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幸せは昨日訪れる  作者: えるふ
19/20

喧嘩

「いい気味ね」

プルーマが3人、基地内でふんぞり返っていた。人間が呆れながらに会話に混ざっている。

「いや、俺たちやアイツは軍事目標しか攻撃していないが、エルフは一般人しか攻撃してない。虐殺だよ、これは」

人間が止めに入ると、プルーマは眉を吊り上げたまま

「なんでよ、証拠はあるわけ?」

「ありますよ」

ゼファーは昨日撮影した航空写真を何枚か手渡した。

「ひでえ、ここまで酷いのは歴史の教科書でしか見たことがない」

これもきっと数年後には歴史の教科書に載ることになるだろう。

「今朝の新聞で見たぞ、プルーマ王国が陥落したってな」

人間たちや数人のプルーマが会話に混ざってきた。

「国旗が燃やされ踏みにじられ、別の国の国旗が上がる。もう私達の国は地上から消え去った」

ゼファーは写真を投げるように机に置くと、

「私はエルフの国のために戦っていたのに、あの有様だった。私は国のために戦っているわけじゃなかった、仲間の為にしか戦ってなかった」

ゼファーの言葉にふんぞり返っていたプルーマが殴りかかる。

「よく言えたものね、この羽無し女が!これは重大な裏切り行為よ!」

「貴方もよ……」

ゼファーが相手の攻撃を受け止めながら言う。

「はっ、知った口を!」

その喧嘩を止めた相手はプルーマだった。

「おっと、ゼファーを裏切り者と言うなら私もだ。この基地のナンバーワンとツーを相手にするんだ。お前さんたちもただじゃすまないさ。メンバーのうち2人は確実にあの世行きよ」

「いいや、一人も生き残らんよ。セピロスとゼファーがやるってんなら私も混ざろう。ナンバースリーのセフィーロよ」

3人のプルーマに他のプルーマが取り囲んでいく。

「私はアネモイ。ナンバーテンだけども空中格闘戦ならゼファーにも引けをとらんよ」

取り囲んだ輪が徐々に縮まっていく。

「じゃあ私も。ナンバー4がやらないわけにいかないじゃない?」


「どうしたの?エルフのおべっかさんよ」

「この基地のベスト10を相手に生き残れれば一気にチャンピオンよ」

「私達を相手に無事帰れる自信は?」

「面白いじゃない?お手並み拝見させてもらうわよ?」

「最近の出撃は写真家ばかりで腕がうずくのよ」

「命令通りに働いた相手を裏切り者って言ったんだ、落とし前は当たり前だよなぁ?命令違反さんよぉ」


さすがに輪が小さくなっていったタイミングで人間が止めに入った。

「それくらいにしてやれ。この3人の処罰は別に考えるとして、お前らが敵う相手じゃないのは知っているだろう?こいつらは俺たちの対空火器を全て避けきった精鋭だぞ?何なら今からお前たちを対空砲火に浴びせようか?」

ゼファーは3000時間の戦闘飛行経験がある。ただの飛行経験なら浅い部類になるだろうが、戦火交える空を3000時間である。CAS派遣も6回を超えている。

「わ、わかったよ……アンタが相手じゃ命がいくついるやら……」

低空戦闘における対空兵器からの回避訓練。この基地に配属されしばらくやらされたヤツである。

「なーんでえ、こいつら、もしかしてフラックキャノンよけきれねぇのかよ」

逆にこいつらだけが避けれるとも言う。

「馬鹿を言うな。複数の砲火を浴びせられ、無事避けきれるやつだけが生き残っているわけだ。お前たちみたいに臆病に逃げ回ってるやつとは根本的に違う。他のプルーマがどうかは知らないが、この基地でセオリーが通じると思ったら大間違いさ」

