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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
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第15話 災いは鮮血に溺れ-7

「な、なあどんな感じだい婆さん?」


落ち着かない様子のオルトに声を掛けられるが

長老と呼ばれた老婆は目を瞑ったままその声に応えない。


代わりに老婆は自分の肩に乗った緑色の羽をした大型の

鳥の腹に耳を当てて何かを熱心に聞き取ろうとしている。



「あのさ...寝てるんじゃないよな?」


「こら、オルト君失礼な事言わないの、

 長老は知る人ぞ知る高名な呪術師なんだから」


「あの、お婆ちゃんは毒の音を聞いてるんです。

 肩の鳥は『火眠鳥かみんちょう』と言います。

 本来はとても過酷な土地を行き来する渡り鳥なんです。

 中には毒素や呪素に満ちて空気を吸うだけで生物を殺してしまう土地もあります。


 『火眠鳥』はその土地の毒素や呪素を少しずつ吸い込んで

 お腹の中で自分の体に馴染ませる習性があります。

 その時鳥のお腹から毒の種類に合わせた独特な音がするんですが、

 

 おばあちゃんはその時のお腹の音を聞いて毒や呪いの種類が分かって、

 上手くいけば解毒や解呪の方法もその時に分かるんです、だから...」


老婆がユイリーの頭に優しく手を置く、

そして穏やかな声で話始めた。


「ふむ、死ぬような毒じゃないというのは本当の様じゃのう。

 

 安心おし、今すぐ楽にしてあげよう。

 ただ、私の呪術治療でも完全に毒を抜く事は無理だろうね。

 ユイリーや」


長老に呼ばれユイリーは顔を上げる。

長老は優しい声でユイリーに話した。

ユイリーは他所の土地から来てこの長老と呼ばれる老婆の元で

暮らしている様だ。


「家に戻ってワシが今から言う薬を取っておいで」


「うん」




バンッ!


突然店に入って来たのは一人の村人だった、

男は途切れ途切れの呼吸の合間になんとか言葉を出す。


「ハア、ハア、そ、村長はいないか?

 パ、パンドラだ、パンドラが村に来た」


慌てた様子の男をリサさんが宥める。

「ちょっと落ち着いてよ。

 パンドラが村に来るのは予定通りでしょ?」


「それが、ハア、ハア、違うんだ。

 パンドラの他に剣を持った男が来て、

 パンドラを殺すと言っている。

 予定と違うだろ?村長の指示を仰ぎに来たんだ」


「なによそれ?どういう事?」


「分からない、パンドラは村に入ってから大人しくしてたんだ。

 そしたら村に帽子の男が来て...」


オルトが口を挟む。

「帽子の剣を持った男?それってさ、いや、でもまさかな」

「知ってるの?オルト君」

「ああ、ひょっとしたらタコリスが船で戦った相手かも知れない」



「ちょ...長老殿」

タコリスが震える手を動かし長老に訴える。


「おお、どうした?まだ動いちゃいかんぞ若いの」

「俺を...動けるようにしてくれ」

「落ち着け、ワシの力で少しは動けるようになる。

 だが動けるのはほんの少しじゃ、完全に治すには薬とそれなりの時間が要る」


「それで良い」

「そんな体で行ってどうする?」

「良いんだ...俺は、どうしても」

 

「困ったのう、リサ、そっちはどうじゃ」

「うん、フラナタも体は動かせないけど大丈夫みたい。

 長老様、とにかく二人を治療してあげて」


「ふむ...」

「た、頼む...長老殿、俺を」










「フウ、やっと追いついたぜ」


その大男は村の入り口に辿り着くと入り口のアーチに手を掛け

呼吸を整えてから帽子の男に声をかける。


「置いてくんじゃねえよベッセ!

 じいさんと一緒にさっさと行っちまいやがってよ!」


「うるせえぞドアフル、来たんならそこで黙って見てろ。

 手え出すんじゃねえぞ?」

「1対1だろ?誰が邪魔するかよ」

「そうか、それなら良い」



すり足のまま両足をゆっくり広げる。

剣に手を置きパンドラを見据える。

まだ距離は離れているが何をしてくるか分からない相手だ、

予備動作でさえ気が抜けない。


パンドラは腰に差した剣を抜かぬままに笑って俺に話し始める。


「連月剣のベッセ、覚えているぞ。剣の腕は確かに一流だった。

 私を退治して名を上げるのか?するとお前はこの後

 英雄として名を残す訳だな?」


「ああそうだ、だからお前がここで死ぬのは確かに意味のある事だ、

 何も思い残す事は無いぜ?」


「フン、するとお前は正義の味方、そういう事だな?」


「フフ、ハハハハハ!そうだ、何と言っても俺達は義賊だからなあ!

 そうだろうドアフル!?」


「さあな、俺にはこの戦いにどんな意味があるかは

 分からねえよ、ただお前がやりたきゃやれ。

 その女が例のパンドラなんだろ?」


「ああそうだ!この女はな、生きてるよりは死んでた方が良い、

 居るよりは居ない方が良い、世界中から認められた『殺して良い女』なんだよ!

