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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
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第11話 二人の目覚め-3

「ごめんね、大丈夫?」


人混みの中で体がぶつかってしまった相手は

7、8才くらいの男の子だった。


「...うん」


少年の後ろには更に小さな女の子がいる。

彼女は少年の服をしっかりと掴んで少年の側にくっついている。


「おにいちゃん...」


「リコ、大丈夫だよ。

 ぶつかっただけだからさ、

 泣くなよ?お前すぐ泣くからな」


「うん、リコ泣かない」


私は少し屈んで少年に話しかける。


「本当にごめんね、

 ところであなたたち二人で来たの?

 お父さんとお母さんは?」


「おとうさんはいないんだ、

 戦争で...」


そう聞くと妹の方は顔を下に向けて

暗い表情になった。

兄の方がそれを見て少し慌てる。


「泣くなよ?」


「リコ、泣いてないよ?」


そう言いながら妹は悲しむのを我慢している様に見えた。

私は申し訳なさを感じながら話題を変える事にした。


「そっか、お姉ちゃん辛い事聞いちゃったね、

 ごめんね」


「ううん」


「それじゃあお母さんは?お母さんは今どこにいるの?」


「おかあさん、熱が出て動けないんだ、だから

 僕達だけでお薬買いに来たんだ」


「そっか、二人だけで来たんだ、えらいね。

 お金は持って来たの?」


「うん、50ルクあるんだ。

 これでおかあさんのお薬買って

 おかあさんを治してあげるんだ。

 な?」


「うん」


兄に対して頷いた妹の顔には

少しだけ笑顔が戻っている。



私の隣にいたユイリーが表情を曇らせて

私に耳打ちする。


「50ルクかぁ、どうするフラナタ?」

 

戦争が各地で始まり、医療品の類はある種貴重品だ。

50ルクで買える薬と言うのは

あの商人でも流石に出さないだろう。 


「そうだねこの子達だけでここに居るのも

 心配だし...


 ねえ、お姉ちゃん達も一緒に

 お薬探しても良いかな?」


「え...

 うん、良いよ。

 良いよな?」


「うん」


「フフ、じゃあみんなで良いお薬見つけようね」




「ねえフラナタ、何か様子が変だよ」


「え?」


言われてみると先ほどまで賑やかだった

周りの声がしない。

みんな驚いた顔で中心の青年を見ている。

その内の一人がその静寂を終わらせた。


「に、兄ちゃんよ...

 手に持ってるそれ、

 な、何て言う品だ?」


それに黒髪の方の青年が答える。


「ああ、これか?

 これはどっかの山で俺達が世話になった

 婆ちゃんがくれたんだよ。

 熱冷ましに良く聞くってな。

 

 何て言ったっけな、婆ちゃんに教えて貰ったんだけど」


青年の手には布の上に乗った

細い草の様な見た目の物が束になって

置かれている。


白色のそれは時折淡い青色の

光を放っている。



「熱冷まし!

 ねえ、おねえちゃん、

 あれだよね?

 あれでおかあさん治るよね?


 ...おねえちゃん?」


私は男の子の問いに答えれないまま

驚いた顔で商いの青年を見ていた。


「あれって...」



「ああ、思い出した。確か雷網蛇らいもうへびだ、

 雷網蛇のひげだよ」


「い、いくらするんだよ?」


「え?これって売れるのか?

 次の商品のオマケに付けようかと思っただけなんだけど...

 

 うーんそうだな、

 貰いもんだし、

 50ルクで良いよ」



「50ルク!

 やった!買う!僕そのくすり...」


男の子の声はすぐさまかき消された、

大人たちの激しい声によって。


「か、買った!その薬俺が買ったぜ!!」


「待て、俺だ!俺が買うよ!」


「何だてめえら横から!薬の値段を聞いたのは俺だぞ!?

 兄ちゃん、俺に売ってくれよ!」


客たちのいきなりの勢いに青年は面食らって

気圧されている。


「おいおいオルト、お客さん方どうしちまったんだ、急に?」

 

「俺に聞くなよ、俺には商売の事なんて分からないぜ、

 お前の担当だろ、商いはさー」




大人たちは互いに押し合いながら青年に詰め寄る。

私達のいる場所も激しく不規則な動きの波とその圧力に晒されている。


「フラナタ!もっと人の居ない所に行かないと、

 この子達が危ないよ!」


「ユイリーこの子達を円の外へ連れてって!

 私が周りの大人を抑えるから!」


私は大人たちの体に抗う様に彼らとは逆方向に進む。


「通して下さい!子供がいるんです、通して!」


私が何とか道を開けてその隙間をユイリーたちが通る。


集団を抜ける頃には私は何度か大人に押され

着ていた服も髪もぐちゃぐちゃになっていた。


「もう少しで抜けれるからね、

 ユイリー早く!」


「うん、もうちょっと...」


ユイリーが二人を連れて人混みを抜け切る直前、

人混みは一層その圧力を強めた。


「ちょ、ちょっと!小さな子がいるんですよ!?」



ドンッ



私達が集団を抜けたと思ったら、

幼い兄妹の妹が大人達によって集団の外へ倒されてしまった。



「うわあああん」


「リコ!」


妹の方は、ゆっくりとユイリーに起こして貰い

人混みから更に離れた船室の壁際に座らされる。



私も遅れて集団から抜け出し側に行って様子を見る。

幸い膝に小さなすり傷を作っただけの様だ。

頭でも強く打っていたらどうなってたろう?




