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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
氷の女神と冴島史夏
16/42

第十六話 本当にアナタが大好きだから 【第一部完】

区切りがいいので紗耶香×史夏編は今回で完結です。

1~15はいつか手直ししたいです(不適切描写で警告をされたので)

周りの雑音が聞こえなくなるくらい、


頭が押さえつけられ、水の中にいるような感覚。


耳が詰まって、グワングワンする。



立ち上がれるようになった頃には、残響と火薬の匂いだけが残った。


「紗耶香さん?って大丈夫ですか!?」


探しに来てくれたのか、冴姫に支えられる。


「えぇ、少し挫いてしまって、そこまで酷くないわ」


とはいったものの、足の痛みも感じられないほど、胸の内が痛む。


「ちょっと顔洗ってくるわ」


「わたしも行きましょうか?」


「ううん!大丈夫だから!戻ってて、すぐ行くから・・・」


「・・・分かりました、ここの入り口で待ってますね」


「ありがとう」


よろよろと足の感触を確かめながら地面を踏みしめる。


「ッ・・・!」


力の加減を間違え思わずよろめいてしまう。


「・・・・・・」


もう隣には支えてくれる人もいない。





「紗耶香先輩、どうしたんでしょうね~」

「帰る時悲しそうな雰囲気でしたけど」


後日、彩と秋、朔夜は三人でお茶をしていた。


「う~ん、どうだろうね~」

「ちょっとは心配してよ!」

「してるさ、でも今はそっとしておいてあげよう」

「あっ、ほったらかすわけじゃないよ?」


「まぁアレですわ」


手元のアイスコーヒーに口をつけながら思いを語る。



「史夏の記憶喪失の件といい、並々ならぬ事情があるんですのよ」

「それに、冴姫はワタクシ達に嘘ついてそうなんですよねぇ」


コロコロと紙の包装紙を指でイジる。


「どういうことですか?」


「勘よ。あの子平気で嘘つけるのよ、巧い位にね」


「でもそれは、人を傷つけないようにする嘘だよね?」


「僕もそういうのは使っちゃうな」


「たしかに、言われてみればそんな時あったかも・・・?」


「大人にならないといけない家庭環境だったものですから」

「性格は優しいけどかなりドライで現実主義リアリスト

「ホント怖い子ですわ」


「・・・それで、朔夜ちゃんは冴姫ちゃんが僕らにどんな嘘をついてると思う?」


「確証はないのですよ、何の目的でそうしてるのかも分かりませんけど・・・」


朔夜は二人に話し始める。





「誕生日おめでとう!」


8月25日、地元のフレンチレストランに集まり史夏の誕生日を祝うことに。


「史夏ちゃん何歳になったんだい?」

「今日16歳になりました!」

「いいね~若いね~」

「殆ど変わらないでしょ・・・私も後二か月で16歳か~!」


「紗耶香先輩ももうすぐですよね!」


「ええ・・・30日に17歳になるわね」


「そうなんですよね!なので今日は一緒に祝っちゃいましょー!」


「ありがとう」



「あっ、このオニオンチーズグラタンおいしい・・・!」

「あっつ!あっついですわ!」

「火傷必須だからね、どれ?僕が冷ましてあげようか?」

「いいですわよ!」

「フフフ、ホント親子みたいですね」

「朔夜先輩ごめんなさい・・・」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


(((気まずい)))


(あの子達、記憶喪失があるとはいえあんなに仲悪かったかしら?)



