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第58話 文化祭最終日の憂鬱と告白と

 ――東総文祭3日目


 最も盛り上がる2日目を過ぎ、今日は個人発表が主である3日目だ。しかし、その大目玉である2日目は大きなアクシデントにより中途半端な結果となった。

 無論、古瀬さんが急に倒れたことだ。【トーソーモデルズ】の1位を発表する直前で倒れた古瀬さんは、そのまま病院に搬送され今は一時入院をしているらしい。


 そして、今は昼休み。個人発表やPTAによる出し物が立ち並び、生徒達は皆一様に楽しそうにしている。

3日目は完全自由行動らしく、午後も好きな時間に好きな所に移動していいらしい。

 

「あ、美味しい・・・」


「そう?俺も買ってこようかな」


 目の前でフランクフルトを美味しそうに頬張っていた若山さんがボソッと呟く。

 

「・・・しずか、ですね」


「それはいつも通りだと思うけど」


「そ、それはその通りですが。その、何というか、寂しい、です・・・」


「・・・そうだね」


 俺と若山さんの2人きりの図書室。聞こえは悪いかもしれないが、決して疚しい事なんかしていない。

 昼休みになり、若山さんに声を掛けられたかと思うと彼女は唐突に、


――図書室で、ご飯、食べませんか?


 と、そう言ってきた。

 彼女は大抵、自分から俺に声を掛ける時は羞恥心からかオドオドした様子が常だ。だが今回は違った。明確な目的を宿した瞳と、片手にはフランクフルトを持っていた彼女は、いつもとは違う雰囲気を纏っていた。

 不覚にもその表情に驚かされた俺は、生返事でそのお願いに了承した。


「麻衣ちゃん、体に異常は全くなかったそうです。疲れによる一時的な昏倒らしくて、明日には退院するって言ってました」


 窓の外を眺めながら、若山さんはゆっくりと言う。

 その横顔は、憂いを帯びている。


「そう、それは良かった」


「・・・家に帰ったら急いで麻衣ちゃんに電話しました。元気そうな声で笑っていたので、とても安心しました」


「そう」


 そういえば、俺も古瀬さんおメル友だった。かなり前に連絡先を交換して、メール内容は最初の挨拶のみ。メールを使わなさ過ぎてすっかり忘れていた。


「・・・私の事は気にせず、3日目を楽しんでって言ってくれました」


「そう」


「・・・私はっ・・・悔しい、ですっ・・・」


「・・・」


「麻衣ちゃんの倒れた時、駆け付けれなかったことにっ・・・!」


 俯きながら、若山さんは声を振り絞る。


「私は嫌いです!麻衣ちゃんのことなんにも知らないくせに陰口ばっかり言う先輩たちもっ・・・!変な憶測で麻衣ちゃんの噂を立てる人もっ・・・!――それを注意出来ない・・・私も」


「・・・」


 いつだって、若山さんは優しい。優しすぎるくらいに。俺も、そんな風に他人の為に泣くことが出来るだろうか?ここまで他人を思い、感じ、そして泣き。

 彼女は初めての友達である古瀬さんが心底大好きなのだろう。悔しそうに顔を歪める若山さんを見れば、そんなこと手に取るように分かる。目には大きな隈があり、昨日はあまり寝てないのことが窺える。だがそれほど彼女は古瀬さんの事について、そして周囲の人間について真剣に考えていたのだろう。


 若山さんのすすり泣く声が2人きりの図書室に響く。


「すごいね、若山さんは・・・」


「え?」


「俺は、昨日家に帰ったらすぐにゲームしたし、美味しいご飯もいっぱい食べたし、睡眠も十分にとった。古瀬さんの事なんて、学校から出たらすぐに頭から消えてたよ」


「っ・・・そ、それは、HRで麻衣ちゃんが無事だって知ったから・・・」


「いや、違うよ。俺は古瀬さんが倒れた時、なんにも行動を起こさなかった。周りの人間と同じ、ただ傍観しているだけだった」


「・・・」


「俺は所詮、その程度の人間だから」


 自嘲気味に言葉をそう零した、瞬間。



「そんなことありませんっ!!!」


「っ!」


「私はっ・・・!そんなこと思いませんっ、芦田君はこんな私を変えてくれました!独りぼっちだった私を救ってくれました!手を、差し伸べてくれました・・・。だから、そんな悲しい事・・・言わないでください」


「・・・」


 そんな、ことは・・・。俺は彼女からそんな評価をされているのか・・・ありがたい、ありがたいが・・・全くもって見当違いだ。


「それは、若山さんのかんちが――」


「分かってます!」


「っ!」


「芦田君が本当は私なんかの為に行動していなかった事くらい分かってます・・・でも、私はそれでも、芦田君が居たから心の底から救われたんです。笑えるようになったんです・・・ずっと一人だった私にも、誰かと一緒に居ていいんだって、楽しんでいいんだって、それを教えてくれたのは、他の誰でもない芦田君なんです。だから――――」





「――大好きなんです」



「え?」


 予想外の言葉に、俺の頭は真っ白になった。


どうなることやら…‥

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