表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
91/223

第15話 災いは鮮血に溺れ-8

その男は立ち上がるだろうか?


マズいな。



「てめえ、ふ、ふざけんなよ?剣を抜くのが億劫だと?そう言いてえのか?

 違うだろ?てめえは...今のてめえは」


「おいベッセ、もう止めとけ」


「許せるか?...いいや、許せる筈がねえ。

 船の上じゃガキ共に馬鹿にされ、挙句くたばり損ないの女一人に、

 この俺が」


男は目の前の地面、自分の股の間に握り拳を突き付け、それを支えに

ゆっくりと立ち上がった。


マズい、やはり大したダメージが無い、出来れば今ので失神して欲しかった。

思い切り殴ったのに、男を殴りつけた拳がまだ微かに震えている、力が入らない。


「ガキを、名前も知らねえガキを人質に、それを庇って俺は、なんてザマだ。

 な、舐めるんじゃねえ...」


男は自身の腰元からナイフを引き抜いて構える、

ナイフ越しに私を見据えた目は完全に血走り、満ち溢れた怒りが狂気を滲ませる。


「上等だ、こうなりゃ皆殺しにしちまえば良い。

 この場の全員殺してパンドラの生首を持って諸国に渡る、

 そうすりゃここの村人を殺したのはパンドラ、てめえの手柄だぜ!」


「おい何言ってんだベッセ、ちょっと落ち着け!」


「うるせえぞドアフル!!

 てめえに、てめえらみてえなバケモノに!

 分かってたまるか!俺は『傷あり』共の中で泥を啜って生きて来たんだ!

 

 まだ足りねえと言うなら、血を啜って生きろと言うならそうしてやるぜ。

 鬼でも外道にでもなってやる」


男はナイフを手に歩いて来る、しっかりとした足取りで。

殆どダメージは無かったのか?私は腰の剣に手をやるが、

手はまだ震えたままだ。どうする?剣士の後ろにも大男が控えている。



殺気を放ちながらその男は歩いて来る、私は自分の剣に手を置いたまま動けずにいる。

剣を抜けば終わりだ、私に戦う力が無い事が明らかになる。

いっそ逃げてしまおうか?いや、逃げ切る事も無理だろう。


このままでは抑えきれない、方法は二つだ。

魔神を呼び出して暴れさせるか、全身の呪力を全て箱に注いで封じるか。


魔神を呼び出せば前の二人は死に、

この場にいる村人誰一人として生き残る事は無いだろう。


箱の力を使えば魔神は抑え込む事が出来る。

だがそれは私の今残った微かな呪力の全てを使い切る事になる、

まるで冬眠するかの様に意識を失う事になるだろう。

魔神を自分の胸に抑え込みながら立っているだけでも意識が朦朧として来る。


懐から携帯していた木の実を取り出し口に運ぶ、

口元を手で覆い隠したまま硬い木の実をカリカリと音を立て砕く。

木の実の硬さが僅かに意識を覚醒させるがまだ心許ない。

私は口元を隠している手の小指を相手に見えない様に咥え、

噛みちぎる程強く歯を立てた、痛みは感じるが意識が弱まって行くのを止めてくれはしない。


ふと人差し指の赤いシミが気になる、

この染み込んだ赤色はあの男の残した呪われた泥だろうか?

それともあの男の最後を彩った鮮血の名残りだろうか?


あの『不知火の町』で何年振りかに魔神を呼び出した。

その所為で魔神は前にも増して外に出やすくなっている。


ここで魔神を呼び出せば、私の罪は更に深くなる。

もう自分の罪に溺れて何も見えなくなるかもしれない。

これが不知火の町で私が犯した罪に与えられた罰なのだろうか?



このまま箱の力を使って気を失ってしまえば目の前の男が

私を殺して止めてくれるかもしれない、



もう罪は深くならない。




魔剣を、握りしめる。


「出来ない、私は...この罪を雪ぐまで、全ての罪を終わらせるまで、

 死ぬわけにはいかない」


男が近づいて来る、


二人、二人分の罪を背負おう。

目の前の二人の男を殺して走り抜ける。この村から遠く離れて、

そこで私は魔神そのものになるだろう。


私は、元の私に戻れるだろうか?



男が歩みを止める、そして歪んだ笑顔で私を通り越した先に

話しかける。


「よお、てめえか...」


後ろ、まだ仲間がいたのか?




振り返るとそこには一人の青年が立っていた。


布に包まれたままの槍を構えて立っている。


「俺が相手だ」


青年は真っすぐに剣士を見据えている、

厚手の服から鍛えられた腕が伸びる、戦士の腕だ、


目が、霞む...


たった一言の青年の声が耳に残る。


私の、私の罪は、こんなにも。



剣士の声が聞こえる、だが何と言っているのか分からない、

頭が、ぼやける。


「槍使い、ジジイの奴はしくじった様だな、

 良いぜ、てめえの首も欲しかった所だ、纏めて殺してやる」

次回は今日3月11日の夜に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