第二十一話 人生は選択の連続
「冴姫・・・私は・・・」
暗らめの室内でベッドに寝転がる少女達。乱れたシーツの感触を確かめながら
隣の親友に不安と切なさが入り交じったトーンで声をかけてしまう。
(ダメだ、こんな調子じゃ)
そんな中途半端な態度をとる私を愛おしそうに見つめる少女は優しく微笑む。
「わたしね、初恋も、初めてのキスも、その・・・」
「全部紗耶香さんが初めてなんです、ずっとそうなればなって望んでた」
「だからね、後悔なんてさらさらないですよ」
「その上で・・・貴女とちゃんと『特別』な関係になりたいです」
冴姫は細く透き通った混じりっ気のない指を私に絡めてきて、決意をする。
「須藤紗耶香さん、わたしを貴女の『恋人』にしてくれませんか?」
「ごめんなさい、順序が逆ですよね、あはは」
恥ずかしそうに誤魔化してはいるが、内心かなり穏やかではなさそうだ。
「私、いつ帰ってくるかもわからない初恋の幻影を未だに追ってる」
「はい」
「今日も、アナタの優しさに付け込んで、自分勝手に駆け引きを楽しもうとした」
「知ってます」
「自分のキモチに素直になれなくて、卑屈で、自分が嫌いになる時がある」
「そうですね」
「まだまだ数えきれないくらい失敗して、馬鹿なことしてきた」
「・・・・・・」
「それでも、それでもこんな最低な女でもいいの?」
「はい」
「貴女だからいいんです、全部をひっくるめて、紗耶香じゃなきゃダメなんです」
その溢れる程眩しい笑顔が、この暗い愛の巣を明るく照らして、心震わせる。
私は無意識に一筋の涙を流してしまう、ツーと途切れることのない水跡が
シーツを濡らして、思わず冴姫が驚いてしまう。
「そ、そんなに泣かれる程イヤでしたか!?」
アタフタと慌てるさまがなんだか可愛くて、愛おしくて、尊く感じる。
頬につたう軌跡を拭い、冴姫に応える。
「はい、これから友達以上として・・・」
「『恋人』として冴姫と毎日を過ごしたいわ」
「紗耶香さん・・・!」
冴姫も感極まって頬を紅潮させ、うれし涙を溜める。
「フフ、なに泣いてるのよ、キレイな顔が台無し!」
「紗耶香さんもですよ!」
「・・・」
「・・・」
お互いの顔を落ち着いて見合ってから、何も言わず唇を重ね合わせる。
「夕飯、この辺りで食べる?」
「いいですね!折角ですし中華食べましょう♪」
晩御飯よりかは遅い時間に、ホテルから出る二人。
それに少し遅れて続くように、瑞々しいカップルも出てくる。
「あっ、須藤さん達だ・・・やっぱりやることやったのかな・・・」
少年の眼差しはどことなく複雑な眼をしていた。
「それにしてもあんな美女で綺麗な人がそっちの気があるなんてなぁ」
「隣の人もいかにも大和撫子って感じで可愛いし、そう思うとお似合いかもな」
春斗の何気ない感想が冬華の心の奥底に沈殿していた泥を舞い上がらせてしまう。
「そうだね・・・」
(なんでだろう、ワタシ今すっごく幸せなのに、モヤモヤする)
二人の後姿が情事を連想させてしまう、ナニをして、どんな声を出して、
そんなのワタシの知ったことじゃないのに。
「春斗君、ワタシ達もいこっか・・・」
その様子に自分が失言したと勘づく。
「変なこと言っちゃってごめん、普通友達をそういう風に言ったり勘繰るのは
駄目だよな、冬華に嫌な思いをさせてたら謝るよ」
「ううん、今度から気をつけてくれればいいよ」
「ごめん・・・」
(違うの、謝るのはワタシの方)
春斗の温かい手に片方を手を預けて、駅へ向かう。
(ワタシね、ハル君としてた時、貴男と紗耶香を重ねてたの。変だよね)
(この気持ちって、なんだろうね、気持ち悪いね、早く忘れたいな)
「それで、貴女の想いは届いたんですのね」
長い金髪を指に巻き付けながら、電話口の後輩の吉報を受け取る。
「ええ、なんとか、ナントカって感じですよホント!」
「緊張しすぎて心臓止まるかと思ったんですよ~?」
