第35話 絵里奈と変態野郎
若山さんが驚きの声を上げ数秒、周りの人らの視線がこちらに釘付けになる。
「・・・す、すみませんっ」
自分が大きな声を出したことに赤面する若山さん。流石に声がでか過ぎたね・・・
「え、えっと・・・その、本当、なんですか・・・?」
「うん」
「知らなかった、です・・・」
まぁ、知らないのも無理はない。まさか今の祐樹と絵里奈が幼馴染なんて思わないだろう。実際、知ってるいるのは妹の千恵くらいだ。
「せ、瀬口さん、その、なんかすみません・・・」
「・・・ううん。気にしてないよ」
本当に気にしていないのなら、普通そんな顔するかね・・・。
傍から見ればただ笑っているような表情でも、俺には分かる。絵里奈が強く手を握り締める時は、それはいつだって何かに耐える時だ。小さい頃からずっとそう。先生に怒られているときも。喧嘩するときも。泣くときも。・・・あの時も。強いストレスを感じた時に絵里奈がする癖。久しぶりに見たが、なんにも変わっていない。
「・・・」
「・・・」
一時の静寂が続く。
そして、それを最初に破ったのは、絵里奈だった。
「・・・祐樹はね、昔はあんな感じじゃ、なかったんだ」
「・・・昔、ですか?」
「うん・・・祐樹と私は、家が隣同士でね。小さい頃からよく一緒に遊んでたんだ」
あぁ、祐樹と絵里奈は常に一緒に居たからな。登校する時だって、放課後だって。この二人が離れている時はあるのかと、不思議に思っていたくらいだ。おっ、この肉うまっ。
「・・・全く、想像できないです・・・」
嘘でしょ?といった様子の若山さん。無理もない。いや、無理もなさすぎる。
「そう、かもね・・・。私達はね、ずっと遊んでたんだ。文字通り、ずっと。今でも鮮明に思い出せるよ、祐樹と一緒に遊んでいた日々を・・・」
でもね、と続ける絵里奈。
「結局、子供だったんだ、私達。・・・ううん、私だけ、かな。・・・この日常が変わらないでいて欲しかった。楽しく過ごせれば、それで良かった。でもそれは、ただの子供の我儘で、甘えで、結局私は・・・私はなんにも知らなかったんだ・・・」
・・・子供、ねぇ。絵里奈が俺にしたことは果たして、子供がするようなことなのか。別に、俺はそんなにダメージを食らった訳じゃないからいいが、祐樹は違う。あいつの抉り削られた深い傷は、そう簡単に癒せるものではない。癒せるとしたら・・・祐樹自身かあるいは絵里奈か。
あと今飲んでるこのジンジャーエール炭酸キツっ。
「え、えっと・・・」
困惑の三つ編みちゃん。
「あ、ごめんね?急に語りだしてちょっとキモかったよね・・・」
「い、いえ、そのようなことはありません」
「・・・ちょっと、お料理取ってくるね」
「はい・・・」
そう言って、皿を手に持ち席を立った絵里奈。
「・・・なん、だったんでしょう」
「さぁ」
実際、彼女自身なぜ自分がこの事を話したのか、分かっていないだろう。絵里奈は自分の過去を他人へ言いせびらかすような真似はしない。特に、先ほどの内容は。
偶々だったのかもしれない。若山さんが無害そうに見えたからかもしれない。無性に、自分の知らない誰かに吐き出したかったのかもしれない。分からない。分からないが、なんか言いたい。口に出して、少しでも楽になりたい。言って現状が変わるわけでもないが、誰かに聞いてもらいたい。
様々な感情が混ざり合って結局、吐き出したのではなかろうか。
「・・・芦田君は、知らないんですか?川添さんの変わった訳を・・・」
「うん、知らない」
「そうですか・・・」
知ってるが、俺の口から言うべきかというと・・・違う気がするな。だが、気になるのも無理もない。なんかここから良いところ!ってところで、絵里奈どっか行ったからね。
「まぁでも、色々あるんじゃない?陽キャ組にもさ」
「そうですね」
悩みを抱えていない人間などいない。そんなの、当たり前だ。
と、そこへ
「イエーイ!アッシー楽しんでる?」
噂をすれば何とやら。陽キャの真打、神咲さん登場。
「・・・まぁ、ほどほどに」
「まだ1時間以上時間あるから楽しんでってね!あ、そういえばえりっち知らない?さっきそこに居た気がしたんだけど」
「今さっき料理見に行ったよ」
「オッケー、サンキューアッシー!」
そう言って消えていった神咲さん。
「アッシー・・・」
「・・・秒であだ名付けられたんだ」
俺のあだ名を呟く若山さん。なんか彼女に言われると、妙にくすぐったいな・・・
「か、かわいいですね。ふふっ・・・」
「そうですか・・・」
「私もそう呼んでいいですか?」
「いやダメでしょ」
「ふふっ、冗談です」
「・・・」
・・・この子いつから冗談なんて言うようになったのかしら?お友達が出来て、そういうノリを学んだのかね。あ、言われてみれば笑い方古瀬さんに似てる・・・。ふふっ、がまだ若干ぎこちないけど。古瀬さんのは、洗練されたふふっ、だからね。・・・なに考えてんだ俺。
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「楽しかったですね」
「それなりに」
現在7時。若山さんを家に送り届けている道中。
「偶にはああいう誕生日も良いとは思うけど、俺はもっとこじんまりとした奴で十分かな」
確かに大勢に祝われるのは嬉しいことだとは思うが、あそこまでいくとちょっと、ねぇ・・・。別に、友達が居ないことによる強がりとかじゃないですよ。ないったらない。
「それは、分かります・・・。流石に多すぎて、もし私が逆の立場なら、申し訳なさが先行してしまう気がします」
「確かに」
プレゼンを貰ったら、そのお返しをしなければならない。あの人数分のプレゼントを返しきれるのかね、いったい。
「・・・あ、あの、芦田君の誕生日って、い、いつですか?」
若山さんが伏し目がちに聞いてきた。
「12月12日だけど」
「12月12日ですね・・・分かりました」
ありがたいね。ならば俺も。
「若山さんは?」
「あ、えっと、5月10日、です・・・」
「・・・そう」
この流れは、若山さんが誕生日に俺へプレゼントを渡して、俺も若山さんへ渡すという筈だったのだが・・・。来年渡そうかね。
「その、はい・・」
「まぁ、うん・・・」
陰キャあるある、話が続かない。
こういう時だけ陽キャのコミュニケーション能力に憧れるね。
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