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恋をしたいと願うなら  作者: 佐伯春
氷の女神と冴島史夏
13/42

第十三話 冴姫の理由と私達の将来

検閲済み

大幅修正アリ

「あれ~、紗耶香どこ行ったんだろ」


ガヤガヤと賑わいを見せる海の家で、昼食の買い出しに来ている史夏と冴姫。


「お二人なら海の沖合まで遊泳してましたよ」

「そろそろ戻ってくるんじゃないでしょうか?」


「あっ、向こうの方にそれらしい人影が、わたし達も早く買って戻りましょ」

「そうですね!」





「とりあえずさっきのことは秘密にしておいてね」

「わかっていますわよ」


浜辺に戻った二人は密約を交わし、別荘に戻る。


「調子はどう?」


「あ、紗耶香先輩、朔夜さん。泳がれてたんですか?」


「えぇ、向こうの岩場と・・・、その向こうの海に浮かぶ神社までね」


「結構遠くまで行きましたね・・・冴姫さん達はお昼買いに行ってます」


パラソルの下で本を読んでいた彩に朗報を聞かされる。


「少し泳ぎ疲れたわ、もうお腹ペコペコよ」

「ワタクシもですわ」

「あっ、これ飲んどいたほうがいいですよ」


彩に渡された清涼飲料水に口をつける、気が利く後輩だ。


「炎天下の疲れ切った身体に染み渡るわ」

「なんだか夏らしいCM気分を味わえますわね」



「みなさーん!お昼ごはん買ってきましたよ~」



大きな袋を抱えたコンビも戻ってきた、何が出てくるのだろう。


「無難に焼きそばとイカ焼き、カップラーメンにお好み焼きとか・・・」

「えらい買ってきましたわね、でも今日は食べられる自信がありますわ」

「海で食べるとまた違った美味しさがあるわよね」

「アキ、ごはん食べよ」


椅子付きの長テーブルに着席し、食事を楽しむ女子達。


「冴姫はカッコいい人発見できた?」

「そう!聞いて!さっきアタシ達ナンパされたんですよね~」

「そしたら冴姫さん固まっちゃって、ロボットみたいになってましたよね」

「史夏さん!」

「海鮮焼きそば美味しいですね」

「こういう海の家ならではの料理も悪くないものだね」

「イカ焼きとか久々に食べますわ」


物凄い勢いで昼食を消化した後は、後半戦に突入する。


「アキ!そっちいった!」

「オーケー!・・・そらっ!」


「げべ!」


朔夜の顔面に強烈なスパイクがヒットする。


「すまない!大丈夫かい?!」


「だ、大丈夫よこれぐらい、見てなさい!倍返しにしてやるわ!」


ビーチバレーをする者や、


「砂暖かくて気持ち~」


「顔だけ日焼けしちゃいそうね」


「さっき結構焼き込んだから大丈夫だと思うけど、そうなったら面白そう」


砂風呂を楽しむ者達、



そうして時間も少しづつ過ぎていき・・・。



「綺麗な夕焼けね、波音も心落ち着かせてくれるわ」



波打ち際を散歩する紗耶香と史夏。


「紗耶香・・・ステキだね」

「ん?どうしたのいきなり」


夕陽に浮かぶ大きな麦わら帽子と、風になびくパレオ、振り返りざまの笑顔。


「ホントに、アタシあなたと出会えてよかったと思ってるよ」

「そう、私もよ」




「少しだけ泳がない?」




「水、冷たくなってきたわね」

「潮も満ちてきたからさっきよりも深く感じるわ」

「帽子と服、飛ばされないかな?」

「大丈夫でしょ」


もうこの時間は人もまばらで、周りには誰もいない。


二人は肩の辺りまで海に浸かりながら、思い出話に花を咲かせる。


「ねぇ史夏、今から言うこと、怒らないで聞いてくれる?」

「えーなになに、チョー含みある言い方なんですけど・・・まぁいいよ」

「本当にね、悪いのは私なんだけど・・・」


申し訳程度の罪滅ぼしの為、ハグをしながら伝える。



「朔夜とシちゃったの」


「エッ、えぇー?!」



浜辺の人にも聞こえるんじゃないかってくらい大声で驚く彼女。


「ちょっとうるさいわよ」


「いやいやいきなりすぎてビックリなんだけど?!どこで?!いつ?!」


怒りよりも驚きの方が先にきた。


「あそこの岩場でちょっとね」


「人に見られるとか考えなかったの!?」


「ごめんなさい」


「よーやるわとしか思わんわ・・・それで、どっちが先?」


「私から誘ったの、彼女、シたそうな雰囲気だしてたし」


なんというか、目の前の美女に呆れてしまう。


「大丈夫、怒りはしないよ・・・ちゃんと話してくれたし」


「それで、ちゃんと一回だけって言ったんでしょうね?」


「・・・・・・うん」


「絶対嘘じゃん!またヤル気でしょ!?」


