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幸せは昨日訪れる  作者: えるふ
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ソラノカケラ


「ゼファー、攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。ミサイル放出、飛翔時間12秒」

ゼファーの今回の任務は陸軍の航空支援。エルフの航空戦力はプルーマに頼ってきた。その為プルーマを排除した今、エルフに満足な航空戦力が存在しない。すり鉢旋回にて上空待機、指示があった場所に向かってミサイルを叩き込む。制空権の確保による圧倒的な優位性。長らくエルフが行っていた空からの強襲。エルフは自らの行いによってそれを示してきた。

『目標の沈黙を確認、前進する』

「了解、指示があるまで上空待機」

ゼファーは片眼鏡越しに陸軍の様子を見ていた。


恐らく、いずれは自分を助けてくれたエルフを吹き飛ばすことになるだろう。もしくは、すでに手をかけているかもしれない。


「前方に敵車両。支援は必要か?」

『非装甲車なので不要、その先の白い建物をやってくれ』

ゼファーはいつも通り目標指示を行い、もう一度確認する。

「こちらの建物で間違いないですか?」

『間違いない、やってくれ』

ゼファーが捉えている映像は熱源を立体的に映像化しているので色までは分からない。念のため可視光に切り替え確認する。確かに白いようだ。

「ゼファー、攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。ミサイル放出、飛翔時間10秒」

いつも通り、今まで通りの攻撃。建物は粉砕され、あたりに爆煙が立ち込める。

『違う!それじゃない!隣の建物!』

ゼファーは慌てて可視光から熱源に切り替え、建物を再度指示。

「こちらで間違いないですか?」

『そうだ、そっちだ!』

「本当にそう!?間違いはない?」

『敵が攻撃をしている、火線が見えたらそれだ!』

どうやら地上は活気に満ちているようだ。空からそれを確認すると、ゼファーは即座に攻撃姿勢に移行する。

「攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。ミサイル放出、飛翔時間8秒!」

ゼファーはミサイルを撃った後はすぐに8の字旋回にて上空待機になる。それでも片眼鏡は目標物を捉えたままになる。ゼファーは思わず目を閉じた。しばらくの後に目を開けると、そこには廃墟すら残っていない残骸が散らばっているだけだった。可視光では爆煙が立ち込めており、地上は視認できそうになかった。

『敵の攻撃が収まった。ありがとう、車両も沈黙した。どうやら爆発に巻き込まれたようだ』

射出しているミサイルは火炎を多く振りまくわけではないので、もしそうであるなら破片か飛び散った瓦礫によって死傷している事になる。

「了解しました。上空待機」

しばらくの沈黙。熱源で地上を確認しているゼファーも動く者は確認できなかった。



『周囲警戒』

『隊長、こいつ生きてますよ。ただ、放っておいても死ぬと思いますが』

地上で生存者を発見したようだ。建物の破壊によって死に体であったが今はまだ生きているようだった。

『ゼファー、ちょっといいか』

「はい」

『お前に話があるみたいだぞ』

目は虚ろで呼吸もおぼつかない相手と話すなんて、どんな風の吹き回しかと思ったが、すぐにそれが趣味によるものではないと分かった

『……さい……めんなさい……ゼファー……』

その声に聞き覚えがある。

「アイリスさん……」

『結局……私は……守れなかった』

「……私もです…シュネービッチェンは……健在ですか?」

『今は……私は…結局……道化かも…』

「道化で死ねるなら役回りは良いと思います。今も茶番は続いてますから」

『違いない……』

「先に休んでいてください。後でいくと思いますから」

2人の短い会話の後、すぐに人間の隊長の声が聞こえた。

『戦争ってのはこんなもんだ。人間の国なんだがスイスって国を知ってるか?永久中立宣言国なんだがな、昔は大した産業もなく、いるのは人間だけでね、出稼ぎに良く出国していったんだ。兵隊としてな』