実際にそれだけの火砲にさらされた事はなく、まさに訓練でしか経験してない出来事である。

「軍法会議を開くのも面倒だ。こいつらを「故郷」に帰してやれ。間違っても撃つなよ」

ゼファーは

「あ、いえ……私は…」

「ああ、そうだった。あいつらは脚が遅いんだったな。お前は基地に残ってていいぞ」

ゼファーはその性質上あまり遅い速度で飛翔できない。推力を得ていなければ空中に留まれない。おそらくゼファーはもっとも小さい航空機といえよう。全長1570mm、全幅6300mmの航空機。無尾翼機であり慣性航行飛行により外部からの支援が不要。おそらく、細かい数値こそ違えど説明文としては他のプルーマも大きな差はない。

「これからどう生きようか」

一人取り残された部屋で椅子に腰を下ろしながら呟いた。

どうせ本日の出撃もなかろう。腕っこきが出払ってしまったから満足な出撃ができないはずで、どうせならとハンガーへと向かった。

「今良いですか?」

「ああ、良いぞ。どうしたんだ?」

「いえ、この間……翼を直してもらったときのお礼がまだだったと思って」

整備士は笑いながらその場に腰を下ろした。ゼファーにコンテナを渡すと、ゼファーは意図を感じ取りその上に腰を下ろした。

「面白いやつだ。ま、ここじゃ航空機は大事な商売道具なだけじゃなくて命を預けてるわけだからな。そうやって礼を言いに来るやつも多い」

整備士は柔らかい笑みを見せていた。

「だけど…考えちまうんだよな。オレが直せばそいつは死ぬかもしれない戦場に向かう。いっそ直さないほうがいいんじゃないかって。でも、それが原因で死んだら目覚めが悪いだろ?だから新品同然にしてやんのさ。そうするとな「ありがとう、また明日の朝日をおがめるよ」と礼を言いに来る。まったく困った連中だ」

「ですけど、確かに私は今日ここで貴方と話せていますし……死んだほうがマシだと思うことも多いですよ。でも、生きていないと……私は空を飛べませんから」

もし鳥が翼を失ったらどうなるだろう。整備士はゼファーの背中にある金属の翼を見た。鈍く光る金属が、今のゼファーを大空へ舞い戻るための翼。かつて地上に落ちた天使は、羽毛の翼を失い、鋼鉄の翼で空を駆ける。その口は愛を囁くことはなく、悪魔も震え上がる言葉を吐き出す。

「どうしましたか?」

無言になった整備士にゼファーが不思議そうに顔色を伺った。

「いや別に。案外可愛いパンツ穿いてるんだなって思っただけさ」

ゼファーは慌てて膝を閉じた。まだそういう乙女らしい感情は残っているようだ。

「あまり…見ないで下さい……最近満足に買えませんから」

パンツを買う金がないというよりも買いに行く時間がないのだろう。基地で売られている女性向けのパンツは学生向けの柄や模様のあるものばかりが揃っている。趣味全開というわけではなく、家族のために買っていく場合や兵士がナニかに使うためである。野郎の多いこの基地ではどうしてもそういった意見が通りづらい。軍服にしても、どうして柔らかい生地でフワリとしたスカートなのか謎である。

「すまんすまん。どうしてもサガってやつでな。見てしまった詫びだ、面白いことを教えてやろう。速度が落ちたら翼は真横でいいんだが、まっすぐ速度を出したいなら後ろにたため。良い角度は自分で見つけるしか無いが、それだけでもっと早くとべるようになるはずだ」

「有難うございます、明日からためしてみます」

ゼファーは立ち上がり、その場を離れるまえに振り返って整備士を見た。軽く会釈をして挨拶を交わしハンガーを出ると、先程のプルーマたちが一斉に帰ってきた。

「よー、今帰りか?」

「帰ってきたのは貴方達でしょう?」

ゼファーは思わず聞き返した。

「あいつ、どうなるんだろうな」

「知らないわ。故郷に帰れて喜んでるでしょ」

「だよね。さーて帰ったし報告書タイプして酒のんでひっくり返ろっと」



「そんなことなど私は知らぬ あの約束に価値など感じぬ お前が勝手に従っただけだ」

「ああ...ああ... 国が焼かれてしまう... 私はなんのために犠牲になったのか...」

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