第3話 汚れた夜明け-3
グロテスクな表現があります。
お読みになる際はお気を付けてお読み下さい。
「ウジか?ウジが法衣を食ってやがる」
白い法衣に白い虫。見えにくいが
よく見れば布では無い何かがモゾモゾと活動している。
「お前、夜中のアレは何だ?何を食ったんだ?」
昨日の夜更け俺達が地下貯蔵庫にぶち込まれてすぐ、
パンドラは樽の中の何かを食っていた。
四肢が動かぬ状態で立ち上がり、
樽の中に顔を体ごと落とし込む様にして犬の様に食っていた。
食い終わるとすぐに壁にもたれかかって眠った。
少し分けてくれという俺の言葉を無視して。
俺は催促するのをすぐに止めた。
女が食い終わった後、樽からヒドイ匂いがしたからだ。
「魔獣の死体だ、良い頃合いに腐ってくれていた」
「何故だ?」
俺は端的に聞いた。たぶん理由を聞くのが本能的に怖かったからだ。
「このウジは魔獣の死体に沸いた普通のウジだ。
それを私の体の箱の中で育てた。
栄養として取り入れたのは
魔界の戦王たる魔神の血肉だ。
つまり充分に魔界の瘴気を取り込んだ。立派な魔界の眷属に育つ。
だが元は間違いなく只の虫。つまり」
「魔界と自然界のハーフか?」
「そんなところだ。精霊は自然界の理を維持しようとする。
間違っても動物や虫なんかは敵じゃない。
だがこいつらは最早魔界の住人でもある。
精霊を取り込み自分の力にしようと...
精霊たちを食べている」
「要するに虫を使って精霊たちを出し抜いたのか?
そのために虫を体に寄生させ育てた。
自分の体を不浄の苗床にした訳だ。
発想が狂ってる。流石は災いの女、と言うべきか」
話のおぞましさに身震いがしそうだ。
だが淡々と話すパンドラに怖さは感じない。
何故だろう、この女には強い意志の力を感じる。
何としても生き抜こうとする強い意志を。
汗にまみれた彼女の顔が不意に笑った。
「過去に拘束された伝説の魔神様は
随分とお上品だった訳だ」
「フッ、ハハハ、お前が下品すぎんだよ。
最悪だこのアマ。だが状況は良い。
どれくらいで自由になれるんだ?」
「全部虫が解いてくれる必要は無い、
半分も解いてくれれば充分だが、
まだしばらくはかかる。
ゼタ、お前には時間を稼いで貰いたい」
「死ぬ前の命乞いか、良いだろう、
みっともなくすがり倒してやろうじゃねえか」
「頼むぞ、私は殆ど動けないし法衣の破れ目を
隠し続ける必要がある。
今はまだ虫達は法衣の内側にいるが
その内に外から見ても法衣の破れ目が見える様になる」
「ああ。だがパンドラ、気になるのはお前の
体だ。随分辛そうじゃないか。
自分の体でそんなモン育てて大丈夫なのか?」
「大丈夫な訳が無いだろう?下手したら死ぬ。
なるべく早く体内に残った虫を追い出す
必要がある。そこでゼタ、
泥棒のお前に盗んでもらいたい物がある」
「なんだ?...」
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