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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
氷の女神と冴島史夏
2/42

第2話 私の好きな先輩

紗耶香サヤカ、ちょっときて」


ファミレスにアヤを残したまま史夏フミカに連れ出される。


「どこまで行く気よ?」

「・・・・・・」


家に帰る道すがら、公園のトイレに連れ込まれる。

時間が時間なので、3つある個室も全て開いていた。


その一番奥に押し込まれ、鍵を掛けられる。


個室に女子二人、カバンもあるので流石に狭い。


「いきなりどうしたのよ?」

「・・・」


「ごめん、昨日のアレからさ、色々意識しちゃってて」

「それでさっきのあの口づけで、スイッチが入ったというか」


史夏は私を座らせ、「キスしたい」とねだってくる。


「そう、いいわよ。狭いし私の上にきて」


彼女を座らせると、顔も、身体も、吐息も、体温も全てが目に入り感じられる。


もう我慢できないといった顔で、再び唇を重ね合わす。


(『スイッチ』ねぇ)

キス自体昨日が初めてで、私にはついてない機能が、

この子には搭載されているのだろう。


この行為はいつ終わるのだろうか?

口づけの最中、チラリと腕時計を覗く。


(もう7時前か・・・)

私の意識は眼前の人間よりも、早くシャワーを浴びたい気持ちにシフトしていた。


しかし流石にこう長い時間されると、色々なコトが感じられてくる。



(なんだかボーっとしてきたわ)



それは史夏が飽きるまで続けられた。



「ただいま」

「お帰りなさい彩、先ご飯食べちゃって」

「うん・・・」

「どうしたの?元気ないわね?」

「そっ、そんなことないよ!」


空元気を取り繕ってみるが、食欲が出てこない。


都築彩ツヅキアヤは先程の出来事で、精神に大きなストレスを感じていた。


「悩み事なら抱え込んじゃだめだぞ」

「うん、ありがとお父さん」



「ごめん、ちょっと部屋で横になるね」



彩は二階の自室へ重い身体を運ぶ。





「ふー」

ボフンと大きな音を立て、部屋の電気もつけないままベッドに飛び込む。



『初めまして、私、須藤紗耶香スドウサヤカっていうの、よろしくね』

『都築さん上手よ、これなら試合も大丈夫だと思うわ』

『私とダブルス?うーん、私、人と合わせるの苦手なのよね・・・」』

『また告白されちゃった、もうウンザリよ』

『興味もない人間から好意を抱かれるほど辛いものはないわね』

『断る身にもなってほしいわ』

『彩は好きな人いる?是非聞かせてちょうだい』



私、あなたのことが好きなんです。



どうして告白しないの?女同士だし、私には勇気がない。

嫌われるのが怖い?それよりも興味がないと言われる方がイヤ。

キスしたかった?したかった、デートもなんでも、先輩となら。

彼女を賭けの対象にされて嫌?すっごいイヤだ。賞金なんてクソくらえ。


その賞金狙いのフミカ彼女サヤカられたけどどんな気持ち?


「・・・・・・」


もっと早くに行動してれば、彼女の隣にいたのは私?

あのシーンを思い出し、史夏に自分を重ね合わせる。


「・・・」


毛布で口を押えるが、身体の底から湧き出す熱い気持ちは抑えきれない。


紗耶香への思いが溢れる。


焦燥感、屈辱感、うねるようなマグマが彩の脳内に噴出し、

我慢できなくなる。


(私、いけない子だ)



紗耶香サヤカ先輩・・・、今あなたのことを考えてます)



(あなたは今、史夏カノジョとなにをしてますか?)


報われない恋を抱く人間ほど哀れな存在はない。


(例えあなたに思いが届かなくとも・・・!)


(私は紗耶香あなたを好きでいつづけたい!)


もはや止まらない妄想が、部屋の静寂さを打ち消し、

頭の中の思考を掻き消すほどの大きさになった時、




彩は一人孤独な中で果て、しんとした部屋の惨めさに泣き出してしまう。




暗い部屋の中、余韻に浸りながら彼女を想う。




紗耶香サヤカ先輩、これが恋って気持ちですよ)


