表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
序章 二匹の虫
25/223

第7話 片腕のネズミー4

遁法とんぽう 猫だまし」


「く、クソ、この...やろう」

ラズは立ち上がろうと腕を伸ばすがガクッと再びしりもちを着く。


「強く殴り過ぎたか?だがこっちにも余裕が無い、

 悪く思うなよ」


しばらくは動けないだろう。

後はデカブツとバレンの野郎、

もう一人の男ゴダは昨日の怪我が響いているらしい。

向かっては来ないだろう。


「わざわざ手前らの決めた順番を守る必要も無いが

 もう一人のデカい方を相手する前に飛び道具を

 潰せたのは好都合だ。


 さてデカいの、お前はどうするんだ?

 自信が無いんだろう?向かって来るのか?」



ドカを見ると顔を下に向けその熊みたいな巨体を

振るわせていた。小声で何か言っている。


「て、て、てぇ」


怯えているのか、緊張がピークに達したのか。


「向かって来ないなら俺も何もしない。だから...」



「てめええ!!」


巨体が俺に向かってドカドカと走ってくる。

「チッ、やるのか?」


岩みたいな握りこぶしを作り振りおろしてくる。

「兄ちゃんイジメんじゃねえ!!」


奴のコブシが迫る、その巨体もあって中々の迫力だ、

だがスピードが遅い。


ギリギリまで引き付けて、躱す。

奴の拳は俺の脇にあった若い杉の木を思いっきり殴った。


まだ若いとはいえ背丈の2倍はある高さのしっかりと根を張った木だ、

素手で殴れば拳にダメージはある、ましてや頭に血が上ってあれだけ

力いっぱい殴れば...


ドカンッ!!


耳元の爆音、飛び散る木の破片。

横目に見ると奴の殴った箇所は大きく割れ凹んでいた。


杉の木は地中に眠らせていたはずの何本かの根っこを見せた。

信じられねえ、木が根元から傾いている。


「マジかよ!?」


俺は咄嗟に真横へ転がり距離を取った。

ドカは傾いた木をそのバカみてえに太い両腕で抱える。


「フン!、ンンンンンンあああああっ!」


ボコッ!ボゴゴッ!

怪物みたいな形相で、その若者は両腕に力を入れる。

すると木は根元の土を盛り上げ音を立て、

やがてその土を零しながら地面から離れていった。


ギギイィィ...ギィ...ギィ...

細い根が恨めしそうに地面から伸びて引っ張られている。


今俺の目の前で、俺の頭も片手で掴めそうな大男が、

4メーターはあろう木を肩に抱えてこちらを見下ろしている。



「こ、のデカブツ...冗談じゃねえ!」

抱えた木を両手で振りかぶり、そのまま振り下してくる!


木は周りの風を巻き込みながら

上から覆いかぶさるように迫ってくる。


バゴンッ!


地面に叩きつけられた衝撃で大きな地響きが鳴った。

砂利と木屑が散裂する。

地面が割れたかと思った。


俺は寸でのところで体を躱していた。大した速さじゃ無い。

だが避ける面積がいちいちデカい。


「うおおおおおおおおおおお!」


ドカの野郎は叩きつけた木を再び持ち上げる。

片手で木の下側を持ち、もう片方の手で木の根っこを

掴んでこちらを睨む。ヤバいぞ、あの姿勢は。


「おおおお!っらああああああ!!」


木が一直線に飛んでくる。まるで巨大なヤリ投げだ。

大雑把な狙いだがあの木のデカさなら充分カバー出来る。


後ろに飛び退くのは危ない。地面に当たった木が跳ね返ってぶつかる。

横に避けるのもマズい。横に飛び跳ねる為に姿勢を変える間が無い、ギリギリぶつかる。


俺は地面に顔を伏せて叫んだ。

「このっ!!クソッたれえええええ!!!」


そのままの姿勢で両足に力を入れる。上半身を低く沈めて、

上に向かって体を振り上げて全力で地面を蹴る。


垂直に飛び上がり体をゆっくりとバク宙させる。

足は大股開き、体のすぐ下を野郎の投げた木が飛び込み

地面に激突した。


木はそのまま破壊音と共に彼方へ飛んで行った。

危ない、木に頭がぶつかりそうだった。ちょっとでも掠っていたら

脳震盪を起こし気を失っていたかもしれない。


地面に着地する。バランスが保てずに片手を地面に着いた。

ドカドカと地面に響く、奴の足音だ。

「くっ!」

体勢を立て直し攻撃を躱す。


「おおおおおおおおおおおおおお!」

やたらめったら拳を振り回してくる。


避けるのは容易いが一発でも食らったらアウト。

スタミナも負傷しているこっちが不利。

早く仕留めなくては。

だがこいつに並みの攻撃が通じるとは思えない。



ラズが戦いを見守りながら不安を口にする。


「ドカの野郎キレやがった。あんな馬鹿力で殴ったら殺しちまうぞ。

 ドカ!捕まえるんだ!

 お前ならそんな奴の攻撃、何発食らっても大丈夫だ!

 そのまま突っ走って捕まえちまえ!」


「お、おう!分かったよ、兄ちゃん!」

ドカは両腕を開いて走ってくる。



捕まえる、か、好都合だ。



片腕でやるのは初めてだ、相手の体格も規格外、

工夫が必要になる。



普段はギリギリまで構えは取らない、

だが今は片腕、タイミングを外せばそれで終わり、俺の負けだ。



腰を落とす、右腕を上げて、待つ、ただ、奴を、生死の一瞬を。



「なんだ、やろうってのか!?お前なんか怖くねえぞ!」



「ま、待て、ドカ!一旦離れろ!」


遠くでゴダの野郎が叫ぶ。俺の構えに気づいたんだろう。

だがドカの勢いは止まらない。



当てるのは肘、狙うは...。


「おおおおああああああ!」


ガコッ!



「やったぜ!ドカがネズミを捕まえた!ドカの勝ちだ!」

ラズが勝利を確信して歓喜する。


「良いぞドカ、そのまま...え?」


俺はドカって野郎の腕をどかす。

「重てえ腕だ、ったくよ...」


「あ、あああ、あああ」


ドカは口を開けて驚きと苦しみの声を漏らす。

チッ、ついでにヨダレも俺の肩に垂らしやがった。


俺は大男を後に残して歩き出す。


「ド、ドカ!何やってんだ!?」


兄の声にドカが答える。声が涙声だ。

「に、兄ちゃん、痛えよお。お、俺の腕が...」


ドカの片腕がダランと垂れ下がる。

力無く垂れ下がり、ブラブラと振り子の様に揺れていた。


ラズが弟の姿に驚愕する。

「ドカの腕が、外れてやがる」



「遁法 骸骨がいこつだまし」



クソッ疲れたぜ。激しく動いて腕の痛みも酷くなっている。

この兄弟には随分と手間取った。


「良い線いってんだがよお、

 お前も兄貴の方も実戦経験が足りない様だな。

 俺の構えを見ても突っ込んできたお前の迂闊さが敗因だ」



さて、後はバレンか。




「チッ、だから言ったんだクソガキ共」

男が動き出した。


俺はこちらを睨む視線に嫌気と眩暈めまいがした。

「お...おいおい無理すんなよ。

 テメエの出番は無いはずだろ?」


「ゴダ!動いちゃダメだよ!」

「ケーリア、お前はそこにいろ!」


ゴダって野郎は殺気を放って俺の方へ歩いてくる。

ゴダは歩きながら口を開いた。


「ネズミの噂は二つある」



第7話「片腕のネズミ-5」へ


次回は1月25日金曜日に投稿予定になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