それにしては向こうの声が欣喜雀躍している様が想像できる。
「でもアノ紗耶香がねぇ、史夏のことまだ気にしているでしょうに」
「それはまぁ・・・そうでしょうね」
少し手に力を込めたのか、声のトーンが変わった。
「恋っていうのは中々忘れられるものじゃないと思います」
「それでもわたしは紗耶香さんと友達以上の関係になれましたから」
「今史夏さんが戻ってきても、簡単には引き下がりません!」
「・・・そう、貴女と紗耶香なら大丈夫でしょうけど」
「むー、そんな他人事みたいな」
「両親には説明するんですの?」
「・・・まだわかりません、でもいつかちゃんと説明しますよ」
「それに、5年後、10年後にはどうなってるかわかりませんし」
「そうね、恋愛の趣向も変わっていくだろうし」
「ところで朔夜さんのは上手くいってるんですか?彼女さんと?」
「ええ、今のところはね?」
「ワタクシのことをしっかりパートナーとしてみてくれてますの」
「それはそれは!年上の女性も素敵そうですね~」
「まぁ近々ダブルデートでも・・・いえ、トリプルデートでもする?」
「いいですけど・・・朔夜さんからそんな言葉が出るなんて意外!」
「どういう意味よ、まったく・・・」
「じゃあまた連絡しますね!体調にはお気をつけて♪」
「はいはい貴女もね・・・紗耶香を大事にしてあげてね」
「もちろんですよ!」
プツリと電話が途切れる。
奥手で不器用な後輩の幸せそうな声が聞けて満足だ。
「なーに長電話なんかしちゃってんのよ!」
「わっ!ちょっと!」
同棲している大学の先輩・・・もとい恋人にいきなり横から抱き着かれた。
「幸せのお裾分けをしてもらってたんですの」
「へ~羨ましいこと、それじゃあちょっとわけてほしいなぁ~」
整った指が朔夜の顎のラインをなぞって、まるで導かれるように引き寄せられる。
「あっ・・・」
幸せな時間が積み重なっていく。
『おはよう、昨日は楽しめた?』
朝スマホを見ると紗耶香から連絡が入っていた。
(・・・楽しかったですよ、と・・・)
昨日のアレは見なかったことにしようと自分に言い聞かせたが、
春斗との熱情と紗耶香との劣情が妄想の中で重なって、あまり眠れなかった。
(どうしてもやっぱり気になってしまう)
それでも一日というもの、交流というものは始まる訳で、
(もう五月か・・・)
澄んだ青空を見ながら学校へと向かう。
「冬華、ご飯食べましょう」
わざわざ一年の教室にまで来て、昼食に誘ってくれる紗耶香。
足を向かわせるといつもの二人も待っていた。
「それでアキがですね!また女の子に!」
いつもと変わらない空気感、雑談、ただ一つ違うところは、二人の距離感。
思わず韻を踏んでしまったが、しょうがないんだ。
「彩はホント秋のことが好きなのね」
茹でたブロッコリーを口に運びながら、ハイハイと彩の話をあしらう紗耶香。
「あっ、紗耶香、これも食べない?」
冴姫が自分の総菜を隣の少女のブロッコリーの隙間に入れる。
「・・・なんか今日二人の距離近くないですか?」
怪訝な顔をして彩が尋ねる。
ナイス彩先輩と心の中で感謝を送りながら、弁当に顔を落として聞き耳を立てる。
「だって私と冴姫、付き合ってるから」
「へぇー、そうなんですかぁ・・・ってえぇ―――!?」
運動部特有の大声が賑やかな広場にこだまする。
「うるさいわよ彩」
「いやいやいやいや!初耳なんですけど!いつから?土日の間に?!」
ワタシも気が動転して思わず持っていた箸を落としそうになってしまう。
「まあ土曜日にね、なんやかんやあって・・・」
「そう、なんやかんやありました」
少し恥ずかしげに目を伏せて、お互いのことをチラチラと牽制する冴姫と紗耶香。
予想していたとはいえ、思った以上に心が揺らいでしまう。
友達の朗報なのに、素直に喜べない、何故だ。
「しかしまぁ二人がなんて、ホント紗耶香先輩節操ないですね・・・」
