表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
1章 罪は雲と、罰は水辺に
63/223

第11話 二人の目覚め

ー最初は無垢なる願いー


何もいらない、大切な人が側にいて、

笑って寄り添って生きていけるなら、

他には何もいらない。


温もり、朗らかなその声、くすぐる様な少しの意地悪、

何度もその笑顔を思い出す。




ーいつの間にか、人が成すには過ぎたる罪ー


罪は暴かれ、静寂が訪れる、

何も答えてくれない静寂が永遠と続く。

これが平穏?これが平和?


いくつもの声の無い悲しみが、景色には映らない、

見えるのは、ただ、美しき救世の世界。

でも泣き声に行き場は無い。


この景色は私が見ているもの?

この悲しみはあなたのもの?


あなたは誰?

私は誰?




ー最早終わらぬ嘆きの声ー


終わらせるさ、俺は過去に追いつき、捕まえる。

ケリをつける、その為の7年だ。


あなたは誰?その傷は私と同じもの、

その痛みを私も持っている。




ー深き罪の答えを求めて、誰もが旅立つー


俺の全てを捧げよう、この宿命に。


私の痛みは何処どこにも帰らない、

この悲しみは、この怒りは何処へ行く?


神様は今、何処へ?


私達は今、誰?






第11話 二人の目覚め



「フラナタ!フラナタ!!起きろ!」


「う...わ、私、ここは?」


「良かった、目を覚ましたか?

 おい、あまり急に動くなよ、頭をぶつけてるんだ。

 ゆっくり動け、フラナタ」



視界が徐々に明るくなる

私に呼びかける声の方を見ると、

綺麗な白い髪の青年がそこに居た。


私の肩を支えて私の顔を心配そうに伺っている。

普段はのんびりした性格の彼の表情は今、

とても緊迫した顔だった。



「おい、大丈夫かフラナタ?

 俺が分かるか?

 お前が心配で見に来たんだ」


「オルト、ありがとう。

 私...そう、船が大きく揺れて、

 それできっと船室の壁に頭をぶつけたんだわ。


 それで...そうだ、思い出した。

 オルト、私の友達は?ユイリーはどこ?」



彼は表情を曇らせて船室の窓から外の様子を伺う。

外を見ながら私に伝えた。


「攫われたままだ、俺も途中までは追えたんだが、

 避難する乗客の波に押されて見失ったんだ、すまない。

 だけどまだ無事の筈だよ。

 奴ら君の友達の能力に用があるみたいだ。

 あの子、『傷あり』なんだろ?」


「うん、でも誰かと戦ったり出来る様な性格じゃないの。

 早く助けてあげなきゃ」


「今あいつが追ってるよ、ただ、相手は二人いるからな。

 小汚えオッサンともう一人は馬鹿力の巨漢、


 確か名前は、

 カラスっつたな、それから巨漢の方は、

 えっと、何だっけ?確かド、ド...」



ドオオオオオオン!


外から大きな音と叫び声が聞こえる。


「海竜が船を壊しちまった!早く乗客を引き上げろ!」


私達のいる船室も大きく揺れる、

外からは更に言い争う声も聞こえた。



「その子を放せ!」


「ダメだ!欲しけりゃ力づくで来いよ!」



そうだ、彼が戦っている。

私の友達を助ける為に、


「お、おいフラナタ!」


私は揺れる船内を立ち上がり船室のドアに駆け寄った。

ドアを開けると眩しい日差しが一瞬で視界を真っ白に変えた。




何も見えない、でも彼の声はした。

彼は無事なの?彼の名前を呼ばなきゃ、


ダメだ、頭がぼんやりする、確か彼の名前は...







