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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
序章 二匹の虫
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第8話 終幕に映えし呪いの絵-2

「ラズ、ケーリア、しっかり抑えてろ。いくぞ?...フン!」


ガコッ


「グッ、痛え、く、くそぅ」


「泣くな、肩はハマったぜ」


「ドカ、アニキにお礼言え。本当はアニキの方が

 重症なんだぞ?」


「分かったよ、ありがとうゴダのアニキ」


「礼なんか良い。それよりもラズ、ドカ、お前らは

 教会へ行け、教会に用意させた物があるだろう?

 

 二人でそいつを取りに行け」


「あ、ああ分かったぜ。でもアニキとお嬢は?

 二人も安全な場所へ」


「気にするな、どうせもう戦いも終わる

 良いから行って来い」


「分かった、行くぞドカ」


「ま、待ってくれよ兄ちゃん、まだ腕が痛えんだ」


「泣き言垂れんな!ゴダのアニキに比べりゃ俺とお前は軽傷だ。

 とっとと来い!」




「ゴダ、出血の量が増えてるよ、もうあんまり動かないで」


「ケーリア、もうケリが着く。ネズミとパンドラをアニキが始末したら

 ラズ達が持ってくる物を使ってこの場所を離れる」


「やっぱりあの2人を殺すの?」


「...仕方ない、こうなってしまっては。

 あの女も、パンドラもさっきから何か企んでいる様だ。

 もうこれ以上時間はかけられない」


「...私達、どうなるの?このまま親父とは違う

 生き方をしていくしか無いのかな?」


「ケーリア、お前はどうしたい?

 頭領はお前だ、お前にもし団員を率いて渡りたい生き方が

 あるのなら俺はそれに従う。

 

 ラズとドカもだ。その時はバレンのアニキと戦う事に

 なるかもしれん。...正直勝ち目は薄いがな。


 覚悟があるなら命じろ、お前にはその資格がある」



「分からないよ、わたし、どうしたら、

 ゴダ、こんな時に親父ならなんて言うかな?

 なんて命令するかな?」


「オヤジの意志を探せばそれを見つけてくれるのはお前だ。

 一番オヤジの近くにいて生き方も想いも

 言葉じゃなく受け取ってきた筈だ。


 お前の中にこそ答えがあるはずなんだ。


 オヤジの意志と共にみんなで死地を渡るか


 俺達の新しい道を生きていくか、オヤジも最初から

 あんな生き方が出来た訳じゃ無いはずだ。


 決めろ、そして俺に命じろ。

 もし答えを出すのが怖いなら今は目を閉じていろ。

 まだ早かった。それだけだ。俺達がお前を守る。

 

 お前はまだ若すぎる、そんな答えでも良いさ。

 いつか一人前になれる、お前は悪く無い」


「私の、私の中に、親父の意志が...」



「ネズミの野郎何かしてやがる。自分の上着を、馬鹿め、あれじゃあ

 自分がどのルートで動くか相手に丸分かりだ。


 まだ足掻くかネズミ?

 だがもう、バレンのアニキにあいつは勝てない」








俺が丸めて投げた上着は大股で3歩先の地面に落ちた。

まるで寄り道でもするかの様に風に流され

バレンへの直線ルートから逸れ1本の木の近くに。


「俺の親父は泥棒だった。稼業なんだよ、

 盗みは...親父から受け継いだ」


奴に聞こえる様にはっきりと話す。

身を屈ませ足元のナイフを手に取る。

ラズの野郎が投げまくったナイフの内の1本だ。


「学校の勉強は教わらなかったが色んな事を教わったぜ。

 盗み方、相手との距離の詰め方、相手の注意を逸らす方法。


 世間話をしながら情報を如何に盗むか、

 リ...料理の仕方、ゲホッ!ゲホッ!グッ...ハァ、


 そ...その料理に自然に溶け込む眠り薬、

 野生動物の捉え方や利用の仕方なんかも教わったな。


 特に徹底して教えて貰ったのは逃げ方だ」


「逃がすと思うか?お前はここで死ぬんだ。足掻くな」


間違えない様に言葉を続ける。すっ飛びそうな意識を抑えて

はっきりと奴に聞こえる様に。


「か、勘違いするなよ、今は逃げない。そうじゃないんだ。


 俺は今からこのナイフを投げる、

 ナイフも親父に徹底的に仕込まれた。


 さっきの野郎ほど沢山のナイフは投げれないが

 目に見える場所なら外さずに当てる自信がある」


ナイフを握らず親指と人差し指に軽く挟む。

右腕を下げる、自分の体の後ろに隠す様に持つ。


「良いか?...ハア、ハア、いくぞ?」


下げた腕を振り上げる。


ナイフは勢い良く飛び


バレンから大きく外れ奴の頭上を飛んで行った。



「ネズミ、遊びは終わりか?死ね、

 最初からてめえは只の道化だ」


奴が鎖を振りかざし操る姿勢を取る。

俺は支えられなくなった上半身を俯かせ、死力を込めて叫んだ。


「どんな当て方も出来るんだ!!色んな軌道でよお!!


