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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
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第15話 災いは鮮血に溺れ-6

「なんだあの男は?」

「パンドラを退治するだと?」

「おい、どうするんだよ?村長はまだか?」



悪くない状況だ、ギャラリーもそれなりにいる。

村に居るであろう槍使いのガキはジジイに足止めさせてある。

そしてこの女、


その災いの女は腐りかけの荷車に腰を降ろして俺の方をぼんやりと眺めていた。

一見すると余裕を見せている様に見える、だが座った姿勢は前のめりで両手はベタッと

荷車に着いてしっかりと女の身体を支えている。そんなにしんどいか?


さて大捕り物だ、パンドラの中の魔神とやらが気になるが

そいつが表に出てくる前に奴の胴体を真っ二つにしてやれば問題ない。

陸に隠しておいた予備の剣も悪く無い切れ味だ。



「村人よ、安心してくれ、災いの女パンドラはこの

 連月剣のベッセが一刀の元に切り捨ててくれよう!」


あとは村人共にしっかりと目撃者になって貰う。



「おいどうするんだ?」


「止めるべきなんじゃないのか?」


「そうだ、村長の計画はどうなる?

 パンドラは村に招く手筈だろ?」



何だ?この村人共、反応が悪い。

パンドラに怯えるのは分かる、だが恨みや怒りの方が勝るだろ?

戦乱の犠牲者が居ない場所なんてこの世界中、どこにも無いだろ?

だったらパンドラを強く恨むべきだ、戦乱の原因はパンドラなんだからな。


「おい、どうした!?あのパンドラを倒してやると言っているんだ!

 誰だってこの女を憎んでいる筈だろう?

 戦争、略奪、飢饉、疫病、凶暴化する魔獣達、

 そして人々の心の中に生まれたあらゆる負の感情、

 全てパンドラの犯した過ちのせいなんだぞ!?」


村人の顔を見ると皆互いの顔を見合わせて困惑している様だ。

おかしいぜ、ノリが悪すぎる。

戦乱で親族を殺された奴は居ないのか?魔獣のせいで負傷した奴でも良い。

今の時代は何だってパンドラのせいになるんだ。


少なく見積もっても村の半分、上手くいきゃあ村の殆どが俺に賛同するだろう、

悪く無い計算だった筈だ。それが何だ、ここの連中は?不気味な。


パンドラを見ると相変わらずの姿勢のまま落ち着いた様な目で俺を見ていた。


「...疫病まで私の所為にされていたか。

 まあ良い、好きにしてくれ」


クソ、俺には分かっているんだ、その落ち着いた様な素振りがブラフだと、

徐々に苛立ち始めた俺の表情を見てかパンドラは俺をあざける様に口を開いた。


「どうした?浮かない顔だな、あまり上手くいかなかった様だが、

 そんなに自分を支持してくれるお仲間が欲しかったのか?」


「しゃらくせえぜ!!

 何であれお前を倒せば『連月剣のベッセ』の名は世界中に轟くんだ!」


「成る程、そういう理由か、

 たまに現れるんだ、お前みたいな奴が、

 だが、良い度胸だな?」


「何だと!?」


「分かっているよな?私を相手にするという事は私と魔法教会を相手にするという事だ」


「ヘッ、それがどうした?

 魔法教会が強大とは言え奴らの領土は世界全てじゃねえ、

 中には奴らを嫌っている団体や国もある、流石にビビって声高に口にはしないがな。


 そこに逃げ込めば良いだけだ、俺は厚待遇を受けるだろうな?

