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幸せは昨日訪れる  作者: えるふ
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アンチエア

『ゼファー、聞こえるか?』

「感度良好」

『離陸を許可する。離陸後東へ旋回、高度1000メートルまで上昇し、パパポイントへ向かえ』

「900メートルとは何フィートでしょうか?」

ゼファーの問いかけにわざとらしい舌打ちが無線から聞こえた

『ちっ……3000フィートでいい』

「了解しました。離陸後高度3000フィートまで上昇し、パパポイント。離陸を開始します」

ゼファーは義翼で初めて空に飛び上がると言って良い状態で離陸滑走を開始した。自分の意志通りに動くとは言え、違和感がある翼であったが、問題なくゼファーを空へと押し上げていった。

『ゼファーって言ったわよね。本当に撃つの?』

ウイングマンとして編隊を組んだクローブが鋭い目つきでゼファーを見ていた。

「命令だもの」

『そう……貴方には心がないの?』

ゼファーは片眼鏡越しに眼下に広がる海を見下ろしながらしばらくの沈黙。

「確かに私を助けてくれた人は大勢いる。でも、私に酷いことをした人はもっと沢山いる。どうして守ってもらっておいて酷いじゃない?」

ゼファーの一言に奥歯を噛みしめるしかクローブにはできなかった。

「もう……私は国に帰りたい。私が帰る国はエルフの国なんかじゃないはずよ」

『でも…』

「知ってるわ。私が歓迎されない事くらい。物心がついたときにはエルフの国の空軍にいたんだもの……」

『雑談はそれくらいにしろ。お前たちの会話は全員に聞こえるんだ』

管制から注意が飛んできた。徐々に陸地が近づいてくる。

『オスカーポイントに到達。周囲に障害なし』

クローブが報告をすると管制が事務的な態度で確認をする。

『よろしい。攻撃ポイントはノベンバー、マイク、リマ、キロ、ジュリエット、インディア、ホテル、ゴルフの9箇所にある対空設備だ。だが半分は木造ダミーだ。あんな物でも空から見ると違いが分からん。手当たり次第にやれ』

ゼファーは目を閉じ顔を横に振った。ため息が聞こえなければいいが。

「つまり、片っ端から全部焼き払えば良い。そういう事でよろしいですか?」

『そうだ。目標破壊の確認はこちらで行う。存分に暴れ回ってくれ。その方が我軍の生存性が高まる』

片眼鏡が目標である対空兵器を確認した。エルフが最近になってようやく配備したアンチエアガンの一つである。

「目標ジュリエットに到達。魔法陣展開、召喚障害なし攻撃開始。ミサイル放出、ミサイル飛翔時間22秒。待機旋回開始」

ゼファーは左へ旋回し、上空で待機状態に入った。目線を外しても片眼鏡は絶えず目標物を写し続けていた。


「攻撃評価……目標物ではないようです。引き続きホテルポイントへ向かいます」

ゼファーは報告をして次の目標へと向かう。

『……ゼファーなら一人でも大丈夫そうね。私はノベンバー、リマ方面へ向かうわ』

「分かった。気をつけて」

2人は短い会話の後、編隊を解き、効率的に爆撃を行うことにした。


「魔法陣展開、召喚障害なし攻撃開始。ミサイル放出、ミサイル飛翔時間8秒。待機旋回開始」

2度目際、片眼鏡に人物が映り込む。

「民間人のようです、自爆しますか?」

ミサイルに自爆命令を送ろうとしたが、ミサイルはすでに着弾しあたり一面に死を降り注いだ。

『彼らは戦闘員だ。民間人ではない。次の目標へ向かえ』

「了解しました。このままインディアポイントへ向かいます」

ゼファーは次のポイントへ向かう。すでに目標周辺が映し出されており、片眼鏡は射程内である事を示していた。

「目標インディアを確認しましたが……人集りがあります」

『戦闘員をまとめて始末できる方が攻撃戦果が高い。やりたまえ』

ゼファーは目を細め、一度目を閉じ

「魔法陣展開、召喚障害なし攻撃開始。ミサイル放出、ミサイル飛翔時間30秒。待機旋回開始」



そして、ミサイルは予定通りのコース、計算通りの時間に着弾した。

「攻撃評価……目標の1つを片付けたようです。目標ゴルフへ向かいます」

『よろしい。次も頼む』

ゼファーは指定されたポイントへ向かう途中、8000フィートへ上昇した。ミサイルの着弾は遅くなるが、高度と速度が上がればミサイルの射程が伸びるうえ、アンチエアガンに撃たれる心配が減る事に期待している。


見下ろせば田舎町が見えた。爆撃されている事を知らないのか、日常風景がそこに広がっていた。

(あれだけの爆音……この距離で聞こえてないはずがないのに……)

ゼファーはいつも通りの生活が続く、その地上の光景に目尻から涙が零れ落ちた。

(あぁ……私は誰のために飛んでいるんだろう)

ゼファーは目を閉じ涙を振り切ると、片眼鏡がいつの間にか目標を捉えていた事を知った。

『攻撃をしなさい』

「魔法陣展開、召喚障害なし攻撃開始。ミサイル放出、ミサイル飛翔時間16秒。待機旋回開始」

もはや条件反射であった。命令が与えられればその命令を遂行する。もはや体に染み付いている。

「攻撃評価……ダミーのようです」

『ふん、君のウイングマンはどうやら逃げたらしい。こちらから居場所が分からなくなった』

「撃墜されたわけではなく?」

ゼファーは確認を取ろうとした際、片眼鏡がアラートを発した

「ミサイルアラート、回避します」

『すんでの所でかわしやがる』

「クローブから攻撃を受けました」

『なるほど、撃墜を許可する』

管制からの指令にゼファーは思わず叫んだ。

「対空訓練は受けていません。どうやって攻撃したら良いんですか!」

『自分で考えなさい』

『貴様なんかに、国を焼かれて…たまるか!』

管制とクローブが同時に通信を行った。恐らくクローブの会話は管制に届いていないようだ。

「私を撃ち落としても何も変わらない!」

『それでも私の気がすむ!!』

ゼファーは片腕でも操作できるようピストルを召喚し、そのまま体を丸め180度向きを変えた。まるで水中で180度ターンするような見事なターンに、クローブはそのまま真上を通る。

『なっ』

クローブの短い驚いた声。直後、数発の銃声。

「……規則違反につき、撃墜しました」

ゼファーはそのまま落下していくクローブを目で追い、その場を立ち去ろうとする。

『地面に到着次第、攻撃を行いなさい』

ゼファーは命令を一瞬理解できず、まるでそこに管制がいるかのように耳を傾けてしまった。

「ですが、恐らく死んでるかと……」

『君は医者ではない。なぜ彼が死んだと分かる?それに、彼の周りには敵が集まってきている』

「救援者です」

『武器を持っている』

「タンカです」

『いいや、携行対空兵器だ。やりなさい』

ゼファーは首を横に振り、片眼鏡の目標を一時的にクローブに変更する。

「魔法陣展開、召喚障害なし攻撃開始。ミサイル放出」

ミサイルは報告を言い終わる頃には着弾していた。砂煙の中に人影は無かった。恐らく衝撃波で切り裂かれてしまったようであった。

『よろしい、残りの目標も頼む』





結果的にゼファーは全ての目標を爆撃し帰路についた。


「ではでは皆殺し」

「なぜです?なぜです? 私はアナタの言うことを聞いたのに約束を破るだなんて酷いです」

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