗が向かいに座る愛美とワタシを交互に見る。
「いやーまさかハルトの彼女が冬華だったなんて、こっちも吃驚だよ!」
どうやら二人は面識があったらしい、同じ高校だしその可能性は十分にあったが。
「縁ってものがあるのねぇ、これからも冬華ちゃんと仲良くしてあげてね!」
愛美の隣、ワタシの対面に座る彩が初対面の後輩に話しかける。
「もちろんですよ!冬華ってすっごく可愛いし、それに守ってあげたいし・・・」
二ヘラと口角をあげ少し細めた瞳に少し邪な気配を感じてしまう。
「わかる!」
彩も愛美の意見に同調するかのようにフンスと鼻を鳴らし、
目を輝かせながらこちらを向く。
「あっでも彩さんも可愛いし素敵だなーって思いますよ!」
「愛美ちゃん・・・!なんていい子なんだ!」
ガバッと愛美に抱き着く彩に満更でもなさそうな反応をする愛美、
見た目もスポーティだしなんとなく似たような雰囲気を感じさせる。
「彩と愛美って、かなり似通ってるわね」
彩の横の座る紗耶香が、二人の様子を見てふとそんな感想をこぼす。
「確かに私と愛美ちゃん、どことなく同じニオイがする・・・」
「そうですか?まあ容姿とかはそうかもしれないけど」
「それ以外にも、私にとってはそっくりよ。色んな意味でね」
「「?」」
紗耶香の意味深な発言に首を傾げるが、唯一冴姫だけは何かに勘づいて頷く。
一通り食べたこともないような趣向を凝らした料理を食べ終え、
ケーキが運ばれてきた。
温かなハッピーバースデーのコールに我慢できず感極まって泣いてしまうが、
誰も茶化さずにロウソクの火を吹き消すまで見守ってくれる。
優しい世界とはまさにこのことを指すのだろう。
「俺も今年はこうやってしっかりお祝いできて嬉しいよ、いやホントにさ」
春斗や冴姫もワタシにつられ貰い泣きしている。
「それじゃあケーキを切ってもらっている間に」
「誕生日プレゼントお渡ししますね!」
まず冴姫がかわいい包装紙に包まれた封筒のような物を渡してくれる。
「帰ったら開いてみてください♪」
少し悪戯に笑いワタシに耳打ちしてくる、いったい何なのだろうか?
「じゃあ次は私が!」
冴姫に続き彩、愛美、春斗、紗耶香も別々の物をプレゼントしてくれた。
それぞれ心が籠ったプレゼントに胸がぼぅっと満たされていく。
「皆さん・・・ワタシなんかの為にこんな素敵なプレゼント」
「本当にありがとうございます・・・!!」
腕の中に収まりきらない大切な品々を抱えながら深い謝辞気持ちを述べる。
「こういう日は大事にした方がいいと思うわ」
ティーカップに注がれたコーヒーを飲む大人っぽい紗耶香がしみじみと言う。
「紗耶香姉の言う通りだよ!」
愛美もまだあって間もないのに、気兼ねなく接してくれる。
「同い年同士、これからもよろしくね!」
「明日からの夏休み、高校最後の思い出は是非冬華さんも一緒がいいです」
「そっか、先輩達は受験勉強だとか色々お忙しくなるんですよね」
「そうね、でも夏休み前半位は遊び尽くせるように計画たててるから、大丈夫よ」
そうだ、この夏休みが紗耶香と冴姫にとって高校最後なんだ。
9月からは勉強に身を漬けて会える時間も少なくなるだろう。
「それじゃあこの後二次会参加する人!」
冴姫が珍しく高いテンションで尋ねてくる。
「いいですね!どこ行くんですか?」
「カラオケに行こうと思ってるんですが、どうですか?」
「あっ、アタシも行きたいです!」
「もちろん!行ける方は一緒に行きましょう♪」
「紗耶香先輩も行きますよね?!」
彩は何故か興奮気味に確認している。
「まぁ・・・、折角だし行こうかしら」
「やったぁ!楽しみ!」 「紗耶香姉とカラオケ行くの初めてだ!」
相変わらずモテモテだ。
ワタシは隣の少年の半袖をそっと握り、「春斗君も来るよね?」と訊く。
女性だらけのグループに少し気まずそうにしながらも、
「うん、俺も行きたいな」
と言ってくれた。
荷物をまとめ店から出ると各々カラオケ店まで歩き始めるが、
後ろからその大切な人達を見るのがなんだか尊く感じられる。
「春斗君」
「ん?」
隣に並び歩く彼に、
「ワタシね、今生きててよかったって思えてるよ」
と伝える。
彼の顔は敢えて見ないが、多分少し吃驚しただろう。
ちょっと間を置いてから手にギュッと力が入る。
「俺もさ、運命なんてあんまし信じてないけど、今は神様に感謝してるよ」
「だからこれからも『生きててよかった』を俺と、俺達といっぱい作ろうな」
なんだかクサく感じてしまうセリフだが、心の奥底にスッと潜り込んでくる。
「―――うん」
ワタシも握られた手を強く握り返す。
(これからが楽しみだなぁ)
夏休みが、始まる。




