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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
序章 二匹の虫
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第10話 英雄の空ー7

騎士達を見下ろしながら、騎士団長が話をしている。

新兵激励の為の訓示という奴か。



「かつて賢者は言われた。



 『これよりこの世界の愚かな争いは眠りに着き

  最早目覚める事無く、永遠の平和が続くであろう。


  その平和は人々の願いと意志の力が作り出した。

  

  我ら人の魂には慈悲と勇気が宿っている。

  その宿命と恩恵を知り、真の覚悟を持てば、  


  叶わぬ願いなど無い。

  我らは、奇跡の子だ』


 

 かように言われた賢者の教えが導く様に

 我ら『太陽の王国 ビシュタリア』と 

 隣国『月の国   マールアルス』は

 

 それまでの長きに渡る争いに終止符を打ち

 新たな平和の時代へと歩み始めた。

 諸君ら騎士は、この平和の為の勇敢なる...」




退屈な話だ。てめえらが気取る為に小市民をイジメてる連中が

騎士の何たるかを語ってもな、聞いててこっちの顔が赤くなる。

まあ、今日から俺もその連中のお仲間な訳だが。


上官に騎士団昇進の辞退を申し出たが

上官は驚いた顔をしながら

俺の申し出を受け入れはしなかった。


どうやら高官の誰かが俺を騎士に編成する様に

指示したらしい。当然、上官はその高官の意を汲み

俺を何としても昇進させなければならない。


ビリスとの一件のせいか?

誰にそんなに気に入られたのか知らないが迷惑な話だ。




新兵激励の後は昼食会だ。

皆皿を手に取ってはいるが熱心なのは

食事よりコネ作りや噂話の方だ。


「おい、お前の縁談の方はどうなっている?」


隣にいる新兵2人が世間話をしている。

身なりから『傷あり』の手練れというよりは

お坊ちゃんの着付けといったところか

立派な兵士の恰好をすりゃ取り敢えずの見栄えはするだろう。


「いいや、実はまだなんだ」


「早めに決めておけよ?こういうのも早い物勝ちだ。

 あまり遅いととんでもないのと結婚する羽目になる。


 たとえば、警備団のシラビュウス令嬢とかだな」


言いながら男の顔は少し笑っている。


「シラビュウス令嬢?ご令嬢?

 シラビュウス伯の間違いじゃないのか?

 あの女とも男とも分からんご令嬢とくっつけられたんじゃ堪らないな」

 

「ああ、確かにな。生まれは良いのに気性が良くない。

 政務の腕も立つくせに落ち着きもせず警備団の兵隊ごっこだ。


 彼女の警備隊再編成、そして警備区画見直しで

 城下の治安はずっと良くなったそうだ。 


 ところがな、彼女のお陰で最も治安が向上したのは

 どこだと思う?なんと東の貧民街だ。」


「ハハハハハ、そいつは傑作だ。

 誰もいない区画の治安が良くなったって?」


なるほど、お前らにとっては人間以下の人間しか

住んでいなきゃ誰も居ないのと同じか。


「ああ、だが有能なのは間違いない。

 騎士や兵士に妬まれながらも

 その手腕でメキメキと出世して今や女団長だ。


 貴族の令嬢としてはどうかしてると思うがね。

 あまりに貧しい連中の味方をするせいで、

 他のご令嬢方とは仲良くさせて貰えないそうだ。


 それどころか随分と手厳しい扱いだとか」


「フン、女の出世の仕方として間違っている。

 その結果上流階級の人間に嫌われてはな、

 

 騎士にもご令嬢方にも嫌われ孤立して

 彼女の味方は側近の女くらいのものだろう。

 シラビュウスお嬢様は何がしたいんだか?」



やはり、面白い場所じゃ無いな。

正式な式典の前だ、まだ帰る訳にはいかない。

どこかで昼寝でもするか。




立派な庭園は城の屋上に作られた物だ。

庭園の中央にデカいテラス。

つる草を編んで作られた屋根。

俺はその屋根の上に寝そべっている。


こんなに良いベッドがあるとは王宮も気が利くじゃないか。

この屋根の上なら人が来ても気づかれずに

ゆっくり寝ていられる。


良い天気だな。のんびり昼寝するには持って来いだ。

このまま夕方までここで眠ってそのまま帰ってしまえたら。



「なあ、良いだろ?」


聞き覚えのある声だ。


「今夜は最高級の夕食を用意させている。

 私の昇進祝いを二人でしようじゃないか?」


ビリス、そうか、奴も今日騎士団に編成されたのか。

まさかあいつと同期になるとはな。 


「ビリス、何度も誘わせてすまないが

 まだ所用が山ほど残っている。」


こちらはシラビュウス団長か、

式典の為に主だった武官が来ている様だ。



「お前はまた、そんなもの部下にやらせれば

 良いだろう?