その隊長はゼファーの反応が聞こえないように話を続けていった。

『そして、双方は戦場で再会した。敵同士として……。同じ同胞がよ……平和を掲げるのは何も建前じゃない。血みどろの歴史の上にできたんだ』

「何が言いたいんですか?」

『歴史家が何を言うかなんて関係ない。お前が今信じたい仲間の為に戦ってくれ』

隊長の言いたいことはだいたい理解できた。

「分かりました」

片眼鏡がアラートを出した。

「ゼファーです、ミサイル警報。回避します」

『了解、お客さんの相手は任せた。地上は気にしないでいいぜ』

「了解」

ゼファーはデコイを射出し旋回。まもなくミサイルを振り切ると、片眼鏡は一人のプルーマを捉えた。

『この裏切り者めぇ!』

「ルナリア……」

エルフの国に帰ったプルーマの一人がゼファーを追いかけてきた。

『人間だけは……貴様だけは……人間の味方をする貴様だけは……殺してやる!』

ルナリアはゼファーの後ろを取っている。ドッグファイトに持ち込まれる前にゼファーは推力を上げた。羽根を羽ばたき推力と揚力を得るプルーマと、推力を魔力変換により生み出し、その速度で翼が揚力を得るゼファーとではドッグファイト能力に差がでてしまう。旋回性能においてゼファーは不利である。

しかし、速度を上げていく中でかつて整備士に言われた台詞を思い出した。速度を上げるに連れ翼の後退角を上げていく。そのシルエットはまるで矢のように尖った形になっていく。


こうしてゼファーは現状のどの航空戦力よりも高い最高速を得た。後退角が大きくなると翼が風を受け止める面積が変化し空気抵抗が減る。もちろんそのために必要な速度が増えるが、今のゼファーはそれを考慮する必要がない程の速度域である。

そのため、圧倒的な速度差にあっという間に差が開いていくが、速度とパワーが勝るゼファーは旋回によるドッグファイトではなく、上昇反転による別の戦術に頼る事となる。

後退角をわずかに開き垂直上昇。ゼファーは速度を落とすこと無くそのまま高度を上げていく。高度計は恐ろしいほどの速度で数値を変化させていく。

『小賢しい!』

距離が離れれば当然ミサイルによる攻撃はやりやすくなる。ゼファーは旋回しながら高度を落とす。速度は誰も経験した事がないほどになり、もはや羽毛の羽根を持つプルーマが追いつける速度ではなかったうえ、ミサイルすら追いつける速度ではなかった。もとより、ミサイルは地上を攻撃するためのものであり、空中を飛翔する相手に向かって撃つようにはできていないのである。プルーマの魔法はそもそも空中戦を考慮していないのだ。

そのため、ゼファーは端からミサイル攻撃を選択肢から除外し機関砲弾によるドッグファイトに焦点を合わせていた。


2人のプルーマが真正面からすれ違う。地面に大量の薬莢が降り注ぎ、ゼファーが残した轟音が支配する。

『撃った…撃ったな!私をぉ!貴様なんか!私を撃つ資格なぞあるものか!』

最初のすれ違いでは両者無傷であったが、その場でターンができるルナリアがゼファーの翼に穴を開けた。そこに神経は通っていないためゼファーはそのまま速度を上げて急速上昇。

「貴方の恨みは根拠があると思う。けど、私は死ぬわけにはいかない」

『国を失った亡霊もどきの分際で!』

「……いいえ、私は国を失っていないわ。地表から国は消えたけども」

当然その無線通信は皆が聞いている。そしてそれを聞いていた誰しもが理解した。


彼女にとって地表の国なぞ端から無かったのだ。


なぜなら…



「ゼファーです。敵プルーマの撃墜を確認しました。追撃しますか?」

『必要ない。引き続き陸軍の援護を』

「了解しました」


彼女にとっての国とは


この青空だったのだから


彼女の国は地表から消え去った。

しかし、彼女の国は消えなかった。


大空にこそ、彼女の国は存在した。

穏やかで優しくて、そして厳しい空こそが

彼女の国、そのものである

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