サプライズ号
「指定されたポイントです」
合流地点に到着し、周りを見渡す。桟橋の向こうは海だ。しかし、そこに1隻の船が停泊していた。
「交戦地帯には違いない。乗船は早く」
相手に言われゼファーはびっこを引きながら桟橋を急ぐ。
「あ、待って」
ゼファーは振り返り、見送る態勢になっているアイリスたちに頭を下げた。
「有難うございました」
「礼は基地までとっておきなさい!」
アイリスはそれを言うと桟橋を離れていく。
「はしごでスマンな。手伝ってやるから頑張れ」
ハシゴを登る時に手伝ってもらってなんとか甲板に辿り着く。
「戦場に来るとは思えない、可愛いパンツ穿いてんのな、羽娘」
そう言いながら女性は帽子をかぶりなおす。
「……空軍規則で」
「変な規則もあったもんだな……。野郎ども、出港だ!」
それを見てゼファーは眼を丸くした。
「アタシは船長のスイギョク。この船はサプライズってんだ。よろしくな」
「よろしく……」
相手の勢いに圧倒されるゼファー。船乗りとはこういうものなのだろうか。忙しなく水夫が働き、船はゆっくりと滑り出す。
「生憎、客船じゃないんで、甲板で過ごしてくれ。部下たちの居場所しかないんだ」
「はい、大丈夫です……」
ゼファーは返事をして手すりまで移動する。そこから陸が徐々に離れていく光景は初めて見るものだった。ゼファーは目を輝かせ、その光景を眺めていた。
この船は32門フリゲートで、24門のカロネード砲を備えている。コルベットサイズだが、フリゲートと同等の立ち回りができる船で火力も十分だ。ピカピカの最新鋭艦である。
「こいつを死体袋に入れてやれ。甲板に転がしておくのは可愛そうだ」
ゼファーは死体袋に入れられる前にドッグタグの一つを受け取った。
「この船はどれくらいで走れるの?」
ゼファーはスイギョクに聞く。スイギョクは首を傾げる。この男の弔いの言葉ではないのだな、と
「調子が良ければ12ノットってところだ。私のサプライズ号は世界最速なんだ。アタシより早く走らせる技術は世界のどこにもないよ」
そう言うスイギョクはどこか自慢気だった。