「なっ!」
「はは、彩さん、わたしから告白したんです」
「冗談ですよ紗耶香先輩、だろうと思ってました。よかったですね、冴姫先輩!」
彩はなにかニヤニヤとしながら冴姫を見る。
和気藹々と盛り上がる先輩達の輪に上手く潜り込めない。
それどころか、物理的な距離は近いのに、どこか遠くに三人を感じてしまう。
「冬華、大丈夫?」
対面の紗耶香に心配されてしまい、つられて両隣の視線がこちらに向く。
(ウッ)
こういう目線はとても辛い、自分が注目を浴びてしまう恥ずかしさ。
「だっ、大丈夫ですよ!」
こうやって平静を装わなければいけないのも、辛い。
「それならいいのだけれど・・・」
注目が外され、三人の世界に戻るのも何とも言えない歯がゆさがある。
(紗耶香・・・いてくれるかな・・・)
ほぼ毎日の日課となった下校も、今日からはどうなるか。
裏門手前の曲がり角、何故かドキドキと緊張して汗がジワリと掌を濡らす。
夕暮れの斜光が照らされてない陰にあるベンチ、紗耶香の姿が見えるが、
「(よかった)・・・紗耶ッ!?」
奥にもう一つ人影があった、冴姫だ。
「あ、冬華さん!それじゃあわたしも行くね」
「うん、また明日ね・・・それじゃあ帰りましょうか」
ベンチから二人が立ち上がり、冴姫は校舎の裏に消えていき、
紗耶香は夕焼けの明暗に戸惑うように手で眩しさを隠してこちら側にきた。
「どうしたの?」
不思議そうな顔でワタシを見下ろす紗耶香、
「ううん、なんでもないです」
そういってワタシは少しだけ、嘘をついてしまった。
帰り道の雰囲気は好きだ。
二人だけの時間、往来する人も慌ただしくなく、子供の笑い声や犬の散歩をする人
ビニール袋の擦れる音と自転車の甲高いブレーキ音、どこからともなく夕飯の匂い
がする高さのない赤く染まる住宅街、人々の喧騒も心安らぐ。
実は紗耶香と家にいる時よりも、こうして帰り道を共有する方が好きなのだ。
それでも今日は口数が少なくなってしまう。
「何か食べたいものある?」
いつもの質問。
「紗耶香の作りたいもので」
「うーんそうねぇ」
いつもの賑うスーパーで買い物を済ませてから、ワタシの家に来る。
上着を脱いでボタンを外してエプロンを着用して髪を結んで手を洗って、
見慣れたいつもの光景。
もしかしたらこの当たり前が失われてしまうんじゃないかと急に不安になる。
日常が喪失してしまうのは何よりも耐え難い痛みだ、
彼女の姿を見ていると、冴姫の顔が頭の隅にチラついてしまう。
ぶるぶると頭を振って、宿題のノートを取り出して勉強に勤しむが、
(ワタシ、どうしたんだろう?)
原因不明の胸のざわめきが集中を乱してくる。
台所からフライパンと菜箸がぶつかり合う快音が聞こえて、
ジュウウとなにかを炒めているような動きをしてる。
その香りが音とともに空気を伝わって、リビング、ワタシの鼻腔に流れ着いた。
(あっ・・・潮のいい香り・・・)
少しした後、大きい深めの皿を足の低いテーブルの上に運んできてくれて、
ワタシは慌てて教科書などを下に下ろす。
「今日は塩焼そばをつくってみたわ」
湯気があがるシンプルな麺料理を箸でつついて、熱さを逃す。
「フーフー、あふっ、うむ・・・」
具だくさんで美味しい。
「・・・すっごく美味しいです」
素直な感想を言葉にのせる。
「それならよかった」
嬉しそうに感想を聞いた後に、紗耶香もエプロンを外して食べ始める。
食器のぶつかるカチャカチャとした音と、黙々とした雰囲気が食事風景を彩る。
ワタシは紗耶香に、「なんで塩焼そばなんですか?」と訊いてみた。
「冴姫がね・・・意外とこういうのが好きだって言ってたから」
いつものような淡々とした表情ではなく、ワタシの知らない顔で教えてくれた。
その紗耶香を見た時に、なぜだか無性に苛ついてしまう。
(なんなの、ちょっと待ってよ、止まってよ!)
