第十二話 海と水着と初恋と
一部文章修正済み。
「負けちゃいましたね・・・」
七月末のとある日、肩を降ろしながらコートを後にする生徒達、
紗耶香と彩が所属するテニス部は団体戦、三回戦で惜しくも敗れてしまった。
涙を流し慰め合う三年生や二年生、これが最後の試合となったものも少なくない。
「はぁ・・・」
大きな溜息をつく彩、今年は大舞台への出場も叶わなかった。
「秋はどうだったのかしら?」
「同じ三回戦負けみたいです。対戦相手が強かったって」
「まぁ別に私達はプロを目指しているわけではないしね・・・」
「世の中には自分より強くて努力をしてきた人がいっぱいいる」
「でもやっぱり、敗北の苦汁は何回経験しても飲み込めないわね」
「紗耶香先輩・・・」
「彩、私テニス部辞めようと思うの」
「・・・え!?」
「なんで辞めちゃうんですか!?」
突然の引退宣言に驚きが隠せない。
「深い理由はないわ」
「元々テニスは中学の時に続けてたから今もしてた」
「それだけ」
「最近は目標やモチベーションを保てなくなっちゃった」
「少し前から先輩にも相談してたことなのよ」
「アナタは続ければきっと上手になるわ。私がいなくてもきっと・・・」
悲しげな表情をする憧れだった人に、私は何も言えなかった。
「それが先輩の出した答え・・・選択なんですね」
「そう、ちゃんと向き合って選んだわ。悔いも残ってない」
「分かりました。私、先輩の分まで頑張りますから!」
こんな時だからこそ、後輩である自分が明るく振舞うのだ。
「さて、暗い話題は終わりにしましょう」
「そうですね!紗耶香先輩の水着姿楽しみ♪」
そうだ。
「何時集合でしたっけ?」
「朝六時よ・・・早すぎじゃないかしら?」
なんていったって明日から。
「待ち合わせは中真黒駅の改札ね」
「アキ大丈夫かなぁ、答々力の方ですし・・・」
「それなら自分が丘で乗ってくればいいんじゃない?」
「確かに、連絡しておきます!」
「・・・楽しみね、忘れられない夏にしましょうね」
「・・・はい!」
夏休みなんだから!
「・・・何時かしら?」
スマホをには五時と表示されている。
「荷物の準備も出来てるし、後は他の子を起こすだけか・・・」
昨日は帰ってすぐ、過去から現在の思い出がフラッシュバックして、
負けた悔しさに耐えきれずに泣いて、泣き疲れて、
ベッドに突っ伏して泥のように眠ってしまっていたんだ。
「ありゃ、服脱ぎっぱなし・・・髪もボサボサだ・・・シャワー浴びよ」
サッパリすると意識も覚醒する、忘れ物がないかを確認し、スマホを見る。
「返事は・・・冴姫と彩は起きてるわね、朔夜と秋は起きたかしら」
史夏は家まで迎えに行けばいいし、まずは自分のことをやる。
「日焼け止めと化粧水はあるし、大丈夫そうね」
やるべきことをしていたらもう集合十分前、
どうしてこう朝は時が経つのが早いのだろうか?
