敗戦宣言
しかし、出港はできなかった。目の前に鉄の塊がいたからだ。いや、正確には鋼鉄の船と言うべきだろう。しかし、ゼファーとスイギョクにはそれが船には見えなかった。そしてそれと同時に「こんな技術力のある相手と戦争していたのか」と思い知らされる。
そして、エルフは無条件降伏を受け入れ、事実、敗戦した。
敗戦国として、武器や物資などを徴収されるのは覚悟していたが、奴隷としてエルフやプルーマが引き取られていくのは正直辛かった。人員は財産なのだ。掛け替えのない宝であり、生産を担う大切な人口なのだ。それが半数以上取られていった。
ゼファーもまた例外ではなかった。ゼファーは軍人だったのでまず、軍法会議にかけられた。片腕と片羽を失っているとは言え、人間に多大な被害をもたらした彼女は、内心「拷問の末殺される」と思っていた。だが、彼女は運が良いのか悪いのか。貴族に買い取られた。その男性は「何をしても許される相手がほしいだけ」と言っていた。その男性は「折角羽がはえている人種なのだから、郵便配達など、有用に使えばいいじゃないか」と進言していたが、はたしてどうなるやら。
「羽女、と言うわけには行くまい。名前は?」
彼が優しい口調で話しかけてくる。
「ごめんなさい、人間の言葉は分からないの」
ゼファーはエルフ共通語で返した。彼もまた、エルフ共通語は理解しておらず、困り果ててしまった。しばらくしていると一人の女性が入ってくる。
「片言で申し訳ないけど……貴方のお名前は?」
やっと馴染みのある言葉を聞けて内心ホッとしたが、あまり良い状況とは思えなかった。
「ゼファーです」
「そう。ゼファーちゃん。この人は貴方のご主人様のタツヤ様です」
「はい……」
ゼファーは顔を下げながら言う。そうか、自分はもう個人の意志ではなく、ご主人様に従う身になったのか、と
「ま、頑張って和語を覚えて下さいね。まずは、これに着替えて貰えるかしら」
そしてその女性はメイド服を手渡した。ゼファーは躊躇うことなく、即座にそれに着替えた。
「これを着ていれば、奴隷の烙印を押されなくて済むからね」
奴隷の烙印。それは首筋に焼入れする番号である。その番号は決まって17。1人の主人に対し7人の召使いが必要、と言う意味だ。
「でも、どうして……」
「それは和語を覚えてから、自分で聞きなさい。いいね?」
こうして、彼のもとで和語を習うことが始まった。