心の自制虚しく、ワタシは箸を置いて嫌味たらしく目の前の人間に言ってしまう。
「それは冴姫ちゃんの喜ぶ顔が見たいから、ワタシで試したんですか?」
ズキリ、チクリと柔らかい心臓を待ち針で刺すような痛みが現出する。
紗耶香はキョトンとした顔をするが、すぐに切り替える。
「それでアナタも笑顔になれるのなら、それでいいじゃない?」
「ダメだった?」
「ダメじゃ・・・ないですけど」
「ちょっとやきもち妬いてくれちゃったの?」
少し困り気味の微笑に、恥ずかしさを覚える。
それを誤魔化す様に勢いよく塩焼そばを貪り、完食し、逃げるように食器を洗いに
台所に立つ。
長袖を捲りながら皿を洗い、自分のこのキモチも流せればいいのになと思う。
その後も微妙な空気のまま、紗耶香に勉強を教えてもらうが、
「冬華?聞いてる?」 「あっ、えっとどこですか?」
集中できない。
「もう、しっかりしないといい点取れないわよ?」
左隣の家庭教師に、いらぬ妄想を抱く。
チラチラと横目でノートに目線を落として、髪を耳にかける仕草をする紗耶香に
見惚れてしまう。
(バカッ、何考えてるのよ)
もしワタシが男の子で、隣にこんな人がいたのならきっと・・・。
コチラに寄り添うように座る彼女の顔が、胸が、腰が、太ももが、
主張してくる。
白シャツから僅かに見え隠れする胸の谷間がやらしくて。
唇の動きと長い睫毛の瞼の開閉の連動がやらしくて。
気がつくとワタシは・・・。
(冬華どうしたのかしら?)
ぬるい空気の中勉強を教えているが、どうも落ち着きがない。
(いつもはちゃんと集中しているのに)
今日は昼から様子が変だった。
コチラに目を合わせようともしないし、さっきもあんなこと言ってきたり。
もしかして冴姫と交際を始めたという事実がそうさせているのであろうか?
だとしたら申し訳ないことをしたなぁと思う。
がしかし、隠すのもよくないことではある。
(冬華は繊細だから、特にその辺りは注意して接してあげないと)
「紗耶香・・・」
艶のあるなまめかしい呼び声に目を上げると、
「ッ・・・!」
ズイッと彼女が顔を至近距離・・・鼻先がくっつくところまで近づけてくる。
冬華は興奮しているのか、顔をわずかに紅潮させて息荒く呼吸している。
ハァハァと餌を前に待てをされた犬のように目を輝かせながら、
私を優しく押し倒す。
「キャッ!?」
突然の行動に思わず声が出てしまうのもお構いなしに、彼女が私に覆いかぶさる。
「なに・・・してるの?・・・ダメよ冬華?」
電灯の逆光で表情までは読み取れないが、よからぬコトを企てているのは確かだ。
「紗耶香・・・」
再び急接近されるが、慌てて押し返す。
「ちょっ・・・と!」
「冬華?どうしたのよ?」
流石にこれ以上の暴挙を許す気はないので、彼女の行為を諫める。
すると彼女もハッとしたようで、力なくうなだれて、
「ごめんなさい」
と一言謝った。
「どうしたの?」
改めて彼女の隣に座り、理由を聞き出そうとするが俯いたままだ。
それから少しして、話してくれた。
「こないだの紗耶香とのアレが忘れられなくて、それから少しだけ意識して」
「なんでだろうね、ワタシ春斗君が好きなのに」
「実はね・・・」
「土曜日、紗耶香と冴姫ちゃんがホテルに入るの見ちゃったの」
「ッ!・・・」
その最悪な可能性に気付けないわけじゃなかったのに、とんだ失態だ。
「それで春斗君がね、『二人は付き合ってるんじゃないかって』言って」
「ワタシはなんだか胸がざわついてね、苦しくなったの」
胸に手を当てて、思いつめたようなかんばせを見せる冬華。
「でもね」
逆の手で私の太ももにそっと手を乗せる。
「二人のこれからすること・・・紗耶香のこと考えたら興奮したの」
「それで疼きが収まらなくてね、貴女達がいるホテルで・・・」
「ワタシも春斗君と・・・」
少女の告白は紗耶香にとっては喜ばしいことであるのだが、素直に喜べない。
そんなことを私に話すということは・・・。
「春斗君と初めてのキスする時も、紗耶香と比べたりしてた」
「意味わからないよね」
「その後ホテルの外で二人の後姿みたら、またモヤモヤした気持ちになった」
「なんなんだろうね?紗耶香には冴姫ちゃんがいて、ワタシには春斗君がいる」
「それなのに貴女が誰かと仲良くしてるのが、悔しくて、切なくて」
「もう構ってくれないんじゃないかって怖くなる」
「ごめんなさい、気持ち悪いよね、嫌になっちゃうよね」
「紗耶香はワタシのことそういう風に見てないのに」
「ワタシも見ちゃいけないハズなのに」
段々とまた呼吸が昂ってきている。
「紗耶香といるとワタシ、ダメになる」
「だからさ・・・」
「だから・・・ですね・・・」
その次の言葉に胸が詰まっているようだった。
どこで間違ってしまったんだろうか?