荷物を背負い、向日葵のような麦わら帽子を頭に被る、
「行ってきます」と静かに挨拶を済まして、そっと家を飛び出した。
心軽やかにステップをしながら階段を駆け下りたら、人とぶつかりそうになる。
「っ!ごめんなさい!って史夏じゃない、おはよう」
連絡がなかったので心配したが、杞憂に終わった。
「なになに?テンション高め紗耶香ちゃんどうしたの?心配してた?」
朝から気分が高まってるのはお互い同じだろう。
「別にしてないわよ、それより早く向かいましょう」
「そうだね!めっちゃ楽しみすぎて寝れるか不安だったよ~」
「私は昨日疲れすぎてすぐ寝ちゃったわ」
まだ人影もまばらな緑道で涼しさを感じながら駅に向かう。
「大会お疲れ様!これでいっぱい遊べるね♪」
「それ皮肉かしら?」
「ううん、純粋に嬉しいんだよ!夏の間だけ一緒に住む?」
「それもいいかもね・・・あっ、みんないるみたい」
改札には冴姫と彩、朔夜の姿が見える。
「おはようございます、忘れ物ないですか?ちゃんと休息取れましたか?」
「うん、大丈夫だと思うわ」
「それじゃあ早速向かいましょうか」
「アキもすぐ合流出来ますって!」
「流石のこのワタシも昂ぶりが抑えられなかったわ!」
「朔夜先輩子供っぽい!」
「なんですってー!」
皆が楽しそうにしてる光景を見れるのが嬉しい。
(子供っぽい?ううん、私達はまだ子供、大人との境界線が曖昧なだけ)
空いている電車に重い荷物と、ドキドキとワクワクも持ち込む。
(今日は背伸びなんかしたくないわ)
「やぁ皆、昨日はよく眠れたかな?忘れ物はないかな?」「それさっきやった」
「眠気覚ましにガム食べる人ー」「ワタシはブラックコーヒーがあるの」
「みんな!」
「「「?」」」
「今日はいっぱい!遊びましょうね!」
六人を乗せた電車は、青い大海原を目指し、進んでいく。
時間にして一時間三十分程、都心から少し離れた夏の避暑地。
電車を降り、海水浴場行のバスを待つ。
照りつける夏の陽光がアスファルトに反射し、一層熱をこもらせる。
しかしこの肌を焦がす暑さが、海へ向かうという楽しみをより強くする。
「やっぱり朝早い時間とはいえ混んでますね~」
バス停にはすでに列が出来ていて、この人数が乗れるかどうかも微妙だ。
「こういう待つ時間や、不便さ、トラブルなんかも遠出の醍醐味さ」
ラッシュガードにショーパン、まるでセレブを思わせるサングラスをかけ、
夏の女を醸し出す秋はこういう旅行にも慣れ親しんでいるのだろう。
「あっ!バスきましたよ!」
幸い後ろの席が空いていて、六人はそこに身体を潜り込ませ、一息つく。
「こっちって、バス後ろから乗るんですね、ビックリしました!」
「アタシも混乱しそうになっちゃったよ」
「それもいい経験になるさ」
「ワタシいつも銀倉の方で過ごすので、こちらの海は初めてですわ」
賑う車内にあてられ、なんだともいえない緊張感が湧いてきた。
「まだかしらね」
「この川沿い見ていてください!」
冴姫に言われた通り、右手に流れる川下に目を泳がす。
「わぁ」
「おっ、紗耶香のレアボイス頂き♪」
「いつになっても、この瞬間は堪らないね」
「そうですわね。この景色が気分をアゲさせてくれますわ」
眼前に広がる地平線と太陽光に反射しキラキラした輝きを放つ大海。
砂浜に点在するパラソルや水着姿の人々、脳内が瞬時に切り替えられる。
「海、来たわね!」
「なんだかんだで紗耶香が一番テンション高いよね」
「うん!そうだと思うわ!私実は海好きなのよ!」
「「「え、意外」」」
皆一様に驚く反応を示す。
「尤も、一人で海を見て思いに耽ることが多かったのだけれど」
「そういえば前言ってましたね」
バスは狭い道をのらりくらりと進んでいき、目的地へと運んでくれる。
「ここで降りますよ~」
冷たい車内から降りると、再び身を焦がすような暑さに襲われる。
「危険な日差しね」
雲一つない青空は絶好の海日和だ。
額から、耳裏から垂れる汗が服を濡らすが、それも気にしてられない。
大きい神社手前の右手にある橋を渡る。
足元に砂が混じりはじめ、橋を渡りきると一面に砂浜が広がっていた。
「待ってましたー!」
「照りつける太陽!青い海!青い空!広い砂浜!」
「「「海だ―――!!」」」
「はいはーい、ウズウズするのもいいですけど、まずはウチの別荘に行きます」
既に鉄火場のような熱気を放つ海岸沿いに興奮が止まらない。
