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幸せは昨日訪れる  作者: えるふ
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隻腕のゼファー

「警告!5時の方角に船舶!」

見張りが叫ぶ。

「代われ」

スイギョクは舵輪を任せ、望遠鏡を覗く。

「敵の船だ!総員戦闘配置につけ!」

船内が慌ただしくなった。

「面舵!迎え撃つ!反航戦用意!右舷、砲門開け!」

スイギョクが指示を飛ばす。相手の船はこちらに船首を向ける。

「伏せろ、伏せろ!」

直後砲声が聞こえた。船首に砲がある事は珍しいことではなく、小口径ながらも相手の船を攻撃する能力を備えている。

 敵弾が着弾し、アチコチで木片が飛び散っている。甲板が静になるとすぐさまスイギョクが望遠鏡を覗く。敵の船はやや取り舵をとっている。

「面舵!左舷砲門開け!射撃準備!」

スイギョクが指示をし、相手と並行にする。右舷反航戦のつもりが、左舷同航戦になってしまった。

「撃てぇ!」

サプライズは一斉に砲声を上げ相手の船を攻撃する。こちらが攻撃できるという事は当然相手も攻撃できる事を意味する。船が悲鳴を上げる。船殻に着弾した砲弾は木片を飛び散らせ、甲板を薙ぎ払っていった。

「ひぃいっ」

ゼファーは悲鳴を上げながら踞った。海での戦いは完全に素人であり、しかも撃ち合いとは完全に無縁の立ち位置だったゼファーは恐怖に支配された。敵が放った鎖弾が腕を撫でていった。激痛が走る。見ると肉がえぐれていた。腕を押さえ、顔より高い所に無意識に上げてしまった。それが原因となり傷口を含む腕に無数の木片が突き刺さる。

「そんなところで踞ってたら、この音楽は楽しめないぜ!?」

何をいってるんだ、と思ったが、顔を上げると、水夫達は懸命に戦っていた。ゼファーはそれを見てアサルトライフルを握り直す。

「はは、いいぞ。だが、まだだ!それを使うのはもう少し後だ!」

スイギョクはゼファーを鼓舞する。ゼファーもそれに答えようとする。2隻の船は再び旋回を行う。

「再装填完了!」

「撃てぇ!」

再び16門の砲が火を吹く。こちらの攻撃は確実に効いており、相手は速力が落ちていた。



「兵士諸君!戦いに備えろ!」

ゼファーはそれを聞いて驚いた。今までの撃ち合いは戦いじゃなかったのだろうか。


しばらくすると、サプライズは敵の船に接触し”戦い”が始まろうとしていた。

「一番乗りだ!」

スイギョクが叫びながら敵の船に乗り込んでいく。部下たちもそれに続き、ゼファーも後に続く。

「一番乗りは船長だ!俺たちも続けぇ!」

甲板上ではアサルトライフルの撃ち合いが始まる。だが狭い船上では、剣も有効だ。敵の水夫は剣やピストルで応戦してくる。剣の相手はピストルか、同じく剣で対応する。まとまった敵はグレネードで対処する。

「砲甲板へ!」

水夫が叫びながら階段を降りようとして、吹き飛ばされた。旋回砲だ。船上での戦いは持ち運びが可能な旋回砲も有効打となる。水夫たちは死角からグレネードを放り投げ砲手を吹き飛ばすと、砲列甲板に降り、接近戦を挑む。

「船長、今回の敵は活気に満ちていますな」

部下が野次を飛ばす

「ははっ、違ぇねぇ」

スイギョクは笑いながら敵を倒していく。手の空いた水夫たちは敵の大砲に水をかけ、使用を困難にしていく。


「船長確保!」

水夫が叫ぶと敵は次々と降伏。戦闘が終わった。


「これを」

相手の船長はスイギョクに剣を手渡した。これは船乗りに伝わる降伏の儀式である。スイギョクはそれを受け取り、足元に集められた物資を見る。

「戦利品はこれだけか?」

「はい」

部下がそう言うとスイギョクは自分の船に乗せるように指示。戦利品は食料水の他、火薬や帆、索具等も含まれている。

「お前たちは殺さないでおいてやる。運が良ければ島に流れ着く!」

スイギョクは船を走らせる。取り残された敵の船はコンスティチューションと言うらしい。船尾の名盤に書いてあった。コンスティチューションの船員はどんな気持ちで船上に残るのだろう。ゼファーはそんな事を考えていた。