 風を計算して真っすぐに当たる軌道だ!

 真上から落ちて来る、隣のケガ人はそれを...ヘヘッ、防げるかな?」


「何?」


「俺が狙ったのは頭蓋だ、1発で充分、即死する1発だ!」



「まさか!?ケーリア!!」


奴は赤く光る鎖を自分の遥か後方に伸ばした。


「グウウッ!!」

歯を食いしばり体中の血を頭へ向かって搾り上げた、余力を全部使う、体が動くのはこの一回で良い!!


俺は踏み込み足に力を貯めて飛んだ。

跳躍した体はギリギリ投げた上着につま先だけが届く

足の踵が赤い泥に触れそうになった。


地面に触れたつま先を軽く滑らせ足全体を

なんとか上着の上に乗せた、再び跳躍する。


側にあった木の枝を掴み体を振り子の様に前へ運ぶ、

その先にあった木の幹を蹴り奴の方向へ飛んだ。


「マシラッ!! 走法おおおおおおおおおっっ!!!」


バレンの投げた赤い鎖の蛇はケーリアの頭上に辿り着くと

空中でとぐろを巻きその蛇の体を使って

大きな赤い傘をケーリアたちの頭上に作った。


トスッ


俺の投げたナイフはバレンの作った赤い傘から外れ地面に刺さる。


考えただろうに、ハッタリかも知れないと。

それでも鎖を伸ばしたな、外道のバレン。


俺の体は木の幹から離れ上からバレンに襲い掛かる、

狙うは奴の首、首の骨を外してやる。



彼方から声が届く。 


「バレン!!」


ケーリアの叫びに不知火が揺れた。


奴の顔が不知火に隠れる。


「くたばれっ!!」


勝った!奴の鎖は遥か後方、正面がガラ空きだ。



俺の右手は不知火を突き抜ける。


これで仕留める。右手に最後の力を込めて


そのまま前進して首の骨を...首の骨...



俺の体は奴に向かって前進して、そして奴の体に


寄りかかった。



「バカな...」



俺の右手は不知火で揺れた奴の顔の、


その残像を、幻を、虚空を、掴んでいた。


奴の顔を捕らえ損ねた右腕はバレンの肩の上で

だらしなく垂れ下がっている、もう動かす力も

残っていなかった。


力の無くなった体をバレンの体に預けたまま

力を振り絞り、首だけを起こした。


「バ、バレン...」


奴の顔が目の前にある。


喉元を食いちぎる。


頭突きを食らわす。


ダメだ、どのイメージにも届かない。


体はもう、少しも動かなくなっていた。


目の前のバレンを睨む。まるで地獄の怨霊の様な

醜悪な憎しみを込めて。


「殺す、こ、ろ...」


「ゼタ!」


遠くの声、あれはパンドラ?


心配してんのか?この俺を?意外だな...


俺は、ハッとした。


「止めるな!」


俺の掠れた声が響く。


「詠唱を唱え...てろ。それは...最後の望みだ。

 それを止めたらどの道...俺達は死ぬ。


 パンドラ、は、早く...」



俺の体が起き上がる、いや起こされている。


奴に襟首を掴まれる、抵抗しようとするが体が言う事を聞いてくれない。

奴は動かない俺の体を片腕で自分の体から引き離した。


バレンの口から洩れたのは落ち着いた

どこか悲しげな声だった。


「...俺がイラついていた理由が分かった。

 

 部下の連中にじゃねえ。

 

 追手の存在でもねえ。



 理由はお前らだ。

 

 

 ネズミよ、何故命を懸けた?

 命の値段に見合った答えがあると思ったのか?

 この世のどこかにそんなものがあると?


 あの女は何故あんな目をする?

 諦めていない目だ。世界を終わらせた女に

 希望でもあるというのか?正気じゃない。



 お前達も...彷徨っているのか?


 

 ネズミ、一体お前は戦場で何を見た?」


奴の短銃、その銃口が俺の額に冷たく触った。



「もう、疲れたろう。


 ネンネしな、ネズミ」




次回は2月15日金曜日投稿予定です。

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