思い思いにレジャーシートやパラソルを広げ、海の家に列をなす家族連れ、
大音量でかけられた趣味の悪い音楽も、ここで聞くと乙なものになる。
「冴姫さんすごいね、オーシャンビューの家あるなんて」
史夏は改めてこの人が規格外だと思い知る。
「普段は貸してたりするんですけど、今日は特別に空けてもらいました」
「感謝してもしきれないよ、後でボディーマッサージでもしてあげようか?」
「冴姫さん、なにかされたらすぐ言ってくださいね」
人の波を掻き分け、自分たちの本拠地に辿り着く。
「ここですよ~」
白い外観のギリシャ風の建物は、内部は空調も効いていて、客室も幾つかある。
「今日はここで一泊できるので、遊びつくしましょー!」
「「「お―――!」」」
早速水着に着替える。
「やっぱりこれで外に出るの恥ずかしいかも」
ためらいもなく自分の勝負服に身を包む周りの友人に、感服する。
「秋、よくそんな際どいの着れるわね」
ブラジリアンスタイルのビキニは極端に布面積が少なく
少し間違えると見えてしまうんじゃないかという程肌の露出が多い。
「今日は少し焼きたいからね、それにいつもこのぐらいの履いてるし」
他の子達は可愛いフリル付きやスタイルにフィットした年相応の水着だ。
朔夜もマイクロビキニはやめ、ピンクのハイネックを買ったらしい。
「日焼け止めしましょうね~」
外に出てカンカンに照りつける太陽女性の天敵、備え付けのパラソルを開く。
「砂浜だと地面熱いですし、ここの敷地内でも焼けますよ?」
「いや、折角だし往来で焼き込みたいな」
「それアキが見せつけたいだけでしょ・・・」
「あの人たち見て!」「モデルさんかな?」「私も混ざりた~い」
六人は体を日に焼いたりビーチボールをしたり砂の城を作ったりしてる。
「ねぇアヤ?僕にオイルを塗ってくれないかな?」
うつぶせの秋にサンオイルを渡される彩、人に塗ってあげるのは初めてだ。
「アタシも塗ってほしいな~」
同じく隣に横になってる史夏にも頼まれる。
「あっ、史夏さんはわたし塗りますよ!」
「ありがとうございます!」
他の四人と違ってUVカット率の低いオイルを体に塗り込ませる。
「あ~、ぎもぢいい~」
冴姫のマッサージとも思える手つきに極楽だといわんばかりの声を上げる史夏。
「わたし結構こういうの得意だし、好きなんですよ」
「それにしっかり塗り込まないと、焼きムラ出来ちゃいますしね」
それとは対照的な気持ちよがる声を上げる彩・秋チーム。
「んっ・・・そこ、気持ちイイね・・・もっと強く擦って・・・」
「誤解されそうな言い方やめてよ!」
不意にヌルヌルとした手が秋の割れ目に滑り込んでしまう。
「あんっ!」
「ごっごめん!ワザとじゃないから!」
「こういう露出羞恥プレイも悪くないね・・・」
「日焼け組は楽しそうね・・・」
波打ち際でなにかを建てている紗耶香と朔夜。
「私は肌白いままでいいわ」
「ワタシもそんなに強くなくってよ、焼くのはまっぴら」
周りがカップルや家族連れで遊ぶ中、女子高生二人で砂遊びに興じる。
「ねぇ?」
「なんですの?」
「海、一緒に入らない?」
大きめの浮き輪に身体を預け、空をボーっと見上げる。
「空広いわねー。心休まるわ・・・海水の透明度も高いし・・・」
「ちょっと!モガモガッかっ、代わりなさいよそこ!足着かないのよ!」
遠浅のハズなのだが、幼児体系には厳しいらしい。
「まったく騒がしいわね・・・」
浮き輪から海に身体を落とし、彼女を持ち上げる。
「ワタシを抱きかかえるのはヤメテ!」
「こうしないと浮き輪乗れないでしょ」
そのまま彼女を浮き輪にのせ、押してあげる。
「こんなに遠くに来ても首から上は出るのね」
かなり浜辺から離れたが、まだ大丈夫そうだ。
「あそこの岩場に行きたいわ!」
ワガママなお嬢様の要望に応える。
「ふぅ」
少し上がれる場所を探し、岩陰で体を休める。
「ちょっと向こう遠くなくって?」
「そうかしら?私は平気よ?」
「ワタシが困るんですのよ!」
「大丈夫よ、その時は私がアナタを困らせないようにするから」
元恋人の安心感のある言葉に、イラっとする。
「そういう、自意識過剰な所、ホントムカつきますわね」
「そうなの?」
「そうですわ、最初に会った時も、貴女が助けてくれたのが出会いでしたわね」
「届かないですわ・・・」
高校二年の春、『堂島咲耶』は生徒会業務をサボり図書室に入り浸っていた。
(なんであんな高い所にあるのよ!)
