第十一話 新しい季節と暑くなる日々
一部文章修正済み。
「うん・・・あれ?」
見知らぬ寝具の感触と、隣にいる人間の気配で目が覚める。
(そうだ・・・私秋さんとしてて、それで・・・)
サイドテーブルに置いてあるスマホを見ると、時刻は六時を回っていた。
「もうこんな時間か・・・」
眠たい目をこすりながら上体を起こすと、
「んん・・・あれ、彩ちゃん・・・おはよう」
眠れる美女を起こしてしまったらしい。
「寝ちゃってましたね・・・」
「そうだね、まぁよくあることだよ」
秋は自分のバッグを探ると、ペットボトルを渡してきてくれた。
「喉乾いてるでしょ?飲んでいいよ」
「ありがとうございます・・・」
清涼飲料水が身体の隅々まで染み渡っていく。
「なんか寝起き秋さんって、女の子っぽいですね」
思わずクスッと笑ってしまう。
「そうね、スイッチが入ってないと、印象違うでしょ?」
大人の女性といった雰囲気にドキリと心揺さぶられてしまう。
「秋さん・・・!」
突然、唇を重ねてくる秋。
「アキって呼んで、僕もアヤって呼ぶから」
「はい・・・」
「さて、一緒にお風呂入ろうか!」
(うぅ、少し恥ずかしい)
バスタブにお湯を溜めながら、二人で身体を流し合う。
「こうやって裸の付き合いをするのもお風呂の醍醐味だね」
人に体を洗わせるなど何年ぶりだろうか?しかし悪い気分はしない。
「たくさん汗かいたからね、綺麗にしておかないと」
「つ、次は私が洗います!」
(秋の背中、キレイだなぁ・・・)
全身くまなく洗いながらしみじみ思う。
腹部の腹筋にも手を伸ばしてみる。
(私よりも固い・・・)
「全身で洗ってくれるのかい?それも嬉しいけどね」
「はい?」
指摘され、自分がかなり体を密着させているのに気が付く。
「いやっ、それはあのっ!」
「ふふっ、可愛いね、お湯も沸いたし入ろうか」
秋が後ろに、彩が秋の前に座る形で腰を下ろし、ふぅと一息。
「今日はイイことだらけだ」
「・・・・・・」
「?、どうしたんだい?」
「アキ・・・、私のこと抱き締めて、話聞いてくれる?」
「・・・分かった」
優しい抱擁が、幾分か心を安定させる。
「昔の加害者の叔父さん・・・まだ許せない?」
「・・・・・・」
「私ね、その叔父さんと同じ様な事、つい最近してしまったの」
「大好きな先輩が他の子とくっついて、キスしたのを見ちゃって」
「その瞬間を隠し撮りして、脅して、先輩と悪いことをした」
「それがバレて関係は終わって、私は必死に謝って反省した」
「それは許されざることなのに、皆は許してくれて、仲直りできたの」
「けど、本当は怖いの!」
「本音は私のことが嫌いで、裏で悪口言われてるんじゃないかって!」
「いつか仲間外れにされちゃうんじゃないかって!」
「先輩達は絶対にそんな事思わないししないと知っていても」
「そんな風に考えてしまう自分が嫌いなの!」
「今だに自分自身が許せないし許したくないと思ってしまうの!」
「私これからどんな顔して生きていけばいいのかな・・・?」
「・・・・・・」
「僕はね、その叔父さんを許しているし、ある意味では感謝してるんだ」
「多分うまく立ち回れば、他にもっといい選択肢はあったかもしれない」
「でも僕はこの道を選んだんだ。そのことに後悔はしてないさ」
「別の世界での自分は、『僕』から『私』に戻ってたかもしれないしね」
「それでもこの人生では、『私は僕』になることを選んだ」
「アヤだってそうさ、もしかしたら先輩と歩む未来があったかもしれない」
「でもね、そうはならなかった、ならなかったんだよ」
