プルーマダウン
クリスティーは軍法会議にかけられたが無罪となり、戦列に戻ってきた。
「ゼファー、喜べよ、今日は低空からの航空支援だぞ」
クリスティーが肩を叩きながら通り過ぎていく。
「隊長、本当ですか?」
「ああ、本当だ。ベスタン地区の陸軍による、要人確保のサポートだ」
確かに低空での航空支援は望んでいたが、今までの流れという物があるだろう。
「どうして今になって?」
「いや、他の飛行隊が高高度からの支援を担当する」
なるほど、貧乏くじか。この私が所属する飛行隊は貧乏くじばかり引いている気がする。
「了解です。どの部隊を守るので?」
「2-5小隊をトップツリー・レベルで支援して欲しいそうだ」
隊長に言われ、ゼファーは敬礼をしてかえす。
「了解です」
「こちらゼファー中佐。2-5小隊、聞こえますか?」
『こちら2-5、真上にそちらが見える』
「了解2-5。すり鉢旋回にて狙撃手を警戒する」
「2-5了解」
ゼファーは片眼鏡で周辺を見る。薄い壁なら透けて見えるが、屋根ほどぶあつい物になると透視はできないようだ。そして、今気が付いたのだが、ガラスは見えないようだ。そんな事をボンヤリと考えていると、無線が飛んでくる。
『2-5グリーンライト、捕虜搬出開始』
「搬出にはどれくらいかかるのですか?」
ゼファーがそれに応答する。
『5分です、中佐!』
「5分も!了解、上空を警戒する!」
ゼファーは言いながら怪しい物陰に撃ちまくる。空薬莢が地面に降り注ぎ、エルフ軍が防御を固める。
『こちら2-5、航空支援に感謝する!』
低空を低速で飛行し、高い火力を出し続けていれば当然、狙われやすくなる。ゼファーは若干ながら高度をあげる。見通しが若干良くなり、潜んでいる敵も狙いやすくなる。
だが同時に、敵からも狙いやすくなる
「ミサイルアラート!ブレイク、ブレイク!!」
ゼファーは全力で旋回し、力の限り羽ばたく。高度を上げ距離を稼ぐと同時に左へ旋回し、ミサイルから角度を取る。ミサイルの角度が緩やかになった頃、右へ旋回し、フレアを散布する。フレアは魔法陣を展開しながら落下していき、ミサイルを欺瞞する。しかし、ミサイルはまっすぐこちらに向かってきた。再び左へ旋回しようと体を傾けた時に、ミサイルは近接信管を作動させ、複数のニードルを射出した。
『ゼファー、被弾!』
痛みで遠のく意識の向こう側でクリスティーが無線を飛ばす。仰向けに墜落していたので、空に自身の羽が飛び散り、空の青とコントラストを作り出していた。
『ゼファー、墜落する!墜落する!』
ゼファーはそれを遠くに聞きながら真っ逆さまに地面に墜落した。
『ゼファーは墜落、現在地上にいる!墜落した!』
『クリスティー大尉、引き続き上空で支援を。陸軍に救助を要請した。迅速にやれ!』
ゼファーは片足で這うように木のもとに行き、上半身を木に預ける。
「まったく、ついてない……」
と、悪態をついていないと、痛みで気を失いそうだ。救急キットの中から注射器と粉末の入った袋を取り出す。まず腹部の傷口に粉末……サルファ剤をふりかけ、注射器……モルヒネを太ももに打ち込む。
「片眼鏡は……だめか、落とした…」
そして周りを見渡すと、それっぽい装飾を近くで見つけ、そこまで這っていく。
「良かった、シルフは私についてる」
すぐさま座標を表示させ、味方のいる位置を表示する。
「10ブロックって所ね……この足で歩くのは無理だから……」
待つしか無い。その現実はあまりに非情だった。護身用にアサルトライフルを召喚し、胸に抱え、先程の木に戻っていく。
「こちらゼファー……生存報告…。2-5小隊から……10ブロック離れた地点です……」
『6-4小隊が6ブロック先にいる。急がせるので、そこで防御せよ』
『こちらクリスティー、ゼファーの援護に向かいます』
『駄目だ、お前は2-5小隊のサポートに徹しろ!』
クリスティーが官制と無線のやり取りをしているのを黙って聞きながら、2本目のモルヒネを注射した。
しばらく静寂が訪れていたが、突然バラバラっと機銃弾が着弾する音が響き渡り、直後、ヴゥっと砲声が聞こえる。機銃は音速を超えているので砲声の方が遅れて聞こえる。
落ちてくる空薬莢が近くに落ちるのが見え、すぐ近くまで敵が迫ってきているのが分かる。
「今の砲声は……」
『私です、クリスティーです!敵が大勢近づいてきています!真上で防御します!』
「有難う……」
でも、命令は…と続けようとしたとき、爆発音が響く。
「クリスティー?クリスティー!」
思わず無線機に叫んでしまったゼファーはむせせてしまうが、クリスティーからの応答はあった。
『被弾しましたが大丈夫!まだ飛べます!』
だが、声は弱々しく、高度を保っているだけで精一杯のようだった。
『分かった、クリスティー。だが今すぐ基地にもどれ』
空を見上げるとクリスティーが遠くに見える。そして、それに向かっていく飛翔体も見えた。
『クリスティー少尉が被弾しました!墜落します!!』
無線からもその現実が伝えられる。衝撃によって吹き飛ばされるように墜落したクリスティーは、偶然にもゼファーの隣に墜落した。
「クリスティー、クリスティー!」
ゼファーは思わず手を伸ばし、手を握ってやる。クリスティーもそれに答えるように握り返す。しかしその力は弱々しく、今にも事切れそうだった。
「国のために死ねる……」
クリスティーの最期の言葉だった。ゼファーは最も行いたくなかった通信を行う事となった。
「K.I.A1名、クリスティー少尉、以上」
『了解ゼファー』
官制との通信は短い物だった。だが、先程クリスティーが航空支援を行っていたという事は、近くまで敵が迫っているということ。しかもその距離はかなり近い事を意味している。ゼファーは覚悟を決めて胸に抱いていたアサルトライフルを構える。
「助けに来るなら、合図を……同士討ちはゴメンよ……」
『了解中佐!今そちらに向かっていますが、激しい抵抗にあっている!6-4以上!』
どうやら墜落地点は敵地深い場所のようで、味方部隊の到着は遅れている。つまり、敵のほうが先に来る、という事を意味している。ゼファーはセレクターをフルオートに切り替え、動く物陰に数発撃ち込む。すると、何人かが出てくる。それを撃った。