「・・・・・・そんなことないわ」


「ハァー、しょうがない人だね。まぁ朔夜さんだし別にいいけどさ」


「・・・いいの?」


「悪い人じゃなさそうだし、元カノでしょ?」



「でも、ハマりすぎてお互い戻れないところまでいくのはナシね」



そこだけは強調しておく。



「わかってるわ、それに私達『姉妹』ってていで楽しんだんだから」


「こうやって」


耳の奥底に語りかけるような美声で囁く。




「史夏おねぇちゃん」




「って」



溶かされそうになるほどの甘い贈り物。



「あっ、もっといって」




「私、おねぇちゃんとキスしたいの」




海面が少しづつ上がって、水温も下がってもうでなきゃいけないのに。




「・・・うん」




こんなにのぼせてたら、暫くはでられそうにない。





「うー、流石に冷えてきたね」


荷物を取りに浜辺まで戻るが、少し後悔する。


「長すぎてびっくりよ」


「しょうがないでしょ!最近会える時間減ってたんだから!」


「後でどこかでする?」


無言でコクリと頷く史夏。





「お帰りなさーい」


何やらテラスで作業している友人達。


「おっそいですわよ貴女達!早く手伝ってくださる!?」


「今バーベキューの準備をしてたところなんですよ~」


「おー!お肉と野菜よりどりみどりだね!」


「こういうセッティングも皆でやると楽しいものだね」


「私、学校の行事以外でこういうことしたことないわ」



「みんな焼けたよ!好きな物とっていいからね」


「「「おー!」」」


いつもとは違う食事に舌鼓を打つ六人。



「なにからなにまでホントありがとね」

「いえいえ~、皆さんが楽しんでいただければわたしは満足ですよ」


落ち着いてきたタイミングを見計らって、冴姫に本日のお礼を言う。


「平和ですね~」


昼とは打って変って、夜の静かな海も風情がある。


「星があんなにたくさん見えるわ、都会の空は窮屈でたまらないわよね」

「夏の大三角形もくっきり見えますね!」


海が波打つ音と、後ろの喧騒の華やかさにキュウッと寂しさを覚えてしまう。


「ねぇ冴姫?」

「はい?」

「・・・アナタがいてくれてよかった、感謝してもしきれないわ」

「いいんですってば~」

「違うわ、今までのことよ」


「なんで私と仲良くしてくれようと思ったの?」


木の手すりに体重をかけて、遠い目をしながら話し始める。



「それはですね~」



「わたしも紗耶香さんと、同じだったから」



暗い水面に月明かりだけが反射して、揺らめいてる。


「最初にあのキスを見た時、そりゃもうびっくりしましたよ」


「同性同士で、しかもよりによってあの『氷の女王』」


「まさに青天の霹靂」


「噂のことは知ってましたが、レズのフリしたノンケだと思ってましたから」



「貴女と話た時、貴女の心の隙間を覗いたような気になったんです」


「わたしも知りたかった好きという気持ち。まるで合わせ鏡みたいに」


「あそこで愛だの恋だの語ってましたが、殆ど出鱈目だったんですよ?」


「・・・そうだったのね、でもあながち間違ってもないと思ってた」


「いわゆる統計学的なお話ですよ、心理テストと同じです」


「相談に乗る中で自分にも言い聞かせてました、恋する気持ちはこうなんだって」



「わたし、将来的には跡継ぎを産まなくちゃいけないんですよ」


「それなのに小中高女子校で、男の人に対する免疫なんて全くないんです」


「だから無理してでも男性経験を積んでおかなきゃって思ったんですけど」



冴姫は後ろに向き直り、皆の方を優しげな眼差しを送る。



「皆さんと一緒に過ごしてから、わたしも実は女の子の事が好きなのかなーって」


「最近そんな風に思えてきたんです。それが本心かはまだ分からないですけど」


「だからいつも外面だけは男性が好きってことにしておきたかったんです」


「心の中の天秤は『女』に傾きっぱなしですけどね」


「・・・・・・」


「こんなこと話せるの紗耶香さんだけなんですよ?」


「二人だけの秘密です♪」



「いつか冴姫にとっての本命、見つけられるといいわね」


「環境で変わりますよ、考え方も、恋愛観も」


「この先生きて、大学生になって、社会人になって」


「その時一番自分とフィーリングが合う人間といれればいい」


「でも今は!皆さんがわたしにとっての『特別』ですから!」


「これからもよろしくお願いしますね♪」



「ちょっとー!貴女達も片付け手伝いなさいよ~」


「はーい!今行きまーす!」



(環境で変わるか・・・)