 ましてや災い拾いに失敗した教会の求心力は地に落ちる可能性が充分にあるぜ、

 そうすりゃビビる必要なんか無い、結局は獲ったもん勝ちよ」


そうだ、俺の計算は間違ってねえ、

この村の連中がどういうつもりであれ目撃者にさえなれば問題無い。


この村は丁度良い具合の田舎だ、

行商人なんかが稀に来る程の、他の地域と稀に交流がある程度の、

そんな田舎ならパンドラを獲った後に魔法教会が確認に来るまで時間がかかる。


俺が逃げ切って身の安全を確保した頃に村の連中が俺の名を教会の連中に告げるだろう。

俺は比較的安全に名を売れる。



剣を抜き、構える。

腰かけた女を座ったまま切り捨てても良い。

そう俺が考えていると女もその俺の殺意に気づき、

油断の見えない目で俺を見据えたまま立ち上がった。


「そうか、なら良い、喋るのももう億劫だ、

 来い」


女の白い肌を一筋の雫が流れ落ちる。

やはり相当疲労があるな、

喋ってただけで既に汗をかいてやがる。



「抜けよパンドラ、きっちり落としてやる。

 その薄汚れた首を地面に転がしてやるぜ」












「そうか、爺さんも行商人なのか」

「おや、これは屈強そうなお兄さんも同業者でしたか?」

「ああ、俺はタコリスって言うんだ」

「ロードと申します。お互いこの村ではライバルですな、フォッフォッフォ」


その小柄な爺さんは小さな風呂敷に幾つかの品を入れ、俺達に愛想良く頼みごとをしに来た。


「ああ、その様だな。だが俺達の方は行きの船で充分儲けが出たからな、

 爺さん、先に村の人達に品物を見てもらいなよ、俺達はその後で良いから」

「おお、おお、これは親切な若者じゃ、ありがたい、ありがたい」

「ハハッ、拝まないでくれよ。

 なあフラナタ、大丈夫か?手伝うぞ?」


俺の隣でフラナタはビンの蓋と格闘している。


「大丈夫、ククッ...

 この木の根をビンの蓋に巻いて...回すとね、

 私みたいな力の無い女の子でもって、教えてくれたの、

 ハア、ハア、お母さんが」


俺は無理をしているフラナタを見て少し笑ってしまった。

爺さんを見て申し訳なく尋ねる。


「悪いね、爺さん急いではいないかい?」


「いえ、こちらから頼んだ事じゃしの、年寄りには硬くてのう、

 それにワシャいくらでも時間ならある、

 老い先は短いがのう、フォッフォッフォッ」


「そうか、なあ爺さん、あんた良い人そうだから教えるが、

 この村にあんまり長居をしない方が良い」


「おや、何か問題でもありますかな?」

「爺さんあんたどっちの方角から来た?」

「ワシは西の方から来ました」


「そうか、俺達やフラナタ達と同じ方角から来ているな、

 じゃあ噂を聞いていないか?パンドラの噂だ」


「うむ、その噂ならワシも4日程前に聞きましたぞ。

 なんでもこの村に向かっておるとか」


「ああ、そのパンドラがもうすぐこの村に着く頃なんだ」


「ふむ、噂は本当でしたか。

 ワシも行商のルートを変えようか迷ったんですがのう、

 確かに物騒な話じゃ、少しこの村で休んだら、早めに出るとしましょうか」


「ああ、それが良い」



「ああ、もう!」


フラナタが不機嫌に声を荒げて持っていたビンを自分の体から離す。

そして何も言わずに俺の胸にそのビンを押し付けた。


「ハハッ、ご苦労さん」

「本当に開くの?それ」

「すまんのう、お嬢ちゃん」


「よし、待ってろよ?」

俺はビンを手に取り蓋を掴んで力を入れた。

その間フラナタは水を一口飲んで息を整え老人に話しかける。


「ところでお爺さん、この村まではどんな風に来たの?

 馬で来たのかしら?陸路よね?」


「いやいや、ワシャ水路を使って、川を使って来たんじゃよ可愛いお嬢ちゃん」


「河?河ってこの辺りで水路として使える河なんて大河しか無いわ。

 でも海竜船団には乗って無かったわよね?」


「そうじゃよ?ワシャ、違う方法で来たんじゃ、

 おお、お兄さんがビンの蓋を開けてくれた様じゃのう」



カチャリッ、



ビンの蓋が回り、僅かな隙間が出来た瞬間、

ビンの中から赤紫の煙が噴き出す。


「うわ!」

「キャッ!」


煙はタコリスとフラナタを包み込んで周りから見えなくする。

直ぐに煙は霧散して消えてしまうが、


「おい、どうした!?」


店の奥から二人の叫び声を聞いたオルトが駆け寄る。


「フラナタ!?」

オルトに続いてユイリーとリサさんも駆け寄ってきた。


煙が晴れて隣を見るとフラナタが地面に横たわっていた。

苦しそうに体を痙攣けいれんさせて動けない様だ。

俺も同じで体が痺れて動けない。


「おい、タコリス!大丈夫か!?

 何があった!?」


「オ、ルト...

 あの爺さんだ...」


俺はその老人を指さすがさっきまで俺達の近くにいた筈の老人は

いつの間にか距離を取って店の入り口まで離れていた。


「すまんのお、親切な若者たちよ、

 しばらくそこで寝とってくれ、

 死ぬような薬じゃ無いから安心する事じゃ、ヒョッヒョッヒョッ!」


そう言い残して老人は店を出てどこかへ消えてしまった。



ユイリーがフラナタを抱き起して声をかける。

「フラナタ!」

「ユイ、リー...

 あなたの、お婆さんを...

 長老を、呼んできて...」


「うん!」



「リサさん、どうしよう!?

 これってヤバいのかな!?」

「落ち着いてオルト君、大丈夫、長老は呪術師だから

 呪いや薬の類にも詳しいの、もう少し待ってて、大丈夫だから」

次回は3月6日金曜日に投稿予定です。

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