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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
序章 二匹の虫
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第2話 伝説の罪


それにしても珍しい毛色だ。小さな体は尻尾から長い耳の先まで真っ白。

それに、なんっつーかグレムリンにしちゃあ迫力の無い、間の抜けた顔だ。

俺はてっきりウサギかと思ったぜ。


「珍しいな、グレムリンのガキが1匹で、群れからはぐれたか?」



そいつは赤い棚を気にしながら鼻をひくつかせている、

いよいよウサギじゃないかと疑いたくなる。


あの様子じゃ食器棚の中の果実に気が付いている。

だが果実はヤツの身長の5倍は上、あいつも俺と同じく

眺める事しか出来ないだろう。おまけに開き戸は閉じてある。


グレムリンは踵を返し床にある麻袋の残骸へ駆けていく。

いくつかの麻袋の切れ端をその小さな鼻で弄りだす。

果実はあきらめて遊びだしたか?根気の無い奴だ、盗人には向いて無いな。


そいつは一枚の切れ端を口に咥え中央のテーブルに近寄る

「何だ?」


長めの切れ端を口に咥えたまま椅子を足場にテーブルの上へ駆けあがる。

テーブルの上に辿り着くと再び赤い棚を見つめた。

「ムリだろ、そこから飛んでも届かないさ、青い奴め」


そいつは咥えた麻袋の切れ端をテーブルの端っこ折れたハシゴの近くに置いた。

よく見ると切れ端は麻袋の入り口の部分の様だ、帯状の輪っかになった布切れだ。

次にそいつはティーカップを布切れの上に置く。

器用にティーカップの取っ手部分に布切れを引っ掛けた。


今度はティーポッドを重たそうに持ち上げヨタヨタと二足歩行で運ぶ。

ガチャリッとティーカップの飲み口の上にティーポッドをなんとか乗せた。

「何がしたいんだ、やっぱり遊んでんのか?」


次の瞬間、そいつは布切れの端を咥え走り出した。

一直線に、赤い棚とは逆方向へ。

何も無い空中へテーブル上から飛び出した。俺の顔面目掛けて飛んでくる。

「うおっ!」


小さな体は宙へ放り出され俺の顔面へ激突するかと思えた。だが

体が空中で一瞬止まる、布切れが体を引っ張たのだ。

そいつの体重は布切れに預けられ

そのまま振り子の様にテーブルの周りに半円を描いた。


布切れはそいつの体重に引っ張られながら

なんとか踏ん張っている。布の根元に乗った

ティーカップとティーポットが重しになって支えている様だ。


途中で布が折れたハシゴに引っかかる。

するとスピードを増し走り出した方向とは逆方向へ向かう

そいつは布から口を放し、飛びながら向かう、あの赤い棚へ


バンッ!


体ごとぶつかったと思いきやしっかりと開き戸の取っ手を掴んでいた。

ぶつかった衝撃と反動を利用して開き戸の片方を開いた。

直ぐにもう片方の開き戸の取っ手に飛び移り食器棚の中に滑り込んだ。



食器棚の片方が開いたまま揺れている。

その小さな盗人は今、自分の得た獲物を手に取り匂いを確かめている。

「ハハッ、何だこいつ!」


不意にグレムリンがこちらを見る、獲物が取られないか今更俺を警戒しだしたか?

「いやぁ、恐れ入ったぜ。盗賊の兄ちゃんよ。俺もなあ、泥棒なんだよ。

 同じ稼業のよしみだ、どうだ?分け合って食おうじゃないか。な?」

そいつはこっちを真っすぐ見て、なんと舌を出しやがった。


「ククッ、ハハハハハハ!人をおちょくるその態度、グレムリンの素質充分だ。

 おまけに盗みの手口も悪く無え。気に入ったぜ。死ぬ前に面白い奴に会えたもんだ」


第2話 「伝説の罪その2」へ





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