そうだ、私達が生きてきてまだ17年しか経ってない。


今は史夏のことが好きだが、将来は別々の道を歩むかもしれない。


お互い彼氏が出来て、結婚して、子供が出来て、そんな未来も。



でもまだ分からなくていい、このままでいい。


もし乗り越えられない壁に行く手を阻まれたら、


またその時悩んで、悩みぬこう。





「お風呂は二組に別れて入りましょう!」



「そんなに人数入れるの?」

「はい!四人ぐらいなら大丈夫なので、なら三三の方がいいでしょ?」

「僕はそれでいいよ」「私も大丈夫ですよ!できれば紗耶香先輩と・・・」

「私達もいいわよ」「しょうがないですわね」


「それじゃあグッとパーでわかれましょ!」



「それじゃあ先に入るから」

「なんだかこの三人だと親子みたいだねぇ」

「なんでワタクシがこのグループなのよ!」





「ふぅー生き返るなー」


大きな湯舟に全身を泳がす秋、それでもまだ余裕がある広さだ。


「さーくやちゃん!」

「なっ、なんですのよ!」

「朔夜ちゃんてさぁ、ホント赤ちゃんみたいだよねぇ、食べちゃいたい♪」

「ヒッ!?」

「こらこら、あんまりイジメないであげてよ」

「はいはい、それにしても・・・」


秋の眼光は湯船に浸かろうとする紗耶香の肢体を隅々まで観察する。


「一目見た時からいい体してると思ったけど、ここまでとは・・・」



――――――――――



「あの三人、盛り上がってますね~」

「どーせアキがセクハラしてるんですよ、ほっときましょ」

「それより『僕が君になる』の最新刊読んだ!?」

「読んだ読んだ!めっちゃ良かったよね~」



後続組はほのぼのとしたガールズトークでお風呂も楽しんだ。





「そろそろ寝ますよ~」


入浴後パジャマに着替えた少女達はリビングでカードゲームに興じたり

映画を観たり談笑したり、就寝前まで時間を有意義に過ごしていた。



「ごめんなさい、部屋が三部屋しかなくてベッドもキングサイズ一つなんです!」


「いいよいいよ、二人で一つで構わないさ」


「じゃあ誰と一緒に寝るか決めますか!?」


「彩、すごいテンションだね・・・」


「そうね、それじゃあ冴姫、一緒に寝ましょうか?」


「えっ、わたしが紗耶香さんと?」


「でえぇ!?アタシじゃなくて!?」


「一番安全そうだから」


「ガーン。じゃあ朔夜先輩、私と一緒に寝ましょう?」


「おっと、僕もフラれちゃったかな?」



「フフ、冗談よ。史夏、一緒に寝ましょう?」


「もー吃驚させないでよー」


「わたしは朔夜さんをぎゅーっと抱いて寝ますから気にしないでください」


「ワタクシは人形じゃないわよ!?」


「ちぇー、じゃあ私はアキでいーよ」


「フフ、ホントは嬉しいクセに」



「私達は奥の部屋使うわね、お休みなさい」

「僕達は一番手前でいいかな、また明日」

「じゃあワタクシ達は真ん中で寝ますわね、ふぁーあ、おやすみ」





「朔夜さん」

「・・・なにかしら」

「今日、いいことありました?」

「・・・あったわよ、過去の自分にケリつけれたわ」

「・・・そうですか、よかったですね!」

「振り出しには戻っちゃったけどね、あーあ、誰か素敵な人いないかしらね~」

「わたし達ならきっと、きっとまた運命の人に巡り合えますよ」

「そんな日がくればいいわね、それじゃオヤスミ」

「・・・・・・おやすみなさい、朔夜・・さん・・・」



「お風呂、紗耶香先輩になにかしてないでしょうね?」

「なんにもしてないよ?そんなことより・・・」

「ッ!?いきなりガッつきすぎだってば!」

「・・・・・・!」

「聞こえちゃうから!」

