第16話 運命は眠り-4
酒場の物置から空の樽を幾つか運び終えて厨房に戻って来る。
中ではフラナタとユイリーが食器の整理をしていた。
オルトはリサさんと外に行っている様だ。
「ごめんねタコリス、少しのつもりが随分と甘えちゃって」
「良いって、何もせずボーっとしてるだけよりはずっと良いさ」
「ユイリーもごめんね?」
「そうだね、みんなで森に行きたかったんだけど、でも大丈夫、
一緒に居るなら何でも楽しいから。でも、タコリス達にも見せたかったな、
いっぱい動物が水を飲みに来る小さな池があるんだよ。明日は行けるかもね、
もし行けたら絶対行こうね?」
「ああ、俺も楽しみだよ」
ユイリーは森に行くのを今も楽しみにしている様だ。
村での彼女の生活を想像すると無理も無いのかも知れない。
そばかすの子に責められた事が随分とショックだった様だ。
ユイリーはそれからしばらくフラナタの側を離れようとはしなかった。
(楽しい事を一杯した方が良いと思うの。
そしたら嫌な事なんて全部忘れちゃうかも知れないよね?)
それだけ忘れたい事が沢山あるって事だよな。
今の彼女は必死で色んな事を忘れようと明るく勤めている様にも見える。
「なあフラナタ?」
「ん、なあに?」
「えっと...」
「何よタコリス、どうかした?」
フラナタが作業の手を止めて俺に近づく、
ユイリーも作業をしながら少し離れた場所で不思議そうに俺を見ていた。
「オルトに聞いたんだけどさ、今は祭りの時期なんだって?」
本当に聞きたかったのはパンドラの容体についてだった、
だがユイリーの明るい顔を見ると話題に出すのは余りに暗い話に
なる事に気が付き、口には出せなかった。
「そうね、まだお祭りには少し早いけど。
今は少しづつ準備しているところよ」
「そうか、じゃあ俺達は参加できそうに無いな、少し残念だよ」
「ええ、そうね。でもそんな事よりタコリス、例の頼み事は大丈夫かしら?」
「例の?」
フラナタは俺の目の前まで来てグッと顔を近くに寄せる。
小声で俺に話しかけた。
「この後ユイリーが一旦家に帰るからタコリス達の部屋に集合だからね、
オルトももうすぐ帰って来るから」
「...はい」
「ねえ、どうしたの?二人で何の話?」
「ううん、何でも無いの、ちょっとした頼み事だから、
タコリスは全面的に協力してくれるから凄く助かるわ!」
「そう、あんまり頼り過ぎちゃダメだよ?お客さんなんだから」
「大丈夫、タコリスも喜んで協力してくれてるから、ね?」
「ああ本当に...楽しみだよ」
その後作業も一段落してオルトとリサさんが帰ってくる。
ユイリーは一度家に戻って長老の手伝いをしてまた店に夕飯を食べに来るそうだ。
そして、俺とオルトの部屋にフラナタがやって来た。
「よおフラナタ、どうした?」
「あらオルト、今リサが晩御飯作ってくれてるんだけどね、
手伝おうと思ったら折角だからタコリス達と遊んで来なさいって」
「そうか、まあ入れよ。タコリス、フラナタが来たぞ、早く着替えろよ」
「え?もう来たのかよ?」
「もう?」
「い、いや、も、猛烈に、こう、びっくりするよな?」
「はあ?」
「ハハハ、なんつってな?お、おう!フラナタ、来たのか?まあゆっくりしていけよ!」
俺はベッドの上に荷物を置きその裏で隠れて着替え始める。
フラナタがニコニコと部屋に入って来てオーバーな仕草で話し出す。
「あらタコリス、着替えてたところなのね?ごめんね、
あなたがこんなにも段取りが悪いなんて気が付かなかったわ!」
「段取り?」
「何でも無いのよオルト、タコリスったら協力すると言っておきながら
何だか消極的な気がして、本当は私の深刻な頼みなんてどうでも良いのかしら?」
「そ、そんな事無いぞフラナタ!俺はいつだってお前らの味方だ!
ジャンジャン頼ってくれ!」
「どうかしら?いつまで着替えてるのタコリス?
このままだともうすぐユイリー帰ってきちゃうね?」
この子の妙な威圧感にはどうも逆らえない。
俺は焦りながら服を殆ど着替え終えた。
「待て、も、もうすぐ、今終わるから。
よし、着替えたぞ!さあ何の話でもしようか!
な、っとっとお!」
ドタンッ!
強烈に顔面を床にぶつけた。
俺は大きな音と共に床に転んで倒れていた。
慌てて着替えたせいでベッドの端に服をひっかけた様だ。
その引っかかりに俺のズボンは引っ張られ、今倒れている俺の恰好は...
「おいタコリス、女の子の前でパンツ一丁で出てくんなよ」
「ちょっと!タコリス!...もう!!」
一階から声が聞こえて来る。
「ちょっと!他にもお客さんいるのよ!?
ドタドタしないの!」
「ごめんリサさん、気を付けるよー。
タコリス、お前のせいで怒られただろう?
早く服着ろよ」
「お、おう!今すぐ!フラナタこっち見るなよ!?」
「見ないわよ!早くして!!」
「さ、さあ!何の話だったっけ!?
ああ、そうだ、フラナタだ!フラナタが面白い話を持って来たんだよな!?」
彼女の方を見ると、顔を赤くしてそっぽを向いている。
「知らない」
「フ、フラナタ、機嫌治せ、な?俺達は崇高な目的の為の協力関係にある、
目的を見失うな?な?」
オルトは不思議そうに俺を見る。
「タコリス、お前頭強めに打ってたけど大丈夫か?」
「い、良いんだよ!俺の頭の事なんか!それより今は楽しいお話の時間だろう!
集中しろバカ!!」
「な、何で心配してやったのに怒られなきゃいけないんだよ?
何か急に怒られるとへこむなぁ」
「良い!」
フラナタが急に強い口調で話し出す。
「タコリスの頭も大丈夫!オルトもそんな事でへこまないで!
それより、町で楽しい話を聞いたの!ね?タコリス!」
よし、良いぞ。切り替えの早さはこの子の強みの様だ。
「お、おう!ありゃあ楽しい!俺が聞いた話の中で一番楽しい話だ!」
「なんだよ、タコリスは知ってる話なのか?」
「おう、昨日フラナタから教えて貰ったんだ、楽しいぞ!?」
「わ、分かったよ。少し落ち着け、またリサさんに怒られるから」
コホンッ、
咳ばらいをしつつフラナタは改まって話始める。
「では失礼しまして、わたくしパルクアの村長フラナタが進行を務めさせていただきます。
行くわよタコリス?」
「おう!」
「なんだ?何やんだ?ちょっと楽しみになって来たな」
俺達の中に確かな緊張感が走る。
目の前のオルトはベッドに腰かけ、ヘラついた顔で俺達を見ていた。
次回は今日の3月28日夜に投稿予定です。