「敵船接近!」

先程の戦闘から1時間もたたず、再び接敵した。スイギョクは望遠鏡を覗き舌打ちした。敵の船は大きく、名盤に大きくペンシルベニアと書かれていた。

「白旗準備!」

敵の船はその準備を知らずか、斉射を行った。

「伏せろぉ!」

圧倒的火力であった。メインマストは悲鳴を上げながら折れ、舵輪や船殻が破壊されていく。たった一回の斉射で多くの水夫が失われた。ゼファーはそれを見て唇を噛んだ。何か出来ることはないか。何かあるはずだ。そうだ”アレ”ができるかもしれない。

「おい、羽娘、危ないぞ」

スイギョクが制しようとしたとき、ゼファーの正面に魔法陣が浮かび上がっていた。

「魔法陣展開、召喚障害なし。3、2、1、ライフル!」

「ミサイル飛翔時間3秒!」

無理な角度で放ったため、バックブラストでゼファーは後ろに吹っ飛び、甲板を転がった。ゼファーが顔を上げる頃、ミサイルは着弾し敵船を木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

「よっしゃぁ!」

「こいつぁたまげた……」

水夫たちが喜びを体で体現している。

「なんとかなりそうか」

スイギョクが水夫に話しかけている。

「ま、2日ってところでしょうな」

「分かった、負傷兵の手当を優先させろ」

「了解です」

二人のやり取りを見て、ゼファーは声をかけずには居られない。

「ど、どうやって計算を?教えてもらっても?」

ゼファーの質問にスイギョクは腰を下ろしながら答えた。

「ここから港までは凡そ40リーグだ。今、この船の速度を図らせたら3ノットだった。そこから計算で導き出されるのは、あと2日くらいかかるって事だ」


水夫の治療が終わったのか、ゼファーに歩み寄ってくる衛生兵。だが、手に持っているのは手術用の道具には見えない。

「あ、あの…そのノコギリで何を…」

「その傷口を切り落とす為だよ。ほら、腕出しな」

その言葉に思わず腕を引っ込めるゼファー

「い、いや……」

「治療しないと死ぬぞ、お前」

「モルヒネは……」

「そんなもんない。ほら、行くぞ」

「いゃぁあああああ!」



「女の悲鳴ってやつぁ耳に響いて仕方ない。ほら、止血はすんだよ。残りの船旅を楽しみな」

衛生兵はそう言い残し船内に降りていった。

「なんだ、利き腕か?」

「はい……」

涙を流しているゼファーに話しかけたのはスイギョクだった。よく見ると彼女も左腕を失っていた。

「仕方ないな、ほら、船内まで来な」

スイギョクに言われて船内に入ると、所狭しと負傷兵が座っていた。

「お前ら、生還祝だ、飲むぞ!」

スイギョクはいつのまにかラム酒を持っていた。

「……」

ゼファーは何も言えず黙っていると、座っていた水夫が立ち上がり、近づいていく。彼は治療の結果、片足を失ったようだ。

「そうこなくっちゃ!」

水夫のその一言に負傷兵が勇気づけられた。そして誰かが歌い出す。

「俺たちゃ、忠実なエルフの船乗りらしく浮かれ騒ごう」

そして誰かがつられて歌い始めた

「大海原の真っ只中で浮かれ騒ごう」

「懐かしの母国で測深するまでは!」

「なみなみと注いだ酒を飲み干そう、大杯を飲み干そう!」

「飲んで陽気にやろう、憂鬱な気持ちなんかぶっとばせ!」

「ともに戦おう!真心を持った魂の健康を祝して乾杯!」

歌詞通り、水夫たちは騒いでいた。これで良いのかもしれない。生きている喜びを分かち合う。そして明日に備えよう。明日も長い


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