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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
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第16話 運命は眠り-3

俺とユイリーは倒れた木に隠れながら2人の婦人に見つからない様に進む。

足元が悪い、転ばない様にユイリーの手を引いた。

まとまって積まれた木材はあと5メートルほどは続く、婦人と離れきるまで

木材は俺達の姿を隠してくれるだろう。

隠れて進むその間、婦人たちの話し声が聞こえて来る。



「これからどうなるのかしら?」

「さあね、パンドラが目を覚まさない事には何も起きようが無いでしょう?」

「そうね、早く目を覚まして洞窟へ行ってしまえば良いのに」

「そうよ、そうすれば全部終わるんだわ」

「ええ、長かったわね。今まで皆辛い思いをして...」


長かった?何の事だ?パンドラが来ると分かったのはつい最近の事の筈だ。


「もし、もしもよ?魔法教会がこの村に偶然にでも来ていたら」

「ちょっと!滅多な事言わないでよ。もしそうなったらどんな恐ろしい事になるか」

「そうね、ごめんなさい。只、ちょっと考えちゃったのよ」

「パンドラには無事に洞窟に行って貰う、私達が考えるのはそれだけよ。

 そうすれば、もう全部終わるんだから...」



俺とユイリーは黙ったまま歩き続けた。もうしばらく歩けば木材も俺達を隠すのを止める。

婦人たちの声ももう遠くなって今は聞こえない。



今の話は何だったんだ?村人は魔法教会の存在を恐れている。

この村の方針はパンドラに無事この村を通り過ぎて貰う事だ。

それは魔法教会にあらぬ疑いを持たれない様にする為、なのに魔法教会の人間が

この町に訪れる事自体を恐れている。何故だ?


パンドラに何かあった時に村が疑われない様にするのなら、

魔法教会が村に訪れる事自体はむしろ喜ばしい事なんじゃないのか?


パンドラがどんな理由で死のうとも、その場に教会の人間がいるならこれ以上ない証人じゃないか。

『パンドラが死んだ責は村人には無い、むしろ村人たちはパンドラの災い拾いと

 我々魔法教会に協力的だった』そう言って貰えば村の危機にはなり得ない。


それなのに何故、魔法教会の来訪を恐れる?


俺達の隣にずっと続いていた木材は端の方まで来て終わる頃だ。

ユイリーが明るく俺に声をかける。


「ねえタコリス、今日は四人でどこかに出かけようか?

 南の方へ歩くとね、森が深くなって涼しいんだよ?

 小さな動物もたくさん見れて、ね、楽しそうでしょ?」


「ああ、良いかもな?」

 

「きっと楽しいよ、せっかく私達友達になれたんだもの、

 楽しい事を一杯した方が良いと思うの。

 そしたら嫌な事なんて全部忘れちゃうかも知れないよね?

 

 パンドラだってまだ起きないみたいだし、それまで...」


ハッとした顔でユイリーは何かに気づき、彼女の顔が急に曇りだす。

ユイリーは暗い顔で俯き、隠れる様に俺の体に身を寄せる。


「どうした?」

「う、うん...」



「あれ!?ユイリーじゃない?

 ねえユイリー、ユイリーってば!」


声の方を見ると俺達を隠していた木材はもう隣には無く、

その奥の少し離れた場所で一本の木にもたれかかったそばかすの女の子が居た。

側にもう一人、三つ編みの女の子もいる。2人の女の子はそれまでその場所で話をしていた様だ。


2人ともユイリーよりは年上に見える。俺と同じくらいの年齢だろうか?