 ...なあシラビュウス?

 今夜は二人の為に最高のセッティングを用意してある。


 お前の為に最高の寝室も用意させてある。

 少し早いがそろそろお父上を

 安心させて差し上げようじゃないか?」


「ビリス、何か勘違いさせている様だな?

 はっきり言うが私にその気は無い。


 今は仕事に集中したいんだ」


そう言って立ち去ろうとするシラビュウス団長。

それを遮りビリスが彼女の前に立ちはだかった。


「そう言うなよシラビュウス。

 実はお前に見せたい物もあるんだ。」


ビリスの声が僅かに震えている。

彼女のそっけない態度への怒りだろうか?

 

「これが何だか分かるか?」


テラスの屋根から顔を出し覗くと

ビリスは手の平に納まる小さな箱を持っていた。



「これは『精霊ホタル』だ。

 箱の中は炎の精霊にとって居心地が良いらしく

 沢山の精霊が住み着く。

 

 その精霊を箱からビンに移し替えれば

 しばらくはそのビンで暖を取る事が出来る魔法道具だ。 


 箱から精霊を移し替えても

 また直ぐに精霊は箱に宿り無尽蔵に利用出来る。

 

 以前お前を迎えに貧民街に赴いた時に

 ヨボヨボの爺さんが持っていた物だ。


 なるほどな、この箱を貧民街の連中で使い回して

 精霊を分け合えば体力の無い連中も

 これからの厳しい冬を生き残れるかもしれんな?」


ビリスは少し顔をニヤケながら話を続ける。

シラビュウス団長は表情を変えないままだ。




「ただな?問題はこれが貧民街の連中が手にするには

 余りに高価な代物だという事だ。

 直ぐに分かったよ、これは王宮の蔵から持ち出された物だ。


 俺はその貧民街の老いぼれに聞いてみたんだ。


 『ご老人、この様な慈悲深い施しをして下さったのはどこのお方ですか?

 是非お会いして畏敬の念をお伝えしたい』とな。


 するとその老いぼれは嬉しそうに答えてくれた」


ビリスの暗い笑みが一層深くなる。


「『これを下さったお優しいお方は

 警備団団長補佐官フィル・リーブス様です』とな」


それを聞きシラビュウス団長の表情はやっと崩れる。

ビリスを睨みながら僅かに焦燥感も漂わせている。



屋根の上で大きなあくびが出る。

「なるほど、恰好良い口説き方じゃないか?」

小さく呟いた後に目をこする。

このまま眠ってしまいたいが今寝ると変な夢を見そうだ。



ビリスが勝ち誇ったかの様に言葉を続ける。


「『精霊ホタル』など無くても貴族も王族も

 暖を取る方法などいくらでもある。

 これは王族の者にしてみれば只のオモチャに過ぎない。

 だがオモチャと言えど王家の所有物には変わり無い。」


ビリスは彼女に近づき彼女の顎を指でつまみ

その輪郭の淵をゆっくりと親指でなぞる。


「フィルは元々貧民街に居たのをお前が拾って

 ずっと従者として飼っていたんだろう?

 今日は式典に参加するお前の代わりに

 所用とやらを片付けているのか?

 それとも、またどこかで盗みを働いているのか?



 私としても辛いのだ、王家の所有物に手を出したとあらば

 国家反逆罪と取られてもおかしくない。

 出自が貧民街の者なら有罪は直ぐに決まる。

 死刑、も十分有りうるな...


 しかしこれも騎士としての責務、

 勤めは果たさねばなるまい。

 この『精霊ホタル』は大事な証拠だ。

 今から王宮審問会に持って行こうと思っている。


 だがもしもな?愛するお前がどうしてもと言うなら。

 一晩話だけでも聞いてやらん事も無い。

 これを持っていくかはその後決めようではないか。

 今夜私の部屋に来てくれるな?」


シラビュウス団長は動揺を隠そうと努めながら

その端正な口元を動かす。


「ビリス、私は気の毒にも思っていたのだ。

 お前は自分の親からは愛情よりも先に

 上進の期待ばかりをかけられてきたのではないかと。


 それを、随分と落胆させてくれるな?

 見下げ果てたぞ」


「そう言うな、これからは夫婦として今まで以上に

 仲良くしていかねばなるまい。

 

 この証拠品はこれからもずっと俺の手元にあるのだからなぁ?」





「不思議、なんだがよ」


「誰だ!?」


ビリスは振り向きながら手に持った小箱を自身の懐に仕舞う。



「どうしてお前はそんなに焦っているんだ?ビリス」


ビリスが俺を睨み、その視線で嫌悪と怒りをぶつけて来る。


「ゼタ!貴様、こんな所で何をしている!?」



華やかな庭園の中をビリスに向かって歩いて行く。



次回は明日6月15日土曜日の夜に投稿予定です。

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