大粒の涙は、彼女の心を映し出す様に、頬を伝い落ち続けた


過ぎ去りし記憶を洗い流し、眠りにつくまで・・・。





「もう7時過ぎだ、ヤバイね、早く帰らないと」



流石にもう飽きたのか、史夏はスマホを見て帰宅の準備をする。


「史夏は女の子とシたことあったの?」

帰り道、遊んでそうな彼女に質問してみる。


「いやー別にアタシはそっち系じゃないよ、小中共学だったし」

「男の人はあるのね」

「それは秘密です!でも」



人通りの少ない道路で彼女はまたキスしてくる。



「紗耶香が、今んところ、一番よかったかも」

しみじみと余韻に浸る史夏。


「そう、それはよかった。私も嫌いじゃないし」


「でも意外だなー、もうとっくに卒業してたかと思ってた!」

「あのねぇ、私もたまたま女子高だからそういう機会がないだけで」

「もしかしたら男性の方がときめくかもしれないのよ」

「ふーん、どうだかねぇ」



「それじゃあまた明日学校で」

「うん、長い時間まで付き合わせて悪かったね」

「いいわよ別に」

「何か掴めそうな気はした?」

「その時はすぐ連絡するわね」


「バイバイ」とマンションの階段を昇る紗耶香を見送る史夏。

姿は見えないが、彼女の足音がドアの音で消えるまでその場に立ち尽くす。


(やばいなーアタシ。最初は遊び半分だったけど)


唇の感触を思い出す。


(ちょっとマジになりそう)





「おはよー須藤さん」


HR前、紗耶香に話しかけてきたのはこの高校の生徒会長兼クラスメイトの


鳳凰院冴姫ホウオウインサキ』だった。


「鳳凰院さん」

「冴姫でいいですよ!それより今日の放課後、ちょっと時間取れます~?」

「ええ、まあ少しだけなら・・・、何か用?」

「ちょっとお話したいことがありまして、それではまた後程~」

「あっ、ちょっと!」


要領を得ないまま放課後になり、生徒会室に向かう。


「ごめんなさいね来てもらっちゃって」


まぁ座って座ってとソファーに促し、部屋の鍵を閉める。


「で、大事な話?」

特にこの子と仲がいいわけではないので、何の話か見当がつかない。


「そうですねー」

おっとりとした雰囲気の大和撫子は、急に雰囲気を変え質問する。




「昨日ファミレスで何してたんですか?」




(見られてたのね)


一瞬の出来事だったとはいえ、迂闊だった。


「後輩に口づけを迫られまして、受け入れてました」

「そうなんですか」


冴姫はスッと立ち上がり、私の隣に座りなおす。


「紗耶香さんって、やっぱりそっち系だったんですか?」

ねっとりと太腿の部分に手が置かれる。


「違いますよ、私のお願い事を聞いてもらってたんです」

「どういうことですか?」


別に隠しているわけではないので、正直に話す。


「私、人を好きになる気持ちが分からないの」

「だからいろんな人と付き合って、恋という気持ちを研究してるんだけど」

「全然駄目で、それで昨日のは今付き合ってる子がキス好きで」

「無理矢理恋心を生み出してくれようとしてくれたワケ」


真面目な顔で聞いていた冴姫が口を開く。

「なら男とデートすればいいのでは?」


「なんで?」


「普通に自然の摂理ですよ。男は女、女は男を好きになるんです」

「ここ女子高だし、出会いとかないでしょ」

「なら逆ナンでもすればいいのでは?」


この子からそんな言葉が出るとは思わなかった。


「嫌よ!それで変な奴に引っ掛かりたくないし」

「じゃあアルバイトはどうですか?この学校禁止ではないですし」

「そんな時間ないわ」


冴姫は深く考え込んで、


「今から質問することに正直に答えてくださいね?」

「わかった」


「自分は好きですか?」

「まぁ好きね、結構というかかなり」


「家族は好きですか?」

「分からない、好きでも嫌いでもない」


「人付き合いは得意?」

「普通ね、意思疎通は出来てるわ」

「でも一人でいることの方が気楽ね、出かけるのも一人が多いわ」


「誰かが死んだら悲しいですか?」

「身近な人?全然、母親もクラスメイトも死んでも何にも感じない」

この気持ちが怖い、自分には血も涙も流れてないのか?


「八方美人ですかね?」

「まぁそうかもね、深く関わる人もいないし」


「長くなってごめんなさい、大体分かりました!」

彼女は嬉しそうな顔で両手をパチンと拍手する。



「紗耶香さんはズバリ!寂しがり屋のナルシストさんです!」


「はい?」


「それなのに人との関係を持とうとしなくて、周りの事象に興味がない!」


「ハッキリ言います!今のままだと一生恋する気持ちなんて分からないです!」


「根底に『ワタシこのままでいーや』っていう心理も見えますね」


「ちょっとちょっと、言いたい放題言うじゃない」


「紗耶香さんは好きなモノありますか?」


「・・・読書かな、漫画とか好き」


「想像してみてください」


「その漫画を読んだ時、誰かに話したくなったりしませんか?」


「まぁあるかも」


「誰かと仲良く喋ってます。お互いの趣味が合います、貴女達は話し込みます」


「次第にこの人といると楽しいと思えてきます」


「お互いそう思って居心地がよくなったら、それはもう好きなんです」


「ほんと?」


「そこはまだゴールじゃありませんけどね」

「厳密にいえば好きのベクトルが趣味やモノから人に移っただけです」

「つまり当たり前すぎて好きという気持ちに気づけてないんですね」


「・・・・・・」

果たしてそうだろうか?