「頑張って我慢してね、今夜は寝かせないから・・・!」

「もうっ、バカぁっ・・・」





「やっと二人きりになれたね♪」

「そうね・・・嬉しい?」

「うん、すっごく嬉しいよ、今日も楽しかったし、皆ともっと仲良くなれたし」


――――――――――


「ここもまたおっきくなった?」

「アナタもすごい・・・手に収まりきらない・・・」

「紗耶香にいっぱい揉んでもらったからそのせいかも」

「夏休み・・・毎日会いたい」

「同じこと考えてた・・・二人で・・・皆で忘れられない夏にしようね」

「・・・史夏、大好きよ」





「おはよう冴姫・・・どうしたの?体調悪い?」


「いやー両隣の部屋から怪音がしてましてね~おかげさまで寝不足ですよ~」


「あら。それはまぁ・・・お気の毒に・・・」


「お化けか何かだったんですかね~不思議ですね~」



「おはよう彩!あれ?彩も寝不足?」


「・・・・・・疲れた」



「今日は片付けとか準備して、昼前には帰るようにしましょう」


「「「はーい」」」



紗耶香は外に出て深呼吸をする。日はまだ低い位置にあり、

潮風も相まって涼しい。


(空気がおいしい・・・こんな風に毎朝目覚めたいわね)


「さーやか!」横に史夏も並び、水平線の彼方を見ながら少し談笑する。


「昨日から思ってたんだけどさ、紗耶香のパジャマ姿エロいよね」

「脱いでた時よりも脱がせるときの方が興奮した」


「アナタ、結構スキよねそういうの」


「ねぇ、今度テニス部のスコート着てあげましょうか」

「それ最高」


「ん・・・風がきもち―ねー」


「・・・そうね」


「この海の向こうは外国でさ、文化も人種も言葉も違う人がいるんだよね」


「ええ」


「ウチの両親凄いと思うんだ。アタシがそんな場所に行ったらさ」

「周りに自分を知る人間なんていなくて、好きな人にも会えなくて」

「常に孤独感に苛まれながら生きていくんだろうな」


「・・・・・・」


「紗耶香はさ、高校卒業したらどうするの?」


「なーんにも決めてないわ、大学に行って、卒業して、社会人になる」

「そこにアナタもいればそれだけでいい」


「・・・そっかぁ、じゃあ結婚とかしちゃいたい?」


「けっこ・・!んんっ!まぁ冗談は置いておいて」

「そうね、アナタをずっと好きでいられることに疑問はないわ」


「ただ、史夏はそれでいいの?私をずっと好きで、結婚したいと思う?」

「素敵な男性といつか巡り合って、子供を作り、母親になる」



「そういう人生は考えてないの?」



「・・・・・・」



「ごめんなさい、言葉が悪かったわね」


「私はアナタの幸せの為なら二番目でも・・・三番目でもいいわ」


「冴島史夏の、幸せの為なら・・・いつか別れが来たとしても、受け入れるわ」



「そっかぁ・・・紗耶香は強いね・・・」


「人は・・・環境で・・・歳月で・・・きっと変わってしまう」


「それでも今この瞬間だけはアナタとの繋がりを強く持っておきたいわ」


「アタシもそう思うよ・・・でももし別れる時があっても、紗耶香あなたが一番だから」



「さて!湿っぽい話は終わりにして、朝ご飯食べましょう!」


「うん、そうだね!」



「いやーまた来たいね~」「秋さんすごい焼けましたね!」「・・焼きすぎたよ」

「そりゃ一日中太陽浴びてたらね」「今日も暑すぎですわホント!」


帰りのバスに乗る時、こっそりとお参りした神社にもう一度願う。





(また来年も・・・皆で・・・史夏と一緒にこれますように・・・)





次回は日常編

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