「ならどうするか?」
「大事なのはそれを受け入れて、順応して前に進むんだ」
「確かに先輩がなんといおうと遺恨が残っているかもしれないね」
「加害者にしかわからない辛さもあると思う」
「・・・」
「その先輩はアヤの事を嫌いになってるかい?悪口を言う人かい?」
「・・・・・・」
「違うと知ってるならその人の為にもしっかりと反省して、態度に示す事」
「お互いを信じあって、また笑い合える関係性を続けていくのが大事なんだ」
「先輩もその子もアヤのことが好きで、もう怒ってないと気付いているのなら」
「卑屈になる必要なんてないんだ、だから自分のことを否定しないであげて」
「僕も好きな人の悲しむ顔なんて見たくないからさ・・・」
「アキ・・・」
この人といると心地よくて、なんでも喋ってしまいそうだ。
お互いの体温を感じ合う密接な状態、荒い呼吸音が耳にかかる度灼熱となる。
――――――――――
結局お互いが疲れ、動けなくなるまで続いた。
「今度さ、またデートしてくれるかい?」
「うん・・・アキとなら・・・」
「うわ、外暑いですね~」
空気の換気の為窓を開けるが、生ぬるい風とセミの鳴き声にげんなりする。
「今年は梅雨も遅かったしね、蒸し暑くて最悪だわ」
「テニス部は練習キツそうですもんね・・・」
「でも紗耶香さんのお団子ヘア―見れるのはレアかも」
「長いと蒸れて仕方ないのよ」
六月も終わり梅雨も明け、七月に入る今年の夏は、『特別な』夏になりそうだ。
「ハッ・・・!」
「ナイスです!調子よさそうですね!」
「アナタもね」
あれから幾日も経ち、すっかり元の関係に戻れた私達は楽しい日々を送っていた。
様々なことが起きたが、今はそれを乗り越えられる人間に成長している。
こんなことを前も思っていた気もするが、今度こそ本当に平穏な毎日なのだ、
「夏の大会までに、気を引き締めましょう」
「ハイ!」
彩は最近機嫌がいい、どうやら私の代わりに会った人物と何かあったらしいが、
「それは秘密です!」
とこんな調子で中々話してくれようとしない。
(でも、最近の彩は前よりもっと可愛くなったわ)
きっと素敵な恋を見つけられたのだろう。
「「「お疲れさまでした!!!」」」
「大分日も長くなってきたわね・・・」
時刻は六時を超えるも、まだ日が沈む前だ。
「先輩は夏休みどうするんですか?」
「とりあえず大会の後、特に予定があるわけではないわ」
「なら色々行きたいですね!今年の夏は!」
旅行か、それも悪くない。
「プールいったり海行ったり花火見て夏祭り行ったり~」
「やることが山積みね」
「そうですよ!高校生の夏は貴重なんですから!」
「将来後悔することになりますよ~」
「なら今度みんなで予定立てましょう」
「ですね!賛成!」
「お疲れ様~」
校門には相変わらず史夏が待ってくれていた。
「待たなくていいって言ったのに」
「まぁいつものことだし」
「じゃあ先輩、私向こうなんで、史夏ちゃんもバイバイ」
「うん、また明日ね」
後輩を見送った後、私達も家に向かう。
「ホント彩変わったよな~昔は紗耶香紗耶香~って危うさがあったのに」
「あのね、元はといえばアナタのせいなんだから」
「でもそのおかげで仲良くなれたじゃん?怪我の功名ってヤツ?」
「不幸中の幸いの間違いじゃない」
「そういえば彩がみんなでなにかしたいね~って言ってたわ」
「・・・そうだね!みんなで思い出つくろう!」
「私今まで夏はずっと家だったから、少し楽しみ」
「水着とかも買いに行きましょう」
「週末いけたらいこっか!」
高校生らしいこと、出来ているだろうか?