「さて、ではメインイベントの」


室内の電灯が消され、大きなホールケーキが運ばれてくる。


「ハッピバースデー♪」


私達の前に運ばれてきたケーキを見て息が詰まりそうになってしまう。




『フミカ&サヤカ』

『誕生日おめでとう』




フルーツで彩られたケーキに乗るバースデーチョコレートプレート。


それを見た途端なぜだか涙が出てしまう。



「じゃあ二人でローソクを消してもらいましょー!」



わーと盛り上がる他の四人、写真を撮ったりムービーを撮ったりしているようだ。



「せーの!」



フーとロウソクに息を吹きかけた時、横目に彼女の瞳が映った。




その時―――




確かに―――




史夏も泣いていた。





「パチパチパチ~!おめでとうございまーす!」


灯りが付き、お互いの顔を見合う。



「「プッ、アハハハハ!!」」



二人一緒に泣いてるのが妙におもしろくて、心の底から笑い合う。


「何その顔?!アンタなんで泣いてんの?!」


「アナタこそ、結構純情なのね」


とりあえず場が和んでよかったと思う冴姫、


「それじゃあケーキ切ってもらいましょう!その間に~」


皆それぞれなにかを取り出す。



「わたし達、お二人にプレゼント買ってあったんですよ~」


「今日の昼間に集まって買いに行ったんだ」


「気に入ってもらえるといいんですけれど」




「まずはわたしから、どうぞどうぞ」

紙でラッピングされた包装を開ける。


中から出てきたのは可愛らしい装飾が施された日記帳だった。

史夏も同じのを手にしている。


「これからのことを是非書き留めてみてください!」

「いつか見返した時に、きっと嬉しい気分になりますよ♪」


「ありがとう冴姫」「毎日頑張ってつけてみますね!」



「次は僕からだ」

箱から出てきたのは帽子だった。


黒いキャップで、フロントにポップな英字がプリントされている。


「彼女は似合うと思うけど、私に似合うかしら?」


「君のような真面目そうなタイプがこういった小洒落たのを被るべきなんだ」


言われた通りに被ってみる。


「たっ、確かに少し砕けた感じだから可愛い感じ出てますね!」

「色は派手じゃないから目立ちすぎないし、流石アキだね!」

「だろ?」


「秋さんありがとうございます!早速帰り被ろーっと!」


「次は私ですね!」

高級そうな箱を開けると何本かスプレーが入っている。


「紗耶香先輩と、史夏ちゃんをイメージしたフレグランスミストです!」

「帰ってから嗅いでみてくださいね!」


「試してみるわ、ありがとう」



「最後はワタクシから」

透明なビニールの中にかわいらしいクマの人形が入ってる。


「紗耶香がオスで、史夏がメスの兄妹クマよ、大切にしてあげてね?」


「朔夜さんのチョイスってやっぱり子供っぽいですね」

「すっ、好きなのよテディベアが!」

「ありがとね朔夜、毎日抱いて寝るわ」

「フッ、フン!」



「史夏ちゃんは紗耶香先輩に何か渡さないの?」

彩は純粋に質問したが、すぐに察する。


「アタシさぁ~、この人の誕生日知らないんだよね・・・」


ポリポリと頬を掻き目を逸らしてしまう。


理解してたこととはいえ辛い。




『誕生日、一緒に祝えるね』




(・・・そうね)


「ごっ、ごめんねそんなつもりじゃなくて!」

「わかってるよ!それじゃあアタシも今度なんか探しとくね」



「紗耶香さんはなにかご用意されたんですか?」



「ええ・・・、まぁあるにはあるのだけれど・・・」



出し渋ってしまう。


興味なさそうにしてるこの子に渡すべきなのだろうか?


「紗耶香さん?」




「これ、私からアナタへの誕生日プレゼント」




差し出された紙袋に入った洋服を広げてみる。


「セーター・・・」


深みのある紅色のセーターは肌触りもよく暖かそうだ。


「素敵ですね!紗耶香さんらしい!」


「これから夏も終わって寒くなりますもんね~」



「・・・・・・ありがとう」


「・・・どういたしまして」



気に入らなかっただろうか?



本当は秋も、冬も、春も、一緒に過ごせればと贈った物だが、必要なかったか。



「あっ、ちょうどケーキもきたところですし、食べましょう」





「今日はホントありがとうございました!」


時間も遅いので現地解散をする女子達。


「私達三人は向こうの駅から帰ろうと思うんですけど、皆さんどうです?」


「わたしは少し歩こうと思います」

「アタシもちょっと予定が・・・」


「紗耶香先輩はどうしますか?」


「・・・私も電車で帰るわ」



「じゃあ夏休み最後まで楽しんで~」

「ありがとうございますー・・・」



残された二人は神妙な面持ちで歩き出す。



「冴姫さん・・・ちょっといいですか?」


「・・・はい」





8月30日


高校二年最後の夏休みに、冴姫は紗耶香の自宅で夏休みの宿題を終わらせていた。


「いや~やっと終わりましたね」

「予定通り進んでよかったわ」

「継続は力なりですね~」

「・・・そうね」


昼下がり、外はセミの鳴き声に溢れており、窓ガラスが結露している。


エアコンの効いた涼しい室内が心地いい。



ミンミンミンミンミンミンミン・・・。



ボーっと何も話すこともなく、ゆっくりと時間が過ぎる自室、




冴姫が口を開く。






「紗耶香さん・・・、大事なお話があります」






改まってこちらに向き直り、近くにあった紙袋を手元に寄せる。


その中から『手紙』を一枚取り出し、読むようにと渡される。




「これは史夏さんから託された『想い』の手紙です。中身はわたしも知りません」




「わたし、少しの間リビングにいます。どうか心を強く持って」




席を立つ冴姫。




(なにかしら・・・)




封を切る。




紙をめくると可愛らしい文字がビッシリと書かれており、その上から順に読む。





拝啓、須藤紗耶香さまへ、って改まって書くと照れるね。

まず最初に謝りたいことがいっぱいあるんだ。

過去を隠してたこと、こないだの神社のこと、今日までの態度、キリがないね。


なんでこの手紙を書いてるのかっていうと、


私、9月から転校するんだ、外国の学校に。


両親の都合でさ、前に話したよく出張に行くって話あったじゃん?