「うわああああん、

 おにいちゃあああん」


「どうしよう、泣かないで、ね?

 けがは今手当してあげるからね?」


「泣くなよ、泣かないって約束したろ?」


「だって~、えっ、えっ」


私が困っているとユイリーは女の子の前で

自分の両手の手首だけを合わせてその上で指を大きく広げる。

まるで両手で作った花の様だ。



「リコ、面白いの見せてあげようか?」


「えっ、ひっ...面白いの?」


「うん、ほら手品だよ」



パチッ、パチッ、


ユイリーの手のひらの上で小さな火花が生まれる。


ッボウ!


「うわあ!凄い!」


男の子が感嘆の声を上げる。

ユイリーの手のひらには小さな

炎がユラユラと揺れている。


「ほらリコ、凄いぞ。

 見てみなよ!」


女の子は笑ってはいないが

ぼーっとユイリーの手のひらを見ている。

泣き声はピタリと止んだ。


「もっと出来るよ」


ユイリーの手のひらでは

小さな炎が一つから二つ、二つから三つに増え

ゆっくりと円を描く様に回りだした。

まるで掌の上でダンスをする様に。


女の子の目はユイリーの手のひらに釘付けになり、

そしてユイリーに尋ねる。

「...すごい。

 ねえ、もっと出来る?」


「うん、出来るよ!」

ユイリーは女の子に笑顔で応えた。


良かった、女の子は泣き止んでくれた様だ。





「おい!兄ちゃん、俺は1000ルク!

 いや、3000ルク出すぜ!」

「ふざけんな、それなら俺は4000ルクだ!」

「てめえ、そんな金本当に持ってんのかよ!」

「ああ!?何だやろうってのか!?」


遠くからは大人たちの怒号がまだ止まない、

どうやら売買の交渉が始まっている様だ。



「あの人たち、子供が泣いてるのに気づきもしないで!」


フラナタは集団の方を睨み立ち上がった。

そして集団の方へと歩き出す。


「え?ちょっとフラナタ!?」


フラナタはユイリーの声が聞こえていないのか

集団にどんどん近づき、やがて集団の中に

自ら飲み込まれていった。



「フラナタ!危ないから!

 ...どうしよう、この子達を置いていけないし。

 

 フラナタ戻って!」


「おねえちゃん、こわい顔だったね」


「うん、フラナタ怒ると止まらなくなっちゃうから...」




「なあ、お嬢ちゃん」


「え?」


ユイリーが顔を上げるとそこには帽子を深く被った

1人の大人の男が立っていた。

男はリコの前で屈んでリコに話しかける。


「怪我をしたんだね?

 ちょうど傷に効く薬があるから塗ってあげよう、

 どれ、膝を見せてごらん?」


「あ、あの」


どうしよう、大人の人だ。

フラナタは居ないし、でも、


二人が居るから私はしっかりしなくちゃ。



男はリコの膝に薬を塗ってリコの頭をポンポンと優しく叩いた。


「良く我慢したね、えらいぞ」


私は勇気を振り絞って話しかける。

「あの、ありがとうございます」


「ああ、気にしないで。

 ところで君、面白い事が出来るんだね。

 さっきの手品、おじさんにも見せてくれないかな?」


「あの、本当は外ではあんまりやっちゃいけないって

 フラナタに、あの、友達に言われてて...」


「そうかい、じゃあ良いんだよ。

 ...ここは人が多いね。


 お嬢ちゃん、また今度会えたら、

 手品を見せておくれよ。

 その友達と一緒の時なら良いだろう?


 おじさん大好きなんだよ、

 手品がね」


そう言って男の人は立ち去って行った。 






「おい、押すなよ!あの薬は俺が買うんだ!」


「おい兄ちゃん7600だ!この辺で手を打っておけよ!

 な!?俺に売ってくれ!」


「いいや、俺は8000出すぜ!

 俺に決めろ、兄ちゃん!」




「おいオルト、見ろよ、大盛況じゃないか。

 オルト、俺達は天才商人だ!!」


「おお、良かったなあ。

 これで今夜はちゃんとした物食えるな。

 俺もう嫌だよ?売れ残りのモコばっかり食ってさ」



客たちの怒号は止まず、更に激しさを増していった。


「9000!9000ルクだ!これ以上出す奴はいないだろ!?」


「分かった!それなら1万ルクだ!どうだ?

 俺の勝ちだろ?薬は俺が頂くぜ?」




「20万ルク!」



「え?」


「お、おい誰だよ?」



その場の全員が声のする方を見ると、

そこには洋服と金色の髪を乱した

女の子が立っていた。



「私の名前はフラナタ、

 近くの村で村長をしています。


 私は20万ルク出すわ」




次回は12月6日金曜日に投稿予定です。

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