本国はその頃
正直海の上の2日間は気が気じゃなかった。いつ襲われるか分からず、ほとんど寝れなかった。戦列艦とはその名前の通り戦列を組んで運用するものである。戦列艦が1隻だけ単独でいるという事は珍しいことだ。おそらく、お互いに接敵予定のない戦闘だったのだろう。
「よし、お前ら、寄港準備!」
水夫たちが慌ただしくなる。やっと陸に上がれる……そう思うと少し安堵の表情が溢れる。
だが、それは間違いだと寄港してから気が付いた。港には多くのエルフが詰め寄っており、不穏な空気が流れていた。
「何事だい?」
「お願いだ、もうマングローブって言わないから船に乗せてくれぇ」
一人の男がスイギョクに歩み寄る。スイギョクは肩をすくめ、
「だめだ、アタシの船はもう動かせない。修理が必要だ。それに水夫の数も足りない」
スイギョクが言うとその男は別の船長に言い寄っていた。彼らエルフは船乗りエルフをマングローブと呼んで蔑んでいた。あまり気がいい物ではないが、ただ事ではないらしい。
「おい、おい!なにがあったんだ!?」
スイギョクが言うと男は怯えるように
「人間が攻めてきたんだ!もう街はメチャクチャだ!」
「空だ!人間も空軍を持ってるんだよ!」
今までそんな事聞いたこともなかった。人間は魔法を使えない。プルーマですら、飛翔には魔法を使用しているというのに。
来たぞ、あいつらだー!
誰かが叫ぶ、エルフたちは停泊している船舶へと流れていく。どうやらその船は出港を決めたようだ。
「まずいぞ、まずい!」
スイギョクが叫ぶ。フリゲートの脚はせいぜい10ノット。空から見れば良い的である。それはゼファーにも分かった。我々の世界では複葉機と呼ばれる航空機が、まっすぐにこちらに向かってくる。
「伏せろ、伏せろぉ!!」
そして機銃掃射が始まった。
多くのエルフが悲鳴を上げながら地面に倒れた。複葉機は一度斉射が終わると反転を開始、再び機銃掃射を始めた。
「羽娘、なんとかならんか!?」
期待の眼差しをゼファーに向ける。
「なんとかって言われても……」
あんな素早く動く物体に40mmでは弾速が遅すぎる。考えた末、ゼファーは20mmガトリングを召喚する事にした。
「特殊召喚開始、4、3、2、1、射撃開始」
ブゥウウッとガトリングが火を吹く。当たるとは思っていないが、精一杯狙った。複葉機は旋回を繰り返しゼファーの攻撃をかわすと、そのまま遠ざかっていった。一瞬の静寂。フリゲートは無事出港したようだ。
「おい、ホケてる暇はないぞ、次が来たぞ!」
スイギョクが叫んだ先を見る。高空になにかいる。
「大きい……!」
その巨大な図体は地上に居る者を恐怖へと落とし込む。あれが爆撃を開始したらフリゲートなんて木っ端微塵だ。
「羽娘!」
スイギョクが叫びながらゼファーを押し倒す。直後、先程まで立っていた場所に機銃掃射が始まる。
「くそっ!大丈夫か!?」
「はい、何とか……」
「皆を助けねばならん!頼む!」
とにかく大型爆撃機を落とさなければならなかった。ゼファーは意を決し、ミサイルを召喚する事にした。
「いきますよ……召喚障害なし。3、2、1、ライフル!」
仰向けで発射したため、ミサイルは一度ゼファーの腹に落ちてから点火され、バックブラストによりゼファーは吹き飛ばされる。吹き飛ばされたゼファーは背中から木にぶつかり、地面へと落ちた。失いそうになる意識の中、ゼファーは懸命にミサイルを誘導させた。
「やった、やったぞ!撃ち落とした!……おい、おい!」
ゼファーは意識を失い、スイギョクの台詞を遠くで聞いていた。だがまだ戦闘機が残っている。
「起きろ!目を覚ませ!起きろぉ!」
スイギョクは何度も頬を平手打ちした。
「ぅっ……ぁ…あ……」
「目を覚ましたか、あいつを撃ち落としてくれ、あと1発でいい、あと1発でいいんだ!」
よく見ると、先程追い払った複葉機が反転し、こちらに向かってくるのが見えた。スイギョクの叫びに応えるように、ゼファーはミサイルを召喚させた。
「魔法、陣……展開……召喚障害なし……ライフル……」
何度目か分からない、バックブラストで吹き飛ぶゼファー。ミサイルはちゃんと誘導され、敵機を撃墜した。
「はっはぁ、ざまぁみろぉ!」
スイギョクのそれは間違いなく強がりだった。港の方でこの様なのだ。街の方はもっとヒドイだろう。
「おい、羽娘?羽娘!」
吹き飛ばされたゼファーのもとに駆け寄るスイギョク。思わず脈を取ってしまったが、まだ生きているようだ。
「起きろ、起きろ!!」
スイギョクは再び頬を平手打ちする。
「ぁ……ぅ…」
ゼファーがうめき声にも似た声を漏らしたのを確認すると、肩に担ぐ。
「今から街へ向かう!お前を治療してやる!死ぬな!」
引きずるようにゼファーを運ぶ。大通りまで来た時にクラクションが聞こえた。
「姐さん」
「よぅ、これからドライブか?」
「ええそうです。街まで行くんだけど良いかい?」
「ああ、頼みたい。医者に見せてやらねばならん」
二人のやり取りが終わると、ゼファーを後部座席に寝かせ、スイギョクは助手席に座った。
「出してくれ」
「あいさ」