そばかすの女の子がこちらに軽快な足取りで近寄って来た。

三つ編みの女の子はそばかすの子の行動に戸惑っている様に見えるが、

少し遅れて小走りでこちらに近寄って来る。


そばかすの子は近くまで来るとにこやかに俺に挨拶した。

「おはようございます、フラナタのお客さんよね?」

「ああ、俺は旅の商人だ。船で彼女と知り合いになってね、村には厄介になってるよ」

「何も無い村ですけど、ゆっくりしていってね。

 突然声をかけてごめんね?今その子の姿が見えたから」


そばかすの子は少し腰を曲げてユイリーの顔を覗き込む。


「ねえ、何で隠れるの?こっちへ来ておしゃべりしましょうよ。

 私達と話すのは嫌かしら?そんな訳無いわよね?同じ村の子供なんだから」


「あ、あの、私、行く所があるから...」

ユイリーは消えてしまいそうな声で彼女の顔も見ず、下を向いたままに答えた。

「なあに?聞こえないわ、私の顔を見るのも嫌なのかな?」

俺は二人の会話を遮る事にする。


「ハハ、少し疲れてるのかな?昨日まで色々あったからね、

 すまないが店で頼まれ事があるんだ、もう良いかな?」


「まあ、疲れてるの?そうよね、色々あったんでしょうね。

 フラナタと一緒に船旅だったんだものね、きっと色んな出来事があったんだわ。

 ねえ、疲れてるのねユイリー?」

ユイリーはそれを聞いても俯いたまま言葉を出せないでいた。

側にいた三つ編みの子がそばかすの子の服を軽く引っ張る。

彼女は俺の方をチラチラと伺いながらそばかすの子を呼び止めている。

「ね、ねえ、もう行こうよ」


そばかすの子はその声を気にせず、段々とにこやかな顔を険しい物に変えた。

「ねえユイリー、聞いてるの?さっきからあなたイライラするわ。

 町まで行ってきたんでしょ?村の外の話を聞かせてよ。

 この時期は人の行き来も多いわ、船の上は随分と賑やかだったでしょう?

 良いわよねアンタは、フラナタのお気に入りだもんね?


 ねえユイリー、パンドラがもし洞窟へ行ったらどうなると思う?

 色んな事が変わるでしょうね、その時アンタはどうなると思う?

 想像した事あるの?」


「ねえ!!」


三つ編みの子が突然の大声と共にそばかすの子を強く引っ張る。

「い、痛いわね!」

「や、やめようよ。何か変な事になったらさ、ね?」

そう言って彼女は俺の顔をまた伺う。


三つ編みの子の様子が明らかにおかしい。

何より不思議なのは彼女はさっきからユイリーやそばかすの子よりも

俺の方ばかりをずっと気にしている。変な事?一体彼女は何に怯えているんだ?



「あなた達!」


前方から気迫の籠った声が俺達にぶつけられる。

見るとそこにはフラナタがこちらを睨んで立っていた。


「何か問題でもあるのかしら?」


フラナタはそう言ってそばかすの子を睨んだままこちらへ歩いて来る。


「フラナタ、な、なによ...

 別に問題なんか、ねえ?」

そばかすの子は急に大人しくなり三つ編みの子に視線を送った。

三つ編みの子は慌てて取り繕う。

「ご、ごめんね?私達何も、ただ、よそから来た人が珍しくて、

 もう行くから、ごめんねフラナタ?」


そう言って三つ編みの子は強引にそばかすの子を引っ張る。

「痛いわね、一人で歩けるわよ!」


二人の少女はそのままどこかへ行ってしまった。

ユイリーが走り出してフラナタに抱き着く。


「ごめんねユイリー、私が良く見て無かったから」

「ううん、フラナタは悪く無いよ」


フラナタはユイリーの髪を優しく宥める様に撫でている。

俺は彼女たちに近づき謝罪する。


「すまなかったな、上手く止めれなくて...」

「良いのよタコリス、私が着いててあげるべきだったわ。

 昨日はパンドラの看病で夜遅くなったから、ごめんねユイリー?」

ユイリーは軽く頭を横に振る。フラナタはその頭をポンポンと優しく叩いた。


「タコリス、リサの店へ行こうか?少し休んでから夕方まで店の手伝いをしてあげたいの。

 重い物も運びたいから少しだけ手伝ってくれる?」


「ああ、助けになるなら俺も嬉しい、行こうか?」



俺達はリサさんの店へ向かって歩き出す。

歩きながら俺はこの村の事を考えていた。


魔法教会を恐れる理由は何だ?

この村の今まで続いてきた不幸とは何だ?

三つ編みの子は何かを恐れていた、恐らく俺に何かを感づかれる事を。


この村は、何かを隠している。


そしてそれは恐らく、フラナタも同じだ。

村人の話とフラナタの話は辻褄が合わない、

この村の住民も、そしてフラナタも、何かを必死で隠している。



次回は3月27日金曜日に投稿予定です。

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