 その女を殺して俺は連月剣を世界中に認めさせる!」


それを聞いても女はニヤケ面を止めずに剣も抜かない、

「良い考えだな、お前は私を殺した『正しい事をした男』

 としてどこぞの国に迎えられるんだろう、悪く無い思惑だ」


下らねえ与太話をしながらもパンドラは相変わらず剣を抜かない。

ひょっとしてもう生きるのを諦めているのか?

長く苦痛な人生だったろう、嫌になってしまうのも分からなくは無い。


「さあ、そろそろ良いだろう?

 苦しい人生とオサラバだ、俺が楽にしてやるよ」


 

両足を大きく開いたまま腰を深く落とす、

そして相手に背中の殆どを見せる程の上半身の絞り、

これが連月剣の構えだ、この構えから『傷あり』も殺す一撃を生む。


パンドラとの距離を測りながらにじり寄ると奴は

ニヤケ面こそ引っ込めたものの剣は抜かずにフラフラと自分の位置を変えた。


俺との距離を奴も測っている様だが甘い、

俺の剣技はお前の想像を大きく外れた間合いを生み出す。


「ちゃちだな、死に逝く者はいつだって無様だ...」

一見掴み所の無い様に見える女の動きを、只風に動かされるだけの

枯れ木に見立てて俺は女の体の芯を見据える事にした。


やがて女との距離も縮まり、俺の剣の間合いは、


女の影を踏んだ。


 

絞った体は待っていた、

この体は殺しの『時』を知っている。


片腕で剣を抜き、その小さな初動は一気に激流の速さに変わる。


踏み込みながら深く下段を掠めとる一刀は相手の足に噛みつく。


ザシュッ!


地面が深くえぐり取られる、

分かるか?俺の剣は一撃一撃に必殺の剛力が籠っている。


パンドラはそれを後ろに飛び退いて躱していた。

成る程、弱っていても一端の剣士、一撃目は躱したか。



俺の伸びた片腕は翻って剣を返す、一撃目から間を置かず

真横に一文字、女の胴を両断すべく襲う。


バッ!


女は後方へ転がり避けながら俺と距離を離す。

同時に俺の足は体勢を整え終えて力を貯めていた。



かかったな、一手目は避けねば足を失う下段で動かし二手目で体勢を崩す中段、そして...



パンドラが転がり終えて体勢を整え始める頃、

地面を触ったままの低空を跳躍して俺の足は既に距離を詰めていた。



繊月せんげつ忍んで闇を食い、上弦じょうげんおもづ闇を追い、

 満ちる光は闇を残さず」



仕留める為の三手目、望外の距離からの必殺の上段、これで詰みだ。


その時パンドラが後ろ手に何かを持っているのが見えた。

だが何をしてももう遅い、剣を抜いても崩れた体勢では俺の上段は防げない、

そして何かを隠し持った奴の手が何を出したとしても一緒に叩き切るだけだ。


「食らえ!三連光牙!!」


構えた上段の剣を振り下す。


「うわああ!」

何だ、その情けねえ声は?無様な...


いや、待て、


叫んでねえ、


この女の顔、生意気なニヤケ面。


パンドラは俺の剣に合わせる様に後ろ手に隠し持った影を

自身の前に差し出した。

パンドラの背後にあった影がその正体を現す、

その小さな身体は俺の剣撃の前に晒され、怯えて竦んでいた。

「ひゃああ!!」


こ、子供!?村の子供か?

俺の剣がパンドラに向かって振り下される、軌道上に子供を晒したまま。



(お前はこの後英雄として名を残す訳だな)


何だと?


(お前は私を殺した『正しい事をした男』として)


俺は、もしこのガキを殺したら、

この見知らぬガキを殺したら、

子供を殺した俺をどこの国が迎え入れてくれるんだ?


俺の剣は勢いを殺せぬまま振り下された、


ドスッ!!



ただし、剣はそのガキと憎たらしいクソ女を避けて地面を切りつけていた。


「ク、クソッ!!」

直ぐに地面に刺さった剣を抜こうとするが、

深く刺さり過ぎてビクともしない。


この女がさっきフラついてたのは、このガキを使う為、

自分の立ち位置を変えて...


ガンッ!!


「ブッ!」


血が噴き出す、視界が揺れる、


俺の顔は女の拳による激しい衝撃で空を見上げた。


そのまま体を引っ張りヨロヨロと後退していく。


身体を戻そうと前に手を伸ばすが、勢いに逆らえず、


ドサッ、


そのまま仰向けに倒れた。



あの女、直前にガキを晒す事で俺の剣を空振りさせ、逆に俺の体勢を崩した。

(覚えているぞ。剣の腕は確かに一流だった)


俺ならその一瞬でその判断と動きが間に合うと踏んで、

ガキを盾にしやがった!



身体を起こし、パンドラを見ると女は肩で息をしながら俺を見ている。

クソ、たった一発の拳でそのザマか?そんな疲弊しきった女にこの俺は!!


パンドラはフッと笑って強がりを俺に言って見せた。


「それで、私はいつ剣を抜けば良いんだ?」



遅くなりましてすいません。

次回は3月10日火曜日に投稿予定です。

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