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幸せは昨日訪れる  作者: えるふ
10/20

本国はその頃

正直海の上の2日間は気が気じゃなかった。いつ襲われるか分からず、ほとんど寝れなかった。戦列艦とはその名前の通り戦列を組んで運用するものである。戦列艦が1隻だけ単独でいるという事は珍しいことだ。おそらく、お互いに接敵予定のない戦闘だったのだろう。

「よし、お前ら、寄港準備!」

水夫たちが慌ただしくなる。やっと陸に上がれる……そう思うと少し安堵の表情が溢れる。


だが、それは間違いだと寄港してから気が付いた。港には多くのエルフが詰め寄っており、不穏な空気が流れていた。

「何事だい?」

「お願いだ、もうマングローブって言わないから船に乗せてくれぇ」

一人の男がスイギョクに歩み寄る。スイギョクは肩をすくめ、

「だめだ、アタシの船はもう動かせない。修理が必要だ。それに水夫の数も足りない」

スイギョクが言うとその男は別の船長に言い寄っていた。彼らエルフは船乗りエルフをマングローブと呼んで蔑んでいた。あまり気がいい物ではないが、ただ事ではないらしい。

「おい、おい!なにがあったんだ!?」

スイギョクが言うと男は怯えるように

「人間が攻めてきたんだ!もう街はメチャクチャだ!」

「空だ!人間も空軍を持ってるんだよ!」

今までそんな事聞いたこともなかった。人間は魔法を使えない。プルーマですら、飛翔には魔法を使用しているというのに。


来たぞ、あいつらだー!


誰かが叫ぶ、エルフたちは停泊している船舶へと流れていく。どうやらその船は出港を決めたようだ。

「まずいぞ、まずい!」

スイギョクが叫ぶ。フリゲートの脚はせいぜい10ノット。空から見れば良い的である。それはゼファーにも分かった。我々の世界では複葉機と呼ばれる航空機が、まっすぐにこちらに向かってくる。

「伏せろ、伏せろぉ!!」


そして機銃掃射が始まった。


多くのエルフが悲鳴を上げながら地面に倒れた。複葉機は一度斉射が終わると反転を開始、再び機銃掃射を始めた。

「羽娘、なんとかならんか!?」

期待の眼差しをゼファーに向ける。

「なんとかって言われても……」

あんな素早く動く物体に40mmでは弾速が遅すぎる。考えた末、ゼファーは20mmガトリングを召喚する事にした。

「特殊召喚開始、4、3、2、1、射撃開始」

ブゥウウッとガトリングが火を吹く。当たるとは思っていないが、精一杯狙った。複葉機は旋回を繰り返しゼファーの攻撃をかわすと、そのまま遠ざかっていった。一瞬の静寂。フリゲートは無事出港したようだ。

「おい、ホケてる暇はないぞ、次が来たぞ!」

スイギョクが叫んだ先を見る。高空になにかいる。

「大きい……!」

その巨大な図体は地上に居る者を恐怖へと落とし込む。あれが爆撃を開始したらフリゲートなんて木っ端微塵だ。

「羽娘!」

スイギョクが叫びながらゼファーを押し倒す。直後、先程まで立っていた場所に機銃掃射が始まる。

「くそっ!大丈夫か!?」

「はい、何とか……」

「皆を助けねばならん!頼む!」

とにかく大型爆撃機を落とさなければならなかった。ゼファーは意を決し、ミサイルを召喚する事にした。

「いきますよ……召喚障害なし。3、2、1、ライフル!」

仰向けで発射したため、ミサイルは一度ゼファーの腹に落ちてから点火され、バックブラストによりゼファーは吹き飛ばされる。吹き飛ばされたゼファーは背中から木にぶつかり、地面へと落ちた。失いそうになる意識の中、ゼファーは懸命にミサイルを誘導させた。

「やった、やったぞ!撃ち落とした!……おい、おい!」

ゼファーは意識を失い、スイギョクの台詞を遠くで聞いていた。だがまだ戦闘機が残っている。

「起きろ!目を覚ませ!起きろぉ!」

スイギョクは何度も頬を平手打ちした。

「ぅっ……ぁ…あ……」

「目を覚ましたか、あいつを撃ち落としてくれ、あと1発でいい、あと1発でいいんだ!」

よく見ると、先程追い払った複葉機が反転し、こちらに向かってくるのが見えた。スイギョクの叫びに応えるように、ゼファーはミサイルを召喚させた。

「魔法、陣……展開……召喚障害なし……ライフル……」

何度目か分からない、バックブラストで吹き飛ぶゼファー。ミサイルはちゃんと誘導され、敵機を撃墜した。

「はっはぁ、ざまぁみろぉ!」

スイギョクのそれは間違いなく強がりだった。港の方でこの様なのだ。街の方はもっとヒドイだろう。

「おい、羽娘?羽娘!」

吹き飛ばされたゼファーのもとに駆け寄るスイギョク。思わず脈を取ってしまったが、まだ生きているようだ。

「起きろ、起きろ!!」

スイギョクは再び頬を平手打ちする。

「ぁ……ぅ…」

ゼファーがうめき声にも似た声を漏らしたのを確認すると、肩に担ぐ。

「今から街へ向かう!お前を治療してやる!死ぬな!」

引きずるようにゼファーを運ぶ。大通りまで来た時にクラクションが聞こえた。

「姐さん」

「よぅ、これからドライブか?」

「ええそうです。街まで行くんだけど良いかい?」

「ああ、頼みたい。医者に見せてやらねばならん」

二人のやり取りが終わると、ゼファーを後部座席に寝かせ、スイギョクは助手席に座った。

「出してくれ」

「あいさ」


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