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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
序章 二匹の虫
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第4話 賑やかなレクイエム

いつの間にかランタンの影は踊るのを止めていた。

もう羽虫達も眠りについたのだろうか?

少し寒く感じる。


静かな貯蔵庫の隅で女の辛そうな

呼吸の音だけが微かに聞こえる。


彼女はこうまでして生きようとしている。

何故だろう?


この疑問は普通じゃない。

なんとしても生きようとする事は誰だって

当たり前の事だからだ。だが彼女の場合は?


生き残ったとして、生きて帰ったとして

誰がそれを喜ぶだろう?


会ったばかりで彼女の事を何も知らない俺だが

世界からの彼女への対応、世界からの彼女への想い、

容易に想像がつく。

生きている方が地獄と言えるのでは?


何故生きているのだろう?

彼女に聞いてみたい。



足音が、聞こえる。

1階から地下へ続く階段だ。

「パンドラ、お迎えが来たぜ」


鉄格子の向こう側、

階段から男が姿を見せる。


男は茶のズボンに袖の無い上着を

ボタンをせずに着ている。腹にはサラシ、

両手にも包帯をビッシリと巻き付けてミイラみたいだ。

頭に黒いバンダナを巻いた長髪。


盗賊の教科書でも読んで来たかの様な

ファッションだがまあ似合っている方だ。

見張りの男と同じ様な下っ端の若い男で

名前は何だったか?


「おいドカ、こいつやっぱり寝てやがる。

 だから俺は反対だったんだ。

 バケモノの檻の前で寝るなよ、危なっかしい」


バンダナの男がドカと呼ばれた男に近づく。


「おいドカ、起きろ」

「うーん。ムニャムニャ」


「ムニャムニャじゃねーよ。

 しかし相変わらずデケー図体しやがって。

 またデカくなってねーか?

 チキショー、このままじゃ兄としての威厳が...


 俺もこんだけデカけりゃなー。

 もしくはゴダの兄貴達みてぇに刻印が見つからねえかな?

 カッコイイ奴がよ」


「うーん、アニキィ、やっぱりラズの兄貴はすげぇや」

「ん、なんだ?弟よ。偉大なこのラズ兄ぃの夢か?可愛い奴め」


長髪の小僧が嬉しそうにニヤケる。

その言葉に応える様に巨体の寝言は続いた。


「そんなにも、そんなにも、

 コオロギをズボンの中に入れれるなんて...」

「バカかよ。俺はバカか?おい起きろ」


「しかも、サソリを生きたまま口に入れて

 ウニでお手玉しながら野犬と片足で戦うなんて。」

「苛められてんのか?

 誰だ?俺にそんな嫌がらせする奴は。

 おい!起きろバカ!」


ボカッ、


頭を軽く小突かれて巨体の若造はやっと目を開けた。

目を擦りながら長髪の小僧を見上げて笑った。


「あ、ラズ兄ぃ。おはよう。えへへ」

「おはよう、じゃねえよ!

 ノンキに夢なんか見やがってよ」


「あ、兄ちゃんの夢だったんだよ。カッコ良かったなぁ」

「嘘つけ、完全に罰ゲームじゃねぇか。

 誰にやらされてたんだ?やっぱバレンの兄貴か?」


「違うよ?ラズ兄ぃが『俺の真の力を見せてやる!!』って自分から」

「やっぱりバカじゃねぇかよ...いや、バカはお前だ。

 ちゃんと見張っとけって言われたろ?

 バレたらどやされっぞ」

「ちょ、ちょっとだけ寝ちまったんだ。

 他のアニキ達には言わないでくれよ兄ちゃん」



迎えに来た俺達の死神は朝からグダグダと

楽しそうだな、ため息が出そうだ。


「おいパンドラ、死にかけの所悪ぃが、お前はあいつらに捕まった。

 あのアホ共に捕まってもうすぐ死ぬかもしれん。

 なんか、泣けてくるな?」

「だから、お前に言われたくない。ッハァ、ハァ」



ガチャ、ゴトッ、


物音の方を見るとラズと呼ばれた長髪の若造が

もう一人の、巨体のドカに腕を貸して引っ張っている。


「もう良いからさっさと起きろ。あと兄ちゃんって言うな。

 ラズの兄貴だろ?俺達はもう一端の盗賊なんだからよ。

 お嬢のお陰でな」

「う、うん。ラズの兄貴」


「さて、汚えライオンを檻から出すか。

 ついでに死にかけのオッサンもな」

盗賊共が鉄格子のドアを開けた。

こっちへ歩いてくる。


「頼むぞ?ゼタ、ハァ、お、お前に、かかっている」

「ああ、早く法衣を解け。

 ついでに余裕がありゃ祈っとけよ」


第4話「賑やかなレクイエムー2」へ

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