あれなんだ。


今の家は姉弟出てっちゃうし、両親も海外行くし、私一人になる。

ならあの事件のこともあったし、引っ越した方がいいかなって決めたんだ。

こないだみたいに一緒にいる時に絡まれて、迷惑をかけるかもしれないし。


伝えられたのが付き合ってすぐだったから、言えなくて、今まで隠してたの、


ごめんなさい。


冴姫さんにだけは協力してもらってた。でも責めたりしないであげてほしいの。


記憶喪失も嘘だった。


階段から落ちたのが本当。その時冴姫さんの家の人に助けられて、

病院に行く途中に冴姫さんと電話したんだ。


私の話を紗耶香から聞いてくれてた冴姫さんは、一つの提案をしてきた。



「別れを辛くしない為に、いっそ嫌われてしまえばいいのでは?」ってさ。



私はそれに乗った。




紗耶香が冴姫さんと話して、私のことをそれでもなお好きと知っても。


私は合わせる顔がなかったから。引っ越すから。全てを失った方がいいと思った。


大好きな人にあんな姿を見られて、本性まで知られてさ。



もしね、紗耶香に病院で謝れてたら、『別れたくない』って言われたら。


多分苦しくて苦しくて、今生きてなかったかもしれない。


あなたのことが大好きだったから、これ以上嫌われたくない。


でも私はあなたに嫌われる人生を送ってきた人間。


頭の中で、心の中で感情っていうのが混ざり合って。


どうにかなりそうだった。


ベッドから紗耶香の顔を見た時、なんにも考えないように、役に徹した。



毎晩引っ越しの準備をしながら泣いたよ。


少しでも紗耶香のこと考えないようにした。


でもスマホにも、衣装ケースにもあなたがいるの。


『会いたい』って送信出来たらどれだけ楽になるかって思った。



花火大会の時はごめんね?


紗耶香に酷いこと言ってる時、ホントに苦しかった。


積み上げてきた友情を崩すのってこんなに痛いんだって。


あの時屋台を廻って楽しんでた紗耶香の笑顔、本当に可愛かった。


願わくばあの隣に私もいたい、何度も何度もそう感じてた。


ちょっとだけ冴姫さんに嫉妬しちゃったのはナイショね?


一緒に打ち上げ花火見たかったのに、あんな邪魔の仕方してごめんね。


まだペンダント着けてくれてたのすっごく嬉しくて涙が出そうだった。


無理矢理奪おうとした時も、『大切な人の』って言われてやめようかと思った、


でもあれは私なりのケジメだったの。


転ばせたときはごめんね、怪我なんてさせたくなかった。


泣き顔も見たくなかった。笑って花火が見たかった。


でも不器用でごめんね、あれしかやり方が分からなかった。



誕生日おめでとう!

17歳だよね!

一緒の場所でお祝いできて嬉しかったし、楽しかったよ!


料理も皆のプレゼントもケーキも、全部最高だった。


朔夜さんのクマさん人形は変化球だったね。


日記帳に毎日なにかしら書いてるんだ。


紗耶香に会いたいってことばかり書いてる。


ローソクの火消した時、笑っちゃったね。


紗耶香の顔見てたら私も泣いてきちゃって、それが面白くってさ。


あの時は危なかったな~。



プレゼント、赤いセーターありがとうね!


今から着るのが楽しみすぎて仕方ないの、実は恥ずかしくて出せなかったけど、


私も少し前に、セーター買ってたんだ。


紗耶香のことが心配で私の選んだ服をあなたが着て、


毎日健康に過ごして、あなたの近くにいなくても守ってあげられればって思った。


これだけはどうしても贈りたかった。


紗耶香も私のことを考えて同じのを買っててさ、


私とのこれからをちゃんと考えてくれてたんだよね?


あの時ね、声上げて泣きそうになっちゃった。


気に入ってくれると嬉しいな、私のプレゼント。


後、花火大会の時の私、浴衣姿可愛かったかな?



