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その後のパンドラ  作者: 緑谷トンビ
序章 二匹の虫
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第7話 片腕のネズミー3

「ドカ、お前は下がってろよ。

 こんなオッサン片付けんのは俺一人で充分だ。

 それに間違ってお前に当たってもつまらねえしな」

そう言ってラズは腰のベルトから投げナイフを抜いた。



「待て」


ラズが振り返る。

「何だよ、ゴダのアニキ」


「おいコソ泥、パンドラはさっきお前を何と呼んだ?

 名を名乗れ」



チッ、パンドラの野郎。


「...ゼタ・ロウズレガ」


「ゼタ...ネズミのゼタか」

ゴダの野郎は知っている様だ、俺のアダ名を。


ラズが俺を見ながら言う。

「ネズミ?ネズミって、ひょっとして戦場のネズミか?」

このガキも知っているのか、面倒くせえ。




「くっ、ははははは!なんだよ!

 オッサン、あんた、あのネズミか!

 

 あはははは!有名人じゃねーか!」


「に、兄ちゃん、こいつ有名なのか?

 つ、強いのか?」

弟のドカがオドオドしながら兄に聞く。



「ああ有名だ!戦場のネズミと言えば俺でも知ってるぜ!

 パンドラ戦争の立役者だ、笑い話のな」


ラズがニヤニヤしながら話を続ける。



「戦争が始まって半年経った頃だ。

 その男は国から精鋭部隊を任されて

 拮抗した戦力に切り込み隊長として最前線に送られた。


 ところが前線に立って1日も

 持たず部隊は壊滅、何も出来なかった。



 その時の隊長は敗れた自分の部隊を置き去りに

 戦火の中をたった一人で逃げ回って自国の城に辿り着いた。

 

 仲間も敵も戦いも全て置き去りにしてその男は

 なんと700キロもの距離をたった10日で

 馬も無いのに、その身一つを使って逃げ切ったんだ。



 精鋭として送り出した筈の男が出征から僅か20日で

 ボロボロになって帰ってきた。国民も兵士達も、

 それはそれは驚いたそうだ。


 傑作なのはそいつが城に帰還した時

 戦争はまだ終わって無かった事だ。

 なんたって前線ではまだ敵と味方が殺し合ってた最中だからな。 


 英雄として帰って来る筈の男は何も出来ず

 仲間も見捨てて驚異的な逃げ足を見せた。

 そして持って帰ったのは自分の命1つ。

 ついたアダ名がピーピー逃げ回るネズミのゼタだ!」



ラズはナイフを手の内で回しながら構えを取る。


「ますます俺一人で充分だな。さっさと片付けるか。

 ネズミのオッサン、今日は逃げるなよ?

 俺がバレンのアニキに怒られちまうからな」


「話は終わったか?早くやろうぜ...お前ら兄弟を潰して

 俺はバレンと戦わなきゃいけない」

俺は自分のズボンの中に手を入れる。


「ハッ、声が小さくて聞こえねえなあ?

 どうした?元気ねえなオッサン?

 

 ...股間触ってんじゃねーよ。緊張感持てよなあ。

 今から死ぬのによお」

「うるせーな、股間がカユイんだよ」



俺は姿勢を落とし、前に出した右足に体重を預ける。

体の左には使えなくなった腕が体に巻き付いている。

その重さ、いちいち袖を引っ張る様な痛み、


「おいラズ!相手を舐めて掛かるんじゃ無え!」

「分かってるよ!ゴダのアニキ、

 こいつの逃げ足には気を付けないとなあ!?」



疲れは大して無い、昨日は良く休めたからな。

手足の痺れももう取れた様だ。

地面は村はずれの草むら、視界を邪魔する無数の不知火。

奴との距離は約15メートル。


「そうじゃねえ!そいつは...グッ」

ケーリアがゴダの体を支える。

「ゴダ、あんまり動くなよ。昨日の傷が広がっちまうよ」



景色は全部見えた...空間は感覚としてこの身の中に納まった。

姿勢を変えず体重を振る。足で体全体を、飛ばす。

体がふわりと前に飛んだ。初速はゆっくりで良い。


「料理してやるよオッサン!

 マズくて食えねえネズミ料理だ!」


ナイフを投げてくる。目の前を飛んでくるナイフが

瞬く間に増えていく、1本、2本、4本、7本、速いな。

ナイフを抜く動作、投げる動作に無駄が無い。


俺は1本2本とナイフを避けながら走る。

このまま徐々にスピードを乗せて最後の5歩で勝負を決める。


だが飛んでくるナイフはその本数を増やし続ける。

やがて俺の走るルートをそのナイフの数で埋め尽くした。

走るスピードを落とせば避ける事は出来るだろう、

だが奴はその隙を待っている。


「頑張って避けろよお!?オッサン!」

このまま進むしかない。スピードを落とさず。

代わりに落とすのは、この体だ。

走りながら体を前傾姿勢にしていく。

40度、35度、30度、25度、20度、深く、深く。


「何だ!?このオッサン!?」


他の連中からは寝そべった死体が高速で

動いている様にでも見えただろうか?


「遁法 ネズミ走法」


この低さならナイフの数は減る。



「クソッ!気味の悪い走り方しやがって!」

ラズが地面を這う俺に向かってナイフを投げる。

何本ものナイフが地面に突き刺さる。


やがて刃の雨が止む。

そのガキは腰元に手を添えたまま動かなくなった。

ナイフが尽きたか?



「良いぜ、近づいて来いよオッサン!

 近づけば近づく程に的はデカくなるんだ。


 お前の間合いギリギリ外、俺の間合いギリギリ内側で仕留める!」


スピードを更に乗せる。奴との距離が縮まる。


ラズが1本のナイフを振り上げる。

全力の1投で避け様の無い1発で決めるつもりだ。


「ここだ!!」 



「悪いな、そこはもう俺の間合いだ」


手の平に隠し持った物を指弾で奴の方へ弾く。


ッパン!


小さな閃光と大きな音が奴の

顔面の真ん前で炸裂した。


跳躍した俺の体は奴に向かって飛ぶ。

スピードは最高に乗ったままだ。

そのまま、奴の顔に、コブシを叩き込んだ。


ッガン!!


奴の体は吹っ飛び後ろにあった木にぶつかる。

そのままフラフラしながら木で体を支える。

「閃光弾?バカな、武器は全部、取り上げたのに」


「ボディチェックが甘いんだよ」


「まさか...股間の...」


木に体を預けながらズルズルと体を落とし

尻もちを着いた。鼻から血が噴き出す。



「遁法 猫だまし」



第7話「片腕のネズミ-4」へ

次回は1月22日火曜日に投稿予定です。

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