数ヶ月前の自分に言っても信じてもらえないだろうな。
「ただいま」
「お帰りなさい。ご飯作るから、先お風呂入っちゃって」
「わかった」
「・・・」
「紗耶香」
「んー?なにお母さん?」
「アナタ最近楽しそうね」
「え、そうかな?」
「前よりももっとね」
「友達のこと、大切にしなさい。きっといい影響を与えてくれるから」
「なによいきなり」
「それだけよ、いっぱい汗かいたんだからゆっくり身体休めなさいね」
「うん・・・」
誰かに甘えられるようになったから、もたれかかっても支えてくれるから。
自分を抑えつけなくてもよくなったから、心に余裕が生まれた気がする。
ミンミンミンミンミンミン
(暑いわ)
暇な休日、水着を買いに近場の繁華街で待ち合わせた女子達、
犬の銅像を目印に集合とのことだが、今のところ自分しかいない。
「おや、彼女は・・・」
むせかえるような熱気と人混みに苛立ちを覚えていると誰かに声をかけられる。
「やぁ紗耶香ちゃん!」
「アナタは・・・高坂さん・・・?」
「覚えていてくれたんだね!嬉しいよ!」
一瞬男性に見えてしまいナンパの類かと思ったが、間違いなさそうだ。
「ちょっと待ってよ~」
遅れて彩も登場してくる。
「あっ、紗耶香先輩こんにちは!もう来てたんですね!待たせちゃいましたか?」
「いいえ、他の子もまだだから・・・それよりそちらの方って」
予想はしていたがまさか本当にとは思わなかった。
「もしかして二人って、結構仲いい?」
「そうだね!」
ガッと彩の肩を抱きよせ、この暑い中更に熱いのを見せつけられる。
「なんせアヤは僕の彼女だからね」
「!?」
「えっ!?なに言ってるのよもー!」
ジタバタと秋のスキンシップから逃れる彩、その姿に恋する乙女らしさを感じる。
「あー、そうだったんだ、私のことはもういいんだ」
「そんなことないですよ!先輩が私の一番ですから!」
「そうなのかい?ベッドの上ではいつも一番好きって言ってくれるのに・・・」
「あっ・・・」
「違いますってばホント!もー話をややこしくしないでってば!」
まるで往年の名コメディアンの様な掛け合いのろけ話をする二人に少し安心した。
(彩も・・・素敵な人、見つけられたのね)
それは先輩として友人として、とても喜ばしいものだと思う。
「遅れてごめんなさーい!」
駅の方から冴姫、史夏、朔夜も遅れてやってくる。
ふと彩達が来た方向に違和感を覚える。
「あれ?アナタ達、今どこから来たの?」
「どこって、向こうの裏路地のラブ「あーあー!言わないでってば!」
成程、やけに身形が整いすぎているのはそういうことか。
「あれ?知らない方がいらっしゃいますが、お友達ですか?」
後続組は見慣れない顔にキョトンとする。
「どうも初めまして、僕の名前は『高坂秋』高校二年生」
「アヤの彼氏で、付き添いに来たんだ、気軽に秋って呼んでね!」
とんでもない美形の爆弾発言に一同驚愕を隠せない。
「えっえっ、彩さんこんな素敵な彼氏さん作られてたんですか・・・?」
「まっまぁ背も高くてカッコいいけどそれがなに?!ワタシの方が可愛いから!」
「彩ってホントまぁ、見た目に似合わず肉食だよね・・・」
全員の反応を赤面する彩で確認し、楽しい買い物の時間がスタートする。
「え!?高坂さんって女の子なんですか!?」
道すがらワイワイと会話が弾む女子達。
「いや、普通に見ればわかるでしょ冴姫さん・・・」
「この子偶に本気なのかボケなのか分からない時があるんですのよねぇ・・・」
「私も初めて会った時一瞬勘違いしましたから・・・」
「ハハハ!初見の人の反応を見るのは面白いねぇ!」
「と・こ・ろ・で」
三人の顔を品定めするように覗いていく秋。
「ここのグループはみんな可愛いね♪もしよければ今度デートに行かないかい?」
場所と人を問わず炸裂する高坂流ナンパ術、それを彩は「ハイハイ」と制止する。
「この人の言う事あんまり聞かないでください、いつもこんな感じなので」
「はぁ、それにしても彩さんがねぇ・・・」「でもお似合いのカップルですわよ」
