第11話 二人の目覚め-2
寄り添う様に密集して泳ぐ船団、
その船と船の間に掛かったハシゴを私とユイリーは渡って
隣の船に向かう。
揺れる橋をユイリーが怖がっていたので手を引いてあげたが、
本当は私も少し緊張していた。
「大丈夫だよユイリー、
大人が何人も行き来して壊れないんだから、
私達が乗っても何て事無いわ」
「う、うん、ゆっくりね、フラナタ」
ようやく渡りきると直ぐに人だかりにぶつかる。
「大人がいっぱいいるね、
中心に物売りが居るんだわ。
ユイリー、もっと前の方に行こう」
「行くの?...離れないでねフラナタ、
絶対だよ?」
大人達の足元を私達は かき分けながら進む。
先頭の方は更に込み合っていたが強引に割り込んだ。
人混みから抜け出しユイリーの手をなんとか引っ張り出すと、
私達は人混みが作る扇形の端の方に抜け出した。
人混みが作る空間の中心を見ると
船の甲板の上、船室の横壁を背に座った二人の青年が
品物を広げて商いをしている様だった。
「さあ!船旅の途中の皆さんの為に
旅の必需品が勢ぞろいだ!
ずらりと並んだ役立つアイテムに
美味しい食べ物も!
ご婦人の為のお化粧道具なんかもあるよ!」
大きな声で客寄せの文句を言うのは
短い黒髪の青年だ。
青年は質素な布地の長そでを上に着て
汚れてボロくなっているズボンをはいていた。
彼の座っている傍らの壁には布にくるまれた
長い棒状の物が立てかけられている。
紐で絞った布の作り出した輪郭から
それが恐らく一本の槍である事が推測できた。
武器も売っているのだろうか?
彼が商人だとしても彼の風貌からして
商人として成功した裕福な暮らしをしている様には見えなかった。
彼は瞳を生気に満ちた光で輝かせ、
しっかりした眉を上げ快活そうな笑顔で客たちに話し続けている。
「どれも安くて良い品物だからさぁ、
じっくり見てってくれよなー」
もう一人の青年は自分のかいた胡座の上で
頬杖をついて穏やかなと言うよりは
気の抜ける様なのほほんとした笑顔でのんびりと接客をしている。
彼の方は白い髪が特徴的で今は陽の光を受けて
大人しくその光を反射させている。
隣の青年と同じような質素な衣服だ。
私達の隣の大人たちが小声で話し合っているのが聞こえてくる
「いやあ、良い商人が居たもんだ。
今の内に買い溜めしとけよ?」
「ああ、こんな機会はまたとない。
早く買わないと商品が無くなっちまうぜ」
私は隣にいるユイリーの袖を引っ張り話しかける。
「なんだか見かけの割には腕の良い商人みたいね、
お金も少し余ってるから何か良い品物が有ったら
買っていこう」
「うん、なんだかドキドキするね」
彼女も嬉しそうに応えてくれた。
村でも家に籠りがちな彼女は買い物自体が珍しく
楽しいものなのだろう。
「さあ!さあ!先ずはこの美味しそうなモコの実だ!」
黒髪の青年は片手にピンク色の果実を取り出した。
「うわあ、美味しそうだねフラナタ」
「うん、安かったら買っても良いかもね」
パンッと膨らんだ果実は中に瑞々しい果肉が
詰まっているに違いない。
あの大きさなら70ルクくらいだろうか?
出来れば50ルクなら嬉しい。
「この美味そうなモコの実が、
なんとたったの300ルクだ!」
「ええ!」
私は思わず大きな声を上げてしまった。
周りの大人たちが私の方を見る、しまった、凄く恥ずかしい。
すると果実を手に持った青年がこちらに向かって話しかける。
「ハハ、余りの安さにそっちのお嬢ちゃんも驚いちまったな。
どうだいお嬢ちゃん、もう少し安くオマケしようかい?」
「あ、あの、私、結構です...」
「ん?そうかい?今日は商い最初の日だからな、
大負けに負けて、150ルクでも良いぜ?」
「えっと、あの...」
私が答えに詰まっていると離れた場所から他のお客の声がする。
「兄ちゃん、そのモコも良い品だけどよ、
他の商品も見せてくれよ、少し時間が無くてな
出来れば次々見せて欲しい」
「おお!お急ぎのお客さんもいたかい、
じゃあドンドン見せるからさ、目を回さないでくれよ!?」
良かった、みんなの注意が私から外れてくれた、
安堵しながらも疑問が残る。
「ねえ、フラナタ。
今のモコ、そんなに安かったの?」
「冗談、ありえない程高いわよ」
「そっか、でもそうだよね、
モコって村でもいっぱい採れるもんね」
「そう、でも何でかな?
あんな値段でこんなにお客さんが集まるなんて
普通今ので怒って帰っちゃっても良いくらいよ」
先程の青年が商いを続ける。
「さあ!まだまだ商品はあるぜ!
次はこのバトルボアの干し肉、
こいつはそうだな、在庫もあるし1枚100ルクでどうだ?」
「え...」
私はあわてて自分の口を抑える。
また注目を浴びる程声を出すところだった。
周りに私の声が聞こえなかったか気にすると、
周りの大人達はそれどころでは無い様子だ。
「買った、俺が買うよ!」
「待て、俺も買う!」
「私も買うわ!こっちにも頂戴!」
「はいはい、押さないで押さないで!
干し肉はまだまだあるからね!」
青年はそう言うがあっという間に干し肉は完売してしまった。
「分かったわユイリー、あの人、
物の値段を分かって無いのよ」
「え?でも商人さんだよ?」
「良い?広大な平原に生息するバトルボアは強靭な力と凶暴な性格で
プロの狩人でも狩るのが難しいと言われてるの。
100グラムで1500ルクから1900ルクが妥当な相場ね。
彼が持っている干し肉はどう見ても200グラムはあるわ」
「へえ、流石フラナタ、そんな事も分かっちゃうなんて
フラナタが商人さんみたいだね?」
そう言ってニッコリ笑うユイリーの頭を撫でながら
私は言葉を続ける。
「これで大盛況の理由が分かったね、
モコの実が300ルクでバトルボアの肉が100ルクだなんて、
お客は皆あの物売りの滅茶苦茶な値段を当てにして
安く買おうとしてるんだわ。
ユイリー、もう他所へ行こうか?
安い品が出ても大人達に先に買われちゃうだろうし」
「うん、でもあのお兄さん達に教えてあげなくて良いのかな?」
「可哀想だけど仕方ないわよ、
商売をするには明らかに勉強不足だもの、
自己責任よ。それに、
この人だかりの中でそんな事したら私達が他のお客さん達に
怒られて恨まれるわ」
「そ、それはちょっと怖いね」
「うん、だから...」
ドンッ
「あ、ごめんなさい」
体のぶつかった相手を見るとそこには
私達よりも小さな男の子と女の子が居た。
次回は12月4日水曜日に投稿予定です。




