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エピローグ

「・・・祐樹の家には毎日行ってるよ」


「そう」


「でも、やっぱり私みたいな女に取り合ってくれる訳なくて・・・ね」


「そうか」


 最近人気の喫茶店――【SunJeiol】での燦燦たる会話から1週間が経った。

 どうやら絵里奈はあの日以降、毎日川添家に訪問しているらしい。と言っても、絵里奈と祐樹は幼馴染で家も隣同士だ。家を出ればすぐに行ける。労力はそこまでかからないのだろう。だが、心の労力は計り知れないのだと思う。


「祐樹の母さんは・・・どうだった?」


「ううん・・・私の顔見た瞬間、扉を閉めたよ」


「そうか・・・」


 絵里奈は顔を横に振りながら、悲しげな瞳をもって呟いた。


「どうすんだ?」


 俺は質問する。

 無慈悲だと分かっていても。 


 しかし絵里奈の返答は俺の予想を覆して――― 



「毎日、行くよ。迷惑だと、分かってても」


「っ・・・」



―――その決意の表情には、一寸の迷いも纏っていなかった。


 強くなったな、絵里奈・・・。絵里奈のそんな表情、少なくとも俺は見たことが無いよ。

 決意の裏側には計り知れない懺悔と後悔が在中しているのは知っている。だけどそれを跳ね返して今の絵里奈が居るのだろう。

 絵里奈のやった事は決して許される行為ではない。人一人の人生を、ある意味”壊した”のだから。だけど、それすらも分かっていても、絵里奈は後ろ見なかった。いや・・・この場合、見れなかった、かな。

 自分のした行為を反省して、そして実行に移す人間は、あんまりいない。どこかで自分がやった事は正しいのだと、自分を信じ切ってしまう。他人を否定することによって、自らの存在意義を再認識する人間が、この世には五万と居る。


――だがそんな中絵里奈は、成長した。

 

 この成長が、人にとっては遅いと感じる事もあるだろう。

 しかし、俺はそうは思わない。なぜなら、()()()()()()()()()()()

 大人になっても自分の失敗を認めず、どこまでも他人を否定する人間は沢山いる。そんな人間を俺は今まで沢山見てきた。

 だからこそ、高校生の若造である絵里奈がここまで成長した事に、俺は驚いた。


「そうか、それがいい」


「で、でも、私やっぱり迷惑だよね・・・。私みたいな最低な女が毎日行くなんて・・・」


 絵里奈は俺が認めると、急にしおらしくなった。

 多分、不安になったのだろう。俺があっさりと認めたことに。

 ここ数年間隣同士で住んでいる癖に、この2人は一言も口を利かなかった。

 昔は毎日のように通い合っていた家も、自然とその足行きは遠のき、全くの無縁となってしまった。とは言っても川添家と瀬口家の両親は、絵里奈と祐樹が生まれる前から深い縁がある。

 だけどあの出来事を境に、親同士の中もギクシャクとし、仕舞には親同士の大喧嘩にまで発展した。

 あの時は大変だったな・・・。絵里奈の親は警察官だから色々とあったし・・・。

 まぁ、今は過ぎた事だ。考えても無駄だろう。




「俺はいいと思うぞ」


「っ・・・。なんで、そう思うの?」


 絵里奈は驚いた様子で聞き返す。


「この前言ったろ。俺はさっさとお前らに仲直りしてもらって貰えればそれでいいんだ。今の祐樹と仲直りするのは、確かに難しいと思うよ。俺もあそこまでで精一杯だったから」


「うん・・・」


 絵里奈は、俺が祐樹を2次元にはまり込ませて今の状態になったのを知っている。


「でも、絵里奈は違うだろう?俺とは違ってもっと強固な絆があるはずだ。なによりも強くて、素晴らしいものが」


「でも、それを私は―――」


「それでいいと思うけど」


「え・・・?」

 

 俺は絵里奈の言葉を途中で止める。


「絵里奈の場合は自覚してるからね。自分が悪いってこと。一番質の悪いやつは”自覚がない奴”だよ。自分が正義だと信じて疑わない腐れ外道だ。他人を排斥して王者になった気分になるクズだ。けど、絵里奈は違う。だから―――自信持て」


「・・・うん。ありがとう武流君」


「頑張れ」


「っ・・・うんっ」


 そこまで分かってるなら、大丈夫だろう。

 絵里奈が進もうとする道は、果てしなく厳しく、そして辛いものだ。

 だがその先に待っている甘味に、必ず絵里奈は心から歓喜するはずだ。だから、そこまでどうか頑張って欲しい。

 もう一度、お前らが楽しく笑っている姿を見せて欲しい。

 

 俺は、それだけで十分だから―――――。 



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