読みたい本に手を伸ばすが、届かない。
ンーと体を精一杯伸ばしていると、頭上から手が出てくる、
その手は自分が求めているの物を代わりに取ってくれた。
「これですか?読みたかったもの」
(あっ・・・)
彼女から目が離せなくなった。
「・・・あの?」
「えっ!?あっはいそうですわ!ありがとうございましてよ!」
気恥ずかしさに本を受け取るとすぐに退散しようとしてしまうが、
「・・・貴女!お名前は?!」
聞かずにはいられなかった。
「えっと、一年の『須藤紗耶香』です」
「須藤紗耶香ね!覚えましたわ!ワタクシは二年の堂島咲耶、生徒会長ですわ!」
「あぁ、入学式の時の小学生」
「ちっがうわよれっきとした高校生よ先輩よ敬いなさいよ!」
「フフッ」
不意に見せた彼女の笑顔が、かわいらしくって。
「何が可笑しいんですの!?」
「堂島先輩って、お人形みたいで可愛いですね」
スッと透き通った手が頬に触れ、優しくなぞられる。
「肌も白くて綺麗で、瞳も髪も、アナタに吸い込まれてしまいそう」
まるで目の奥を覗き込まれるように彼女の瞳が至近距離まで迫る。
(ちかいちかい!)
切れ長の憂いを帯びた、それでいてどこか儚げな目。
私は蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取れなくなる。
「なっ、なによ!」
「あ、ジロジロみちゃってすみません、先輩の顔に見惚れてしまって」
「ハッ、ハァ?!まっ、まあしょうがないですわね!」
「ワタクシちょー美少女ですからね!」
「フフフッ、私もそう思います」
なによそれ。
「もし私が男の子だったら、きっと一目惚れしてしまうわ」
違うの、私なの。
「それにその喋り方と立ち振る舞いも似合ってますよ」
もっと、知りたい。
「これ、ヘッセの『少年の日の思い出』ですよね」
「友人にお薦めされたんですの、貴女は本、お好き?」
「私は日本の文学作品をよく読みます、三島由紀夫とか太宰治とか」
「実はこう見えて、恋愛漫画とかも読んだりするんです」
「ふーん、今度お薦めあれば教えて下さる?」
「機会があれば。私もう行きますね」
「あっ・・・」
先に彼女が出て行ってしまった。
(須藤紗耶香・・・ね)
「ってことがあったのよ、あの子のこと、何か知らない?」
珍しく生徒会室に来たと思ったらそんなことを聞きにきたのか。
「あのですね朔夜先輩、わたし誰かの代わりで忙しいんですよ」
「・・・でも知ってますよ、その子のこと。クラス違いますけど」
「ホント!?」
まるでケーキのショーケースに目を輝かせる子供のような反応をするが、
これでも歴とした生徒会長だ。かなりクセはあるが。
「須藤紗耶香、テニス部所属」
「一年生の間ではかなり有名で、容姿端麗成績優秀、物静かで人当たりもよく」
「女の子なのに告白する子も多いみたいですよ」
「へぇ」
「やっぱりモテるんですわね」
「でも一つ噂があるんです」
「?」
「彼女、告白は決して断らずしっかりと付き合うんですよ」
「それなのにある日突然別れ話を切り出してくるんです」
「フラれるタイミングは人によるらしいですが」
「入学して二か月、もう数十人近くとそんな関係を築いてきたらしいですよ」
「し・か・も」
「自分に夢中にさせるような振る舞いや言動をする癖に」
「『好き』という言葉は一度も言ったことがないらしいんですよ」
「なにそれ、信じられない娘ですわね」
「それで別れた子には冷たい態度をとるらしく」
「ついた渾名が『氷の女王』」
「変な人ですよね、何がしたいんだかわかりませんよ」
