プルーマの仕事
『こちら管制。上空はクリア、障害物なし、風向き北北西0.2ノット、離陸を許可する』
それを聞いてコリウスは滑走路の左側を走り始める。それを確認してからゼファーは右側を走り始める。
「コリウス、離陸!」
コリウスは言うが早いか背中の翼、正確には腰のそれを真横に展開し離陸する。雀のような模様の有るコリウスに対象的な黒い翼のゼファーもそれに続き離陸する。
「ゼファー、離陸」
徐々に高度を上げていき、滑走路端まで来たところで直角上昇を開始。一気に高度3000フィートへと上がっていく。コリウスは一応振り返り確認するが、ゼファーはハイレートクライムにも関わらずピタリと編隊を保ったままだ。
「撃墜される心配はまずないでしょう。気楽に行きましょう」
コリウスが地上を見下ろしながら言う。それにつられゼファーも地上を見下ろす。ゼファーの視力は高い方だったが、さすがにあまり良く見えず片眼鏡のズーム機能を使って見る。あんなに小さかった民家がハッキリと見える。左目との視界の差に若干の恐怖感を覚える。
「そうね、それは良いわね……」
「やっぱり片眼鏡は慣れませんか?」
歯切れの悪い返事をしたせいか、コリウスが心配そうに声をかけてくる。
「そんなところよ」
「慣れるまでは苦労しますよ。私、何回空間識失調したかわかんないですから……」
笑い話のように話しているが、内容はまったく笑えなかった。空間識失調、雑に説明するなら天地が分からなくなる事である。
「そんな怖い事を言われても……」
「そ、そうですよね、ははっ」
この片眼鏡の機能に地図表示と言うのがあるらしいので使ってみると、ベスタン地区までもう間もなくという所まで近付いているのが分かる。
『間もなくポイントに近づく。そちらの見ているものはこちらでも確認できるので安心して欲しい。今君たちが見ているもの。建物と武装集団とがあると思うが……これらは武器貯蔵庫と敵で間違いない。爆撃を許可する。武装集団をコリウス、武器貯蔵庫をゼファーがやれ』
管制室に控えている隊長から無線が入る。視点座標を確認し、座標を固定する。
「コリウス、攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。3、2、1、ライフル!」
「ゼファー、攻撃開始。魔法陣展開、召喚障害なし。3、2、1、ライフル!」
それぞれから発射されたミサイルは目標へ向かって飛翔を開始。
「ミサイル放出。飛翔時間12秒」
「ミサイル放出。飛翔時間10秒」
そしてミサイルは目標を吹き飛ばした。
「弾着」
「グッドキル…」
コリウスとゼファーは同時に言う。ゼファーはこの時コリウスに若干の違和感を覚えた。
『攻撃成果』
ゼファーはコリウスを見る。
『コリウス?』
隊長から呼ばれるがコリウスは黙ったままだ。
『コリウス!攻撃成果!』
「ぇ、あ、はい……6人です……」
左前にいるコリウスをゼファーは注視すると、手が震えているのが見えた。テンカンの予兆であろうか……?
『よし、二人は帰還しろ。クリスティー大尉と交代だ。ご苦労だった』
「はい。これより帰還します」
プルーマの召喚魔法は人物のみならず、無機質の物も召喚可能である。このミサイルや無線機は平時に人間達から購入したものだ。
昔は国交があったのだ。その関係は良好で、人間には農業製品を。人間からは工業製品を貿易でやり取りしていた。それがまさかこんな事になるとは、その時誰が思っただろうか。
ゼファーは滑走路越しに見える夕日をただ眺めていた。そよ風で揺れるボブカットの髪が顔にかかるのを手で防ぐ。夕日は何も答えてくれない。風はただ、優しく頬を撫でるばかりだった。