「彩!」
「ん?どうしたの史夏ちゃん!」
「よかっよがっホンドよがったねぇ~~~!」
思わず涙が溢れる程、友の吉報は史夏の心に喜びを与えてくれた。
「わわっ!ちょっとどうしたの史夏ちゃん!」
スッと横から差し出されるハンカチ。
「大げさなのよこの子は・・・」
「んぐっ、あでぃがとう・・・あれ?このハンカチ少し濡れてない?」
プイッと顔を背ける紗耶香だが、涙を拭いた跡が見える。
「紗耶香先輩っ・・・!やっぱり大好きですっ!」
「あっ、ちょっと離しなさい!こんな往来で!」
「私の為に泣いてくれたんですか~?」
「違うってば!目にゴミが入っただけなのよ!汗拭ったのよ!」
「皆が見てる前で浮気されちゃったのは初めての経験かな」
「大丈夫ですよ秋さん、浮気は彩の専売特許ですから」
「なんですって?!コラー!」
こういうことも言い合える仲になった。
「皆さんちょっとお静かに・・・」
「まぁこのぐらい騒がしい方が楽しくていいんじゃないかしら?」
アスファルトに咲く色とりどりの朝顔は、どれも鮮やかに成長している。
「紗耶香ちゃんスタイルいいね~」「アナタほどじゃないと思うわ」
「史夏ちゃんの、また大きくなってない?」「そんなことないって!」
「いやいや大層なモノをおもちですよ・・・わたしなんて・・・」
「あのね、ワタシに比べたらみんな立派なのもってるわよ!」
人気の水着ショップでそれぞれお気に入りのを選ぶ若人達。
「でもホントお二人は飛びぬけてますね、何着ても似合いそう・・・」
「すごい、デリケートゾーンの処理もバッチリですね・・・」
ジーと秋と紗耶香の水着姿を見る冴姫、腕にはいくつもの候補が重ねてある。
「僕はブラジリアン・ビキニスタイルで行こうかな、普段はショーパン履いてさ」
「上はロングシャツとかどうですか?水着の色も大人っぽいですし」
「あえて上下は夏らしい水色系とか?悩みますね・・・」
「私白ビキニでいいのだけれど、パレオと麦わら帽子のセットスタイルにするわ」
「紗耶香は夏らしい!アタシはあんま体系自信ないし、ハイネックにしようかな」
「どれがいいと思いますか?」
「彩ちゃん細いし、ラインをしっかり見せてくれるコルセットビスチェはどう?」
「わぁー!これいいですね!色も可愛いし、アキ?私似合ってるかな?」
「うーん、朔夜ちゃんはスク水とか似合いそうなんだけどなぁ・・・」
「なんですって?ワタシもビキニスタイルで行くわ!このマイクロビキニでね!」
「そんなのどこにあったのよ・・・」
「冴姫さんはどうするんですか?」
「わたしはオフショルダーにしようかと・・・あでもフリルもいいかも・・・」
「貴女、結構イベントとかにはこだわるわよね」
「ウチはその辺り厳しかったですからね~、流石に高校からはないですけど」
「こうやって皆さんと海行けるの楽しみにしてますから・・・」
「冴姫・・・」
「そ・れ・に♪」
「?」
「今年は絶対素敵な彼氏を見つけるんです!!」
目に燃える闘志を輝かせながら、大和撫子はまだ見ぬ夢に思いを馳せる。
「あー、そういうことだったんですね・・・」
「このメンバーで行けばモテモテですからね~」
「しっかりわたしが受け負いますからね!」
「いや~今日は素晴らしい一日だったよ!」
水着を買い終えた後は食事をしたりプリクラを撮ったりまた買い物をしたり。
「夕方は少し涼しいですね~」
「この時期だとまだ海水の温度は低いから、海の日辺りが理想ですわね」
「それも日時決めよう!夏は長いよ~!」
「無論、全部行くつもりだよ、でも海以外は八月に入ってからかなぁ」
「月末に大会があるからね、次は負けないわよ」
「いいね、そういう挑戦心は嫌いじゃないよ」
後ろの方でバチバチと既に戦いが始まってしまっているが、
「ワタシも最後ぐらい、目一杯楽しみたいですわ」
「あっ、朔夜さん来年受験ですもんね」
「貴女達も進路は今の内に考えといたほうがいいですわよ」
「将来かぁ~」
夏が、始まる。
次回は日常編




