ゼファー確保
『6-4、6-4、そちらはどのような状態か、どうぞ!』
「こちら6-4、墜落地点は近い、銃声が聞こえる!敵は処理できた、進軍可能!」
『了解6-4、こちらはかなり遅れる!アウト!』
通信を終え、6-4小隊の隊長を務めるアイリスは部隊を率い、進軍をする。それは2人のプルーマを助けるため。1人の死亡は通信で聞いていたが、死んでいても連れて帰るつもりだった。
「アイリス軍曹、情報によるとこのあたりです」
銃声が聞こえる。墜落地点は近い。
「ゼファー中佐!アイリス軍曹です!助けに来ました!」
道の向こう側。木に身を預けるように応戦している女性を見つけ、アイリスは叫んだ。ゼファーは手を上げ合図をしていた。
「チョコモス、ローレンティア、エキナセア、一緒に来てください!他はこの場から援護です!行きますよ!」
味方が一斉に敵に向かって斉射し、アイリスたちはゼファーのもとに走っていく。
「大丈夫ですか!?」
アイリスはゼファーの手を取り安心させようとする。
「左足はほとんど動かせなくて……背中も…変な感じ…」
ゼファーが言うと、アイリスが肩を貸す
「あの建物に!」
アイリスが無理やり立たせ、近くの建物に近づいていく。
「シュネー隊だ!」
ゼファーは突入時のアイリスの台詞を聞いて思い出す。陸軍はシュネービッチェンと呼ばれているのだ。この物語に存在しないが、ドイツ語で白雪姫の事である。じゃあ寝てろよ。ではなく、白いバラの事。
「クリア!」
「クリア!」
「クリア!建物確保!」
突入した隊員が手際よく建物を確保し、アイリスに運ばれゼファーはテーブルの上に仰向けに寝かされる。
「ネリネ!」
ネリネと呼ばれた隊員は建物の外に居たが、すぐに駆けつけてくれた。
「お呼びですか!」
「手当を!私達は防御します!」
「了解!」
ネリネは言われすぐにブーニーハットを投げ捨て、バックパックを下ろし、動きやすいように整える。
「空軍は良いですね、スカートで。陸軍だったらズボンを切らなきゃだめなので、しばらく下着姿になるところでしたよ」
靴下も長くなく、治療は施しやすそうだった。
「まずは破片を取り除きます。どうぞこちらを噛んでいて下さい」
満足な設備はないし、出来ることは限られている。ネリネはガーゼをゼファーに渡した。
「モルヒネは…?」
「ごめんなさい、脈拍が下がりすぎます。きっととても痛いと思いますが、治すためです」
ネリネは脚に刺さっている破片をナイフで取り除いていく。一つ取り除くたびに悲鳴のような荒い息が漏れていた。
「脚は大丈夫です。次は羽ですね」
「はぁ、はぁ……羽はデリケートだから優しく……」
「喋らないで!」
「んんぁぁあああ!」
ネリネは容赦なく羽に突き刺さった破片を取り除いていく。先程口を開いた関係でガーゼが口から離れてしまったので、ゼファーは叫ぶような悲鳴を上げた。
「もう大丈夫です。ただ……」
ネリネの言葉が曇る。
「何?モルヒネくれるの?」
「いえ、もう飛べないかもしれません」
正直自分の怪我を把握してなかったゼファーは羽を動かし見えるようにすると、絶望的なのが伺えた。左の翼は2/3をもぎ取られ、残った部分の羽毛もほとんど弾け飛んでしまっていた。脚は血で染まっており、応急処置の止血がされているだけであったので、その状態をゼファーは即座に理解できた。
「嫌……嘘…っ」
涙を流し始めるゼファーの胸ぐらをつかみ、ネリネは顔を近づけて言い放つ。
「泣くな!まだここは戦場!泣く暇があったら銃を取りなさい!」
そのやり取りを聞いてアイリスが部屋に入ってきた。
「治療は終わりましたか?」
「ええ、脚に包帯を巻けば終わりですね」
「分かりました。ローレンティア、連絡を」
アイリスがゼファーの脚に包帯を巻かれているのを確認すると、呼ばれたローレンティアが通信を試みる。
「こちら6-4、パッケージを無事確保、これより帰路につく、どうぞ」
『了解6-4。帰路は海路だ、どうぞ』
「6-4了解、アウト!」