「あっ、今疑ったでしょ?」

プンスカと怒る冴姫。


「ち・な・み・に-」


「紗耶香さんが恋愛できない原因、他にもあるんですけど聞きたいですか?」


「それを早く教えて」


「それは秘密です!!」

ビッと指をさされる。


「なんで?本当は分からないんでしょ?」


「紗耶香さん、今度彼女さんとデートしてください」

「その時その人といて、楽しいかどうか考えながら動いてください」



「それでも分からなければ、またここで話しましょう♪」



そのまま無理矢理追い出されてしまった。


「何だったのかしら」

しかし無駄な時間だったとも言い難い。


「デートか・・・」

日曜日、遊園地のことを思い出す。


とりあえず私は部活に行くことにした。





「あれ、今日彩は休み?」

「うん、なんか用事あるらしいよ」


昨日のことがやはり・・・。

悪いことはしたなと思いつつも、私にはどうすることもできない。

メッセージで心配の連絡は送っておく。



「お疲れさまー」


いつもと同じように、彼女は校門に立っていた。


「また待っててくれたのね、ありがとう」

「ん」


彼女は手を差し出してくる。


「ごめん、またいいかな?」

「いいわよ」


いつもの公園に向かうが、今日は人が多い。


「ウチくる?」

「いい?」

「ええ」


家に帰ると、珍しく母がいた。


「お帰りなさい・・・、あら?お友達?」

いないと思っていたのだからびっくりする史夏。


「あっ、はいそうです!」

「そっか、いつもお世話になっています、紗耶香の母です」


丁寧な挨拶と、その容姿に目が奪われる。


「何飲む?」

「えっ?あっ、じゃあ緑茶で」

「部屋で待ってて」

「うん・・・」


「あの子、前もウチ来たことある?」


リビングで仕事をする母に聞かれる。


「ええ、最近仲良くしてる後輩なの」

「そっか、彩ちゃんも元気?」

その名前に一瞬動きが止まってしまう。


「元気よ、相変わらず」

「そう」


短い会話を終え、飲み物を持って部屋に入り、しっかり鍵もかける。


「紗耶香のお母さん、めっちゃ美人だね」

小声で私に耳打ちする姿がなんだかおかしい。


「まあそうかもね、見た目と身長は母親譲りかも」


「はい、どうぞ」

「あっ、ありがと」


史夏は緑茶を冷ましながら、部屋を見渡す。


「なによ、人の部屋ジロジロ見て」

「いや、整理整頓された部屋だな~って」

「そう?比較対象がないから分からないわ」

「ならさ、今度ウチに来なよ」


思いがけない返答に、少し考え込む。


「あっ、人の家苦手なタイプ?」

「いえ、別にそういうわけではないけども」


そういえば、昔は彩の家にもよく行っていた。

いつからか人の家に行かなくなったなと思い返す。


「ところでさ・・・」

「いいけど、今日はあんまり音出さないでちょうだいね?」

「うん、それじゃあ」


「・・・・・」


まずは軽くする。

その後史夏が、「ベッドで寝たい」というので仕方なく上がらせる。


「こういう風に紗耶香が下になって」

「はいはい、こうね」


なんだか押し倒されたような気分だ。


(もし、これが少女漫画の世界だったら)


(好きな子に押し倒されたヒロインは、すっごくドキドキしてるんだろうな)


自然と手が史夏の心臓に伸びる。


「んっ、ちょっとダメだって!」

慌てて手がどかされる。

「ごめんなさい、アナタの心臓の音、聞きたかったの」

「えぇー」

彼女は少し恥ずかしがった後、私の右手を掴み、心臓に当てる。


「どっ、どう?」


鼓動の間隔が短くなっていく。


元から早いのか、今の行為で早くなったのか。


「じゃあ私は?」

史夏の頭を抱き寄せ、耳に心臓を当てさせる。


「・・・」

「どう?」

「・・・ドキドキしてる」


嘘ね。


「ウソでしょ」

「いやホントにしてるよ!?」


私は自分の心臓に手を当て、意識を集中させる。


ドクンドクンドクン。


「確かに、いつもよりは早いかもね」

「かもね」


そのまま首筋に優しい手ほどきをされる。


「ちょっとくすぐったいかも」

「首も長くて白くてキレイだよね」

「今度の遊園地、楽しみにしてるわ」

「・・・アタシも」


二人はそのままベッドに横になる。





いつもは冷たい孤独な部屋も、今日は少しだけ温もりを感じられる気がした。





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