ゼファーに想いを寄せる彼は
『中佐と飛ぶのは何年ぶりでしょうか』
「最後に少尉と一緒に飛んでから……1週間経ってないと思うけど……」
今日はクリスティーと一緒に飛んでいた。高度は今までで最も高い1万5千フィート。
『ははっ。まぁ、そう言わんで下さい。でも、ツーマンセルで飛ぶのはちょっと楽しくてですね……でも、ここは……』
クリスティーが口をつぐむ。この地区は交戦状態にない。
『先程送った座標に向かって欲しい』
管制室から通信が入り、片眼鏡に座標が送られてきた。その位置へ即座に向かう。
「了解です。新座標に旋回」
ゼファー達はゆっくりと旋回し、座標地点の建物付近を見る。その付近に人が見える。
『そこに集まっている集団が見えるか?』
「はい、見えます」
ゼファーは素直に答え、座標を固定しすり鉢旋回に入る。ズームしてよく見えるようにする。
「武装していないように見えますが……」
ゼファーが言う。間違いない。武器の類は携行していない。
『こいつは先日、陸軍に大打撃を与えた指揮官で間違いない。爆撃してくれ』
ゼファーとクリスティーは顔を見合わせる。暗殺なら陸軍にスナイパーが居たはずである。
『非戦闘員も居るようですが……』
クリスティーが不安そうに言う。
『一般市民の居る場所で殺傷力の高い武器は控えたい。罪のない人々の死は心が痛む。しかし、敵の司令官は非戦闘員を盾に我々の攻撃から逃れようとする。攻撃したまえ』
ゼファーは少し考える。そして決断を下す。
「ゼファー、攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。3、2、1、ライフル!」
ゼファーの腹下に召喚されたミサイルはいつもどおり射出された。ゼファー自身は高度を保ち、すり鉢旋回のままだ。
「ミサイル放出。飛翔時間13秒」
肉眼で離れていくミサイルを追う。この命令には少し疑問がある。非戦闘地域で、非戦闘員が居る場所で、なぜ火力過多なミサイルを使うのだろうか。
目を細めミサイルが視認できないほど距離が離れた、虚空を唇を噛み締めながら眺める。
「弾着……」
ゼファーが小さく漏らすように言う。片眼鏡には爆煙が立ち上り、周辺を吹き飛ばした事が伺える。
『良いウデだ中佐。攻撃成果は必要ない。ベスタン地区へ向かえ』
「了解です」
ゼファーは何かをかき消すかのように即答した。クリスティーは何も言わず、ゼファーの横についていく。
『まったく信じられねぇ……』
クリスティーの呟きが無線機から聞こえる。
「何かを焦ってるようにも聞こえるわね。クリスティー、陸軍で何かあったか分かる?」
『いえ、何も』
「そう……」
その会話を最後に、会話が途切れてしまう。
『これから座標を送る。確認したまえ』
送られてきた座標の場所を見る。ここは確かにベスタン地区だ。しかしここは端っこの方でエルフと人間が混在する地域でもある。
「人混みが見えます。巻き添えにしろと仰るので?」
ゼファーが少し荒く言うと、管制官は冷静な声のまま答えた。
『敵勢力は仲間や他の勢力の者と行動を共にする。よって軍事的に高い効果が望めるので、この集団を排除する。その標的は切迫した脅威と断定する。攻撃したまえ』
今日2度目だな。こんな命令。ゼファーは苛立ちや悲しみなどの複雑な感情が込み上がってきていた。
『中佐、私が撃ちます』
「有難う……」
その内情を察したのか、クリスティーが発射を名乗り出た。ゼファーは素直に発射を譲る。
『クリスティー、攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。3、2、1、ライフル!』
『ミサイル放出、飛翔時間10秒』
ミサイルを射出したあと、クリスティーはすぐに旋回を開始、ゼファーのもとを離れていく。
「待ってクリスティー!」
ゼファーが叫び注意を促す。
『大丈夫ですよ』
「そうじゃない、あれを見て!」
ゼファーの叫ぶように言われすぐに片眼鏡の画面を確認する。そこには2人のエルフが歩み寄っているのが見える。
『なんです、エルフ!?なんでこんな所にっ!』
「中止を?」
『無理です、間に合いません、弾着まで2秒』
クリスティーの宣言通り、2秒後にミサイルは着弾した。クリスティーとゼファーは黙って煙が消えるのを待った。
やがて煙が晴れた
そこには跡形もなく消し飛んでいた。
『のち、詳細報告せよ。帰投しろ』
「了解、ゼファー帰投します」
『クリスティー、帰投します』