「ただの目立ちたがりか断れない性格なのかそれとも・・・」
「・・・」
「それで、どうしたいんです?」
「どうって・・・ワタシはお喋りしたいだけですのよ・・・」
「そういう風には見えませんけど」
「なんですって?」
「朔夜先輩も一目惚れしたんでしょ?その子に」
「・・・そうかもね」
(あら)
「彼女と対面した時、目を奪われてしまったんですの」
「月並みな表現ですけど、本当に美しいものを見た時言葉が出なくなる」
「初めてあの感覚を知りましたわ。しかも近い年の子で」
「でもその瞳の奥には、寂しさや満たされていない心を感じましたの」
「だから、彼女の内面を読み解きたくなりましたのよ」
「・・・珍しいですね、そこまで仰るなんて」
「なら告白してみてはいかがですか?」
「多分今彼女いないと思いますし、上級生では先輩が一番最初になるのかな?」
「それ面白そうね」
「ワタシがあの子の氷の心を溶かしてみせようじゃありませんの!」
「ノリノリですね~」
「それで一つゲームをしない?」
「なんのですか?」
「あの子がワタシに『好き』と言わせられるか賭けるの!」
「朔夜さんがフラれたらわたしの勝ちですか?」
「残念ながらそれはないですわね!必ず『愛してる』と言わせるから!」
「まぁいいですよ。生徒会としてはアウトですけど、個人的には面白そう」
「それじゃあ今から告白してきますわ!楽しみにしておきなさい!」
「お気をつけて~」
(それからなんやかんやあって今に至るのよね)
結局この子の心を溶かすことが出来なかった。
貴女と過ごした日々は楽しかったけど、別れは突然やってきた。
(ホントはあの時、もっと一緒にいて、いっぱい遊びたかった)
今になって後悔してももう遅い、紗耶香の彼女は史夏で私じゃない。
でも。
「背の高いゴツゴツした岩なのに、ここはスベスベして気持ちがいいわね」
「ねぇ紗耶香」
「ん?」
「恋する気持ちは分かった?」
「おかげさまで、人のことを好きになれるようになったわ」
「そう、じゃあワタシがあの時貴女に抱いていた気持ちも今は理解できる?」
「・・・そうね、分かるわよ。フラれた時の気持ちも・・・」
横に座る彼女に身体を寄せる。
「貴女に彼女がいるのも知ってるわ、ワタシのことをなんとも思ってないのも」
「でも一つだけ、たった一つだけ『妹』としての願い、聞いてもらえないかしら」
「・・・うん、いいわよ」
俯く顔をあげて、彼女との距離を近づける。
昔見た、あの時と変わらない好きな人の顔。
右腕にあたる彼女の胸の柔らかい感触、濡れた髪の艶やかさ、冷たい身体。
ドキドキする。
「・・・・・」
私の心と身体は、彼女の唇とゼロ距離で、触れ合う。
「・・・ホント、悪い『妹』ね」
海にたった一つ浮かぶ孤島、そこで初めて彼女と想いが繋がった気がした。
人が来てもおかしくないし、この娘の本命はすぐ近くにいる。
それでもこの瞬間は、誰にも邪魔させたくない。
(嗚呼・・・嬉しいわ・・・)
初めての邂逅、初めての告白、初めてのデート、初めての失恋。
全部貴女が私に教えくれた、『特別な日々』
今この瞬間、世界はワタシ達中心に回っている。
――――――――――
それからは姉妹で遊びつづけながら、禁断の果実を味わいつくし、満腹になる。
「ごめん紗耶香、一度だけってお願いしたけど、嘘になるかもしれないわ」
繋がれた指をお互い深く絡め合う。
「私には恋人がいるからそれは無理ね・・・」
「でも」
横に寝転がる朔夜を胸の内に抱き寄せる。
「姉妹としてなら、してもいいわよ・・?」
少し陽が傾き始めた空、夏はまだまだ続く。
次回は日常編