ー2時間前ー




「フラナタ、人がいっぱいいるね?」


「そうね、この船団が聖都に着いたら当分航行は無くなるから。

 だからいつもより人が多いのよ、この海竜船団に乗るのが一番安全だから」


「うん、そうだよね、あんなに大きい海竜が守ってるんだもん。

 誰もこの船団に悪さ出来ないね」



彼女と一緒に空を見上げるとそこには

日の光に照らされた海竜が真っすぐに大河の彼方を見つめている。


傍らで泳ぐ無数の船たち、

そしてそこに乗っている小さな私達を気にも留めず

彼、あるいは彼女は悠々と泳いでいた。




ユイリーは船の端まで行ってへりに手を掛け海竜を眺める。


今日の彼女はいつもの黒いローブではなく、

白いワンピースと可愛いリボンの着いた帽子を被っている。

私と村の酒場のリサが無理やり着せたものだ。


やっぱり良く似合っている。

いつもより大人びて見えるし、少し背も伸びたかな?

彼女も今年で13才になる。

私の一つ年下の内気な女の子。


いつもは目立たない様にビクビクしながら村で暮らしている彼女、

この短い旅に彼女を誘って本当に良かった。

彼女は私に向かって楽しそうに話しかける。


「こんなに大きな海竜があと4体も船団の周りを泳いでるんだよね?

 そう考えるとさ、ちょっとだけ怖いよね?」


「大丈夫だよ、ちゃんと船団は襲わない様に躾けられてるから。

 代わりに船団の外の船は吹き飛ばしちゃうけどね。

 

 だからこの時間はこの大河に船は一隻も居ないのよ」


「へえ、やっぱりフラナタは物知りだね」


私も彼女に習う様に船のへりに身を寄せ

海竜を頭の先から水面へと順番に、その巨体を眺める。




白い竜の頭には二本の角が柔らかそうに頭の後ろへと垂れ下がっている。

ひょっとして触覚だろうか?


一見おだやかにも見える表情は、その実

何者にも自身が脅かされる事は無いだろうという

堂々たる威厳にも感じ取る事が出来た。

確かに良く見ると少し怖いかも。


長い首が水面に伸び、大きな丸い背中が水面に浮かび、

その首を支えている。


その胴体の両脇には広く薄い左右6枚の羽が

水面に浸かって波打っている。



「あの羽で水面の波を捕らえて泳いでいるんだよ。

 

 それでね、体を休めるときは人気の無い海岸や岩場に

 体を乗っけて休むんだけど、

 その時に羽に着いた水を一斉に払うの。


 すると羽の枚数だけ大きな虹が出て、

 その虹が何重にも交差するのよ。」


「へええ、ほんとに!?凄い!」


彼女は私の話に目を輝かせた。


「海竜は年齢と共に羽の枚数を増やすから

 長く生きた海竜はいっぱい虹を見せるんだって」


「凄い、凄い。見てみたいなあ、

 ねえ、それも本に書いてあったの?」


「ううん、それはお母さんが教えてくれたの」


ユイリーは少し驚いた顔をする。

でも直ぐに優しい声で私に話した。


「そっか、お母さんは冒険家だもんね」


そう言って彼女は私と手を繋いだ。

いつも言葉に自信が無いユイリーは

いつだって小さな触れ合いで私を慰めようとする。

その思いやりが繋いだ手から伝わってくる。


「うん、お母さんはいつも冒険の話を聞かせてくれたから...」




不意に隣の船から大人たちの歓声が聞こえた。


「おいおい!兄ちゃん!

 じゃあさ、こっちは!?

 こっちの値段はいくらなんだよ!?」


「そうだな、それなら100でどうだ!?」


「100ルク!?100ルクで良いのかよ!?

 あんた気前が良いじゃないか!?」


「おう!どんどんサービスするぜ!

 みんな今日買わなきゃ損だよ!」



人混みも出来ている様に見える。


「ユイリー見て、隣が何だか賑やかだよ」


「うん、出し物でもあるのかな?」


「見に行ってみようか?」


「う、うん。遠くからね...

 大人がいっぱい居て怖いから」


「大丈夫だよ、私が着いてるんだから!」


そう言って私はユイリーの手を引いた。

久しぶりにユイリーの元気な笑顔を見た気がする。

今日くらいは何も気にせず楽しんで欲しい。


「わわ、待って、フラナタ!」


「フフ、早く行かないと出し物終わっちゃうよ!?」


彼女を引っ張り私達は隣の船に駆け出した。

次回は12月2日月曜日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