もっといっぱいかきたいんだけど、あんまり書きすぎると未練たらしくなるし、


そろそろ終わるね。


多分、向こうに行ったら連絡先も、『冴島史夏』って子の記録は消すと思う。


私、とんでもない悪人だしさ、皆とあんまり仲良くするべきじゃないんだよね。


場所も外国だし、探しに来なくていいよ。


本当にね、紗耶香のこと大好きになれた、世界中で一番の大好きな人。


多分これからあなたより素晴らしい人なんて出てこないと思う。


でも言ってたよね?人は環境や時間で変わるって?


そうだと思う。


私も変わるべき時が来たんだよね。


海で話してくれた、紗耶香は私の為なら二番でも三番でもいいって言葉、


あれ私も同じ、でも一つ違うのは、



須藤紗耶香あなた冴島史夏わたしにとってずっと一番だから、それは忘れないで。



書き終えるの嫌だなぁ。


今はもう空港で、飛行機に乗ってるかも。


皆にも謝ってたって伝えてほしいな、最後まで迷惑ばっかでごめん。


未だに紗耶香に嫌われてないなら、作戦は失敗したかも。


帰るのはいつか分からないから、紗耶香も別の人好きになって、生きてほしい。


私に縛られてほしくないから、これも同封しておくね。



本当に本当に最後になるけど。



紗耶香といた日々は絶対に忘れない。私の大大大好きな人。



だから、私を嫌いになって、忘れるためにも。




私と別れてください。







封筒の中にはペンダントが二つ、入っていた。


両手でそれを握りしめる。



涙で濡れてしまった便箋はふやけてしまわないようにティッシュで水分をとる。



紙袋の中には紺色のセーターが入っていた。シンプルなデザインで私らしい服。



それをぎゅっと抱きしめる。




私は部屋を出て、冴姫の元へ向かう。




彼女は何も言わず、ただ抱き締めて、慰めてくれた。




ずっと、ずっと。




「紗耶香さん、わたしも本当にごめんなさい」


抱き締めながらあの時のことを語ってくれる。


「史夏さんから引っ越すことは聞いてましたから、思い出作りに協力してました」


「電話を受けた時、最低最悪の提案をしてしまった」


「もっと他にも方法が絶対あった筈なのに」


「今は後悔しかしてないです」



「誕生会の後、史夏さんは手紙とプレゼントを渡してきました」


「すっごく嬉しそうに貴女と同じものを送り合えたって喜んでた」


「あの笑顔が泣き顔に変わった時、自分を絞め殺したくなった」



「大事な人との別れなら、悲しくても笑顔の方がいいに決まってる!」



「そんな簡単な事にも気付けなかったわたしの馬鹿らしさを憎んでください」



「彩さん達にはわたしからしっかりお伝えします」


「誕生日の日にこんな辛い思いさせて、本当にすみませんでした」




「・・・」




「・・・紗耶香さん」




「・・・ごめんなさい冴姫・・・今日の所は一人にさせて・・・」




「はい・・・」





「急に集まっていただいて申し訳ありません、皆さんにお話ししたいことが」



「「「・・・」」」



冴姫の家に呼ばれた事情を知らない面々に、今までのことを隠さず話す。


「喋ってみた時はそんなに悪い子には見えなかったですけどねぇ」

「私も全然知らなかった」

「誰しも暗い過去があるものだが、二人は相性が悪すぎだね・・・」


「本当はもっと早くに話しておくべきでした」



「史夏さんとの別れの挨拶もなしになってしまって・・・」



「ふぅん、隠し事はされてたと思ってましたけど、事が事だけに、ね」


「史夏ちゃんの気持ちすっごく分かります、どうしよもなかったんでしょうね」


「それでも結果的に見ればどちらもスッキリしないで明日を迎えるわけだ」


「「「「・・・・・・」」」」


「冴姫、ちょっと屈みなさい」


「?、こうですか?」




バチンッ!」




痛恨の一撃が冴姫の頬を破裂させる。



「いっったぁ~~~!」



「ワタクシ達に何の相談もしないで話を進めたバツです」

「貴女、やっぱり一人で請け負おうとする性質タチがありますわ」


「そういう時は、友達に頼ってもいいんですのよ」


「朔夜さん・・・」


「それじゃあ後二発、頑張りなさい!」


「紗耶香先輩と史夏ちゃんを泣かせた分、耐えてくださいね?」


「うえぇ~~~ん!」





「これでワタクシ達の問題は終わりですわ!」

「後は・・・そうだね」

「紗耶香先輩ですよね・・・・」


「フン!(どうしたものかしらね・・・)」

次回は一年後が舞台の日常編(予定)

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