第40話 ぼち男のダブルデジャブ
やっと一日が終わった。
最近は学校で過ごす一日がとても長く感じる。授業しかり休み時間もしかり、早く帰ってアニメみたい。しかもこれからは、文化祭の準備で放課後はほぼ全員で居残りだろう。はぁ、疲れる。
「あ、芦田君。あのちょっといいですか?」
「ん?」
早速帰ろうと思っていたら、若山さんが若干動揺しながら聞いてきた。・・・それはいつもか。
「えっと、放課後、空いてますか?」
「劇の小物作りがあるけど、若山さんもだよね?」
「そ、そうでした・・・」
はっと気づいた仕草を見せる三つ編みちゃん。失念していた感じかな。
「え、えっと、ど、どうしましょう・・・」
出た、若山さんのキョドりモード発動だ。パッシブスキルかもしれないが、俺にはその違いが分かる。これは自分への懺悔の時に見せる動揺の仕方だな。
「・・・若山さんの用事がすぐ終われば大丈夫だと思うけど」
「すぐ、ですか・・・分かりません。芦田君には図書室に来てもらいたいんですけど・・・」
「図書室・・・古瀬さん?」
「は、はい」
俺が何かしただろうか。・・・・いや、何もして無さすぎる位だな、俺の人生。
「そう」
「行けます?」
「まぁ、あんまり長くなりそうだったら途中で抜けるよ」
「それで、大丈夫です」
彼女の雰囲気から見るに、あまり好ましい話ではないのだろう。
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若山さんと一緒に階段を上がり、到頭図書室前に着いた。
懐かしい光景だ。この図書室で色々なことがあったな・・・あんまりいい思い出じゃないけど。いや全然いい思い出じゃなかったわ。
「失礼します」
「・・・」
・・・礼儀正しいな若山さん。図書室に挨拶して入る人なんて初めて見たよ。
「・・・お久しぶりですね、武流さん」
「お久しぶりです」
相変わらず、綺麗な人だ。久しぶりの対顔で真先にそう思うことは、失礼に当たるのだろうか。
ピシッと綺麗に立てていた腰を上げ、読んでいた小難しそうな本に栞を挟んだ古瀬さん。
「今日は来てくださり、有り難うございます」
「あ、ありがとうございますっ」
古瀬さんが俺に礼を言ったのに倣い、若山さんが慌てて礼を言う。
「・・・そんなことで一々感謝してたらキリ無いですよ」
千恵なんて俺をパシリに使っても、礼なんて一切言わないからね?まるでそれを当然と思ってるかのように振舞うし。・・・・・・うん?考えたらあいつヤバい奴じゃん。
「ふふっ、そうでしたね」
「?」
何がそうなの?
「今日は図書室の利用者が居ませんので、あちらの席に移動しましょう」
そう言って、がらんどうの図書室の奥にある読書用席を指さす彼女。
「なんか、懐かしいですね」
「そう、ですね。私はほぼ毎日来ているので、そうは感じませんが・・・」
俺が本棚の方を見ながら言うと、古瀬さんが戸惑いながら返事をしてきた。
「ああ、そうでしたね。すみません」
「いえ、私はある意味では感慨深いとも思っているので・・・」
「・・・そうですか」
あの出来事が感慨深い、か。
あのストーカー君の件は、彼女自身にかなりの精神的負担を掛けたはずだ。だがそれでも、その事件の現場に毎日のように来続けるのは、相当なメンタルがあるとしか思えない。・・・・・イケメン君の最後が余りにも無残だったのも起因しているのかもね。
あるいは、古瀬さんはあの出来事を自分への糧としてるのかもしれない。苦難を、困難を乗り越えた先には必ず成功が待っている。そう・・・・・思ってるのかもしれない。
「あれから何もありませんでしたか?」
席に着いたところで、俺が先に話を振る。
「はい。武流さんのお陰で、至って変わったことはありませんでした」
「そうですか」
「はい」
取り敢えず、古瀬さんが元気にしていた事が確認取れて良かった。また変な奴が現れたとかだったら大変なところであった。
「・・・」
「・・・」
気まずい・・・。あなた達が呼んだんだから早く用事を言ってください。
「・・・そういえば、図書委員長にカウンターの件相談しましたか?」
いつまで経っても話さないので、俺が話を振る。
「え?・・あ、はい。7時までだったのが6時までとなりました」
「それは良かったですね」
「はい・・・ただ、今まで毎日7時帰宅だったので、少し違和感があります」
「すぐ慣れると思いますよ」
「はい」
この学校の図書室は、何故か7時までの開館となっていた。利用者めっちゃ少ないのに。
だが、委員長に相談して、無事聞き入れて貰えたようなので良かった。
「・・・」
「・・・」
・・・・・なんで何も言わないんですかね。
「あの・・・」
「は、はい」
若干気まずそうに答える古瀬さん。
「古瀬さん達は俺に何か用があったから呼んだんじゃないんですか?」
「え、えっと、はい・・・」
「?」
彼女がこのような動揺の仕方をするとは珍しい。・・・と言ってもそこまで古瀬さんの事を知っている訳でもないが。
古瀬さんはいつだって冷静で、論理的で、そんなイメージがあった。あのストーカーの件の時だって、疲労や不安は隠しきれていなかったが、彼女は気丈に振舞おうとしていた。
だが今の古瀬さんは、俺が今まで見たことの無いような雰囲気を出していた。仮に似ている場面を挙げるとするならば、彼女が俺に向かって、連絡先交換をするかどうかを聞いてきた時に似てる。
「どうしました?」
「えっと、その・・・」
「・・・・」
はっ!この雰囲気は、まさか・・・・・・おれのことが・・・
「あの・・・また・・・私達と一緒に帰ってくれませんか・・・?」
「へ?」
壮絶なるデジャブである。
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