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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
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第15話 災いは鮮血に溺れ-4

「よおし、やっと着いたな」


「はい、お疲れさまでしたオルトさん」


「結構キツイよな、この作業。リサさん一人で何かと大変そうだしさぁ

 手伝ってあげれて良かったよ」

「リサも凄く助かると思います」

「ああ、ユイリーも疲れただろ?道案内してくれたし

 朝飯ご馳走してやっからさ、ユイリーさん所行こうぜ」

「そんな、私は大した事してませんから...」

「良いって良いって、お腹は空いただろ?俺はペコペコだよ。

 一人で食うのもつまんないしさ、良かったら付き合ってくれよ。

 心配すんなよ?金ならある!」


「は、はい...じゃあ、あの、お言葉に甘えて」

「金ならあるって久々に言ったよ、良い言葉だなよなぁ、感動だよ」


俺は腕を上にあげて背伸びする。

川から汲んだ水の入った桶を両手に持ち直して村の入り口になっている

木で出来たアーチの下を通る。


「よし、運ぶかぁ」


村に入ると俺達が出かける前の朝の静けさは消えていて、

村の住人が様々な朝の支度をし始めていた。


畑の世話をし始める婆さん、太い丸太を肩に抱えて運ぶおっちゃん、

木造の家屋の二階のベランダ、その手すりに毛布やシーツを干す若い女性。

店に野菜や果物などの品物を並べている夫婦。

洗濯物の入ったカゴを片手にご近所と話をするおばさん。

近所の子供は数人で木の棒を持って追いかけっこをしている様だ。


朝の訪れと共に村は少しづつ賑やかになっていっている。


村を見渡すと全てが木で出来た家屋が十数棟、屋台の様な規模の店が数件と

家屋の一階部分が店の出口になっている建物が数棟。


俺はその中でふと、家の修理をし始めている老人が気になった。

老人は作業台の上に大きめの石を乗せようとしている。

作業台の上には丈夫そうなのみと鑿を叩く為の金づちが置いてある。

どうやら彫り物をする様だ。


だが老人一人で持つには重そうに見える。

俺は老人の方へ近づき水桶を置いて声を掛ける。


「爺さん、上げるの手伝うよ」


「おお、そうかい?すまんなあ、俺ももう年だからよ...」


老人は振り向きながら俺に笑顔で応える。

しかし、俺の奥にいるユイリーに気づき、途端に顔を強張らせた。

老人はふいっと顔を背けて俺に言う。


「いいや結構だ。助けは要らん。 

 おーい!誰かこれを上げるのを手伝ってくれんか!?」


その声を聴き少し離れた場所に居た若い男が気だるそうに老人に近づく。

老人は明らかにユイリーに対して嫌悪感を抱いている様な素振りだった。

俺は不愉快な感覚に顔を曇らせたが、後ろを振り返りながらパッと眉を上げる。


「ハハッ、変な爺さんだよなぁ。

 まあ俺はあんま力仕事は得意じゃ無いからな。しょうがねえけどさぁ」


「はい...オルトさん、ごめんなさい」


「何謝ってんだよ?ほら、とっととメシ食いに行こうぜ?」

「はい、そうですね...」


コツン


「キャッ」


ユイリーのおでこに小さな小石が当たる。

ユイリーは小石の当たった辺りを抑えて驚いた様子だった。


「ユイリー!大丈夫か?」

「は、はい。何ともありません、小っちゃな石ですから」


俺は石の飛んで来た方を見る、そこにはさっき走り回っていた小さな男の子が

ニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。


腹が立った。ただ純粋に、それだけで良いと思った。

その感情は隠すべきものでは無く、露わにするべきだ。

例え小さな子供が相手であっても、いや、子供が相手だからこそかも知れない。


俺はその子供たちを睨み一言だけ口にする。


「恥ずかしい事するんじゃねえ」


「ヘヘッ、恥ずかしいのはどっちだよ!

 そんな女と一緒に歩いてさ!」


そう言うと

子供たちは走ってどこかへ行ってしまった。

俺は睨んだままそれを見送った後にユイリーに声をかける。

さっき老人に冷たくされた時は明るく紛らわそうとしたが、

今度は優しく声をかけた。紛らわす、と言うのはもう無理そうだから。


「ユイリー、世の中にはな、気にする価値のある出来事と、そうじゃないのがあるんだ。

 お前がリコやクノスを気遣った優しい子だってのは俺やタコリスが知っている。

 フラナタやリサさんも居る、大切な事を思い出すと嫌な事が吹き飛ぶことがあるんだ。

 いつもそれで平気って訳じゃ無いけど、でもいつだってお前には味方がいるからな?」

 

「はい、オルトさん」


ユイリーは悲しそうな恥ずかしそうな顔を少し和らげて俺に言葉を返した。


「行こうぜ?多分タコリスやフラナタももう起きてるだろうからさ、

 フラナタに例のクイズでも出して貰おう。

 タコリスがへっぽこ商人のままじゃ俺の腹はこれから先、減りっぱなしだからな」


「フフ、そうですね」





ユイリーと村の中を歩く、少しは元気を出してくれたが

それでもさっきのは小さな女の子にはキツイよな。

この子は今までずっと、あんな扱いだったのだろうか?


大きな都市や戦争をしている国家では、

刻印の力も持たず、精霊魔法も使えない人間は『傷無し』と呼ばれ

蔑まれる事が多いと聞く、だが取り立てて戦闘の必要も無い

こんな小さな村では逆に刻印の力は恐れられ忌諱きいされる事が多い様だ。


まったくよ、やるせないモンだよな。

せめて俺達が村にいる間はユイリーを元気づけてあげたい。

人と心を通わせた思い出はその人を強くしてくれるから。

そんな力を分け合える人間に俺はなりたい。


俺は目の前の光景に再び感嘆かんたんの声を上げる。


「すげえよなぁ、こんなデカい魔獣が来たのか?」

初めて見た時もこの光景は俺とタコリスを驚かせた。


「はい、この傷は普段隠してあるんですけど、

 今はお祭りの時期だから」


村の端は大きな崖で遮られており、そこには二階建ての家屋程の大きさの

女神像が崖に彫られていた。そして...


「せっかく綺麗に彫られてるのにな、女神像も随分と傷んじまってるなぁ」


その崖には女神像の横に大きなくぼみと、

そのくぼみを中心にした無数の巨大な傷が刻まれていた。

その傷は崖全体に届き、女神像もその内の幾つかの傷に依って

大きな傷を負っていた。


「はい、今の時期は皆機嫌が悪いんです。

 その...魔獣が襲って来た時の事を思い出すから。


 おかしいですよね?お祭りの時期になると

 楽しく無くなっちゃうなんて」


「まあそうだな、でもさ、そういう辛い思い出もいつかは消える物なんじゃないかな?

 時間はかかるし、凄く辛い事だろうけどな。


 さあ、着いたぜ」



俺達は村の突き当りにあるリサさんの経営する、

正確にはリサさんのお父さんの店に到着した。


「ああ腹減ったぁ、リサさーん!

 水汲んで来たよー」



次回は2月25日火曜日に投稿予定です。

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