第8話 終幕に映えし呪いの絵-5
「その男、目を覚ましたのか?
だったらもう良いだろ。ここを離れるぞ」
「ちょっと待てよ。まだ意識がはっきりしていない
このまま置いとけば死んじまうだろ?」
俺を起こした青年は誰か女と喋っている。
その女の声も聞いたことが無い。
こいつら何者だ?
「お、お前は...」
「オッサン、気が付いたか?今は体が激しく痛むはずだ。
呼吸を整えろ、ゆっくりとな」
青年は俺の身体を支えながら落ち着いた声を聞かせる。
荒れた呼吸の合間に、俺は朦朧とした意識に浮かんだ疑問を呟いた。
「お、お前らが...取引相手...」
青年は俺の問いに深刻な表情をして答えた。
「...違う。それだけは教えてやろう。
どうやら色んな画策がある様だ。
俺達も全てを知っている訳じゃ無いのさ。
ただ、あんたにはウチのお嬢さんを助けて貰ったからな。
ここで死なれちゃ目覚めが悪い」
「お嬢...さん?」
「お嬢様、大丈夫ですか?拘束は全て解きました。
立てますか?」
女の方が誰かに声をかけている。
「お前ら、私を迎えに来たのか?余計な事を」
もう一人女の声、こいつは聞き覚えがある。
あの人質のガキだ。
そうか、こいつらこのガキを助けに。
「お嬢さん、助けるのが遅くなってすまなかった。
やっとこさ盗賊共がお嬢さんから離れてくれたからな」
こいつら隠れながら人質の救出の為に
俺達の戦いの中で隙を伺っていたのか?
戦い...
「パン...ドラ。
あいつは...どうなった?
い、生きてるのか?」
「ああ、生きてるぜ、今の所はな
どうだ?こうすれば見えるか?」
青年が俺の上体を腕に抱えて起こす。
遠くの方に目を凝らすと男が女の前に立っていた。
男は自分の腰から銃を抜き女に向ける。
銃のグリップから風に流されて赤いリボンが踊っていた。
あの男は...
「あ、ああ、あ、か、へ、び...」
青年は気の毒そうに俺に声をかけた。
「あんたには本当に感謝しているんだ。
本当にありがとうな...
なあオッサン、これ使うか?」
目の前に差し出されたのは一丁の、拳銃だ。
「あ、ああ、て、てめぇ、てめぇ、て...」
俺はすがり付く様にそいつに手を伸ばした。
半ば手探りに何度も掴み損ねそうになりながら
やっとの思いで
そいつを
手にした。
「てめええええええ!!赤蛇いいいいいいいいいい!!」
バン!、バン!、バン!、バン!、バン!、バン!
奴に向かって引き金を引く、がむしゃらに
何度も何度も。
照準が定まらず何発も虚空へ消えて行く。
ガチッ、ガチッ、ガチッ、ガチッ。
弾が出ねえ、弾が、弾がもう切れちまった。
当たらなかったのか?一発も?
「2発だ、上出来じゃないのか?オッサン」
ガクッ
野郎が地面に膝を着く。
奴の右肩から赤い血が滲んできた。
「や、やったぜ...へへ、赤蛇の野郎」
「!?、ネ、ネズミ...貴様!」
赤蛇の野郎が地面に伏してこっちを睨んでやがる。
いい気味だ、良い光景だぜ。
「右肩と、ここから見えにくいが左の太ももだな。
良い腕してるぜ、この距離でよ」
「バックダール!貴様、雇い主から干渉はするなと言われて
いるだろう!手を貸すなんて何を考えいる!?」
青年は相方の女から叱られている様だ。
この青年はバックダールと言うのか。
「おい、見てなかったのか?
俺はただ銃を落っことしただけだ。
そいつを拾ってこのオッサンが何をしようが
知ったことかよ。それこそ干渉は出来ないな」
「貴様、そんなへ理屈が通ると思っているのか?」
突然、青年の落ち着いた声が変わる、
「うるせえ!!俺は頭に来てんだ!
今回の依頼内容も、ろくなモンじゃねえよ!」
それは感情を剝き出しにした、どこか清々しい響きだった。
「お嬢さん一人でライオンの檻に放り込む様な真似してよ。
盗賊共に人質に取られたお嬢さんを
俺達は黙って見ているしかなかった。
それをこのオッサンとあの女は自分たちの武器まで
捨てて助けてくれたんだぞ!?」
「あの時もお前はもう少しで飛び出すところだったな?」
「ああそうだ。だがこの人達のお陰で
俺は飼い主に従順でお利口な犬のままでいれた訳だ。
女の子一人見殺しにしてご褒美が貰えたぜ!」
「まるで子供のワガママだな、あれは任務、仕事だ」
二人が言い合っている中バレンの方に目をやっていた。
野郎は痛む腕で再び銃をパンドラに向けようとしていた。
「ダメだ、野郎はまだ動ける」
「ゼタ、良くやってくれた」
突然聞こえたのはパンドラの声だ。
「詠唱が終わった。
ゼタ、全部お前のお陰だ。
お前と組んで正解だったな」
「パンドラ...あのクソ女、か、勝手な事言やがって。へへ」
「させるか!」
バレンが銃をパンドラに突き付ける。
その瞬間にバレンの体は後ろに吹っ飛んだ。
爆発的な風がバレンの体を打ち払う。
バレンは数メートル飛ばされた後に地面に叩きつけられた。
かなりのダメージを負ったように見えたが叩きつけられた時に
音がしなかった。バレンは直ぐに立ち上がる。
見るとバレンの足元には赤い泥の水たまりが出来たいた。
「野郎、あの泥で衝撃を吸収しやがった。
思った以上にタチが悪いぜ、あの泥は」
バレンを吹き飛ばした突風は
パンドラの体から放たれたように見えた。
今はどこかへ消えてしまったが
辺りの風が少しづつ強くなっている気がする。
「お、おい!ゴダのアニキ、様子が変だ。
バレンが吹っ飛ばされてる。
それにパンドラの奴が...」
ラズの声だ。奴らは教会の入り口で何かしていた様だ。
ドカも慌てている。
「ど、どうしよう!?ゴダのアニキ!」
「パンドラが箱を開けたのか?
ラズ!逃走の準備を急げ!」
「バレン...」
少女が悲しそうにバレンを見つめていた。
「後悔するなよ?箱を開けたのは、お前らだ」
パンドラは自分の胸に手を当てて不敵な笑みを見せた。
次回は3月12日火曜日に投稿予定です。