私はただこの子の境遇に同情して、親近感を感じて、元気づけたくて、
また笑ってほしくて、同じにさせたくなくて、孤独にさせたくなくて、
とにかく余計なお世話だとしても、そうしたかった。
それが結果として裏目に出て、彼女を困らせてしまっている。
昔から似たような悩みで散々苦労させられてるなぁ。
もう秩序だとか理性だとか道徳だとか、全部投げ捨ててしまおうか。
目の前で苦しむ少女に好きなようにさせてしまおうか?
冬華は私に恋をしてしまってると思う。
それが恐くて、分からないフリをしようとして、私と離れたいんだろうな。
別にそれでもかまわない、それを彼女が望んで、普通の女子高生みたいに
彼氏と笑って過ごして、喧嘩して泣いて、それで成長して大人になっていくのなら
彼女の前から消え去ろう、少し過保護すぎたかもしれない、きっとそれがいい。
「冬華」
ビクリと肩を震わせ、両手を太ももの上に置いて俯いている、自然と拳を作って。
「私の彼女は鳳凰院冴姫、アナタの彼氏は春斗君」
「私とアナタは友達。それ以上でもそれ以下でもない」
「この関係に不満があったり、望まないのであれば」
「もう会うのはやめましょう。探り合いもなし。金輪際一切合切」
(あぁ・・・私また馬鹿してるな・・・)
ふと史夏との最後のやりとりを思い出してしまい、
胸に何かが込み上がり、
詰まる。
(なんにも成長してないじゃない)
しかしこれは冬華の問題だ。
彼女が我慢できなければ、どうしようもない。
「世界で一番ステキな恋をし続けてちょうだいね」
捨て台詞のような激励を吐いて、ベッドの上のカーディガンと制服を着て、
ベッド横の学生鞄を肩にかけて、玄関を目指す。
『誰も傷つけずに、誰か一人を選ばないといけない』
そんなことを遠い昔に考えてた気がする。
違うだろ須藤紗耶香。
あの時まで記憶を遡らせて、思い出す。
『私は選択した、間違ってなかった、後悔しなかった、幸せだった』
今しようとしている選択はこの少女を幸せにできるのか?
頭の中にグルグルと記憶が渦を作り、一つの答えに辿り着く。
その簡単な解答を出すのにどれだけの犠牲を払ってきたのか?
踵を翻して、顔を抑えて声を殺す様に泣き震えてる冬華を思いっきり抱き締める。
「紗、紗耶香・・・?」
涙や鼻水まみれで驚く彼女の顔をハンカチで綺麗にしてあげて、落ち着かす。
「ごめんなさい冬華、私馬鹿な選択をしようとしてた」
「どうすればこれからも仲良く過ごせるか、一緒に考えましょう」
更に強くもう一度抱き締めて離さない。
「私また逃げようとしてたみたい、こんなことしてもお互いが傷つくだけなのに」
これまでの失敗の積み重ねが、私に学ばせてくれた、勇気を与えてくれた。
冬華の湿り気を帯びた頬を冷たい両掌で優しく包む。柔らかくて小さな顔だ。
「どうしたいか、私に教えて?」
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