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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
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第12話 灯、乱流の前に消えず-4

「おい!通してくれ!海竜の調教師が来たぞ!

 船員は何やってるんだ!?早く乗客を避難させろ!」


「分かってる!だが立て込んでるんだ!」


「何だ、あの二人はこんな時に喧嘩してんのか!?」

 

「違う、片方は人攫いだ!若い方は必死に戦ってるんだ!」


「とにかく速くなんとかしろ!

 先生!頼んますぜ!?」


「ああ、だが私がなだめるのに少し時間は掛かるからね!?」





空中で動きを止めた槍は力と力に挟まれたまま動かなかった。


「ぐっ、くく」


「タコリス、お前やるじゃねえか、この俺とパワー勝負になるなんてよ?

 根性だけは認めてやるが、そろそろ限界だろ?」


真っすぐドアフルに向かって伸ばしていたタコリスの槍は

ゆっくりと押されその切っ先を上向きに持ち上げられる。

そしてタコリスの顎下がくかを通り今は喉元に近づきつつある。



「なあタコリス、このまま上に弾いちまえばどうなるよ?

 布に包まれてるから死にゃあしないだろうが、しばらく

 動けないと思うぜ?」


「ッ...」


タコリスには言葉を発する余裕も無い。

全力で抵抗するが槍は少しづつ押し込まれて止められなかった。


「じゃあな、タコリス。

 久々にちゃんと喧嘩になる相手でよ、楽しかったぜ」


ドアフルはその剛腕に力を込め、

そして雄たけびと共に力を解き放った。


「うおおおおおおおおお!」



バンッ!!



ヨロヨロと後退しながらバランスを取る。

ドアフルは何とか転ばずに済んだが、まだ体勢は整わない。

ドアフルの体に激しくぶつかった流水はドアフルとタコリスの間に4歩ほどの間合いを作っていた。


「な、何だあ!?」


ドアフルがやっと体勢を整えた頃、タコリスは一気に間合いを詰めて

襲い掛かって来る。


「このっ!」


ドアフルが再び刻印の力で槍を捕らえようとした時、

足元が強い力で押される、激しい流水はその強靭な足を攫うべく

多量の水で流れ続けていた。


「おおお!?っとお!!」


バランスを崩しながらタコリスの槍を躱す。

ドアフルの顔の横に来ていた槍はそこから振り払われて

ドアフルの横っ面を叩く段階だ。


「やべっ!」


焦ったドアフルだがタコリスの槍は一度タコリスの体近くに

引き戻されてから再びドアフルの胴体目掛けて突きを放った。

その突きを刻印の力で受け止めながら、

恐らくドアフルの抱えている少女の事を気に掛けながらタコリスが

戦っている事にドアフルは気が付いた。


「なるほどな!俺も戦いづらいがお前も戦いづらい訳か!

 まどろっこしいぜ、やっぱ喧嘩は細かいゴチャゴチャが

 無い方が良いよな!?って、おお!またかよ!」


体勢を立て直そうとうっかり掴んだ槍を手放してしまった。

ドアフルの足元では流水が何度も行き来して

ドアフルを転ばそうとする。


その間に次々とタコリスの槍がドアフルに攻撃を放った。

さっきまで優勢だったドアフルはギリギリで槍を躱し続ける。

刻印で槍を掴もうにも足が踏ん張れず逆に危険だ。


「なっ、お、おい!ちょっと待て!

 このっ、何かおかしいだろ!?

 何で俺ばっかり!」


やがてタコリスの槍はドアフルの動きを追い詰める。

「オオオオオオ!!」


「このっ!いい加減にしやがれ!!」



バッシャア!!


ドアフルの拳は船の甲板に向かって刻印の衝撃を放った。

その一瞬の強力な圧力で大量の水しぶきが跳ね上がる。


タコリスの前には水の分厚い壁が出来上がった。

飛び散る水滴に目を細めながらタコリスは水壁の向こう側で

ドアフルが腕を振りかぶっているのを目にする。


「マズいっ!」


ドガンッ!!



ドアフルの放った一撃はその衝撃を防いだ槍ごとタコリスの体を吹き飛ばした。


そのまましばらく宙を飛ばされ、タコリスが何とか着地したのは

ドアフルから20歩は離れた場所だった。




ドアフルは肩の上の少女を抱え直し不機嫌そうに怒鳴った。

「クソッ!久々の喧嘩だってのによ!

 どうも釈然としねえぜ!」


「おいドアフル!気をつけろよ!?」


声の方を見るといつの間にかベッセがこの船に辿り着いていた。


「おおベッセ!お前無事だったのか!

 心配させんなよ!ダッハッハッハ!」


「笑ってる場合かよ!?その槍使いに気を付けろ!

 何故か海竜がそのガキの味方をしている!」


「な、何だとおお?」


ドアフルは船の目前に迫る巨大な海竜に向かって叫ぶ。


「おい海竜!!てめえ、えこひいきじゃねえか!?

 ズルすんじゃねえよ!!何かおかしいと思ってたんだ!!」


「ドアフル!そんなバケモノと言い合ってどうする!?

 それより俺と二人でさっさとそのガキ始末してズラかるぞ!?」


「おいベッセ、ふざけんなよ!?

 まともに喧嘩も出来ねえで、この上2対1かよ!?」


「目的を忘れんな!

 そのガキを医者に見せないで良いのか!?」


「そ、そりゃあ、そうだけどよ」


「そういうこった、悪く思うなよクソガキ。

 何たって正義の目的があるんだからよ、

 俺達義賊にはな?」

ベッセは剣を抜いて構えを取る。



タコリスは自身から10歩先のベッセから距離を放す。

ドアフルとベッセ、二人が視界に納まる様な位置取りを取った。

だがそれは同時にドアフル、つまりユイリーからも距離を離す動きだった。


「このままじゃジリ貧だ

 ...この槍を、使うしかないのか?」








タコリスと距離が離れた、今だ。

今なら私の刻印でこの人を。


ユイリーは臆病な心を不安と恐怖に晒されながらも

静かに決意を固めた。

次回は1月10日金曜日に投稿予定です。

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